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ハイネ王国立学術学園~深き愛ゆえの惨劇


いつも有難う御座います。

王都到着です。

お楽しみ頂ければ幸いです。




――――ハイネ王国/王都ハイネ。



その始まりは、5000年前の英雄物語に端を発す。


ハイネという名前は、英雄が好んで飲んでいた黄金色の酒の名前だったとされるが、今日その酒は現存せず、製法すら残されていない。


集落に過ぎなかったこの地域が王国にまで上り詰めたのは、英雄とドラゴンが冒険の果てに愛情で結ばれ、子を成したことがきっかけであるとされる。


その子は、英雄と母であるドラゴンの娘が冒険に出ている間、亜人種や辺境の人々との交流を進め、この地を各部族との交易の拠点にまで発展させた。


街を中心とし、東西南北へ放射状にそれぞれ計八本の街道を整備した。


英雄とドラゴンが上空から見た街の姿を、星の輝きに見立て『エトワール』と呼んだと言い伝えられている。


街道にはそれぞれ四季が楽しめるように銀杏や紅葉、桜などの木々が街道沿いに植えられている。


英雄の子孫はその後も街を発展させて行き、英雄没後1000年の年、ハイネ村改め、ハイネ王国建国となった。


建国の理由は色々と知られているが、一番の理由は亜人種達への差別撤廃の為だと言われている。


交易拠点であった街の中でいざこざが絶えなかったのが主な要因で、現在、王家に連なる貴族は半数以上が亜人種に占められており、国民は一切の差別的行為、発言をしない事でも有名である。


街は徐々に拡張されては行ったものの、城を中心に円形を描く様に広げられ、その計画的な街づくりは、多くの国で支持され、都市開発の見本とまで言われている。


四季折々の姿を見せるこの国の美しい街並みは、世界中の人々の憧れであり観光客数も世界一。


建築美術、芸術、料理、文化の中心地。


そのどれもが美しく華やかであり、今日『花の都ハイネ』と呼ばれている。



               『焔魔書房刊/ハイネ王国建国史より抜粋』








漸く王都に入れたのは良いが、めちゃくちゃデカイなこの街。

入口で渡された観光パンフレットみたいなものに書いてあった通り、瀟洒な建物が並び多くの人々が行き交っている。

馬車での移動ではあるが、窓から外を見ると、色んな人種が様々に人生を謳歌しているように見える。

そういうのって見てるだけでも穏やかな気持ちになるよね。

ゆっくりと過ぎ去る景色の中だけでも、似顔絵の商売やら洒落た感じの屋台でスィーツらしき物を買うのに並んでる人達。

家族連れで大道芸をみている姿や、芝生の公園に若者が集まって楽しそうに車座でお喋りしてたり。

なんかこの国良いな。



―――ラスティ様、二人の新居はこの街に構えましょう。でも、子供達の部屋も欲しいので、10部屋はあった方が…。ポッ



どうやらの想像妊婦(ヘラ)は通常運転の様だ。

10部屋て、何人産む気やら。(お前、それじゃ部屋数が足りないだろ(オデコつーん)。何てことはしません。)


話は戻るが、俺は学園の寮に入寮する予定なので、絶賛学園へ向けて移動中。

そろそろ日暮れの時間も近いが挨拶だけでもと馭者と護衛に言われたのだ。

まあ、早めに入寮しないと宿代もかさむからねぇ。

食費もロブ・ロイに世話になりっぱなしだし、ちょっと気を使っちゃうんだよね。

まだ子供だからそこら辺は誰も気にしていないみたいだけど。

他愛のない事を考えたり、ヘラと念話でお喋りしつつ時間は過ぎた。




夕暮れ迫る中、高台に建てられた大きな建物の前に到着した。

敷地入口の門を潜った後も結構な距離を馬車で進んで、その敷地の大きさに目を大きく開き肩をすくめた。

馬車から降りて大きく伸びをする。

目的地到着と、今までの少し窮屈な旅程に万感とは言わないにしても感慨を感じながら、護衛の案内で立派な玄関の大扉を潜った。


全ての廊下に敷かれているであろう赤い絨毯の上を、護衛に案内されるまま進み建物の四階まで来た。

案内されたのは三十畳はあるかという大きな待合室。

大きな窓も設置されており、王都を一望出来るそうだ。

残念ながら高所恐怖症であり、ベンチソファの窓から一番離れたに場所に座る。

ヘラには俺の苦手な物は話してあるので、窓を隠す様に俺の隣に腰かけ、横から包み込むように優しく抱きしめてくれていた。

出されたお茶を飲みながら、学園長が来るのを暫く待つ事にする。






「いや~、お待たせしたわね、ロブ・ロイ。」


扉が開いて入って来たのは黒く長いローブに身を包んみ、白髪を綺麗にまとめてアップにした上品そうな年配の女性だ。

ロブ・ロイと握手を交わすと、俺の方へとゆったりとした足取りで近づいて来る。

俺とヘラもソファから立ち上がり学園長と握手を交わした。



「君がロブの手紙にあった少年ね。私はこのハイネ王国立高等学園の学院長を任されている、カトリーヌ・ベイリーズです。」


「初めまして、ラッセルといいます。四歳です。村ではラスティと呼ばれていました。よろしくお願いします。」


「しっかりした子ですね、ロブ。利発で賢い。ヘラが気に入るのも良くわかりますね。」


―――初めまして学園長。

「いや、貴女のことは60年前か―――


―――ラスティ様の妻、ヘラと申します。お腹には、既にラスティ様との小さないの―――

「いやいやいやいやっ!何言ってんのヘラ!そんな事まだしてないでしょ!皆さん冗談ですよ!冗談!フェアリージョーク!」


―――チッ

「今、舌打ちしましたよねー?念話で聞こえるようにしてますよねそれってー?」


―――だってぇ、ラス君って私のおっぱいチョ~すきじゃ~ん。

「なにラス君って!キャラ変わってるし、チャラい感じで暴露するのやめて~!」


―――じゃあ今晩もアレ、いっぱいしてくれる?


「アレってどれっ!てかどれっ!」


―――約束してくんなきゃや~だ~♪


「分かった、どれか分からないし何か分からないけど、アレいっぱいするから!だからこれからは人前ではこういうのやめようね。」


―――分かりましたラスティ様。この様なお話は今後二人っきりの時にグイグイと強気でお話させて頂きます。



「………君も中々に大変ですね。子供が出来たらお祝いぐらいはさせてもらいますよ。」


「………あぁ、ありがとうございます。」


「じゃあ、取り合えず時間も時間だし食堂で夕飯でも食べてきなさい。その後、部屋に案内させますからね。」


こやつ(ヘラ)め、完全に分かってて外堀から埋めに来やがった。

普段俺以外の前ではニコリともしないヘラ(知能犯)が顔をほころばせルンルンで横を歩いている。

四歳児相手に既成事実すら作る事を厭わないその心意気やあっぱれではあるが。

完全にヘラに手綱を取られてる。しかし今は忘れよう。忘れたい。

そうして学園長とロブ・ロイ、案内の男性(歴史担当教師)に白い目で見られながら食堂へと向かった。




丁度夕飯時なのか、食堂は大勢の学生や教師達で賑わっている。

バイキング方式の食事を取りに行き、歴史担当教師(モブ)から学園での注意事項に耳を傾ける。

俺は四歳で入学する事になるのだが、この学園に年齢制限はない。

生徒の学費、生活費に関してはその全てが王国の税金で賄われている為、本来は厳しい試験を受けて初めて入学の運びになるそうだ。

勿論、ここはハイネ王国なので人種差別等の一切は許されない。

その様な行いをした者は容赦なく退学だそうだ。

その年齢の幅にも注目した方が良いとの事。

在校生で最も年長者は800歳を超えるらしい。

見た目で若いと思っても、友人関係やある程度仲良くなるまでは、礼儀をしっかり守るようにと教えてもらった。

亜人種は総じて寿命が長く、短い種族でも200年は生きるそうだ。

有難かったのは、宗教というものがこの世界には無い事。

一神教、多神教、大乗、小乗の一切が無い。

それは妖精たちの御蔭だそうだ。

村にいた時にロブ・ロイにも聞いていたのだが、妖精は寿命というものが無い。

一万年とも二万年とも言われる太古に人の手によって作られた存在である。

世界に大きく三か所の妖精郷(エルフヘルム)があり、そのどれもが妖精との婚姻関係者しか入る事が出来ない事になっているらしい。

子、子孫、親戚もダメ。

妖精は総じて穏やかな性格で、人族亜人種関係なく困っていれば手を差し伸べてくれるらしい。

確かにヘラの力の片鱗を知っている俺としては、助けに来てくれたら信仰しても仕方ないとも思う。

何より綺麗だし。可愛いし。

中には妖精を信仰の対象にした人々達もいたらしいが、妖精達は揃って『友人の様に、隣人の様に接して欲しい』と。

その結果、今の様に有名で尊敬の対象ではあるが、その生活を邪魔しないという暗黙のルールがあるんだとか。

まあ、ヘラを見る限り人と同じ様に生活している。

大昔からそういう風に人々と生活してきたのだから、急に崇め奉られても居心地は良く無いのかもしれないね。

食事の後、歴史担当教師(モブ)がヘラと握手して感激していたが、まあ、出会ったら握手ぐらいはしたいというのは人心なのかもしれない。



一度自宅に戻るというロブロイとは食事の後別れ、食堂での握手会イベント(モブの様子を見て、食堂にいた大勢の人々が列をなしてヘラの前に並びだし、二百人程握手してイベント終了とさせて頂いた。)も盛況のうちに終わり、漸く寮へと案内された。

希望を聞かれ、一階が良いと伝えると珍しがられた。

大体は王都が見渡せる最上階近くを希望する人がほとんどだからとの事。

それも高所恐怖症だと伝えると納得してくれたのだが。

部屋の前に着くと、モブは帰って行った。

明日からは、同じ妖精使いを目指す学生が案内と説明をしてくれるらしい。


しかし、何だこの扉の重厚感。

上質な硬度の高い木を素材にしているのだろう。

彫刻がかなり深く細やかに刻み込まれ、その厚みを物語っている。(じいちゃん家の欄間みたいだ)

金色の豪華なドアノブを持ち扉を引くが、俺の力では開きそうにない。

ヘラに目線を向けると、軽々と扉を開けてくれた。

扉が開く瞬間、空気が抜けるような、吸い込まれるような、俺の小さな体が感じる。

音楽スタジオの防音扉を開けた様な感覚。



―――さあ、私達の愛の巣へ。



瞬間、ヘラに抱き上げられて部屋の中に連れ込まれる。

……ガチャリ



「何でカギ―――」



カギを掛けたヘラの顔を見るが、刹那のうちに唇を奪われる。



「―――ちょっ!―――ヘラ、、、おちつうぅっ―――」



とても柔らかく、甘い舌で口の中を蹂躙される。

前世で結婚はしたものの、軽く唇を重ねる程度しか経験の無い恋愛三級程の俺を、十段免許皆伝(色欲魔人ヘラ)は長時間かけ優しく、時に激しく緩急をつけながら味わい尽くす。

その甘く淫靡な感触に徐々に抵抗力を奪われ、前頭葉辺りから込み上げてくる何かが限界に達した瞬間、俺は気を失った。



 

―――朝。



いつもの様にベットの上でヘラに抱きしめられていた。

どうやら泣いている様だ。

体を起こすと、涙をいっぱいに溜め込んだ綺麗な瞳を開き、謝罪の言葉を告げた。

何のことは無い。

ヘラが夢中で味わっていたら俺が突然、鼻血を盛大に吹いて動かなくなったそうだ。

慌てたヘラは、学園長を念話で呼び出し、応急処置が終わった後、きつくお叱りを受けてしまったのだとか。

今も泣きながら「見捨てないで」とか「お許しを」とか、ベットに腰かける俺の腰に手をまわし、頭を俺の膝に乗せて必死でしがみ付いている。

こんなに取り乱しているヘラを見るのは初めてだ。

俺はそんなヘラの頭を優しく撫で続けている。



「……ぼくがヘラを捨てるなんてある訳ないじゃないか」


―――うぅ、もうしわけ、ありまじぇん


「ぼくも体が幼いから、激しいのは耐えられないんだろうね」

―――うぇーーーーん!!ごめんなざーーーい!!


「じゃあ、約束してくれる?」

―――何を、ですか………。


「チュウは俺が十歳になるまで禁止」

―――そ、それは、そんな!


「じゃあ、添い寝も禁止にするよ~」

―――そ、そんなのあんまりです!無理です死にます壊れます壊します王都も世界も破壊し尽くしてしまします!!キスはしたいです!添い寝は一生やめません!!


「じゃ、じゃあ、キスは週一回であまり激しくないやつね。それだけは約束して。」


―――はい、十歳になられるまで激しいのは我慢します。


「それと昨日みたいに突然襲い掛からない様に」


―――はい、深く反省してります。


「はい、良く出来ました。じゃあ、まだ朝早いからもうちょっとだけ寝よっか。」


―――御一緒しても…。


「…………添い寝は一生やめないんでしょ」



もう一度ベットに横たわる俺の横に飛び込んできたヘラは、珍しく甘えるように胸の辺りに抱き着いて来た。

まあ、我慢させすぎるのも良くないのは今回分かったし、かと言ってそれに溺れてしまったら学園に入学したのも周りに変な誤解を与えかねないし。

ああ、この小さな体がもどかしい。

早く大人になりたいです。



―――いつまでもお待ちしております♪


ハイハイ♪





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