常夏のロールシュ共和国~何故こうなるのかの不思議
御読み頂きありがとうございます。
――――ロールシュ共和国/首都グローシュ。
ハイネ王国とほぼ同等の国土を持ち、王国の南西に位置する。
ハイネ王国との関係も深く、遅くとも4000年前には友好関係にあった事が、ロールシュ建国碑の条文で今日も確認出来る。
共和国制を導入しており、国民からの投票で首相を決定するが、その方法が独特な事で有名。
一年を通して温暖な気候であり、西方に獣人保護区、南東にコロナ獣王国、南にヘーゼル大砂漠、北にワイザード連邦国と、ハイネ王国以外は完全な獣人、亜人国家に囲まれており、人口分布の割合は亜人4:獣人5:人族1となっている。
その為か、前述した国の代表者を決める際に行われる、候補者予備選は武術大会となっており、5年に一度行われる巨大コロシアムでの候補者選挙武術大会は、世界的な催しとなっている。
大会後に出場選手の中から国民投票で首相を選ぶ事となるが、国の象徴的な側面が強く、内政面は専らハイネ王国やレーベン共和国の学園出身者で占められており、政治、経済の全てが官僚主導。
主な産業は紡績と牧羊、養鶏、酒造業であり、中でもロールシュ織りの絨毯は大変有名で非常に高価であるが、1000年持つと言われており、庶民の憧れである。
首都を訪れた事の無い他国の人間は、粗野で荒々しい街と思っているだろうが、レンガ建ての街並みはとても趣があり、道路には石畳が敷かれ、そのとても落ち着いた景観は、良い意味で旅人達の想像を裏切る街としても有名。
とはいえ首都グローシュは三割の地域が繁華街であり、風俗店や賭博場、酒場が犇めき合って、喧嘩やいざこざが日常風景となっている。
総じて愉快な国民性を有しており、酒、色、力、そして花をこよなく愛する。
首都に訪れた人々は敬愛を込めてこう呼ぶ『娯楽の殿堂グローシュ』と。
『焔魔書房刊/ハイネ王国建国史より抜粋』
ひと月も費やしてやって来たのは、既に夏真っ盛りのロールシュ共和国の首都グローシュ。
ユスラとカザンを預かる事に決めた次の日、国王から回収任務を言い渡されたのだが……忙しないから日常回も挟みたい所である。
『おお~、人がいっぱいで賑やかですね~♪』
「な、なんでみんな恥ずかしい格好で……。」
―――獣人族や一部の亜人種は総じて暑さに弱いですから、この国では薄着で過ごす者が多いのでしょう。
「でも………男の人……裸………。」
『下を履いてれば良いのですよ♪』
―――ユスラ、この機会に男性の体に慣れておきなさい。
「………は、はぃ。」
ハイネ王都程ではないけど、この街も賑やかで人通りも多い。
ユスラは目のやり場に困っている様だけど、男性が上半身裸で膝下ズボン。
女性はキャミワンピやパレオが多くて、中にはビキニの人もいるが、これもグローシュクオリティなのだろう……ありがたい。
砂漠に隣接する国だからか、五月なのに気温も高くて娯楽も多いから、老後はこういう国が良いのかもしれない。
肉体的には60年ぐらいは先の話だけど、無意識に終の棲家の候補地を探してしまうのは……正に業なのでしょうね………。
「ラッセル様、そろそろ宿に到着しますが。」
「じゃあ馭者さん方と各騎士隊さん達は荷物搬入が終わり次第、今日は宿でゆっくりしてください。」
「了解いたしました。」
『ワンッ!』
旅慣れたジンジャーさんに任せておけば、後は万事滞りなくやってくれるだろうから、俺達は夜の街に繰り出す事にさせて頂く。
ところで、何故にこんなにも俺達の緊張感が無いかというと、既に妖精核の回収任務が終わってるから~♪
現場がグローシュへの街道、残り半日程の距離だったからなんだけど、任務が終わって直ぐハイネに引き返さなかったのは、各種の補給と休息が目当てなのですよ。
回収任務に就く妖精と妖精使いには、各国の騎士団から補給支援が受けられる。
でもその加護が受けられるのは首都や王都といった主要都市か大都市のみなので、経費削減の為に脛を齧りに来たと言う訳だ。
それに今回は馬車10台と騎馬8頭を連れた、総勢70名からなる大所帯。
それも一ケ月の旅路で、皆、疲弊どころか屍みたいになっているのです。
正直これ以上は暴動に発展しかねないので、四日間の休暇をグローシュで取らせて貰う事にした。
まあ他にも目的はあるんだけどね~。
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『さあ、留守番組のお土産を探しに行くですよ~♪』
「あっ、イリナちゃん、待って~。」
―――二人が余り離れない様に見張りなさい。
『ワンワンッ!』
宿に着いて早々、ジンジャーさん含む馭者さん達と、男性騎士さん達に荷運びと補給を任せて、女性騎士さん達を連れて街に繰り出す。
休暇や遊びは取り合えず女性を優先して置けば、大体の事は丸く収まるの法則は大切なので覚えておいてね!(分かるよね♪……分かるよね?!……分かれよ!!!)
それはともかく、イリナの言う留守番組とはアイラ、リズ、フィズ、カザンの事だ。
今回は現場が遠かったので、仕事や諸々の兼ね合いから留守番をお願いした。
ロブ・ロイも帰って来るし、スポーツ関係の仕事も放って置けないし、カザンは幼児なのでと、まあそんなところである。
忠犬?グレイは既に超大型犬サイズに成長して、馬車犬としての仕事をこなしてる。
最近ようやくヘラの念話が届く様になって、命令は理解してくれる様になったんだけど、高度な意志の疎通には至らないといった感じ。
それだけでも十分だとは思うけど、折角の異世界だし、動物との会話に近いやり取りが出来たら楽しそうだから、グレイの今後に期待する事としよう。
―――ユスラ、この店では無いのですか?
『え、あっそうです!ありがとうございますヘラ様。』
―――良いのですよ。それとグレイ、イリナを連れてきなさい。手段は任せます。
『ワンッ!!』
ヘラが指差した建物に目をやると、看板には三本の刀の絵がって………家紋かな?
『い、いたたたたっ!お尻をっ、噛まないでっ、ほしいのですっ!』
『ガウガウッ!』
緊張した面持ちのユスラを横目に、木製のドアを手前に引く。
「ぅん、妖精様が子供連れで……今日は槍でも降るのかねぇ。」
「おゃ、お客さんかい?」
店内?に居たのは、黒髪黒目の優男と、黄色い髪と黄色い目をした狐人族のグラマラスな女性。
二人はヘラに視線を向け、少し疑う様に俺達に声を掛けて来た。
「すみません、ここは刀工ムネチカさんとヤサカさんのお店だと聞いて来たのですが。」
「おぉ、子供がうちに何の用だ?」
「実はここにいるユスラに、刀を打ってやって欲しいんですが。」
「……お、おねがいします。」
「ほぉ、この嬢ちゃんにか?まあ、その様子じゃ俺達に頼みたくて来たんだろうから、腕に自信はあるんだろう……が、丁度いい、一つ頼みがある。そいつを聞いてくれるなら打ってやろう。どうだ?」
何かよくある展開っぽくて嫌だけど……キラキラしたユスラの目を見ると………。
「分かりました。お手伝いさせて貰います。」
「そうか、話が早くて助かるぜ。」
「良いのかいムネチカ?」
「なに、妖精様もいらっしゃるんだ、問題無いだろう。」
「それで、その頼みとは何でしょうか?」
「あぁ、この街から北に半日程行くと小さな泉があるんだが、その泉の中からこいつと同じモンを幾らか拾って来てくれ。」
そういってムネチカから渡された、黒く鈍く光を反射する雪〇大福サイズの石ころ。
重さから察するに………ふむ。
「これは隕鉄ですか?」
「良く知ってるな坊主。そいつを、そうだな……100kgほど拾ってきて欲しいんだが……できるか?」
「ですが、そんなに高価な刀は買えないので、すみませんがそこそこのでお願いしたいのですが。」
「あっはっはっ!打つのに手間が掛かるのを知ってるのは感心だが、残念ながら嬢ちゃんの刀じゃねえよ。」
「次の代表選挙で優勝した人に贈る賞品にって、ムネチカに首相さんが注文に来たのよ。」
「その条件が二つあってな、一つは誰もが認める珍品である事。もう一つは儀式映えする派手な物って言われてよ、坊主たちが来る前に隕鉄の刀するかって決めた所だったんだ。」
「なるほど。」
「だがなぁ、最近その泉の周りに3mを超える熊が、群れで10匹ほど住み着いてるみたいでなぁ。」
「兵士や騎士に護衛を頼んでも断られるだろうから、どうするかって悩んでた訳。」
………え?
「いや~、助かった~♪これぞ運命ってやつだな坊主~♪」
「わたしっ、がんばります!」
―――うふふっ♪上手く乗せられてしまいましたわね♪
乗せられたというか、嵌められたというか………。
ユスラと万歳しながら喜ぶムネチカとヤサカ。
まあ二人から悪意は感じないから、純粋にこの状況を喜んでいるんだろうけど……とはいえ納得し難い様な……でもユスラの為な訳で………。
――― 一諾千金。あまり好きな言葉ではありませんが、今回の事はユスラの願いも含まれます。一度に多くを得る事が出来るのであれば、悩まれる必要は無いではありませんか♪
ユスラからの信用と、ムネチカ、ヤサカとの縁……か。
「分かりました。近日中に隕鉄100kgお持ちします。」
「よろしく頼むぜ坊主。あぁ、ちょっと待ってな。」
そう言ってムネチカは店の奥に入ると、二本の刀を持って来た。
「どっちも影だが、業物と遜色無い切れ味は保障する。嬢ちゃん、熊退治に持ってきな♪」
「あ、ありがとうございます!」
「な~に、手前勝手に厄介事を押し付けちまった所もある。前金と思って取っといてくれ。」
「当日はあたしも同行する。同族の女の子に押し付けるだけってのも情けないしね。」
「という訳だから坊主、妖精様、宜しくお願いしますぜ。」
その後しばらく、詳しい道順と状況をムネチカとヤサカに確認し、明朝に出発しようと言ったら二人は驚いていたけど、ヘラが雷の妖精だと伝えたら納得してくれたので、迎えの時間を告げて店を後にした。
宿への帰り道、ユスラは二本の刀に頬擦りしながらホクホク顔を見せてくれたけど、冷静に考えると幼女が刀に愛情を示しているというのは中々のもので………。
取り合えず宿に帰って準備しよう。
ヘラはムネチカ達に余裕だと言ってたから問題は無いんだろうけど、一応は俺も準備しとかないと。
『疲れたです。』
「そりゃ今のグレイから逃げ切るのは難しいよ。」
『ちょっと前まではチビだったのに……卑怯なのです。』
『バフッ!』
―――うふふっ♪
「「「師団長~、副隊長~、お疲れ様で~す♪♪」」」
自由行動していた女性騎士さん達の帰りと重なった様だ。
そのまま合流して、街の様子や土産候補の話なんかを聞きながら宿へと戻った。
◇
翌朝。
――――ロールシュ共和国/首都グローシュ北門付近
「ヘラ様、何でこんなに………。」
―――あら、何か不都合でもあるかしら?
『任せるのです!熊ごときドラゴンの相手にはならないのですよ♪』
「イリナちゃん、無理しないでね。」
「道中の護衛はお任せください。」
「ハイネ王国騎士団30名、並びにグローシュ王国兵50名、全て揃いました!師団長、いつでも出発の号令を!」
昨晩、ホテルの夕食時に、話のネタのつもりで熊狩りの話をしたら、近衛騎士団と王国騎士団で口論になってしまった。
正確にはどっちの騎士団が熊狩りに役立つかって話。
最初はお互い穏やかに話し合いをしてたんだけど、何故か途中から腕相撲大会になって……。
諸々あって王国騎士団が勝利したんだけど、夜のうちにグローシュの兵隊さん達にも話が行っちゃったみたいで。
結局、首都近郊の害獣駆除を名目にこちらの兵士さんもついて来る事になってしまったと。
まあ、雷の妖精ヘラに乗っかったんだろうね。
「ラッセル様、お声がけを。」
『ワンワンッ!』
「ハイネ、ロールシュ合同害獣討伐部隊出発しま~す。」
「「「「おおおおおおぉっ!」」」」
何故か?尋常じゃないぐらい士気の高い騎士や兵士達の、怒号の様な雄叫びを聞きながら、件の泉へと馬車は走り出す。
何か最近、俺を師団長って普通に呼んでるけど、この人達の頭は本当に大丈夫なのだろうか?
まあ日頃の憂さ晴らしに騒ぎたいだけだろうから、そう呼ぶ事で雰囲気を楽しんでるんなら別に良いけど。
本当の師団長さんとか隊長さんに失礼な気がするし申し訳ない。
あぁ、早く王都に帰りたい。
―――帰ったらアイラと三人でイチャイチャしたいですわね♪
ソダネ~♪
ヘラの膝の上に座り、馬車の窓から景色を眺める。
何だろう、この寂しい様な切ない様な気持ちは………これが世にいうホームシックなのだろうか。
ヘラの豊かで柔らかな胸に頭を預け、スベスベでしなやかな両手を自分の胸元でくっつけて抱きしめてもらう。
背中に大きな穴が開いた様な、そこを風が通り過ぎる度に不安に駆られるような。
―――大丈夫です。寂しくなくなるまでギュってしていますから♪
子供の体に引っ張られてるのかもしれないね。
ヘラの念話で泣きそうになるのを、瞼を閉じて我慢した。
最低でもあと一ケ月はハイネに帰れない。
そんな複雑な俺の思いとは裏腹に、揺れる馬車の同乗者達は、朝が早かったせいか既におやすみになられている。
それを見て、少し馬鹿馬鹿しくなったので気持ちを切り替えよう。
そうして俺は、真剣にヘラのおっぱいを堪能しながら、目的の泉へと向うのであった。
―――あんっ♪もっと~♪




