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明星は漆黒の宇宙に冴える  作者: 藤田大腸
第四章 明星は漆黒の宇宙に冴える
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16. 阿比野明、える先輩を誘う

「える先輩、おはようございます!」

「おはよう、明ちゃん」


 いつものようにえる先輩と合流して学校に向かう。最近の先輩は表情が柔らかくなり、声も張りが出て雰囲気があからさまにガラッと変わっていた。


 私はいつも通りだったけど、その実先輩に心の内を悟られまいと必死だった。恋の相手だと自覚して以来常に意識してしまって、夢にも二日に一度はえる先輩が出てくるぐらいだ。


 気軽に好きです、って言えればどれだけ気が楽か。だけど私たちは知り合ってまだ一ヶ月ぐらいしかない。市川さんと萩家先輩みたいに即告白、真似は私にはできない。


 焦っちゃいけない。まだ先輩のことを知らないところだってあるし、私も全てを先輩に教えていないのだ。少しずつ仲を深めていこう。そのためにはまず、プライベートで一緒に遊ぶところからだ。実は、そのプランを考えてきていた。


「先輩、映画は見られますか?」

「映画ですか? ブルーレイでは見ますが」

「映画館に行ったことは?」

「ないですね……この年で恥ずかしながら」

「そんなことないですよ。じゃあ、一度私と一緒に映画館デビューしちゃいませんか?」


 自然な流れで誘ってみせたけど、心臓はバクバクしていた。える先輩がちょっと首をかしげたからますます不安になったものの、


「いいですよ」


 良い返事を聞いて、よしやったと私はぐっと拳を握った。


「じゃあ、来週の土曜日に行きましょう!」

「わかりました。中間テスト明けですね」

「へ? 中間テスト?」

「そうですよ。来週に中間テストがありますよ」

「……げ」


 私としたことが、まったく忘れていた。


 *


「わははは! テスト明けの放課後は気持ちがいいな!」


 部室の外の廊下から聞こえてくる独特な笑い声。高等部一年生の塩瀬日色(しおせひいろ)先輩がやって来たのだとわかった。


「こんにちは! ……ってアビー先輩! どうしました!? どこか具合でも悪いんですか!」


 机にぐだーっと突っ伏している私を見た日色先輩が慌てふためく。そこで私はうっかり「死んだ」とつぶやいたものだから、声を荒げた。


「だっ、誰がっ!?」

「あ、いや。テストがボロボロだったので死んだ、ってことですよ」

「あ、ああ……そうだったのですか。でもそれはそれで、ご愁傷さまです……」


 私はゆっくりと身を起こした。先輩は眉毛をハの字にしてとても悲しそうになっている。逆にこっちが心配になってきたから、無理に笑顔を作ってみせた。


「私のことは大丈夫ですよ。週明けにはまた元気になっていますから」

「そうですか。決して無理はなさらないでくださいね。僕にできることがあれば何でも仰ってください」


 日色先輩の気遣いの言葉に、少し心が軽くなった。学年こそ私より上だけど高等部からの入学で在籍年数が浅いので、私に対しても敬語を使い先輩と呼んでくる。同じ高等部入学組の萩家先輩はタメ口なので日色先輩もタメ口で良いですよ、って言ってるけど直そうとしない。でも部活動に関してはことさら熱心で、協調性もあるのでみんなからも信頼されていた。


「ところで日色先輩、何か面白い映画知ってませんか? 今上映しているので」

「そりゃあやっぱり『君の那覇』でしょう! 何と言っても美滝百合葉さんが出ているんですから! 僕は見たことがありませんが面白いって評判ですよ!」

「やっぱりそうかー」


 百合葉先輩が出演しているので見に行きたいとは考えていた。だけどネット上ではあまり評判が良ろしくなくて、周りの他の子にもどんな映画がおすすめか聞いてみたのだが、みんな口を揃えて『君の那覇』の名前を挙げていた。これは実際見に行ってみないとわからないパターンだ。


「アビー先輩、映画を見に行くんですか?」

「ええ、明日友達と一緒に」


 友達。今はそうだけど、いずれは――


「良いなー。僕も晶さんを誘って行こうかな」


 日色先輩には同級生にいとこがいて、名前は奇しくも私と一字違いの晶という。ついで言うと晶先輩に日色先輩、私も名前に「日」の字が入っている。だから日色先輩だけでなく、名前も似ている晶先輩にも勝手に親近感を抱いていた。直接会ったことがないにも関わらず。


 しばらく雑談していたら矢ノ原野々先輩が部室に入ってきた。


「こんにちは!」

「こんにちは。あら? まだ二人しか来ていないのですか?」

「はい。今日はミーティングをやるってみんな知っているはずですけど」

「困りましたね。体育祭での募金受付係のローテーションを決めて今日中に実行委員に報告しなきゃいけないのに」

「よしっ、僕がひとっ走りしてみんなを集めてきます!」


 日色先輩はそう言うや否や、部室を駆け出していった。


「ヒーローちゃんらしいですね」


 野々先輩と私は笑いあった。もう中間テストのことはすっぱり諦めて、える先輩と明日を過ごすことを楽しみにすることにした。

今回登場して頂いたゲストキャラ


塩瀬日色(桜ノ夜月様考案)

登場作品:『宵の闇に日は沈む』(桜ノ夜月様作)

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