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SS 薔薇とカスミソウ②




――――ロールシュ共和国/西方・遊牧民保護区/北部・夢見の大樹




「これが……夢見の大樹か。」


―――ねぇパル、着いたんだからここに来た理由をそろそろ教えてよ。


「まぁまぁまぁ、目的地はもうちょっと先なんだなこれが。」


―――えぇ~、まだ着いてないの?何処で到着なのよ?


「ハイネの古い文献に書かれてた内容だ…と、あった。この蔦を上ったら階段があるはずだ。」


―――今度は木登り?


「いいからいいから、とにかく一緒に来てよ♪」



乗り気じゃないマルコを連れ、ハンター・パル・ロイは、大樹の蔦を上り始めた。

下唇を尖らせるマルコは、不承不承の体でハンターの後に付いて行く。





―――どこまで登るの~。


「いいからついてきなって~。よっこらしょっと~。はぁ、この階段で最後だよ♪」



蔦や階段らしき物はあれど殆どが木登り状態が続く道中。



―――手。


「はいはい、御姫様♪」


―――ふんっ♪



顔を赤らめながら、マルコは左手をハンターに差し出す。

ハンターはマルコの手を強く握ると、一気に階上へと引き上げた。





―――こ、これは?!


「そう……転移門だよ。」


―――な、何でこんなものがこんな木の上に?


「この木は樹齢五万年とも十万年とも言われててね、途中の階段なんかも含めて、この大樹が転移門のある建物ごと持ち上げちゃったんだと思う。」


―――そんな事どうやって調べたの?


「コロナで兵士に聞いた話と、ハイネの古い文献を思い出したからだよ。でも一番の決め手は猫絡みだったからかな♪」


―――猫?


「私の知る限り、猫が寝るのは樹上かなってね♪」


―――なんだ、主観ですか。


「いいじゃーんあったんだし。」


―――はいはい。それで、この転移門は何処に繋がってるの?


「ふっふ~ん。何を隠そう、超山脈の向こうにある古代文明国家だと睨んでるわ!」


―――それも思い込みじゃないでしょうね?


「失敬な。この大樹の位置的なものと転移の必要性、更には各種の()()()()()文献に書かれたものを総合して――――」


―――()わしいね。


「と、ともかく!()()はついに人類の起源に手を伸ばす事が出来るのよ!」


―――私達って……私も行くのっ?!


「当たり前でしょ。」


―――い、いや~、何かこういうのって怖いなっていうか、パルが先に行って見て来てくれないかな~っていうか……。


「なになに~、マルコったら怖気づいちゃったの?」


―――そういう……まぁ、そうね。


「もう、良いから行くわよ。手♪」


―――ホントに大丈夫なんでしょうね?


「往復ぐらいは出来るでしょ♪」


―――わかったわよ。


「んじゃいざっ!」


―――わっ、ちょまって?!



大樹を上る事二時間。


妖精が近付く事によってのみ発動するといわれる、足元に浮き出た円形の転移門に飛び込んだハンター・パル・ロイと妖精マルコ。


二人が飛び込むと同時、転移門は白い光を放つと、光の収束と共に二人を何処かへと連れ去った。





「痛つつっっ……ここはっ、何処だ……。」



全身の痛みに襲われながらハンターが目を覚ますと、質素な作りの部屋の質素なベットの上に居た。



「マルコ……マルコは何処に?!」



ベッドから体を起こし、周りに相棒の姿が無い事に取り乱すハンター。

慌ててベッドから足を下ろそうとした瞬間、ベッドの傍にあった出入り口の扉が開いた。



―――はいはい、私はここですよ。


「マルコ!大丈夫なのか?!」



何やら良い匂いのする木製の食器をマルコから渡されたハンターは、条件反射の様に腹の虫を鳴らせた。



―――とにかく食べて。話はその後よ。


「あは、んじゃ頂きましょうか♪」



外は夕暮れ。


部屋に灯された蝋燭の明かりの前で、ハンターは空腹を満たした。





―――紹介するわ、この村の村長さんで私達を助けてくれたオニールさんよ。


〖御無事で何よりです。村長のオニールと申します。御体が癒えるまでここを自分の家だと思ってお過ごし下さい。〗


「……え?」



学生時代は才女とも言われたハンター。

大陸にある十の言語を使いこなす彼女にとって、初めて聞く言語に戸惑い隠せない。



―――彼の言葉は転生者が話したという()()()()だと思うわ。貴方でも分からないと思うから、念話で通訳してあげる。


「ああ、何言ってるかさっぱりだよ。後の会話は任せた。」



その後マルコの通訳で分かった事は、現在地が大陸から切り離された南の島であるという事と、現状王都に帰る術が無いという事。


ハンターの額から変な汗が流れる。


読みは見事に外れたという事である。



―――どうするのよ、()()()



マルコから鋭い視線を向けられ、ハンターは対応策と言う名の言い訳に頭を巡らす。



「が、崖を下りて船で大陸に戻る……とか?」


―――四方が千メートルの断崖絶壁よ!どうやって下りるのよ!それに船だって下ろせないじゃない!


「あは、あははははははっ♪」



―――笑って誤魔化すなー!


「………すみません。」



その日は夜の深い時間まで王都への帰還方法を村長と話し合った二人であったが、結局は何ら解決策も見いだせず床に入る事となった。



◆◇◆◇◆◇◆




――――断崖絶壁の島/天空の大地/銀河の村



〖こんにちは~♪〗


〖あらハンターちゃん、今日はご機嫌でお買い物かしら?〗


〖えぇ、ハイネにいる友達にお土産でも買って帰ろうかと思って♪〗


〖あら、もう帰っちゃうの?せっかくこっちの言葉も覚えたのに残念ねぇ。〗


〖また遊びに来ますよ~♪それで、ここの名物って何ですか?〗


〖食べ物なら漬物が名物といえるかしら?後は特産品と言っても農業が盛んな島だから……あ、そうそう、妖精花の香水なんて如何かしら?〗


〖妖精花の香水?〗


〖大昔、妖精様がこの島を訪れた際に記念として贈られた香水なんだけどねぇ、この島にしか生息していない花から作った香水なのよ。丁度今時分が見頃だから、マルコちゃんと一緒に見てらっしゃいな♪村を出てすぐに花畑が見えてくるよ。〗


〖ありがとうおばさん♪てか香水もそこに?〗


〖花畑の傍に小屋があるから、そこにいるもんに声掛けたら分けてくれるわ。〗


〖んじゃ行ってくるね♪〗



ハンターとマルコが飛ばされて一週間。

彼女が呑気に語学留学気分で過している理由は、滞在二日目にしてある人物と遭遇したからである。





『マルコ様も災難でしたなぁ。』


―――良いのよ、慣れてるから。



村で民芸品を物色しているマルコ。

その横には一人の老人が付き従っていた。



『この髪飾りなんかはイリナちゃんに似合いますでしょうかな、マルコ様。』


―――に、似合うと思うわよ。あの子は可愛らしいから。


『うひょっひょっひょ♪これでイリナちゃんからの好感度も鰻登りの予感♪』


―――よ、良かったわね。



孫娘の喜ぶ顔を想像し、気色悪い笑い声を上げるイワン・ストリチヤナに苦笑いで答えるマルコ。



『しかし酒の買い付けに来たのは二年ぶりですから、丁度マルコ様に御会い出来たからよかったものの、ハンターの無鉄砲ぶりにも肝が冷えますなぁ。』


―――まあ、そこが可愛い所でもあるんだけど♪


『これはこれは御馳走様で御座います♪』


―――ふんっ♪



イリナの祖父、竜族イワンに出会った事で王都への帰還方法が確保された事により、ハンターとマルコは辺境の旅を楽しんでいたのである。





「おぉ!これは絶景ね♪」


―――綺麗……。



マルコとイワンに合流したハンターは、二人を連れ妖精花の見物にやって来た。



「あの小屋かしら?」


―――煙突から湯気が上がってるから、あれじゃない?



花見もそこそこに、三人は香水作りをしている小屋へと向かい、作業中の御婦人達から数本の香水を分けて貰う。



『花見はもう良いので?』


―――えぇ、とにかく王都に帰りたいわ……一刻も早く。


「そうねぇ、イワンさんが来る時にまた誘ってよ♪今度はイリナちゃんを連れて来れる様に口説いてあげるから♪」


『その約束、忘れるでないぞハンターよ。』



そうして竜化したイワンの背に乗るハンターとマルコは、花畑から王都に向かって飛び立った。







当初の目的も忘れて。



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