第百七話:街へ
さて、朝ごはん食べて片付けて、一息ついてまったりしている時。ちょっとイラついた様子のステラに声をかけられる。
「ミコト、長老からの依頼はどうするんだ?」
うーん、忘れてたわけじゃないんだけどね?
「どうするって、行くよ? ぐれ太に乗って。3人までは問題なく乗れるし」
「人間の権力者のあてはあるのか?」
「それはトールくんが……あてがあるんだよね?」
無かったら前提が崩れるなあ。あてもなく街に行ってたら、偉い人に会うまでかなりの時間がかかっちゃう。
「うん、あるにはあるよ。父さんのツテでね、貴族の人と一応」
一応? ……うーん、トールくん、なんかちょっと無理してる感じがする。
その人と会うの嫌なのかな?
「私にもツテはあるぞ! 街に出たエルフの中には冒険者をしている者もいて、貴族と交流できる高位ランクの者がいるんだ。その者の居場所は冒険者ギルドにいけば分かるはず!」
薄い胸を張って、フンスと鼻息荒く得意気になるステラ。
……うん、そういう人もいるってことは頭に入れておこう。
「じゃあ、街に行ったら冒険者ギルドに行けばいいのかな?」
「そうだね、ミコト。そこで冒険者登録をしておくとなにかと便利だよ」
「エルフの冒険者といったら、キトーくんやリンドくんかしら? せっかくだから、これを渡してくれる?」
そういって、小さい巾着袋を渡してくるリラ。
……中身はなんだろう?
「中身は、ドライフルーツと植物の種よ。エルフは、小さな鉢植えでも、植物がそばにあると気が休まるのよ。以前に送ったときはキトーくん受け取らずに送り返してきたのよね。でも、直接渡したら受け取ってくれるかもしれないから、ミコトちゃん、よろしくね」
リラさんにお願いされた以上は、会って渡すけれどさ。
くんって呼ばれてるなら、男だよね? リラさんみたいな優しそうな大人の女性から送られてきたものを送り返すとか、なんかよほどの事情があったのかな?
「リラさん、お願いされました。じゃあ、そろそろ行こうか」
外へ出てぐれ太を呼ぶ。
ひと声かけると嬉しそうに飛んでくるんだけど……。あれ? 足になにか……?
『バイコーンだな。頭に2本の捻れ角を持つ、馬の魔物だ。角に毒があって凶暴で、この草原じゃあかなり強い部類に入るが……。ま、ワイバーンなら相手が悪いってところだ』
「ぎゃうー?」
(食?)
うーん? ぐれ太の《念話》って結構アバウトだから、たまに上手く理解できないときがあるんだよね。
「なあ、ぐれ太。これ食べる? って聞いたのか? これは食べれるか? って聞いたのか?」
ミナトもちゃんとは分からなかったみたいでぐれ太に聞いてみている。
そっか、ぐれ太は僕らの言葉を理解できるから、どんな意味か聞いてみればいいんだね。
「ぎゃーう?」
(可食?)
「バイコーンをかい? それはちょっと、やめておいた方が……」
『基本的に、闇属性は食うには向かないぞ』
トールくんもヤタも、食べるのは否定的みたい。
そりゃあね、禍々しい2本の捻れ角を持つ毒々しい紫色の馬とか、僕も食べたいとは思わないなあ。実際に毒持ちみたいだし。
「バイコーンは体内に毒腺があって、その毒は首を伝って角から出る仕組みになっているんだ。だから、首をはねるとそこから毒が出てきて肉があっという間に汚染されてしまうんだよ」
『毒袋を傷つけないように仕留めて取り出せれば、食えなくはないだろうがな。だがそれよりは、皮を加工して毒耐性の防具を作った方がいいと思うぞ』
食べれないものを手間ひまかけて食べれるようにするくらいなら、僕のアイテムボックスに解体してないオークがまだまだたくさんあるから、そっちを解体した方がいいよね。
……うん、解体してないのが、たくさん。
『とりあえずそれはアイテムボックスにしまっておけ』
「そうだね。それじゃ、そろそろ行こっか」
ぐれ太に鞍を取り付けて、ミナトと僕とトールくんとで3人乗って、さあ準備完了。
「待って、待って、私も行くぞ!?」
「あ、ぐれ太、もう1人増えても大丈夫?」
「ぎゃう」
(任)
ステラがぴょんぴょん跳ねながらアピールするのでぐれ太に聞いてみれば、任せろ、とばかりに得意気に鼻を鳴らしていた。