第百四話:根菜類
いつの間にか異界化していた北側のキノコ・毒草区画でわりとガチで怯えたあと、ゴスケさんの早業を見て驚いて、あの区画一度焼き払った方がいいんじゃないかな? などとわりとガチに思いながらその場をあとにする。
さあ移動しようかとなったその時に、ゴスケさん1号がホネホネの手に何かを持って……?
・蠱毒の骸 : 毒を持った虫などを特定の条件を満たした領域内で多数殺し合わせる。そうやって生き残ることで呪いを取り込み濃縮させていき、最後まで残った1匹の死骸。凝縮された毒と呪いに満ち満ちている。
これ自体が強力な呪いの触媒や儀式の贄になる。
扱いを間違うと、凝縮された激毒と呪いに蝕まれることになる、非常に危険な素材。
…………ひぃ。
危うく悲鳴を漏らしそうになった。
北東の薬草・砂糖区画には、普段薬草と呼ばれている《ナオリ草》をはじめ、数種類の薬草類と砂糖が取れる甜菜やサトウキビなどが植えられている。
ナオリ草などの薬草類は、基本的に苦くて美味しくない。
そのナオリ草が原料となるポーションは、必然的に苦くて美味しくない。
お茶と考えれば……。などと思ったけれど、ヤタやリラが言うには、味を良くするには栽培する際にいくつかの要素を追加して《上質な》薬草にしないといけないそうで。
いくら砂糖が採れる甜菜やサトウキビを近くに植えても、薬草自体の質を高めないといけないそうで。
それには、作物に合った土作りと肥料が必要なんだってさ。
「……なあ、ミコト? 薬草たくさん植えたんだな?」
辺り一面に広がる薬草畑に、呆然と呟くミナトに対して、首をかしげるしかできないんだよね。
……なんでこんなに増えたんだろ?
「……うーん……」
「トールくん、どうしたの?」
なんだかお悩みのトールくんに声をかけてみると、薬草畑が広がっているのは良いことだけれど、密集しすぎで土地の栄養を奪い合っている状況なんだってさ。
たしかに、歩くのもままならない状況だし、ある程度引っこ抜いて整えた方がいいのかも。
もりもり育っている薬草に紛れてる甜菜とか、肩身が狭そうに見えるよ。
「そんなわけで、薬草をある程度引っこ抜いてポーション作ろうよ」
さっそく適当に引っこ抜こうとすると、なんか、上手く引っこ抜けない?
「ミナト、ちょっと手伝って」
「よっしゃ、任せろ」
「「せーのっ!」」
ミナトと力を合わせて大きな葉っぱを引っ張ると、まるまると大きく育った赤いカブが……。あれ? なんでカブ?
『キシャーーーッ!』
二人で引っこ抜いたカブが振り向いたかと思えば、カブに顔があって、威嚇するように吠えられた。
「ひゃっ!?」
「うわっ!?」
二人してびっくりしてカブの葉っぱから手を離してしまったけれど、この赤いカブも、魔物? ……や、トールくんが抜刀してないから危険はないんだろうけどさ。
『それは《赤カブ》っていう植物系の魔物だな。この通り、引っこ抜いても吠えて威嚇するだけの危険が少ない魔物だが、倒そうとすると噛みつくぞ』
そんな赤カブは、ぴょんぴょんととび跳ねて離れていってから、体をよじって地面にもぐり込んでいた。
『倒さないのか? 食えるようだぞ? あのカブ』
いくら食べられるからってさ、顔があって威嚇してくる野菜はちょっとなぁ……。
「ところでゴスケさん、アレはどうするんだい?」
僕とミナトとで赤カブの様子を微妙な表情で見送ったあと、トールくんがずいぶん警戒した様子で剣先で薬草畑の一角を指し示していた。
……あ、トールくんすでに抜刀してる。
そこには、大根の葉っぱにしか見えないものが植えられて……自生して? いるけれど、その様子を見たゴスケさんは、無造作に近づいていく。
「ミコト、付与を。二人とも、警戒を怠らないで」
ゴスケさんの様子から危険は少ないと思ったけれど、トールくんの警戒ぶりからかなり危険なのがそこにいると分かって、あわてて付与を掛けまくる。
あー、ゴスケさん、ちょっと待ってよーっ!
ゴスケさんが今まさに葉っぱに手をかけた、どう見ても大根にしか見えないそれを、なんとなく《鑑定》してみると……?
大根ヤクシャ:LV??
…………えっ? なにそれ?
スキル《鑑定》の結果判明した大根モドキの名前は、なんとも気が抜ける名前で、
ゴスケさんが引っこ抜いたそれは、北側の毒草・キノコ区画で見たマンドラゴラの大根版ともいえるような姿で、手足のように枝分かれした大根の手に当たる部分には、鈍く光る鋼色の刀身の大きな鉈が握られていた。それも両方に。
一瞬、銀色の光が二条走ったように見えた。
次の瞬間には、葉を掴んでいたゴスケさんの手を鉈で斬り付けて拘束から逃れ、地に降り立つ大根の姿が。
くわっ! と、大根の顔部分の目が見開かれる。
見開かれた両眼と、吊り上がった口元から覗く白い牙。
それはまさに、鬼の様相で。
付与され速度を増したゴスケさんの爪や牙、尾撃を難なく避けながら両手の鉈を振るう大根ヤクシャ。
ゴスケさんを援護するべくトールくんが静かに最速で剣を振るうものの、竜巻のように回転しながら鉈を振るい続ける大根ヤクシャの鉈に阻まれてしまう。
目まぐるしく位置を換える三者に、僕とミナトはどう介入すればと目で追いながら隙をうかがうことしかできないでいると……。
『《ダブル》《ウインドカッター》《ミラー》』
いつの間にか高い位置にいたヤタが、風の刃を両手で二重起動して更に増幅して十六枚にして一気に放っていた。
けれども、必殺の一撃に思えた十六枚に増幅された不可視の風の刃を、大根は両手の鉈を目にも止まらない速度で高速で振るい全て叩き斬ってしまった。
「うそっ!? 鉈で、魔法を、斬ったの!?」
これまで僕的に切り札の一つに数えていたヤタの魔法を、鬼の名を冠された大根に全て斬り捨てられた衝撃は大きく、つい叫んでしまう。
僕の叫びが聞こえたからか、ヤクシャ(大根)の口元が勝利を確信したかのように笑みのかたちに吊り上がった。
…………で、ゴスケさんの口から吐かれたドラゴンブレス(ワイバーン)によって、大根はこんがり焼かれましたとさ。
ちなみに、他にも大根やカブがいたけれど、ゴスケさんの挑発スキル《ポージング》でおびき寄せたら、トールくんがわりとあっさり……。
リザルト
・上質の大根 × 3
・焦げた大根 × 1
・上質の赤カブ × 6
・ヤクシャの鉈 × 8
・大根ヤクシャ × 1 (契約可能)
・赤カブ × 3 (契約可能)
スキル《錬金術》を使用。
→ 上質の大根の種 × 6、
上質の赤カブの種 × 12、
大根ヤクシャの種 × 2、
赤カブの種 ×9 を入手。
スキル《生産》を使用。
→ ヤクシャの鉈 ×4 を消費、
→→ ヤクシャの剣鉈 × 2を入手。
→ ヤクシャの鉈 ×4 を消費、
→→ ヤクシャの大鉈 × 2を入手。




