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想定外の面接~幻聴と錯視の中で




――――ハイネ王都/公共区画/王国立養護施設




桜舞う王都も四月の中半を迎え、ルンルンで春を謳歌する街の人々を横目に、勤労学生は今日も今日とて仕事で御座います。


今月の始め、公共区画にオープンした観客収容人数二万人のバスケットボール専用アリーナ。


そこで遂に、御前試合となるトーナメント戦、シャルトリューズ杯が開催された。

王国中の新し物好きが集まり、おかげさまで立ち見が出る程の超満員。

コートで繰り広げられるスーパープレイの数々に、観客は興奮して大歓声を上げ、目で追えない程のスピード感に息を飲んだ。

興奮冷めやらぬ中行われた表彰式では、国王が自ら優勝チームにメダルの授与を行ったので、感激の余り涙を流す選手達。

会場からは盛大な拍手が送られ、御前試合は大成功のうちに幕を下ろした。


閉会式の後、国王を見送った貴族と商人達は、主催者であるルドラ子爵と学園長に詰め寄って、我先にと商談を持ち掛けていたのは目論見通り。


つまり、俺の薄汚い作戦は成功したということである。



『では、お名前をどうぞですよ~♪』

「はじめまして、ピピと言います。ネコで6才です。」



とはいえ、前の世界に実在した物をそのまま再現した『明確なパクリ』なので、もし、チートが大嫌いな里奈ちゃんと再会を果たす事が出来れば………正直合わす顔が無い。

きっと『恥を知れ!死んで詫びろ糞虫!』と罵って頂けると思うのだが……少なくとも『ヤリ口』としては最低なので、白い目で見られることは覚悟しておこう。



「「ピピちゃんはお洒落な洋服や靴が好きなのぉ~ん♪」」


「そ、そんなに……は。」


『ローズとマーガレットがサイドトライセップスで近付くからピピが怖がってるのです。せめてパンいち革靴はやめるですよ。』


「ローズさん、マーガレットさん……服、着ましょう、ねっ!」

「「ヒッ、ヒィィッ!!ぶっ、ぶたないで~!!」」


「ごめんなさい。ピピは読み書きや計算の方が得意です。」



……まあ、ご褒美への期待はこの辺にして。

作戦が成功したのは良いのだが、ここに来て深刻な人手不足により、関係各位は仕事に忙殺される日々を送っていた。



「ではピピさんは我々事務局預かりとさせて頂きますね。」


『ピピは計算が出来るからその方が良いのです。この後、一緒に学園へ来て貰う事になるですから、部屋に戻って荷物を纏めて来るのですよ♪』


「あ、ありがとうございます♪」


「中々フィーリングの合う子って居ないものねぇ、マーガレット。」

「天才は理解されにくいものよ姉さん♪」



学園従事者への待遇改善の為にとパートさんを大勢雇ったのだが、ルドラ子爵と学園長は『雑用係では無く、将来性のある人材が欲しい!』なんて我が儘を言い出す始末。

それらの中枢に居るはずの学園長と上級貴族が発っする言葉とは到底思えないのだが、仕方ないので学園内で人員募集してみた。


結果としては奇跡の応募者無し。


そもそも研究目的で在席している学生が殆どなのでスポーツ観戦は娯楽の一種であり、そこで働こうとは思わないのだろう。

それでもグイグイ来る二人に辟易としていた時、俺の中の悪魔がつい囁いてしまった。


「子供を連れて来て専門職人へと英才教育してしまえ。」


二人の行動は早かった……。

三日と経ずに王都中の養護施設から集められた5才以上の子供達。

現在、100名を超える幼気な子供達を対象に、合同面接会なる催しが絶賛開催中なのである。

尤も、誰一人落ちていないのが怖ろしい処で。


……人攫いじゃねぇのかこれ?



子供達への罪悪感はあるが、言い出した手前、彼等を止めることは出来なかった。







「ラッセル君、どうして面接は5才以上の子共だけなのでしょうか?3才位からの方が勉強するのに適していると聞いた事があるのですが。」

『そうなのです?』


「確かにそうかも知れないね。でも将来、何故ボンベイ家や学園で働いてるのか覚えて無いなんて、少し悲しい気持ちになると思うんだよね。だから、せめて自分で働くことを決めた子供だけにして欲しいんだ。それに5才なら自分の境遇ぐらいは理解してるだろうから。」


『それは良い事なのですよ♪』

「ラッセル君は優しいですね♪」


「……今回は罪悪感しかないけどね。」



養護施設の食堂でアイラとイリナの向かいに座り、一番人気のとんかつ定食を皆で頂いている。

ヘラはマッスルシスターズが苦手なので『子供達に会えないのは残念ですが、リズとフィズに胡蝶之夢での仕事を教えておきます。』と言って、出発時に笑顔で見送られた。

まあ掃除だけだし、終わったら三人で買い物にでも出掛けるつもりなのだろう。


今回面接官をしてくれているボンベイ家の執事シモンさんと学園事務局員10名、それにバーネットとマッスルシスターズは昼返上で面接中である。



「ラッセル様~、ラッセル・ウィリアムズ様は居られませんか~。」


『こっちにいるですよ~。』

「ああ、こちらに居(ぷるんぷるんっ)られましたか。(ぷりんぷりんっ)



俺を探してやって来たのは、養護施設長のジーナ・ラマゾッティ。

御年二百を超えるエルフだというのに、これがまた歩くだけでも意図せず揺れまくるアレやコレが卑猥極まりない!

エルフはスレンダー系の筈だが……千年に一人の逸材なのであろう。

シスター服を着ているにも拘らず、全裸の露出狂と錯覚するほど厭らしい動きをする淫肉エルフのせいで、俺のデリンジャーも暴発しそうで怖い。



「どうされました?」

御食事中に(ぷるんぷりんっ)すみません。ここでは話辛い事なので(ぶるんっ)、後ほど施設長室(たゆんたゆんっ)に御越し頂けませんか?(ぽよんぽよんっ)


「は、はぁ。」

ありがとう(ぷりんぷりん)ございます。(ぽよんぽよんっ)では部屋で(ぷりんぷりん)お待ちして(ぶるんぶるん)おりますので~♪(ばい~んばい~ん)



こうしてジーナ・ラマゾッティ女史は、驚異の(胸囲の)肉体副音声を残して去って行った。






昼食後、副音声しか聞こえてなかった俺とは違い、ちゃんと主音声が聞こえていたアイラとイリナに連れられて、肉体言語を話すジーナの元へとやって来た。



「お忙しいところ申し訳ご……ラッセル様?何故アイラさんに目隠しされているのです?」

「すみません。子供が見て良いモノでは無いですし、具が丸出しでは主音声と副音声が同時に聞こえて話が頭に入って来ないので。」


「はい?」


『ラッセルは疲れているですよ。』


「そ、そうなんですっ。ラッセル君は仕事の疲れがあるので、こうして私が目をマッサージしているのであって、決して煩悩から来る幻聴を遮る為に目隠しをしている訳ではありませんよ~♪」



もちろん具も中身も見えてはいない。

しかし、デ〇・〇ターの破壊力を魅せつけられながらの会話なんて、天然でなければ脅迫以外に考えられない。(まあ天然なんだろうが。)

そもそも惑星破壊兵器に対抗するなんて、誤射も出来ない俺の拳銃では無理。

確実にダークサイドに落ちて、無邪気に聖剣(ミニウィンナー)を振り回す未来しか見えない。

目隠しされても幻聴の副音声は鳴りやまず、目に焼き付いた光の放物線は予測不能な軌道を描きまくり、錯視のように迫り寄って来る。

今まさにハンター・パル・ロイ以上の圧倒的物量で篭絡されてしまいそうなのだ。


ヘルプ・ミー!ヘラ、アイラ、貴女達だけが頼りです。



「そ、そうですか。御病気で無いのなら良いのですが。」

「問題ありません。このままラマゾッティ施設長のお話を御伺いします。」


「で、では、急遽こちらにお越し頂いたのには訳が御座いまして。先ずはこちらの書類をご覧ください。」



イリナ経由で渡された書類を、ジーナに背を向けて読む。


~ハイネ商業区画連続強盗事件・供述調書~


住居 不明     職業 無職

氏名 ユスラ    性別 女

年齢 5才     種族 獣人・種族不明につき、要鑑定


上記のものに対す強盗傷害被疑事件につき、ハイネ王国・王都東地区騎士団詰所において、本職はあらかじめ被疑者に対し、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。


私は、事件当日♀月♂日の深夜、商業区画にある質屋(エンマドウ・ハイネ王都店)に、二階窓から私が一人で侵入し、金品を盗み出す際に現われた、ハゲ店主に発見され、棒の様な物で攻撃されたので、反撃の為にデブ店主の左の頬を一度、右の拳で殴打しました。その攻撃で動かなくなった店主を放置し、金銭(銀貨2枚)を持参した袋に詰め、進入路と同じ二階の窓より逃走しました。


この事件の原因は、空腹に耐えかねて、一年前に起した盗みを切っ掛けに、腹が空いては繰り返してきた行為が度を越してしまった結果です。

被害者の方々には申し訳なく思っており、今後誠意ある謝罪と賠償を行っていくつもりですので、どうか許して頂きたく思っております。

                 ユスラ

以上の通り録取して読み聞かせた上で閲覧させたところ誤りのないことを申し立て署名した。


ハイネ王国・王都東地区騎士団詰所

取調員

東部騎士団主任 エドワルド・リッキー




とてもじゃないが、王都で起こったとは思えない事件の内容に驚いた。

調書を覗き込んでいた二人も口元を両手で覆い、驚いている様だ。

人種差別も無く、子供には手厚い保護を国是にも掲げているハイネ王国。

次々と疑問が溢れてくるが、ジーナに背を向けたまま問いかける。



「色々と衝撃的な内容ですが、何故こんな事に?」


「それが取り調べが終わるとユスラは倒れてしまいまして。医師の診断結果では過度の栄養失調で、とても危険な状態でした。幸い一命は取り留めたのですが、供述に違和感を覚えた騎士団が徹底的に調査して彼女の住処を割出し、下水道にある物置からユスラの弟だと涙ながらに訴える3才の男の子を保護しました。寒さに震えていた様ですが健康状態に問題は無かったので、恐らくは手に入れた食料を全て弟に与え、自分の命を省みず、弟だけでも助けようとしていたのかと。」


「ちょっ、ちょっと待って下さい。それ以前に、何故この王都で姉弟は浮浪児のような状態に?」


「残念ながら意識を取り戻した後も、ユスラは何も話したがらないので分からないのです。ですから、もしかしたら、歳も近くて聡明なラッセル様になら話してくれるかも知れないと思い、お願いした次第です。ですから、それらも含めて、先ずはユスラと弟のカザンに会ってやって頂けないでしょうか。被害者達がユスラに同情して被害届を取り下げたので、明日からこの施設で預かる事になるのですが、支度もありますので……出来ましたら明後日、学園へ騎士団と共に御伺いさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」


「アイラ、明後日は何も無かったっけ?」

「ラッセル君は午前中に妖精学の講義を受けるだけなので、お昼からは問題ないはずです。」


「ではその日取りで構いませんか?」


「構いませんよ。では明後日の昼頃、僕達の部屋で続きを御伺いしましょう。」


「不躾なお願いをお聞き頂き、感謝いたします。」



施設長ジーナとの話も終わり、廊下に出ると窓に差し込む日差しが仄かに色付いている。

面接会場に戻ってみたのだがあと30人程で終わると言うので、100人分の馬車を手配する為に、俺達は先に学園へと戻る事にした。





◇◆◇◆




―――皆、しっかりと食べるのですよ♪

『「「『「は~い♪♪♪」』」』


―――良い返事です♪



日が暮れた学園の食堂は大勢の子供達に占拠されていた。

ヘラ達を筆頭に、大勢の女学生と事務局員総出で子供達を甲斐甲斐しく世話している。



『ちいちゃい子はお替わり欲しければ言うですよ~♪』

「イリナおねえちゃっ、おかあいちょうだい♪」

『はいはい、このぐらいです?』

「ありがと~イリナおねえちゃ♪」


「御姉様、厨房の人手が足りない様なので、こちらは御任せしても宜しいでしょうか?」


―――それは素晴らしい事ですアイラ、こちらは任せて存分に♪

「はい!行って参ります御姉様♪」


「「一緒に行く。」」

「ありがとう、リズ、フィズ♪」



大勢の子供達が、満面の笑みを浮かべて美味しそうに夕食を頬張る姿はとても微笑ましい。


こんな時は何とも情けない事で、多くの男子学生はその光景に戸惑っていたのだが、次第に子供達の無垢な姿に中てられたのか、にやけた顔で世話焼きさん達に合流していった。






翌朝。


午前中に大講堂で行われた全学園集会で、今回の人員確保と育成の理由について、学園長から説明された。

一部の学生は既に子供達に骨抜きにされて居り、世界的に禁止されている奴隷的なものではないかと声を荒げる者もいたが、実際には子供達が独り立ちするまで扶養すると聞いて直ぐに矛を収めた。

学園事務局員達で50人も扶養すると聞いた時は正直驚いたけど、意外と子供好きが多いのかな?

もちろん全員がそうでは無いだろうけどね。


因みに、バーネットは5才から11才の男の子8人、マッスルシスターズは6才から10才の女の子5人と養子縁組した。

それぞれ空いていた実験施設の倉庫を一戸ずつ学園から借り上げて住む事にした様だ。

学園長は無料で良いと言ったそうだが、親としてのけじめだと言って三人は断ったらしい。


覚悟を決めた友人達の家族が幸せに暮らせるよう、俺も出来るだけの応援していきたい。


ボンベイ家へは30人ぐらいの子供達が、ルドラ子爵の養子として引き取られた。

仕事を覚えるのは大変だろうが、アイラの孤独を知ったルドラ子爵とカイラお義母さんが居るんだ、きっと愛情持って育ててくれるだろう。



そうして、あっと言う間に姉弟との面会日になり、俺達はさらに驚く事になったのである。




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