妖精達の取説~重大発表?
――――研修六日目。
アイラの案内で4、5日目の王都観光は楽しく過ごさせてもらった。
俺の疲れを気にしてくれている様で、一か所でゆっくり出来て、食事もあまり濃く無い物を選んでくれていた様だ。
アイラさんマジ有能♪
そんなリフレッシュ休暇みたいな二日間はあっと言う間に終わり、今日から二日間はしっかりと授業風景を参観させて頂くことに。
朝食の後、アイラの案内でやってきた教室は八日目から俺も通う事になる妖精学のクラスである。
妖精学とは、妖精使いの必須知識である。
雷、水、土の順で数が多い妖精の特徴。
彼、彼女等は何故、妖精使いと契約を結ぶのか。
そもそも妖精使いの仕事とは。
過去に複数の妖精と契約した偉人に伴う歴史。
妖精郷に行く事になった場合の作法。
妖精の結婚観。
トラブルシューティング。
禁則事項ets。
大きな括りとしてはこれぐらいではあるが、それぞれがかなりの深度である。
勉強というよりは、妖精との相互理解の為に契約前、もしくは契約直後のうちに深く理解しておきましょうという事だ。
実際、妖精の寿命は無いに等しいと言われている。
それ故に、契約者である人間は妖精達から見るとほんの瞬きの間しか一緒に居れない。
不仲になって間違いや過ちを犯してしまうよりは、人の為、世界の為にそしてお互いが楽しく過ごせるようにと言う指針的な?
まあ簡単に言えば『取り扱い説明書』である。
先生曰く、ヘラの様に俺にベッタリ甘々な妖精と言うのは非常に珍しいとの事。
飯を食ったり酒を酌み交わしたり、仲良く馬鹿話したりぐらいは出来る様だが、ヘラが宣言している俺との結婚なんてのは、よほど気に入らないと無い事だそうだ。
普通は妖精使い側から何十年も懇願して、漸く妖精に受け入れらたとしても、子を成すことが難しい齢に妖精使いはなっており、妖精との子は世界に片手で数えられる程しかいないらしい。
「では、妖精使いの仕事内容について、授業を始めます。」
話しているのは勿論、本人も妖精使いである妖精学担当教諭。
「妖精は妖精使いと契約すると、余り離れての行動は出来なくなります。妖精使いを中心に、凡そ10km範囲内と言われていますが、それは妖精使いの体を構成する物質や電気信号を依り代に、常時姿を顕現させているからです。顕現だけであれば、日に一度、契約者の血の一滴、髪の一本程度を摂取するだけであり、妖精自身も顕現後は自ら食事を取ってくれるので、更に依り代は少なく済みますが、妖精使いから余り離れすぎると役割を果たせなくなるので、妖精は範囲内から離れられなくなります。では、妖精と妖精使いの役割とは一体何か?えぇ~スレイカ・モルガン」
「はい。それは、妖精が異能を使用する際に使う依り代である血肉を捧げる事にあります。例えば、攻撃的異能を使用する場合は、雷は神経伝達物質を、水は血を、土は肉を対価に差し出します。付け加えさせて頂くならば、それにより強大な力の行使は可能ですが、妖精使いの命の危険がある為、その力の行使権限は常に妖精使いに委ねられており、契約後は妖精使いの指示が無ければ、妖精自身に迎撃及び反撃の判断も許されていません。」
「宜しい。ありがとうモルガン君。今の話の様に妖精使いの一面として、非常に命の危険を孕んだ仕事であるという事です。しかし、世界中で活躍している妖精使いの仕事は危険な物ばかりではありません。教科書69ページ。えぇ~、ここは誰かに読んでもらおうかな。じゃあ、デ・マリア、教科書69ページ読んでくれ。」
「………はい。えぇっと、貨幣に使われる貴金属や、高価な宝石類が得られるのは、土の妖精と契約者である妖精使いが鉱山を見つけてくれるからである。鉄等の鉱石も見つけてはくれるが、精製過程において、燃料の木を大量に伐採する為、世界的に希少金属も含め、精製には多くの法律が設けられている。乾燥地帯、砂漠等の地域に居住する人々の為、水の妖精と契約者である妖精使いは井戸の設置に貢献している。それ故、過酷な旅を続ける為の体力作りや多様な言語能力も必要とされている。最悪、汚水からでも綺麗な水を作り出すことは出来るらしいが、対価を考えれば、定期的に各集落の確認をしている方が良いと考えられる。雷の妖精は、希少であり特殊な能力を持つ者が多いとされる。雷は工業的な腐食防止の鍍金、もしくは金属分解等も出来た者がいると言われている。しかし、人を蘇生した、5km先の村まで一瞬で飛んだ、湖を蒸発させた、人形を人の様に動かした等、にわかには信じられない様な逸話が多く、現在でも真相は分からないが、その伝説は枚挙に暇がない。それ故か、歴史に名を遺す雷の妖精使いは居らず、噂では隠れて世界平和の為に何かしているのではないかとも囁かれている。」
「はい、ありがとうデ・マリア。この様に、妖精使いは妖精と共に日夜、社会貢献活動を行ってくれています。勿論、それで対価を受け取る事もあり、中には増長してしまう妖精使いもいるのが現実です。そういった者は、尽く妖精側から契約を切られており、自分勝手な人殺しや、詐欺等に手を出した場合は、最悪、契約している妖精にその場で命を奪われます。これは妖精使いと契約はしますが、妖精達は全ての人々の為という観点から契約をしているという大義名分があり、それに害成す者は等しく敵であるという事なのです。皆さんがもし、今後、妖精達と契約に至った場合、それは決して忘れないようにしてください。では、教科書072ページの水の妖精使い、ヌルポ・ヌルポの詩の朗読の後、小テストを―――」
「先生ー!072ページはありません!」
「ああ、これは失敬。72ページだったね。ついでだから今訂正してくれたフェニックス・○ッキ君読んでもらえますか?」
「フェリナス・リッキーです!」
そうして有難い詩の朗読の後、小テストが始まった時点で教室を後にした。
アイラ曰く、今日は俺達がいたので、すぐにでも気を付けるべき点をやってくれたのだろうとの事。
中々に良い先生だ。
好感が持てるね。
そうして一旦食堂のテラスでティータイムを過ごし、馬車で次の授業参観に向かった。
◇◆
次の授業は競技闘技場での実習である。
折角来たので今回は参加させて貰う事にした。
実習と言っても人相手というものではなく、危険な大型生物との戦闘を想定したもの。
とはいえ、基本的には弓やボウガンで的を射るのがメインで、練習用の動物を用意するような外道は行わない。
それに伴って、無暗な乱獲を行ってはいけないとか、保護区の存在etsはこの授業で教わる事になっているが、場所と乱獲は注意って事だけだから、あくまで実習メインである。
狩りで捕獲した獲物の処理の方が、狩る事よりも遥かに難しく、解体の仕方によっては美味しく食べることも出来ない。
皮を剥ぎたくても、何処にどう刃を入れるか解らなければボロボロにしてしまう。
そういった授業は座学が別教室でやっているので、希望者はそこで受ける事となる。
しかし、里奈と知り合ったMMORPGの中では、レベル上げりゃ弓でも剣でも魔法でも高火力でぶっ飛ばせた雑魚クラスの事を、リアルで勉強しなきゃいけないなんて。
何かちが~う。
転生モノって、もっとウェ~イな感じと思ってた~。
まあ、今の齢からそういうことを学べる環境に送り出してくれた家族やロブ・ロイ、ヘラに感謝はしてるんだけどね。
さっきの授業でも聞いた通り、傲慢にならないよう謙虚、誠実に頑張ろう。
と、十代前半の女の子が出来るんだから俺だってと意気込んではみたものの。
弓は子供用を借りたのだが、固くて全然弦を引けない。
矢もポロポロ落とすし恥ずかしい。
ボウガンは子供用は無かったので大人用を借りてみたが重すぎる。
それに、弦を引くレバーも途中までしか引けなかった。
完敗である。
筋力が足らない。
でもこの歳で筋力っていうよりは、とにかく運動した方が良いかな。
邪魔にしかならなかったことを皆さんに詫びると、初めは皆そんなもんだから気にするなと慰めてくれた。
出来るようになるまで何度でも来て良いと先生から暖かいお言葉を頂いたので、礼を述べて御暇させて頂いた。
早く大人になりたいの巻。
◇◆
アイラには席を外して頂いて、長めの昼休憩を取る事にした。
理由はロブ・ロイが会いに来てくれたのだ。
「そうか、精神的には大人顔負けのラスティ坊も、その年で武器は中々むずかしいのぉ。」
「はい、それで運動から始めようかと思うのですが、水泳を始めようと思っています。」
「ふむ、まあ今の齢ならそれで十分じゃろ。」
「では早速受講希望を出しておきます。」
「うむ、そこでじゃが、村を出る時に言うておった仕事も中々に体力を使う。肉体労働という訳では無いが、運動の一環として来週ぐらいから始めて見るか?」
「確か、仕送りが出来るとか言っておられた件ですよね?僕なんかで良いんですか?」
「なぁに心配はいらんさ。最初は失せモノと言っても迷い犬か、精々ビラ配りぐらいのもんじゃ。それで動くだけでも運動にはなるじゃろ。」
「確かにそうですね。では来週からおねがいします。」
「分かった。じゃあ来週の中日の昼からという事にしておくかのぉ。それまでは学園に慣れておくといい。」
そうして食事をしつつ、ロブ・ロイを交えてヘラと三人。
ゆっくりと近況報告や世間話をした。
生まれた時には他界していて、どちらの世界でも会った事は無いのだが、実の祖父がこんな人だったら良いなとロブ・ロイを見て思う。
前世の年齢を入れれば、俺も四十を迎える。
それは多分、元の世界なら老後を視野に入れてもおかしくは無い歳。
しかし、目の前に良い齢の重ね方を体現するロブ・ロイがいる。
俺もいつかこういう風になりたいと思った今日この頃である。
―――第一章完 次回より第二章 R&H 子作り編スタート♪
まだ終わりませんし始めさせません!
もちろん、まだ終わりません始めさせません。




