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SS バイト探偵スレイカちゃんとデ・マリア君


御読み頂き有難う御座います。

来週から始まる二章に繋がるお話になります。

短いですが、楽しんで頂ければ幸いです。




――――アズーロ共和国/首都ライゼンハイマー/都立体育館




「ねぇ、何で私達がこんな所でクラブハウスサンドなんか売らなきゃならないのよ。」


「そ、そんな事言われても……ラッセル君が面白い事があるかもって言うから……スレイカが僕を誘ったんじゃないか………。」


「私のせいにしないでよ!デマリアだって食堂では乗り気だったじゃない!」


「怒らないで!?ぼ、ぼ、僕はそんなに乗り気じゃ、な、無かったさ……。でも、スレイカが、どっどうしてもって……。」



ハイネ王国立学術学園の学生であるスレイカ・モルガンとルカ・デ゠マリアは、同じ学部に所属するラッセル・ウィリアムズの紹介で、長期休暇中のアルバイトに来ていた。


そもそもスレイカの実家は貴族であり、アルバイトなどする必要は全く無い。


しかし、同じ学部の奇人が「面白い事があるかも知れない。」などと言い出した事で、すっかりその気になって遥々アズーロ共和国までやって来たのだ。



「もうブツブツ言わないでよ。行きも帰りも竜の背中であっと言う間じゃない。そんなに嫌ならデマリア一人で帰ったっていいんだから!」



デ・マリアからすれば、貴族の御嬢の面倒を見ながらクラブハウスサンドの屋台何て嬉しい事など一つもない。

ただ単にスレイカの近くでバイトの話を聞いてしまっただけであり、完全に巻き込まれ事故なのである。



「………そんな~。」


「どうするのっ?!帰るのっ?!残るのっ?!」



しかし相手は高位貴族の御令嬢。


一緒に行って放って帰ったなど、とてもではないが誰にも言えないし知られる訳にもいかない。



「……分かったよ。スレイカの気が済むまで好きにしてくれて良いよ。」


「その言葉、忘れない様にっ♪」



デ・マリアの返事に納得いったのか、満面の笑みを返すスレイカ。


小さく溜息を吐いたデ・マリアは少し口角を上げ、途中で止まっていたコールスロー用のキャベツ切りを再開した。






「ど、どうだった?何か面白い物はあったかい?」



先に昼休憩に出ていたスレイカが戻ると、デ・マリアが暇そうに会場の様子を聞いた。



「満員御礼ってやつね。私も王都の試合を見に行く事もあるけど、あっちと変わらないぐらい熱気ムンムンって感じだったわ。」


「……へ~。か、変わった事は、無かったのかい?」


「そうねぇ……あ、そう言えば民族衣装かしら?フード付きのマントを着た人達が目立ってたわね~。探し物でもしてるのかって感じで、五、六人が観客席をうろついていたわ。」


「五、六人って……関係性あるのかな?。」


「だって、原色を使った派手なマントだったんですもの、視界に見切れるだけでも気付くわよ。それに、すれ違うと皆同じ匂いがしてね……何の匂いかは分かんないんだけど、甘い感じの。」


「原色のマントに甘い香り………それって……う~ん。」


「何か知ってるの?」



顎に手を当て、記憶を辿る様に小さく唸るデ・マリア。


スレイカは調理台にあるスライスされたトマトをつまみ食いしながら、期待の色を微塵も見せずにデ・マリアの言葉を待つ。



「え、えっと~たぶん合ってると思うんだけど~。」


「前置きはいいから早く言いなさいよ。」


「うう、それってズアーク連合国の……カリタン族が使う狩りの衣装じゃないかな?」


「カリタン族って……部族かしら?」


「うん。ズアーク連合国成立以前から大陸北西で暮らしていた原住民だね。」


「良く知ってたわね~。デマリアってそう言うの詳しかったんだ。」


「い、いや~、カリタン族は有名だからね。」


「そうなの?」


「う、うん。部族は菜食主義で昆虫何かを主に食べる蜥蜴人なんだけど、体温維持が不得意な種族でね……毛皮を取るのに大型の獣を狩るんだ。」


「ほうほう……それで?」


「そ、その狩りは弓で行われるんだけど、矢に塗られる毒が特殊なんだ。」


「特殊……って大体そういった部族が使う毒って特殊なんじゃ無いの?」


「そ、そうだね。でもカリタン族の使う毒は特別でね、カリタン族以外が使用する事は世界的に禁止されてるんだ。」


「そんなに危険な物なの?」


「人が摂取すると瞬時に睡眠効果が表れて……眠って数分後には確実に死ぬんだ。生きたまま毒の症状を訴えた者も居ないから……解毒剤も作れないし、作られていない。」


「解毒剤が無いなんて……ちょっと怖いわね。」


「通称『カリタンのリリン・デーモン』。転生者の言葉で夢に現れる……その……。」


「……何よ。最後までちゃんと説明しなさいよ。」


「て、転生者の言葉で、夢に出て来て性行為を強要する、想像上の種族の名前らしい、よ。」



デ・マリアの言葉を待たず、椅子にしていたゴミ箱から立ち上がったスレイカは、クラブハウスサンドを沢山乗せた番重のベルトを首にかけ、さっさと屋台を後にしようとする。



「ど、どこにいくの?!」


「見れば分かるでしょ。売り子しながらそいつらの企みを暴いてやるのよ♪」


「危険だよ……何かあったら如何する………。」


「大丈夫よ。遠くから聞き耳立てるだけだから。」


「無茶しないでよ……。」


「まっかせなさ~い!んじゃ行って来る♪」



普段隠している猫耳を立ててピクピクと動かして見せたスレイカは、口角を上げた悪い顔をデ・マリアに見せるとあっと言う間に屋台を後にした。



「ほんとに大丈夫なんだろうか………。」







「クラブハウスサンドいかがっすか~。ハイネ名物クラブハウスサンドっすよ~。あ、お嬢さんお一ついかがです?」


「あ、じゃあひと………。」


「姫、官邸に食事の準備が御座いますのでお控えを。」


「………すみません、結構です。」


「あははっ、気が向いたらまたよろしくっす~♪」


「お姉ちゃん!クラブハウスサンドこっちに頼むよ!」


「は~い!ただいま~!」



スレイカが売り子を始めて十分程。


昼時だからか物凄い勢い売れ行きで、番重の品は幾分心もとなくなって来ていたが、スレイカは先程嗅いだ甘い匂いを頼りにフードの人を探し続けていた。



「二つで銀貨一枚になります♪(姫様の御付きは人族なのにあの甘い匂いがしたわね……。蜥蜴人じゃ無かったの?デマリアの言う事も当てにならないわね。)」


「アズーロ銀貨で良いかな?」


「勿論です♪(でも、人族なのに蜥蜴人と同じ匂いって事は………。)まいどあり~♪」



残り一つになった番重を見下ろしたまま、客席の出入り口へと向かうスレイカ。



「これってラッセルが言ってた面白い事なのかな?」



謎解きをしている様な感覚に口角が緩むスレイカ。



「あの姫様が何処の姫様か確認したらハイネに戻らないとね♪これは中々に面白い報告が出来そうだわ♪」



そう呟いてモフモフの尻尾を振り乍ら、スレイカは観客席を後にするのであった。



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