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SS 湯けむり温泉 アリマ・朱鉄の湯編


あけましておめでとうございます。


執筆が滞り、申し訳御座いません。

新年からは気持ちを新たに頑張りたいと思いますので、御暇な方が居られましたら駄文に御付き合い頂ければ幸いです。


短いですが少々の御時間御付き合いくださいませ。



――――ヤマト国/アリマ村・温泉宿 太閤園・朱鉄の湯




「ハァ~、生き返るようだ……。」


「兄貴が言うと、ホンマに生き返った様に聞こえるわ。足も手ぇもバラバラやったのに……ようくっつきよったなぁ。」


「本当に不思議な気分だ……。まだ上手くは扱えぬが、医者も地道に養生すれば動く様になると言っておった。凄まじい医療技術だな。」


「儂の目ぇも偽もんみたいなん嵌めといたら眼球が再生するっちゅうねから、魔法や魔術言われても、今やったら信じるで。」



ダヴィド・シャルトリューズとディエゴ・ベガシシリアは温泉に浸かりながら、自らの身に起きた奇跡の様な出来事を思い出していた。


ヤマトのキリシマなる人物に救出され、海の向こうまで連れて来られたブリュンヒルデ・アレクサンドラを含む三人は、高度な医療が受けられるという病院へ運ばれ先端医療を施された。


その結果、ダヴィドの切断された四肢は見事に接合され、事件からひと月という速さでリハビリへと入っている。


ブリュンヒルデとディエゴは、潰された右目を再生する為の触媒となる義眼を移殖され、既に光の中にぼんやりと人影が確認出来るまで回復していた。



「さて、そろそろ熱いしあがらせてもらうで。兄貴はもうちょい養生しときや。」


「相変わらずの早風呂だな。」


「長風呂するほどまだ年喰うとらんからな。ほなお先。」



そう言ってディエゴは露天風呂を後にした。


ダヴィドは一旦湯からあがり、背凭れにしていた岩に腰を下ろして涼んでいると、程無くディエゴと入れ替わりにブリュンヒルデが一糸まとわぬ姿で現れた。



「……湯着も羽織らずに来られては目の毒だ。」


「あれは湯の中で張り付いて気持ちが悪い。それに妾の肌など何度も見て居ろう。今更お主の前で恥じる様な素振りを見せるとでも思おたか?」



そう言うとブリュンヒルデは近くにあった檜の桶で掛け湯をし、透き通る様な白い足を銅色の朱い湯の中へゆっくりと入れ、小さな吐息を漏らす。


白く柔らかそうな尻の飾りとばかりに、可愛らしい拳大の狐の尾をダヴィドに見せつけながら湯に浸り、掛け湯で濡れたその大きな乳房が湯に浮いた所で再度、ブリュンヒルデは心地良さから吐息を漏らした。



「……遠慮せずに傍へ来れば良い。」


「何故儂が其方へ行かねばならん。侍りたいのはお前の方であろう。」


「可愛くないのぉ。……そこら辺…雄の児は中々変わるものでも無いか。」



仕方なしといった表情で湯の中を移動して来たブリュンヒルデは、ダヴィドの手を取るとゆっくり湯の中へと誘う。


ダヴィドを湯へ浸からせたブリュンヒルデは、密着する様に侍り、足や腕の縫合痕を優しく湯の中で撫で始めた。



「……この方が治りも良かろう。」


「………悪くは無いな。」


「心地良いと素直に言えば良いものを……。」


「年寄りを揶揄うでない。」


「うっふっふ♪妾を孕ます勇気が無いだけであろう?」


「ディエゴが聞き耳を立てて居るだろうからな。」


「イケずも相変わらずじゃの。……昔は誰が見ていたとて、妾が気を遣るまで杭を打つように何度も何度も……。」


「……そういう事は国に帰ってからで良かろう。」


「ほお……その気になってくれるのかや?」


「王妃が死んで五年……そろそろ次の時代に政を任せても良い頃合いだ。そうなれば……お前と共に歩む事も許される。」


「なら妾も帰国して皇位を譲らねばならぬの♪」



嬉しそうにダヴィドの膝の上へと跨ったブリュンヒルデは、その白くて大きな乳房を押し当てて抱き着く。



「その前にヤマトの君が儂等をここまで連れて来た目的を聞かねばならん。」


「……何か思い当たる事が?」


「全く分からん。災いや凶事となる様な事柄では無い事を祈るばかりだ。」


「そうじゃの。大陸では何かと嫌われて居る狐人じゃ、大陸の長がヤマトの皇に会う事自体、相当珍しい事じゃろうな。」


「戦となれば常勝無敗。しかし、残忍で凶暴な狐人は大陸の英雄達によって海の向こうへ追いやられた…だったか。」


「失礼な話じゃの。元を正せば強国の傭兵であった狐人が、その強さを時の為政者に疎まれて迫害されただけの事じゃと言うのに。誠、こういった差別や侮蔑は時を経ても無くならんもんじゃ。」


「……差別や侮蔑は無くならんだろう。」



ダヴィドの言葉に少々ムッとした表情になるブリュンヒルデ。



「なんじゃ、お主は妾を狐と人の合いの子じゃと侮蔑して居るのか?」


「お前をそんな目で見た事は無い。儂が言いたいのは、どの種族であれ相反する思いを持つ者が居るという事実だ。」


「……それは最近、蜥蜴人に襲われたから分かるの。」


「民の感情など千差万別。差別する者も、そうで無い者も等しく民である事には違いない。」


「……それでは差別を認めるという風に聞こえるのじゃが。」



頬を膨らませ、そっぽを向く仕草を見せるブリュンヒルデ。


それでも膝の上に座り続ける女の頭を優しく撫で乍ら、ダヴィドは目を細めて言葉を紡ぐ。



「差別する側もされる側も、同じ大義を持つ者同士であれば、共通の敵を討つ為に反目はしない。しかし太平の世となり、大義を失った途端に人は、その本質に攻撃性を持ち合わせてるが故、本能的に自分と違う者を差別という陰湿な手段で貶め、団栗の背比べ程の優位性を確保しようとする。人種は他人種を、長命種は獣人を、獣人は魔族を、魔族は亜種を……。力、知性、容姿の全てで劣ろうが、身勝手に決めた序列で自分が優位でいると思い込むなど、知性の欠片もない野蛮な衝動だと気付きもしない。」


「………。」



ダヴィドの言葉に、頬を赤く染めたブリュンヒルデは甘える様に首を肩へと預け、鎌首を擡げたダヴィドのダヴィドを優しく握る。



「つっ、つまりはだな、お前の様に半人半獣種という…珍しい生い立ちの…挿ってるから!ちょっ!…おおっ、ごっ強引に!!はなっ…話の途中だからっ!!」


「はぁぁっ……、あぁ♪話が長いのが悪い……硬くして尻に這わされたなら…何時でも受け入れろと…骨の髄まで妾に仕込んだのは、御主じゃろぉ…♪」



湯舟は緩やかに大きく波打ち始める。



「わかった!わかったから部屋で続きをおおっ!シィーッ!シゥィーッ!」


「ほれほれっ♪…あぁ♪……まだ、果てるにはぁん……た、まらんっ…のぉ♪…。」


「ちょっ!……ええぃいっ!ふんぬっ!!」


「きゃっ!!」



ダヴィドは流されそうになる感情を何とか奮い立たせ、強引に立ち上がると荒々しく鼻息を吐く。


跨っていたブリュンヒルデはその反動で引っ繰り返る様に後頭部から湯船に落とされ、湯船から顔を出すとジト目でダヴィドを睨みつけた。



「とにかく、そういう事は国に帰ってからだ。そう長い月日は掛からぬであろうから、それまで楽しみに待っておけ。」


「何を偉そうにっ!未練がましくおっ勃てたモノをこっちに向けたままどの口が言っておるのじゃ!」


「そう仕向けたのはお前だろうがっ!」


「いい歳して我慢の利かぬお主の暴れん棒を慰めてやって何が悪い!」


「変な呼び名を付けるなーっ!!」




その後も暫く大人げないやり取りは続いたが、朝方にダヴィドの部屋からブリュンヒルデがそそくさと自室に戻る所を、出勤して間もない看護師達が目撃する事となる。


実際に何があったのかは本人達しか知らない。


言わぬが花、知らぬが花というべきか。



しかし、朝食の席で無粋にもその話を根掘り葉掘り聞きだそうとした獣人が一匹いたのだが、般若の如き女傑に丸刈りという粛清を与えられたのは御愛嬌と言うところか。





持病の悪化で昨年は執筆を諦めました。

今年は無理の無い範囲で再開して行こうと思います。


更新の無い間も御覧頂いていた皆様に、心からの感謝を。


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