SS 天才と〇〇の行動は紙一重
ほんの少しだけ先のお話です。40話辺りかな?
クリスマス、皆さんはどうお過ごしになるのでしょうか。
――――ハイネ王国立学術学園/実験施設/危険物取扱地区
「こうかしら?………いや、こうかしら?………。」
大きな鏡の前で交渉後の魅惑的なパンティの履き方を研究する少女。
ソフィア・フェイマス・グラリウス、5才である。
「う~ん……わかんない。胸の谷間を見せながら履く方が良いのかしら?……イヤ、でもお尻見せてる方が二回戦も有り得そうよねぇ………。」
因みに谷間は無い。
上も下もツンツルテンである。
「はぁ~、今日はこの辺で終わっとこうかな。よし、仕事しよ。」
何がしたいのか、天才とは何かと紙一重である。
◇
隣国に出掛けたラッセル・ウィリアムズからの依頼で、洗濯機の製造を依頼されているソフィア。
しかし、ラッセルの書いたフリーハンドの設計図では、ソフィアの想像を掻き立てられない様で、引き受けて三日目になる今日も、施設から動力からの設計図の製図に取り組んでいた。
「疎水を作って湧き水を流すのは水車利用に必要だけど……ロバに牽かせると壊れ易いし修理がねぇ………。」
動力部分で壁にぶち当たったソフィアは、煮詰まった頭をリセットする為に紅茶を淹れた。
「洗濯か……確かに今までの手動式は辛いから思い付いたんだろうけど……あいつって天才と言うか……主婦目線よね。」
ソフィアは淹れたての紅茶カップを持ち、建物裏側にある芝生がひかれた実験場のベンチに腰を下ろす。
紅茶を口に含むと、ラッセルからの忠告を思い出した。
【洗浄時の洗濯槽は一回正転したら次は反転一回させる。】
【脱水時の洗濯槽は高速で正転させ、遠心力で水を切る。】
水車でもロバでも、動力的には一方通行である為、複雑な機構を取り入れなければならない。
機構が複雑になればなるほど故障した場合の修理は困難であり、ソフィア自身も端からその様な物を作りたいとは思わない。
とはいえ名案も浮かばず、冷めかけた紅茶を一気に飲み干した。
▽
空になったカップを持ち研究室に戻ると、ラッセルの姉である、リズとフィズが差し入れを持って、研究室の前に立っていた。
「差し入れですか~♪」
「あっ、ソフィア何処行ってたの?」
「一緒にお昼しよ♪」
「ありがとリズちゃん、フィズちゃん♪あ、晴れてるから折角だし外で食べようよ♪」
レジャーシート代わりの高級絨毯とお茶セットを持ち、リズとフィズを連れて芝生実験場に戻ったソフィア。
木編みの大きなバスケットには、新鮮な野菜がふんだんに使われた大きなバケットサンドと、ラッセル考案の手羽元の唐揚げがたっぷりと入っている。
嬉しい事に、大き目のマグカップには冷静ポタージュが入っていた。
三人はアイラお手製の凝ったランチに舌鼓を打つ。
歳も近い三人は仲の良い姉妹の様に、年相応の会話と美味しい料理を楽しんだ。
▽
日も傾き、迎えの馬車が来たリズとフィズは寮へと帰って行った。
ソフィアは馬車が見えなくなるまでリズとフィズを見送ると、食事中に閃いた事を図面におこす為、研究室へ走って戻るなり机に齧り付き製図を始めた。
マグカップのポタージュを飲んでいる時に思い付いた斜めドラム方式洗濯機構想。
もしもそれが他の惑星で実用化されていると聞けば、ソフィアも歯噛みしたかもしれない。
しかし、この世界には存在しない物なので、指摘出来るのはラッセルか、もしかしたら存在するかもしれないラッセルの同郷から転生してきた者ぐらいである。(ラッセルがドラム式を依頼しなかったのは、前世で買った事も使った事も無かったから構造も分からなかったからである。主に金銭的な理由で……。)
だが、この世界で使用するには斜めドラム式が最も適合していた。
叩き洗いなので正転するだけの単純構造になる事。
動力は水車でもロバでも良くなった事。
水の使用量が少なめなので、金属で洗濯槽を作らなくても良い事。
単純な機構で、ある程度の知識があれば、修理も容易になる事である。
それらの優れた部分を最大限生かしつつ、ソフィアなりにあれこれ盛り込んで最善を追求する。
そんな日々が二ヶ月ほど過ぎ去り、御披露目の日を迎えた。
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「そうです、この把手を引けば動力から外れるので、洗剤を入れたり脱水する場合は、必ず把手を引いて、回転が止まってからそれぞれの作業をしてください。」
朝九時から始まった洗濯機の説明会。
この日の為に用意した一千冊の取扱説明書が、十時の時点で品切れである。
「ソフィアさん、この小屋には現状20台設置されていますが、まだ増やす事は可能ですか?」
「予算が出れば♪」
「構いません。寮の前に60台と、各施設の便利が良い所に10台ずつ設置をお願いします。予算に糸目は付けませんが、常識の範囲でお願いしますよ。」
「了解しました学園長♪」
一応の釘をソフィアに刺し、学園長は大勢の商人や役所の職員を連れて、ドラム式洗濯機の売り込みを始めた。
ソフィアがだらしない笑顔を晒しながら頭で算盤を弾いていると、後ろから何者かに頭を撫でられた。
「誰っ!……おっ、帰ったんだ、おかえり~♪」
ソフィアが振り向くと、そこには洗濯機制作を依頼したラッセル・ウィリアムズが立っていた。
「てか頭撫でるならお尻撫でなさいよ。」
「どう考えても可笑しいだろ。褒めるのに尻撫でるのは。」
「あっれ~、はずかちいでちゅかラッセルちゃんは♪」
「お前が恥を知れ!」
「ほ~れほ~れ♪ラッセルの大好物はここにあるぞ~♪」
「縞パン見せんなっ!てか尻を押し付けんなって♪」
「じゃあおっぱい見る~♪」
「変質者かお前はー!」
「はい、私が変なお嬢ちゃんです♪」
「ふふっ、何で知ってんの♪」
「何わけわかんない事言ってんのよ、帰ってきたら直ぐにする事があるでしょ!」
「引っ張んなって!ええっ!」
ソフィアはラッセルを抱きしめた。
強く。
たった二ヶ月で自分の身長を追い越したラッセルに、恋心が芽生えたばかりの少女の様に。
「遅いのよ。たまには妾の相手をしなさい。」
「妾って……みんな見てるから恥ずかしいって……。」
「大丈夫、ヘラ様もアイラさんもこっち見て笑ってるから♪」
「……分かったよ。」
ラッセルが恥ずかしそうにソフィアの体に腕をまわす。
顔が熱くなるのを実感するソフィアは、ラッセルの胸に顔を埋める。
ソフィアは激しい鼓動が治まるまで、ラッセルから離れられなかった。




