帰還の王都~この世界に生まれた意味
これにて一章完結となります。
御付き合い頂いた皆様に感謝を。
――――ハイネ王都/学術学園/ウィリアムズ家
「――――と、いう事です。……何を笑ってるんです?!」
「あははっ、じゃあ図書館での襲撃以降もアイラを狙うはずだったのに、余りにも早く事件の真相に辿り着かれちゃってネグローニ侯爵も嘸かし慌てただろうと思ったら、ね♪」
「笑い事じゃありませんよ、ラッセル君。」
―――王家や貴族が秘密にしてきた事です、探偵役を始末すれば事件を闇に葬れるとネグローニ侯爵も考えたのでしょう。それに探偵役の命が狙われると分かれば、次の探偵役は見つからないでしょうから。
王都に帰還して二日。
アイラが解決した事件の話をネタに、皆でティータイムといった感じの昼下がり。
『それより報酬のお家はいつ完成するです?』
「そうですねぇ……取り壊してから立て直すので、二年程はかかるでしょうか?」
『時間かかるですね。まあ二年後にはハイネ風のお洒落な屋敷に引っ越せるですから、楽しみに待つですよ♪』
―――ですが口止め料にしては些か……。
「まあ無理やりとはいえアイラが関わった以上、今後は王家とも懇意にしないといけないだろうから……貰えるうちに貰えるもん貰っといていんじゃない?」
「あぅ、調子に乗り過ぎたでしょうか?」
「いやいや、アイラは間違って無いよ。御蔭で父さんと母さんを王都に呼べそうだしね、ありがとうアイラ♪」
「そう言って頂けると嬉しいです♪」
そんな優雅で楽しい一家団欒に水を差す輩というのは何処にでもいる訳で……。
「「誰かきた。」」
「あら?お客さんでしょうか?ちょっと行ってきますね。」
玄関に向かうアイラのお尻を見送り、俺はお茶のお替わりを取りにキッチンへと向かった。
▽
「頼むラッセル!あたしと一緒に王宮に来てくれ!頼む!」
キッチンから戻ると、見事な土下座を決めたハンター・パル・ロイとエンカウントしてしまった……。
「……いきなりですね。何があったんです?」
「ここでは……詳しく言えない。とにかくラッセルとヘラに同行して貰いたいんだ。」
―――パル、ちゃんとラスティ様に説明なさい。
「い、いや~、ここではちょっと言えないのよね。馬車の中で説明はするから、ヘラも頼むよ~。」
余程の理由があるのかハンターは喚くばかりであり、その後ろにいるマルコは目を瞑ってだんまりである。
さっき王家とも付き合わなければとアイラに言った手前、王宮に上がる事自体は構わないのだけど……ハンターの必死さが何か怖い。
―――どうされます?
「どうもこうも……。」
――――ハイネ王城/謁見の間
「先日は其方の妻に世話になった。留守の間に厄介事を押し付ける様な形になった事を先ずは詫びよう、すまぬな、ラッセル・ウィリアムズ。」
王宮に行くと言うまで帰らないと言い出しそうだったハンター。
その姿を見かねて仕方なくやって来た王宮の謁見の間で、最初に王様が俺に発したのは謝罪の言葉だった。
「いえ、国の大事となれば民が差し出すのは知恵と労力で御座います。その点で妻が国の役に立てたのであれば、本人はもとより、私も幸に御座います。」
王様は俺の返事に機嫌を良くしたのか、顎髭を扱きながら満足そうに何度か頷いた。
以外に良い人そうだけど、何の用で呼ばれたのやら……。
ハンターは片膝を付いて下を向いたまま表情を見せないし……。
……何か嫌な予感がする。
「さて、王都帰還も間もなく王宮まで出向いて貰ったのは他でもない。其方と商談がしたかったからだ。」
「商談……で御座いますか?」
「うむ。知っての通り今のハイネには其方を含め四人の妖精使いがおる。しかしながら、人手が足りていないのは……其方にロールシュでの任務を依頼するほどであるから分かってもらえるだろう。」
「そうですね……これ以上は手に負えない程度には不足しているかと……。」
「そこでなんだが、大陸から優秀な妖精使いや傭兵を募り、各国へと派遣するギルドを設立しようと思っておる。」
「それで……。」
「そこで其方には、そのギルドの代表として手腕を揮って欲しいと思っておるのだが……頼まれてくれぬか?」
おぉ、思ってた以上に厄介な事を………。
「お、御聞きしたい事が御座います国王様。」
「何でも尋ねるがよい。」
「その様な重責、何故に私なのでしょうか?」
「それは其方がまだ幼い子供であるからだ。其方の活躍は学園長やルドラだけではなく、多くの者達から聞いて居るが、儂は国王として国民を守る義務がある。先のロールシュでの任務は、同盟国の危機を未然に防ぐ為に重要な事ではあったが、それを優先しては子供に手厚い保護を与えるというハイネの国是から著しく乖離してしまう。それは儂にとって、延いてはハイネにとって受け入れがたいものだ。」
「ですが、それで私が代表などと……。」
反論の言葉が出ない……。
王様……アイラに言い包められて相当準備してきたな……。
「ラッセル・ウィリアムズ。今は力を揮うではなく、蓄える時と理解せよ。」
「それは?」
「其方は何等かの目的を達する為、妖精使いになったと聞き及んでおる。ならば、今は力を蓄えよ。闇雲に動いた所で達せる様な事ではあるまい。それよりも、いざという時に揮えるだけの力を其方は持つべきだ。」
王様はそう言うと玉座から立ち上がり、歩き出すと俺の前に来て頭を撫でてくれた。
「金、力、人心、情報……それら全てを手に入れなさい。其方はまだ若い。焦らずとも、その類稀なる知識と行動力を持つ其方なら、何れ最善の結果を得る事が出来るだろう。だから今は自分を、伴侶を、家族を守れ。良いな。」
確かに人集めからになるなら、情報や金を使ってでも強い兵隊を集める事が必須だし、その人達の信頼を得る事も必要だから、その中心にいる事にはメリットが多い。
里奈ちゃんの情報を集めるにも、各国に派遣される妖精使い達から得る事があるなら、情報の精査をする立場に据えて貰えるのは願ったり叶ったりか……。
なるほど、そのついでに……否、その地位や権力を駆使して無双状態に至れという事なんだ……。
「分かりました。国王様の御配慮、謹んで御受けしたいと思います。」
「そうかそうか♪ならば早速だが……そこに居る乳だけ立派な妖精使いを其方の部下として働かせてやって欲しい。借金……いや、賃金は儂が適正額を支払うから、こき使ってやりなさい。」
振り返るとハンターは、王様への拝礼姿勢から両手両膝を付いた絶望姿勢へと移行していた。
「ハンターさん……何やらかしたんですか?」
「ちょ、ちょっと要り様で……王家に借金を……。」
「王家名義で周辺国の銀行から引き出した一万枚の金貨がちょっととは……ロブ・ロイ様も嘆いて居られたわ。」
「一万枚って……それは御愁傷さまです。」
「……面目ない。」
皆が居る前で言えなかったのはそれが原因かよ。
そうして話も終わったといった様子の王様は、振り返る事も無く謁見の間から出て行った。
――――ハイネ王城/大図書館・司書室
「手伝って貰って悪いわね、ラッセル君。ヘラにまで……ごめんなさい。」
―――良いのです。引継ぎもあるのですからカミーユを手伝うのは当然ですよ。
「そう言って貰えると助かるわ。」
王様との商談?を終え、回収任務全般を仕切っていた妖精使い、カミーユ・シャンベルタン女史との引継ぎ兼、引っ越しの手伝いをしている。
「何か無理やり現場復帰させるみたいで申し訳ないです………。」
「いいえ、今回の事は私から進言したものでもあるの。だから気を使う必要なんてないわよ。」
「そうなんですか?」
「私ももうすぐ五十。王宮で三十年、パルやロブ様の土産話を聞かされてきたのですもの、若い人に仕事を引き継いで、旅行がてら他国で羽も伸ばしたいわ♪」
―――男あさりかい?カミーユ。
「ゼニス……それも良いわね♪」
カミーユさんの相棒である土の妖精ゼニスのツッコミも酷いが、満更でもない五十路の妖精使いにも難ありな気がして来た……。
「何処かに良い男いないかしら~。」
―――ね~。(ゼ)
羽延ばすってそういう意味なんですね……。
「ところで回収した妖精核はどうしてたんですか?ここには見当たりませんが。」
「あぁ、妖精核は月の終わりに妖精郷からの使者が回収に来るわ。そうそう、この腕輪を渡しておかないと。」
カミーユは腕輪を外すと、俺に差し出した。
「それは使者の腕輪。それを付けている者の前にだけ、妖精郷の使者は転移できるの。だから無くさない様に気を付けて。」
「……転移、ですか。」
「役目を引き継ぐ事はそれとなく前回の回収時に伝えてあるから、初めは驚くかもしれないけど、使者さんには優しくしてあげてね。」
「……分かりました。そう出来る様にしておきます。」
「お願いね♪」
その日からというもの、カミーユからの引継ぎやギルドが入る予定の公共区画の物件の下見、更には両親を王都に移住させる為の手続きやら何やらで目が廻る様な忙しい日々が過ぎた。
そうして季節は秋となり、俺の誕生月である十月を迎える。
――――ハイネ王都/公共区画/妖精探偵社・王都本店
『妖精探偵社って……ダッせぇ名前なのです。』
「仕方ないだろ、王様が表向きはこの名前で営業しろって言うんだから。」
―――ギルドと呼ぶには……まだ家族しかいませんからね♪
「ここに世界中から有能な人材が集まるんですね……ラッセル君のお役に立てるよう頑張らないと♪」
「「それにしても……。」」
『ダサいですね……。』
「ラッセルおにいちゃがダサいです?」
「……わかったから。」
『バフッ!』
こうして漸くというか何というか……里奈ちゃん捜索へ大きな第一歩?を踏み出したわけだけど……。
あれやこれやと抱え込んだ仕事が多すぎて、正直ここの運営にまで手が廻るかどうか……。
それでも俺はやるしかないんだろうね。
前世で果たせなかった責任を、この世界で果たすべく生を与えられたと信じるしかないんだから。
第一章 ラッセルと愉快な仲間達 完
駄文御付き合い頂き、誠にありがとうございました。
二章は準備中となりますので、再会の暁には御付き合い頂けますと幸いです。
SSは不定期更新となりますが、二章開始までに数話挟む予定です。




