第百十一話:冒険者ギルド
「さて、着いたぞ。目の前の建物が冒険者ギルドだ。ここで冒険者登録や従魔登録を行えるぞ」
「ありがとうございますダルさん」
「いや念のため中まで着いていくからな? トラブルが起きる気しかしないわ」
「ありがとうございますダルさん」
「あっれぇ? なんか俺、邪魔者扱い? 帰った方よかった?」
若い衛兵の人に先導されて着いた建物の前で、衛兵の人とトールくんがやり取りをしているけれど……。
……なんだろう? コントを見てる気分。
「うーす。ナリエさん、今日も輝いてるっすね」
「あら、衛兵さん。いらっしゃい。なにか問題でも? ……って、トールくん!? ……ああ、あなた、生きて……」
衛兵さんが気安い様子で声をかけると、おっとりとした女性の声が聞こえた直後に、悲鳴のような声を上げながら女性が飛び出してきて、トールくんの肩に手を置いたら泣き声へと変わった。
……ん、知り合い、なのかな。
「どうも、ナリエさん。生き恥を晒しに来ました」
「お金より、あなたが生きていた方が、あの子達も喜ぶわ。あとで顔を見せてあげてね」
トールくんの姿を見るなり建物から飛び出してきたのは、長い茶髪を三つ編みにしている二十歳くらいの若い女性。
このお姉さん、トールくんと親しげ……というか、親密そうだけど……。
「ナリエさん、それより先にこちらを紹介するね。こちらの黒髪の子がミコト。白髪の子がミナト。エルフの子がステラ。それと……」
「ぎゅ?」
(誰?)
「……えっ? ワイバーン? えっ? 念話? エルフに妖精様???」
「非常に重要な案件があるので、できればギルド長を交えて個室で話がしたいのだけれど……。ナリエさん、できる?」
僕にミナトにステラにぐれ太、とどめにヤタを見たお姉さんは困惑というよりは混乱しているけれど、畳み掛けるトールくんが……えっと、なんか、ちょっと容赦ない?
「……待ってトールくん。……情報量が多すぎて……。えっと?」
あらら……。あまりの事態に、お姉さんは額に手を当てて目を閉じて空を仰いで思考停止してるよ。
「妖精様とエルフの里からの要請で、《街》の領主かその同格以上と面会する必要があるんだ。その件についてギルド長を交えて話がしたい」
「……あああ……。エルフの里とか……。一介の受付嬢の私ではどうにもできないレベルの案件じゃないの……。トールくん、あなた行方不明というか死亡説が出てから、どこで何していたのよ……?」
空を仰いでいたお姉さんが、今度はしゃがんで頭を抱えちゃったよ。
余計な心配させちゃうし、死にかけてましたとかは言えないよね。
「それはまたあとで。ギルド長は?」
「見舞金の返金手続きの決済をギルド長からしてもらわないといけないから、どっちにしろ会う必要があるわ。……ああ、弟分が生きて帰って来て嬉しいはずなのに、なんだか胃が痛くなってきたわ……」
……えっと、なんか、ごめんなさい?
「とりあえず、中に入って。……冒険者ギルドへようこそ。私は受付嬢のナリエと申します。以後、よろしくお願いしますね」
一気に疲れた感じだったお姉さんが、ギルドの建物に入ったとたんシャキッとしたよ。
ここだけ見ると、有能な雰囲気のお姉さんって感じなんだけどね。
「正面の各窓口で、登録にクエストの受注に報告などができます。登録だけなら一番左の窓口ですが……。現在は大変込み合っていますので、2階の個室へどうぞ。……待って、待って、ワイバーンのきみは大きすぎてドアを通れないから。無理に入ってこないでやめてやめて壊れちゃうお願いだからやめて」
「ぎゅう」
(狭)
途中まで有能な受付嬢だったのに、ぐれ太のおかげで素が出ちゃってる。
ぐれ太も建物を壊さないように気を遣ってるのは分かるんだけどさ、入り口から頭だけつっこんでしょぼんとしないでよ。
「ごめんねぐれ太。ちょっと待っててね」
「はいはいお前さんはちょっとこっちで待ってような~」
衛兵さんに言われて、頭を引っ込めるぐれ太。
待つのは、ちょっとじゃないかもしれないけどね?
ぐれ太が頭を引っ込めたことでようやく落ち着いて建物の中を見渡すことができた。
正面の受付窓口には、大量の獣人たちが退屈そうに並んでいて、ぐれ太を見て驚いてる人もいた。
左手にはクエストの依頼票が貼り付けられているボードが複数あって、推奨される冒険者ランクごとに分かれているみたい。
右手には食堂が併設されていて、お酒も提供しているのか、赤ら顔で飲食している人たちがちらほらいた。
窓口と食堂の間の奥には、2階へ上がる階段が。
上った先のドアは全部個室みたいだね。
ナリエさんが窓口の奥に引っ込んで、鍵を片手に案内再開。
2階へ上がり部屋のひとつの鍵を開けるナリエさんに促されて部屋に入る。
「今ギルド長を呼んでくるから、ソファに座って待っていてくださいね」
そう言って、ナリエさんは奥にあるドアから出ていってしまった。




