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代表就任~坂道の頂点


いつも御読み頂き有難う御座います。

長いです。



――――アズーロ共和国/首都ライゼンハイマー/代表官邸前・独立記念公園



代表選挙から十日。


新たに選出された代表の就任演説が行われるとあって、アズーロ共和国独立記念公園には二十万を超える国民が詰め寄せていた。



「アズーロ共和国代表就任に当たり、所信を申し上げます。」



旧ライゼンハイマー公爵邸である代表官邸を背に、演説台のある舞台に上ったロミルダ・ライゼンハイマーは、観衆に話し掛ける様な落ち着いた声で演説の前向上から始める。



「今より三十三年前、長きに渡る戦争終結により、多くの賛同者の力添えを得て、アズーロは独立致しました。しかし元は公爵領とはいえ、激戦地であったが故に、塗炭に塗れ、苦しい生活が続く事になります。ですが先人達は未来を見つめ、必ず良い国にすると一人一人がその責任と決意を胸に、議論を重ね、世界第二位と言う観光国家を作り上げるまでになりました。多くの国と協力し、平和で豊かな国を、今の国民に残してくれたのです。三十三年の先人達の歩みに、心から敬意を表します。」



祝砲が放たれ、観衆からの大きな声援に、ロミルダは目頭に込み上げるものを堪えながら演説を続ける。


観衆の中には当時を知る者も多く、ロミルダの言葉に涙する者も多い。


続く演説の内容にも関心する様に聞き入り、若きロミルダの政治手腕に期待する観衆は声援を送り続け、演説は終盤に入った。



「しかし残念ながら、ある政治家の謀反により、前代表は無実の罪で処刑され、後に歴史家から揶揄されるであろう一日戦争なる愚かな蛮行を犯した事は、忘れてはいけません。それにより、少なからず両国に死傷者を出しました。だからこそ、今こそ先人達の歩みに、改めて学ぶべきなのです。建国に寄与した先人達に見習い、腐敗の無い政治、真に国民に寄り添った政治を、作り上げる事を私は誓います。先人達から受け継いだ平和なアズーロを、今度こそ守り抜き、希望に満ちたこの国を次の世代、そのまた次の世代へと繋げていく。その責任を皆さんと共に果たす為、代表として勤めて参る所存です。」



こうして大歓声の中、ロミルダの代表就任演説は終了した。




――――アズーロ共和国/首都ライゼンハイマー/代表官邸・大広間



ロミルダの演説が終わり、新しい内閣の組閣が発表され、各大臣の長い挨拶が終わる頃には夜の八時を廻っていた。


ロミルダの演説が終わって七時間後の事である。



「ロミルダ様、我等が不甲斐ないばかりに……。」


「オイゲンの術中に嵌ったとはいえ……ルドルフ様の事は……申し訳なく……。」



新組閣でも再任命された防衛大臣のローレンツ・シュナイダーと、財務大臣マルセル・リヒターが揃ってロミルダに謝罪する。



「そんな、頭を御上げ下さい!?謝らなければならないのは此方の方です。御二人だけでなく、殆どの国務大臣がオイゲンによって幽閉されていたのです。気付かなかった私もそうですが、父に代わって謝罪致します。申し訳ありませんでした。」



頭を下げるロミルダに、ローレンツとマルセルは直ぐに片膝を付いて臣下の礼をとる。



「亡きルドルフ様の恩情に応えるべく、我等はアズーロの剣となりましょう。」


「金は国家の血液で御座います。それを預かる我等は、アズーロの心臓部として大義を全う致す所存。」


「いやいや!そんな貴族的な礼は必要ないですよ!頭を上げて御立ち下さい。」



代表就任祝いのパーティー会場で臣下の礼をする二人は好奇の目に晒されていた。


それは建国の際に貴族制度を廃止したからであり、ロミルダに対してそれを行う事は、他国の貴族や王族が出席する場では誤解を生む行為だからである。


慌てて二人に駆け寄り、腕を引いて立たせたロミルダは、注意と言う名のお説教を始める。



「いいですかシュナイダーさん、リヒターさん。我等アズーロ国民に身分制度は無いのです!こういった席だから言っているのではなく、御二人がその様な態度を見せると、悪意ある人間に利用される者や、派閥争いの火種になる事も考えられるのです。御二人は戦前生まれだから儀礼に関して古いお考えを御持ちかも知れませんが――――――」


「早速辣腕を振るっておるのかと思えば、大臣二人に説教とはの。まあ妾も女じゃ、気持ちは分かる故、嘗められんよう今の内にしっかりと説教して置くが良いぞ。」


「煽って如何したいんですか、ブリュンヒルデ殿。」


「ロミルダ様、陛下(母上)が申し訳ありません。代表就任早々御迷惑を……。」


「何やら騒がしいな。おお、ロミルダ・ライゼンハイマー殿、就任おめでとう。ハイネ王国を代表して祝いに参らせて貰った。」


「兄貴、儂放って何処行くねん!ほぉ、新代表はんでんな。コロナ獣王国のディエゴ・ベガシシリアです。面倒やけど王様してます。聞いてた通り可愛らしぃ御嬢さんで。」



ロミルダのお説教が暴走しようとしたタイミングで現れたのは、今回の代表就任記念パーティーに呼ばれた各国の王族達であった。



「ブリュンヒルデ様、御無沙汰して居ります。ブラッド様も今日は有難う御座います。クリームヒルデ様も先日ぶりで。シャルトリューズ陛下、ベガシシリア陛下、本日は遠路御越し頂き、感謝致します。」



大臣二人への説教も忘れ、大陸の有力な王族に囲まれて慌てるロミルダ。



「あっはっは、一度に押し掛けてすまないね。早速で悪いとは思ったんだけど、ロミルダ代表とは早めに相談したい事があるんだ。別部屋を用意して貰いたいのだが……頼めるかな?」


「あ、はい。えーっと、リヒターさん。皆さんとお話出来る部屋の準備を御願い出来ますか?」


「直ちに御用意致します。シュナイダー、ロミルダ様の護衛を頼む。」


「勿論だ。」



そうしてリヒターから指示を受けた官僚達が用意したのは窓の無い防音室であった。



「ロミルダ様、ここなら心配は無いかと。」


「皆さんお好きにお掛け下さい。」



メイド達の案内で大きな円卓の席に着いた各国の王は、出された紅茶に口を付け、一呼吸吐くとブラッド・ブレーク・エールがロミルダに話し掛けた。



「代表就任早々に時間を取らせてすまないね。だが、急ぎ解決しなければならない事が多くてね、ハイネ王国とコロナ獣王国には私から連絡して、ある程度話を纏めて貰っている。アズーロにとって悪い話では無いから、先ずは皆の話を聞いてほしい。」


「そう仰られても……一応顧問であるイワン様に相談してから出ないと………。」



代表選挙が終わってからロミルダの前に姿を見せていないイワン。


最初はロミルダも国政に関わる事からイワンが遠慮をしているのかと思って気にしていなかったが、この十日間、何の音沙汰も無い事に少々の不安を覚えていた。



「その事なんだが、イワン殿は今回の事で追跡調査の任に就いている。勿論、今日話す事は確認して承諾も得ておるから安心して欲しい。」



ダヴィド・シャルトリューズはイワンに許可を取っている事を説明し、ロミルダはそれを聞いて少し安堵した。



「でしたら御伺いさせて頂きます。」


「では妾が一番じゃ。」



無遠慮にブリュンヒルデ・アレクサンドラが手を上げると、他の王達は苦笑いして彼女に譲った。



「パドラは先の事件で南部の復興に人手が足りんでの。現場に近いアズーロのアルベニス村から人を雇いたいのじゃが構わぬか?勿論賃金は正当な価格をパドラが支払う。」


「それは此方としても申し分ない条件です。あの村は住民も多いので、彼等も喜ぶと思います。それにアルベニスは三国の国境が近いですから、将来的にあの地域で関税免除の商業地帯なんかが作れると面白いかもしれませんね。」


「中々に面白い発想じゃの。では早速アルベニスに使者を送るとしよう。」


「では次は私で。」



ブリュンヒルデの話は済んだと掛かり気味に割って入るブラッド。



「今の話は大変興味深いのですが、それはまた後日。それで私からは、マカダン大砂漠での【タイヨウコウ発電】の合弁会社を設立しませんかという提案です。」


「タイヨウコウハツデンですか?それは一体何なのです?」


「実は私も良くは分からないのですが、今日演説で使われたスピーカーと言うのがありましたよね。」


「あれは便利ですね!私の声が大きくなって、話し始めた時はビックリしてしまいました。」


「実はアレを動かす為に必要な燃料みたいな物らしいのです。ハイネの信用出来る商人が昨年ギリンガに持ち込みましてね。実際の効果はお判り頂けたと思いますが、大変便利な物を他にも用意しているらしく、私としてはそれらを広く普及したいのです。この出資にはコロナ獣王国も参加されるので、今なら三分の一の投資枠をアズーロに御案内出来ますが、如何されます?」



ブラッドの勧めに腕を組んで考えるロミルダ。



「妾の国に気を遣わんでよいぞ。その施設が完成すれば、そこで働く職人には高い技術力が必要となる。パドラはその職人を多く派遣する事できっちり利益を得る予定じゃ。」


「ハイネは特許料を貰えればそれで構わん。それも特許料と見合う電気を提供してくれれば良いと考えておる。暴利を漁るつもりは無いので安心して欲しい。」


「兄貴んとこはホンマに美味い事やるなぁ。」


「お前の国にも優れてる()が有るだろう。扱うモノが違うだけだ。」



ロミルダは皆の意見を聞き、納得した表情でブラッドの提案を了承する。



「分かりました。ああいった物が増えるのは国民にとっても有意義だと思います。それに南部は砂漠化が進んでいます。ある意味それの歯止めになる様な事に利用出来るかも知れませんので、そのお話、御受けしたいと思います。」


「分かりました。では詳細は各々担当の者を決めて、施設建設は今年度中に始められる様進めて行きましょう。私からは以上です。」


「ほな次は儂や。」



ブラッドが話し終わると、次はディエゴ・ベガシシリアが手を上げる。



「儂からの提案は強力な獣人兵の斡旋や。」


「それは傭兵という事でしょうか?」


「いやそうやない。これは飽くまで紹介や。知っとると思うけど、儂等大陸中央の国々は八ヵ国通商同盟並びに軍事同盟ちゅうのを結んどる。これは通商と軍事っちゅう枠組みを共有する事で人の往来と商売の自由を保障する条約や。そんで近いうちにギリンガが参加して九ヵ国同盟になる。そこで問題になるのが、同盟国が他国からの侵略を受けた場合の対処や。」


「なるほど。自前の軍事力の格差ですね。」


「嬢ちゃん賢いなぁ。そこで今嬢ちゃんの言うた格差をどう埋めるかなんやけど、同盟内ではうちとロールシュの獣人族をそれぞれの国に雇用してもろててな、各国の弱い部分を補っとるっちゅう訳や。こっちの方やとウルケがズアークとルスバーグへの牽制に、十万人の訓練された獣人を雇用しとる。勿論パドラも五万ほど雇用してくれてるねんけど、アズーロも大樹海に面してるやろ。そうなると大樹海の浅い所を進んでズアークからアズーロに侵入する事も出来なくない。」


「確かに少しづつの移動なら……間者ですか。」


「そういうこっちゃ。今回は大将に近い人間を誑かしとったけどな、次からはもっと巧妙な手使って来よるで。それこそ何年も掛けてズアークの人間を大樹海経由でアズーロの首都に送り込んで、政局に関わる重要人物を一気に暗殺しようと考える可能性は高い。そんなん許したら国なんて一瞬で傾くからのぉ。そこでうちの優秀な獣人の部隊が活躍するちゅうやっちゃ。気配の探知に優れた狼人族もおれば、怪力無双の熊人族もおる。そいつらを北の大樹海に面した村に常駐させて、取敢えずは物理的な破壊工作みたいなもんを防ごうっちゅうこっちゃな。どうする?」


「そ、そうですね……如何しましょう?」



余りに早口で説明するディエゴの圧力に、ロミルダは戸惑い周りの王達に視線を向ける。



「ディエゴよ。その雇用に幾ら経費が掛かるとか、その者達を何処で休息させるとかを説明してやらんと分からんであろう。」


「そうかそうか。流石は兄貴や、すまんかったな嬢ちゃん。八ヵ国同盟では、その国の一般兵士と変わらん給金制度で雇用し始めるのが通例やな。休息地の条件としては大樹海とアズーロの境にある、海辺の村ジェルマノッタでお願いしたい。序に漁業権を発行して貰う事が条件や。」


「漁業権ですか?コロナ獣王国に漁業権を取られてしまうと周辺住民が……。」


「ちゃうちゃう。まあ魚も食べる分ぐらいは取らせて欲しいけど、飽くまでアズーロの漁師と同等に漁をする為の許可が欲しいねん。」


「要は漁獲量をアズーロの基準で守って頂けるという事でしょうか?」


「勿論や。そんな乱獲なんかしたかて誰も得せえへんからな。そもそも儂らはそこで貝の養殖がしたいねん。」


「貝?貝と言うとカキやサザエですか?」


「いや儂らがやりたいんは真珠貝っちゅう宝石作る貝のこっちゃ。見た事あるやろ?」


「本命はそっちですね。あれは貝から取れるのですか……知りませんでした。とても高価な物だと思うのですが、コロナ獣王国の海では作れないのですか?」


「作ってはいるんやけどな、さっき言うてた砂漠の気温上昇でか、湾内の海水温が高こうなりすぎてなぁ。最盛期と比べて今年の生産量は十分の一になってしもたんや。このままやと採算どころか産業自体が潰れてしまう。せやからあそこで養殖する序に、獣人兵が安心して住める様に手配したって欲しいねん。」


「妾の国も輸送費を考えるとアズーロに来て貰った方が助かるがの。」


「姉さんええこと言うた!嬢ちゃんどやろか?悪い話や無いと思うねんけど。」



ロミルダは迷ってシュナイダーに視線を送るが、交渉事は苦手なのか視線を逸らされる。


仕方なくブリュンヒルデの横に座るクリームヒルデに視線を向けると、既にロミルダを見て拳を胸にやり、力強く何度も頷いていた。



「……分かりました。多分ですが、アズーロにとっても近隣国にとっても良い事なんだと思います。ですが養殖にはアズーロの漁師も参加させて頂く事を条件として、という事では如何でしょうか?」


「嬢ちゃんはしっかりしとるなぁ。末恐ろしいわ。ほな嬢ちゃんの言うた条件も含めて契約成立や。詳しい事は近いうちに詰めようや。」


「終わったか?」


「待たせたな兄貴。」



悪びれる様子も無く、ダヴィドに軽く謝るディエゴ。


漸くかと言った面持ちで眉を上げたダヴィドは、ロミルダに視線を向けると小さく頷く。



「儂からは特にない。今まで通り姉妹都市提携や文化交流を続けて行けば、その先で共に出来る事もあるだろう。だが今はアズーロの内政を立て直し、確固たる国の礎を作る時だ。今日纏まった商談を進めつつ、安定した国家運営に取り組む事を期待しておる。こやつ等が五月蠅い様なら連絡しなさい。何時でも相談に乗ろう。」


「はい!ありがとうございます、シャルトリューズ様。」


「相変わらず若い娘にはやさしいの、ダヴィド。」


「他意は無い。大年増の嫉妬などみっともないぞ、ブリュンヒルデ。」


「誰が大年増じゃ!妾は十七から一ミリも体形を崩しておらぬわ!お主こそそのみっともなく迫り出した腹を晒してよくも妾を大年増だなどと抜かせるの!」


「私は年齢の事を言ってるのだ。それに大年増とは齢三十程の事であろう。それを十八も超えたお前が――――――」


「喧嘩売ってんのかゴラーーー!!」


「お、御二人とも落ち着いて――――――」



口喧嘩を始めたダヴィドとブリュンヒルデ。


二人を止めようとしたロミルダであったが、傍に来たディエゴが肩を叩いて耳打ちする。



(兄貴と姉さんは若い頃色々あったんや。あー見えて二人とも、久々に逢えて嬉しいねん。お嬢ちゃんも生暖かい目で見守たってや。)


(そ、それはもしかして、御二人はそういう御関係だったと……。)


(せやで。姉さんが兄貴に一目惚れしてしもてな。そら皇位継ぐ前の姉さんいうたら兄貴にベッタベタのデレッデレやったんやで~。毎晩寝所に兄貴を誘い込んでは――――――)


「おい、ブタネコ。ロミルダに何吹き込んでんだゴラ。」



いつの間にか刀をディエゴの首筋に当てていたブリュンヒルデは、座った目で背後から怒気を放つ。



「ね、姉さん……ほ、ほんの冗談や~。そ、それに儂は……ブタネコやのうて獅人やって……し、知ってますや~ん。」


「……知らねぇよブタネコ。調子くれてっとその鬣と一緒に首も削ぎ落すぞボケ。」


「ひいぃぃぃいいっ!!勘弁してや姉さん!ほんの出来心なんや!悪気はない!」


「いっぺん死ね!」


「ぎぃぃややぁぁぁあああっ!!!」



そうしてディエゴがブリュンヒルデに半殺し一歩手前まで殴打されるという一幕があったものの、会議は無事に終了となった。



「ブリュンヒルデ様!少し宜しいですか?」


「どうしたのかの?ロミルダ。」



それぞれ会議室を後にする中、ロミルダはブリュンヒルデを呼び止める。



「あの、ウンダーベルクさんの御怪我は、その後の経過はよろしいのでしょうか?」


「おお、あれか。あれは仮病ぞ。」


「仮病?」


「そうじゃ。あやつは若い頃、戦場で腕の骨を砕かれた事があっての。医者にも見せずに放って居ったから綺麗に接合せんかったらしいわ。それ故、町医者や素人診断では折れている様に錯覚するらしい。」


「発熱もですか?」


「ウンダーベルクは米アレルギーじゃからの。その様な物を食しては居らんかったか?」


「お米のアレルギーですか?そんな物は……ああ!御団子!」


「フフッ、あれも悪知恵を廻らして居ったという事よ。」


「全然気付きませんでした……。私が早く気付いていれば……。」


「そんな事に気付くのは名医と呼ばれる者達ぐらいじゃ。妾なら気付いたやも知れんが、それは妾がウンダーベルクと長い付き合いで色々と心得ているからじゃ。それ故ロミルダが気にする必要は無いの。まぁ困り事があれば相談に乗るでな、何時でも妾の元に来るがよいぞ。あとあのブタネコじゃが、獣人族は多産じゃからな。あ奴なりに民を思っての斡旋じゃ、悪く思わんでやってくれ。」


「大丈夫です。人は良さそうなので信用はしています。……敵に廻しても何の得もなさそうですし。」


「良く分かって居るでは無いか。政は好き嫌いでは無いの。」


「はい!」



こうして近隣国王達の会議は終わり、代表就任祝いのパーティーも程無く終了した。





――――ズアーク連合国/レヴィアターノ州・州都カリタン/レヴィアターノ家



手提げランプの光が四つ。


静寂に包まれた暗い夜の屋敷の中を探索するのは、イワン・ストリチヤナと御供の三人。



『……なんじゃこれは……まるで廃墟じゃのぉ。オムよ、レヴィアターノの本家はここで間違いないのか?』


「パドラの草からはこの屋敷だと聞いています。それに連合の商人が使っている地図にも……ここにレヴィアターノ家と書かれていますから、間違いない筈…なのですが……。」


―――でもこの状況だと、最低でも数年は人の出入りが無いと思うわよ。


「クリスの言う通りですねぇ。家具はボロボロで部屋中埃塗れですし、食料品も無ければ衣服も無い。ここが知事の邸宅だと言うには……少々無理がありますなぁ。」


『う~む……。』



オム・ボンベイが持参したズアーク連合北部の地図を見ながら、各々首を傾げつつも異様なレヴィアターノの屋敷の状況に思考を巡らせる。



「……罠、でしょうか?」


『どういう事じゃ、オム。儂等が偵察に来ることを知って、屋敷の周りに刺客でも配しておると?』


―――屋敷がこんなになるまで熱烈に待たれてもね……。


「クリス、オム君はそういう意味で言っているのではないよ。この場合、我々はズアークの辺境に引きつけられたという事を彼は言ってるんだ。」


―――な~んだ~♪そういう事ね………って、ヤバイじゃない?!


『そうじゃのぉ……お主等をここに置いていったとして、儂の全速でもアズーロへは二日掛かる。何かが起こっていたとしても、既に手遅れじゃろうな。』


「とにかく今はアズーロへ急ぎましょう。あそこには今、アズーロの近隣国から国王等が集まっています。今後の方針や最悪の場合の相談をしに行った方が良いかと……。」


『そうじゃな。早速アズーロへ向かうとしよう……。ひと月掛けて奇襲の準備をしたと言うのに、厄介な相手じゃのぉ、まったく。』



そうしてイワン達一行は急ぎアズーロへと向かう為、夜明け前のズアークから飛び立つのであった。





――――アズーロ共和国/首都ライゼンハイマー/代表官邸・ロミルダ自室




『ぐっすりだねぇ~。御大層な乳袋を弄んでも起きやしない♪』



眠るロミルダの乳房を両手で弄ぶ蜥蜴人族の女は、硬くなった二つの突起に厭らしく長い舌を這わせた。


そうして乳房を堪能したバルハーネは、ロミルダの下腹に手を延ばそうとする。



「バルハーネ様、いつストリチヤナが現れるやも知れません。お急ぎを。」


『わっ、分かっておる!……続きは聖地でゆっくりと楽しむとするかねぇ。……娘を連れて樹海東部のアジトまで退却する。各国の王達にちょっかいを出させていた連中にも退却を命じよ。』


「「はっ!」」



バルハーネの指示に従い、迷彩色のローブを着た蜥蜴人族の男二人は部屋を後にする。



『うっふっふ、これで計画の達成は目前。……世界を我等の手に取り戻す。この娘を使ってな♪』



眠るロミルダを軽々肩に担いだバルハーネは、市街地に鳴り響く轟音と閃光を窓から一瞥し、見下す様な笑みを一瞬見せると、直ぐに表情を消して部屋を後にした。



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