ファンタジスタ降臨~裏途中下車の旅人・アイラ渓谷編
いつもお読み頂き、有難うございます。
――――ハイネ王国立学術学園/サッカーグラウンド
カウンター。
センターライン付近でボールを受けた幼い少女が、相手陣の右サイド深い位置へと絶妙のスルーパスを出す。
「よっしゃー! 嬢ちゃんっ、シュートだー!」
相手陣右サイド、コーナに走り込んだ犬人族の少年が、ダイレクトでセンタリングを上げる。
「はいっ!」
猛スピードでペナルティエリア前まで走り込んでいた幼女が、少年からの鋭い折り返しに、直接右足を合わせる。
「『いっけぇ~!!』」
幼女が放ったボレーシュートは、エリア内に居たディフェンダー二人の間を抜け、ゴール左隅に突き刺さった。
反応速度を超えていたのか、それともディフェンダー二人が死角を作ったのか。
キーパーは只々ボールの軌道を見送るしかなく、今もその場で立ち尽くしている。
幼女のプレーを見て、呆気に取られたのか静まり返るグラウンドの選手達。
「や、やったー!」
「「「「うおおおぉぉーーー!!!」」」」
幼女のぎこちないガッツポーズに燃えたのか萌えたのか。
同じチームの選手だけでは無く、相手チームも雄叫びを上げて幼女の周りに集まって行く。
そして選手達は、はにかむ幼女の美しいゴールを暫し称え続けた。
▽
『はっととりっく何てすごいのです!元々サッカーやってたのです?』
「蹴鞠で遊んだことがあっただけです。」
「「ふぁんたじすた。」」
「おねぇちゃすごい~♪」
「本当に驚きました、私も興奮して叫んでましたね♪」
―――うふふっ♪ 素晴らしい才能ですわ。ユスラにとって最も楽しいモノをラスティ様にねだるのですよ♪ 遠慮は要りません♪
「は、はい♪よろしくお願いします。」
「はいはい♪」
芝が根を張る秋口まで待てないと、新しく整備されたサッカーグラウンドで行われた練習試合。
芝が派手に剥がれる事も無かったので良かったが、選手達は試合の後も楽しそうに、嬉しそうに俺の元へ礼を言いに来てくれた。
それは試合環境が良かったからという事だけでは無く、突如として練習試合に現われた天才幼女の存在が大きい。
現在、世界一のサッカー先進国(仮)であるハイネ王国。
そのトップが集まる学術学園サッカー部の一軍選手達を軽く圧倒した5歳児。
元強盗犯であり、余りに痩せ細っていたので種族判別すら出来なかった問題児ことユスラである。
白髪の上に乗った、大きく尖った獣耳。
モッフモフに膨らんだ、柔らかそうな尻尾も雪の様に真っ白である。
透き通る様な白い肌。
幼いながらも常に潤んだ様な目元は艶めかしく、その黄色い瞳に見つめられたりした日には、簡単に心を奪われるだろう。
※でも触っちゃダメですよ。遠くから愛でるだけにしてください。
因みに、弟のカザンもユスラと同じで、白髪の狐人族である。
「ですがユスラにあんな特技があったとは驚きました♪」
「は、はぁ………。」
ジーナを見ても興奮を抑える事が出来る様になったけど、彼女の女性的肉体特徴から俺の脳に直接訴えかけてくる肉体副音声と主音声が同時に聞こえて、相変わらず主音声が聞き取りにくい。
―――とにかく寮に帰って夕食に致しましょう。
「そうだね。」
『ラッセル。鼻血出てるですよ。』
「ラッセル君、上を向いて下さい。拭きますからね~♪御姉様、やっぱりラッセル君には刺激が強いのでしょうか?」
―――今夜から慣らしていきましょう。そろそろラスティ様も知って良い頃かも知れませんし♪
「ぐへっ、お口でぐへへっ♪」
『アイラ。涎が出てるですよ。』
「「姉として弟の成長を見届けるべし!!」」
「おねぇちゃ、お口でって何?」
「………しっ、知らない!」
只々俺が恥ずかしいだけの会話を繰り広げられる。
もうめんどくさいのでツッコみません。
てかそのツッコむじゃねぇから!
アレ?
否、ソレもまだツッコんでねぇから!
とにかく!ユスラとカザンとの面会は上手く行ったと思う。
二人の得意な事を知りたいと言った俺の言葉に、カザンは10桁の四則演算を暗算で披露し、ユスラは抜群の運動神経を見せてくれた。
二人共穏やかな性格だし、いつの間にか家族の輪に加わっている感じが嫌じゃない。
それに人懐っこいと言うのかな?
俺とリズ・フィズの歳が近いからか、そこ経由でヘラ、アイラ、イリナの攻略を進め、すっかり家族の一員状態である。
ジーナの思惑が功を奏した形だ。
和気藹々と帰りの馬車に乗り込むヘラとユスラの後ろ姿を見ると、ジーナに上手く乗せられた気も若干するが、それはそれで良いかな。
ユスラとカザンには幸せになって欲しいからね。
俺の傍に居る事が、イコール幸せだとは思わないし自負も無いけど、二人の能力が最大限生かせる道に進む為の手伝いは出来ると思う。
最悪お金に困ったらジーナから毟り取ることも出来るだろうし。
てか今回の貸に遠慮なく毟り取りますけど。
その時は揉みしだいてやる。
あのエロフを揉んで挟んで吸って存分に堪能してやるとしよう。
そんな妄想をしながら、皆が馬車に乗り込んだのを確認して、俺も馬車へと乗り込んだ。
▼
激しく口内を蹂躙する、柔らかなアイラの舌。
広い寝室に一つだけ灯された燭台の明かりがあっても、地下であるこの部屋は非常に薄暗い。
「……ぁっ、ハァぁ、ぁむ、あぁっ………。」
そうして暫く求め合い、お互いの唇が離れると、燭台の光にテラテラと反射する細い橋が。
薄暗い部屋でも分かる、愛らしいピンクの舌から俺の唇に繋がるそれは、ほんの少しの時間を置いてから、重力のままに、名残惜しそうにゆっくりと途切れて行った。
えっろーーーーっ!!!
アイラさんマジでえっろーーーーっ!!!
もちろんそんな事を叫んだりしないし、顔に出ない様にしたい所ではあるが、ここまでの破壊力を込めたアイラとのチッスは初めてで、拙者、動揺を隠せてる自信が無いで御座る。
今だ一皮もムケて居らぬ幼児故。
「……ここ、触ってください。」
「ええぇっ!順番的にそこは最後では?!」
「………嫌ですか?」
「そうですか、頂きます。」
そうしてアイラの左手に誘導された俺の古女房であるところの右手が、彼女のパパパッ、パンテーの中に吸い込まれる。
「ぁぁっ、ぁあっ……いきなりっ、そんなぁあっ。」
何という事でしょう!俺の自制心から解放された指達が、本能のままに動いておるのです。
優しく指で掻く様に。
触れるか触れないかの強弱を付けながら、ツルツルでヌルヌルな渓谷を、徐々に徐々に英雄の洞窟へ向けて這って行くのです。
「そっそこはっ!ああぁっ、ラッセル君!そこはっ、ああん、おっ、おかしくなっちゃあぁぁあっ。」
ヌルり裏・途中下車の旅人。
―――今回はアイラ渓谷でヌルり旅~。
英雄の洞窟に向かう道すがらにコリコリの石筍があるって聞いたんだけどな~、あっ、あれですかね?近くに人がいるから聞いてみましょう。
◇
ああ、どうも初めまして。地元の方ですか?
―――おやおや、旅の方ですか~。
この石筍を見に来たんですよ~。立派な石筍ですが、これは年中この様にヌルヌルと湿っているのですか?
―――この石筍は基本的に年中ヌレヌレのビチャビチャですね~。この先の英雄の洞窟から湧き出るという、粘性を帯びた水が原因かと思われます~。
この石筍は触るほど硬くなると聞いていますが。
―――仰る通り~、この石筍を刺激すると硬くなって大きくなりますよ~。どちらかというと優しく摘ままれて弄られる感じがヤバイそうです~。
摘まむって、何処を摘まむんですか?
―――根元から優しく摘まむのにハマっているみたいですね~。
では早速。って、アレ?何か向こうの方で水が噴き出してませんか?!
―――あ~、アレは間欠泉ですね~。石筍が喜んでいる証拠ですよ~。
落ち着いてる場合じゃないですよ!大量の水がコッチに押し寄せて来てるからっ!
―――大丈夫ですよ~。飲んでも体に外はありませんからね~。
飲むどころか飲み込まれそうなんですけどーっ!絶対ヤバイ量なんですけどー!
―――そろそろですよ~♪
うっ、もうすぐそこにって、あああああーーーー!!!
▽
―――さぁ、起きてくださいな♪
おっ、溺れるー、たすけてー!!!
―――はいはい、溺れてませんよ♪
アレ?
―――朝ごはんが出来ていますよ、あなた♪
ヘラ?
―――あなたのヘラですよ♪
いつの間にか眠っていた様だ。
昨夜の出来事が、どこまで現実世界だったのかはっきりしない。
夕食の後、姉弟を預かる約束をして、ジーナを見送ってから風呂、ベッドに入ってアイラからお誘いがあって………。
時系列を並べるのも儘ならない、ボーっとした寝起き状態のままヘラに抱き起され、ベッドの縁に座らされた。
甲斐甲斐しく着替えさせてくれるのは良いけど、俺の股間にうっとりとした顔で頬擦りするのは勘弁して欲しい。
もちろんズボンの上からだけど、これから毎日、アイラと交代で朝の日課になると宣告された。
ジーナの無意識な魅了に抵抗させる為、夫婦の時間はそれなりにそれなりな事をしていって、俺に抵抗できる免疫を作るんだとか。
「おはよ~。」
「!!!!!」
朝の挨拶をしながらリビングのドアを開けると、ダイニングに朝食を並べていたアイラが、俺の方に振り向いてフリーズした。
真っ赤な顔で固まっているので、羞恥心回路がショートしたと言うべきか。
『固まってるです。』
「「固まってる。」」
―――確かに。
「かたまってりゅ。」
「マネしないの。」
「ハッ!ラっ、ラッセル君!おはようございます!」
「おはようアイラ♪」
「はぁん♪」
アイラの反応を見る限り、夢のどこら辺までが現実だったかは分からないけど………それなりの行為には到ったんだろう。
『何かあったですね。』
「「見逃したー!!」」
「おねぇちゃ?」
「黙って食べなさい。」
―――うふふっ♪
詮索したいという鋭い目線が皆から向けられるが、ダイニングの席に座り、アイラの可愛らしいお尻を撫でる。
「あんっ♪」
「さあ、アイラも座って朝食にしよう♪」
「は~い♪」
驚かせようと思って触ったんだけど、喜んで受け入れるアイラの笑顔に癒されるわ~。
右にヘラ、左にアイラが座るのを確認。
「いただきます♪」
―――頂きます♪
『頂いてるです。』
「はいはい♪どうぞ召し上がれ♪」
今日はリビングでの朝食なので、アイラ特製の和食である。
白米、焼き魚、甘めの卵焼きに浅漬けと味噌汁。
先ずは味噌汁から頂く。
鰹節っぽい物は見つけたけど一本で金貨20枚と言われたので、安価な割に質の良い煮干しをアイラは採用している。
出汁昆布は種類も豊富で値段もピンキリらしいけど、食材に対するアイラの知識と確かな目利きを気に入った乾物屋のオヤジから、良い物を安く分けて貰っている。
お陰様で、春キャベツとクレソンの味噌汁を美味しく頂いているんだけど、イリナが進めてくれた味噌汁に胡椒というのが、ウィリアムズ家の最新トレンドである。
作ってくれたアイラ自身も胡椒を入れるのが気に入っている様で、最初はみんな気が引けたみたいだけど、最近は本人達の気分で自由に楽しんでいる。
味噌スープって感じで確かに美味しいけど、オジサンとしては保守を貫く所存。
今日みたいにキャベツとクレソンなら胡椒も良いんだろうけど、そのままの方が日本を思い出すんだよね。
里奈ちゃん何処に居るんだろうな。
こっちに転生してるなら、きっと頑固な無課金ハードプレイを突き進んでるんだろうけど……。
そんな事を考えつつ、甘い卵焼きと炊き立てご飯を頬張りながら、焼き魚の攻略に取り掛かった時だった。
強めに玄関代わりの扉をノックする音に、入室許可の返事を返す。
「失礼致します。ラッセル・ウィリアム殿並びに雷の妖精、ヘラ・ウィリアムズ夫人!ハイネ王国・国王陛下より、御二人を召喚する旨御伝えすると共にお迎えに参りました!速やかに御同行の程、宜しくお願い致します。」
近衛騎士の三人が、良い笑顔でこちら、というか朝食を見ている。
「アイラ、近衛騎士さん達の分もある?」
「お魚だけ焼きますから、少しお時間を。騎士様方、おはようございます♪どうぞ、朝食を召し上がって行って下さい♪」
「「「良いんですか!」」」
「どうぞ遠慮などなされずにお掛け下さい♪リズ、フィズ、手伝ってくれますか~♪」
「「ほ~い♪」」
近衛騎士さん達は、マドラの任務以降仲良くさせてもらっていて、重要機密を省く、各国の情勢やハイネ王国内の最新情報を聞かせてもらう食事会を月一我が家で開催している。
来てくれる騎士さんは毎回4、5人なんだけど、食事会に来た事がある騎士さん達は、みんなアイラの料理ファンになってしまった。
「それで、今回の任務はどこですか?」
行儀は良く無いが、王宮へ行く準備もあるので、食事を取りながら話す。
「先行部隊が西の隣国、ロールシュ共和国に出立しましたから、多分そういう事ではないかと。」
「他国ですか……。ロブ・ロイさんとハンターさんは今どこに?」
「ロブ・ロイ様は竜の聖域を抜けた東のパドラ皇国での任務を終えられて、五日後にはハイネ王都に帰還される予定です。ハンター・パル・ロイ氏はコロナ獣王国での療養を終えて、ロールシュ共和国の西方、獣人部族の保護区に向かわれたそうです。」
「それは何処の国ですか?確か地図には……ロールシュの西に国はありませんよね?」
「ええ、国ではありませんよ。面積としてはハイネ王国と同等の広さがあり、殆どの獣人部族の故郷とされていて、各国、不干渉と取り決められています。種族単位で数百人から数千人規模の集団を形成し、その殆どが遊牧民として暮らしていています。大昔の記録には、あの地域へ侵略戦争を仕掛けた者もいたのですが……食事中の話題としては憚られる様な仕返しに会ったそうです。それも二千年前の話ですが、以降は各国と各部族が不可侵条約を結んだので、現在は獣人保護区となって居ります。」
「ハンターさんは何でまたそんな場所へ?」
「理由は分かり兼ねます。ですが、コロナ獣王国の近衛騎士を務める猫人族の友人からの手紙に、ハンター氏とマルコ様が猫人族の言い伝えを熱心に聞きに来られていたと書いてありました。」
「その言い伝え、内容は御存じなのですか?」
「大した話じゃありませんよ。婚約者の為に商人になる事を決めた猫人族の旅人が、その日の寝床を探していた時に気を失い、夢の中で無数の人生を送るって話です。」
「詳しく。」
「長いですよ?」
「詳しく。」
「は、はぁ、では続きを。その猫人が目を覚ますと、とても大きな木の下に居たのですが、寝ている間に降りだした大雨のせいでそこから動けなくなり、雨が止むまではその場で過ごす事にしました。ですが次の日も、また次の日も、毎晩同じ夢を見る様になります。それは最初に気を失った日に見た自分が商い人になっている夢。一向に止まない雨のせいもあり、そのうち段々と眠る時間が長くなり、夢の中で過ごす時間が多くなります。そして夢の世界で商い人として大成功を収める事が出来たので、良い気分のまま夢から覚めようと思う猫人ですが、まるで夢の方が現実になったかのように日々が過ぎて行きます。そうして夢の世界で寿命を迎えた猫人は、夢の世界で出来た家族に見守られ、眠る様に最高の最期を迎えます。ようやく目覚めるかと思った矢先、また違う世界で、今度は誰かの飼い猫として目を覚まします。そして、それは誰かの人生や一生に乗り移ったかの様に死んでは別の、死んでは別の生を繰り返し、果てしない生と死を繰り返します。そうして何度目かも忘れた死を迎えた後、激しい空腹を覚え、猫人族の旅人として目を覚まします。そうです、その姿こそが元の姿なのですが、無数の人生を歩んだ彼は、既に本当の自分を忘れていたのです。そして今度も夢だと思い、王様にでもなるかと軽い気持ちで建国を始めます。無限とも感じた夢の中で得た膨大な知識を使い、人を集めて田畑を耕し、儲けた金で公共事業に着手して、城を築いて街を整備し、法を整備して罪人を罰し、税を回収して軍隊を組織し、あっと言う間に大国を作ってしまいます。そうして国王として新たに築いた家族と、それなりには幸せに暮らしていたつもりでしたが、何故か精神的な負荷を感じる日々から抜け出したくて、息抜きに街に出た時、偶然一人の旅人を見かけたことが切っ掛けで、全てを思い出します。とっくに夢から覚めている事、自分が旅人であった事、そして、数日前に国王である自分への不敬罪で処刑された女が、結婚の約束をした最愛の幼馴染であることを。猫人王は、それから自責の念に駆られる辛い日々が続き、とうとう猫人王自ら命を絶ちました。何故、猫人は死を選んだのか。その猫人は誰よりも沢山の人生を歩み、膨大な知識を持って建国の王になり、沢山の人々を救い、幸福へと導いてきました。しかし、それを得た膨大な時間の中で、いつの間にか忘れてしまった、最愛の女が死んだ後も思い出せないでいた自分が許せなかったのか。それとも、この生も夢として終わらせたくて選んだ自害なのか。将又、今この時、それを語る私自身も夢の中に生きており、大切な何かを失っても気付く事さえ出来なくなる道を、知らず知らず歩んでいるのか。只一つ確かな事は、貧しくても豊かでも、頭が良くても悪くても、どんなに恵まれていてもそうでなくても、自分にとって本当に大切な何かが得られなければ、それは等しく不幸だということです………では夫人、頂きますっ!」
話を終えた近衛騎士隊副隊長は、アイラの持って来た焼き魚を確認して、食事を始めた。
しかし、教訓なのか何なのか。
何とも深い様な煙に巻かれるような話である。
この話の一体どこに、保護区へ行くような重要度があるのか?
「………で、一応ですが、その話の題名は何です?」
「あぁ、はい、えぇ~っと確か『ねこにきゅうしょうあり』だったと思います。」
聞かなくても良い事を聞いた気がした。
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