メガネっ子登場!遂に新たな属性が~メガネ男子?
「本日から一週間、学園内及び王都での案内を学園長から仰せつかりました、アイラ・ボンベイと申します。宜しくお願いいたします。」
子供としては少々甘々な寝起きをヘラと過ごし、朝食を取りに食堂へ向かう途中、突然現れた美少女に挨拶をされた。
その美しいプラチナブロンドの髪は長く、見た目は十代中半といった所か。
アンダーリム眼鏡の奥、その澄んだ赤い瞳は僅かに憂いを湛えている。
肌は浅黒く健康的なスレンダー体形であり、短めのキュロットから除く足は膝下が長く美しい。
胸は毎日毎日、山神様を堪能している俺から見ても、普通に小さいとは言えないサイズである。
寧ろ『丁度良い』のではないでしょうか。
「ああ、はじめまして、ラッセルと言います。村ではラスティと呼ばれてましたが、どちらで呼んでいただいてもいいですよ。」
―――泥棒猫め。
「え?」
「え?」
どうやら嫉妬の女神は何故かお怒りの様だ。
取り合えず朝食をとアイラに言うと、御一緒にという流れで好きな料理をバイキングから取ってテーブルに着く。
警戒心剥き出しの猫が俺の横に座り腕を絡ませてアイラを睨みつけている。
―――シャァァァッ!!
「ヘラ、ステイ!」
取り合えず大人しくなったヘラとアイラの三人で食事を始めた。
いつもの様にイチャイチャと食事をする俺とヘラの姿を、無表情でたまに確認する様に見ながら、アイラは食事を続けてた。
食後の紅茶的なモノを飲み終わるとアイラから今週のスケジュールが説明された。
「では一週間の予定を。まず本日から二日間は学園内の施設を見学して頂きます。
その時に利用方法も説明致しますので、この学生手帳とペンをお渡ししておきます。
一回で覚えられなさそうで、尚且つすぐに利用したい施設があった場合は、そちらにメモでも取って頂ければ良いかと。
学園内は非常に広いので、少し距離がある施設へは馬車で移動して頂きます。
三日目からは三日間、王都の見学と観光に参ります。
とは言いましても、とても広いので三日ではとても回り切れません。
ですので、学園でお勧めするいくつかの候補地や施設にご案内いたします。
もし行きたい場所や施設があるようでしたら、三日目までに仰って頂ければご案内できると思います。
六日目と最終日は、学園の様々な授業を見学して頂き、八日目から授業に参加して頂く流れとなります。
ここまでで何か質問等は御座いますでしょうか?」
「………だいじょうぶです。」
「では時間も余りありませんので早速参りましょう。」
アイラさんの余りにも有能そうな雰囲気に飲まれつつ、ヘラと二人その後を追った。
今日は三か所の大きな施設を案内してもらう。
お陰様で学術学園なんて変な名前だと思っていたのだが、その理由も凡そ理解した。
教室区画と呼ばれる大小様々な大きさの部屋が100程ある建物では、一般的な教師の資格を持つ所謂、先生の授業を受ける教室と、生徒が自由に授業を行って良い教室がある。
人種の坩堝であり、年齢も千差万別。
とっくの昔に別の学校なんかで教育課程を修了した者や、所謂、天才と呼ばれる在校生、果ては数学オタクに極まった歴女や元冒険家等が教壇に立ち、先生達も含めて授業を展開するという、相乗効果とでも言うのだろうか。
学問と言う大きな括りの中で、年齢も立場も関係なく、活発な意見のやり取りで常に最適解に向かって邁進する様は、正に学術なのだなと思わされる。
それでいて普通に先生と学生と言うスタンスでも構わないので、学術学園という事なのだろう。
次に案内されたのは実験区画。
ここでは科学的なアプローチで森羅万象を解明する為、倉庫街の様な感じだ。
綺麗に積まれたレンガ造りの大きな倉庫が並ぶ。
アイラ曰く、学内でも相当逝ってしまっている人達が多い区画で、実験の為なら命すら厭わない方々の聖地だそうだ。
勿論それだけでは無い。
この倉庫街は世界中の企業が協力関係にある。
その為、企業が利益をもたらすと判断すれば、莫大な予算で研究に没頭する事も可能なのだとか。
アイラに馬車の乗り心地について研究はされて無いのかと聞いてみたのだが
「逝ってしまっている人間は、そういう生活に便利な物を直接的に開発したりしない。」
との事。
まあ、一理あると言っても良いのだろうかとも思うので、そんな人ばかりでは無いよと、心の中でフォローしておく。(アイラっち、そんな事ないぞっ♪)
まあ、近いうちに自分で作るか。
目新しいと言えば、倉庫街には屋台が並んでいた。
二十四時間戦う、ぶっ飛んだ研究者達は食事も平気で抜いてしまうらしい。
衰弱して学園内の病院施設に搬送される研究者達の多くが、極度の空腹が原因だったようで、50年前に出来たらしい。
前学園長の肝いりで、少々強引な接客が許されているそうだ。
取り合えず顔色悪そうな奴は捕まえて何か食わせろって事だとか。
俺達もついでだがここの屋台で、メニューは割愛するが遅めの昼食を頂いた。
本日最後の施設は、農場である。
ここでは世界中の食用植物、まあ野菜だね。
それと果物が試験栽培されている。
品種改良も盛んで、国内の多くの企業が出資をしているそうだ。
何故か卒業後の進路で非常に人気が高い農家。
それは、安定した気候のハイネ王国であるのが理由で、まだまだ農業利用出来る土地も王都の外には多く、農場での研究者には、国から土地の購入資金が無利子で貸し与えられる。
それは、このハイネ王国以外の国では気候や土地の性質により、上手く野菜や果物が育たない為なんだとか。
その豊かな実りを世界中に輸出し、逆に鉱物資源や繊維等を輸入するというサイクルが出来上がっているのだ。
これは世界史の本に載っていた英雄の子孫が、多くの国に実際に出向き、それぞれの国が正しく依存する事を説いて回った為である。(転生者の香り)
各々が得意な分野を輸出し、苦手な物は輸入する。
そうやってお互い譲り合える国家運営なんて、相当良い条件が揃わないと難しいのは、元居た世界で実感しているからこそ、世知辛過ぎない世界に転生できた事は嬉しいね。
そんな好条件と、そこそこ安定した収入が魅力なんだろうね。
お土産には大量のサツマイモみたいな物を頂いた。
最近品種改良で生まれた非常に糖度の高い新種の芋だそうだ。
寮の食堂に届けておけば、明日にも美味しいデザートに仕立ててくれるそうで、案内に同行してくれた区画管理の先生に、しっかりとした挨拶と御礼を終え、馬車で寮へと向かった。
この王都が文化の中心地と呼ばれる理由の一端を知った一日でした。
ちなみに、翌日の夕食後、とても美味しいスィートポテトとモンブランが出て来た事をお知らせしておく。(誰に?)
二日目に学園内の病院施設、消防施設、各種スポーツの体育館、室外競技闘技場、プール、保育園と至れり尽くせりであった。
俺は保育園でも良い齢なのだが、生徒や教員の小さなお子さんを預かる託児所的な側面が強い。
まあ、年齢も色々だからそうなるのは当たり前だよね。
アイラの有能ぶりに、昨日の食堂以降、借りてきた猫状態だったヘラさんは、保育園で子供達と大いに戯れていらっしゃった。
外で子供達と一緒に泥団子を作ったり、追いかけっこしたりと嬉しそうにはしゃいでいる姿が眩しくて目を奪われます。
そんなに詳しく見る事も無い施設が多かったので、早めに到着したのが幸いしたのか、存分に子供達と遊んで、帰りの馬車ではご満悦の表情であった。
三日目になり、朝食の後すぐに街へと繰り出した。
大小様々な家が立ち並ぶ住居区画から案内が始まる。
この国では差別が存在しない為、貴族も平民も種族も関係なく、同じ区画内に店舗兼住居を持たない人達の一戸建てやアパートが立ち並んでいる。
アパートと言っても、『何とか荘』的なモノではなく、低層マンションと言った感じであろか。
特に色や外壁の指定は無いようだが、王城に近い建物は古いので石造りがほとんどであり、離れるにしたがって西洋建築っぽい感じになっていく。
水洗トイレが義務付けられているのだが、これは建国前に現われた転生者が公衆浴場と共に提唱したものらしく、全ての国で採用されてはいないとの事。
それでもほとんどの国で採用はされているが、インフラ工事がまだ追いついていないらしい。
ここで謝辞を 転生者の先輩方へ、心より感謝を。
住宅街を抜けると、巨大な公園に音楽ホールや体育館、競技場等の公共施設、役所に公衆浴場や等間隔で設置されているという騎士隊の詰所が公共区画となる。
驚いたのは、乗合馬車が王都内を無料で循環運行している事である。
バス会社の大きなガレージならぬ、馬車の大きなガレージとも言うべきモノが存在し、小さいが放牧出来る場所まであった。
無人販売で餌を買って与えることも出来るらしい。(子供を馬に慣れさせる意味もあるのだろう)
これらは円形の住宅街を囲むように配置されており、その外側にある商業区画からもアクセスが良くなっている。
公共区画を抜けると王都最大の商業区画だ。
ありとあらゆる店が立ち並び、個人経営もあれば、もちろん企業形態を取っている店も多い。
まあ、ある意味法に触れなければそこら辺は自由なのだろう。
要はきちんと正しく税金を納めているかどうかが重要なのだと思う。
中小零細であっても、納められるなら納め、納められないなら理由を明確に役所に報告出来れば問題なく善良な王都市民なのである。
確かに文明レベルは現代の地球の方が進んではいるのだが、こちらの方が圧倒的にエコである。
エコであれば全てが良いとは思わない。
しかし、もう産業革命前には戻れない地球の皆さんは、こっちの世界に来ても同じ様に産業革命を起こしてストレス社会を構築しようとするのだろうか?
そんな事を考えていると、馬車がゆっくりと停車した。
アイラに降りるよう言われて、馬車から降りると大きな倉庫の目の前であった。
「先日ラッセルさんが話しておられた馬車の件を思い出しまして、ここは私の実家が営んでいる会社の関連会社です。馬車の製造、修理、改造等を商う店としては最古参であり老舗でもあります。この国で走っている馬車は八割方この店で作られたものだそうです。」
入口の看板には『馬車、馬具、修理製造卸 エルドウーラ』と書かれている。
確かに倉庫の中からトンテンカンテン聞こえてくる。
アイラに案内されて、中へとお邪魔させて頂く事に。
中は木造の壁に包まれ、筋骨隆々の男達が木槌を振り、車輪に鉋掛けや客車に鑿で細工を掘ったりしている。
そんな中、スキンヘッドにサングラス。
立派な口顎髭を携えた一際大きな筋肉がこちらに向かってくる。
何故にサングラス、めっちゃ怖い。
「よう!お嬢、その子が昨日言ってた坊主かい?俺はこの店の店主でジャックだ」
気さくな雰囲気で話しかけてくれる店主のジャックと握手を交わす。
「お嬢は辞めてください。そうです、こちらがラッセル君で、お隣が奥様で妖精のヘラさんです。」
もうツッコまない。
アイラは非常に真面目な人なのだ。
ヘラの言葉も俺の言葉も全部同じ重さなのです。
そんな方を俺とヘラの漫才に付き合わせてはいけません。
ここはそのまま言葉を放置するのです。
「ほぉ、若けぇのに別嬪な嫁さんもらったじゃねぇか坊主!こりゃ中々のやり手じゃねぇかぁ、こいつめぇ」
「………はぁ、まあ、婚姻自体はもう少し先ですね。ぼくはまだ四歳なので」
横でクネクネしながら念話で良妻アピールしているヘラさんは置いて、ジャックとの会話を続ける。
「それで坊主、お前さんは馬車の改造が目的だそうだが、どうしたいと思ってる?」
「はい、乗り心地をもう少し良くしたいなと思いまして」
その言葉を聞いたジャックはサングラスを外し、目を見開いた。
「お嬢、ちょっとばかし坊主と二人で話させてくれねぇか?」
「構いませんが、ヘラさん、宜しいですか?」
―――悪意は感じませんのでラスティ様が良いのであれば私は構いません。
そうして案内されたのは事務所兼応接間みたいな部屋。
何の話がしたいのかは分からないが、椅子を進められ、お茶を出してくれる。
向かいの席に座り、細い葉巻に火を付けるとゆっくりとした言葉で尋ねられた。
「教えてほしいんだが、坊主、おめぇは転生者か?」
ジャックのサングラスは溶接用の物です。
お洒落アイテムでもメガネ属性でもありません。




