SS キャンプへギャオー♪
――――ハイネ王国/北部山岳地帯麓/樹海上空
巨大な女性用の籠バッグの様な物を首からぶら下げて、全長10m程の漆黒の鱗に覆われたドラゴンは優雅に空を飛ぶ。
バッグの底は3×2mの頑丈な木材で床が作られ、側面の籠は頑丈な革を贅沢に使い、全体を包み2m程の高さまで隙間なく編み込まれている、
その内側には革をモザイク調に隙間なく張り、大きく柔らかい羽毛をふんだんに使ったクッションが床を埋め尽くす様に置かれている。
それ故、非常に頑丈でとても軽い。
そんなバッグの上の景色は、ドラゴンの首も見えるが青い空。
地上の様子を伺う為、バッグの側面に取り付けられたドアの下にある、猫の出入り口の様な小さな蓋を外に開くと、そこには樹海が広がっていた。
『どうだイリナ、もう森についてるか?』
『アナタ、お尻触らないでくれません?』
『もう下は森ですよ。』
クッションの上でだらりと寝ころび、祖父の前でも平気でイチャつく両親に、呆れながらも返事をするイリナ。
『この辺で始めようかのぉ、イリナちゃん♪』
『ここらで捕まえられるですか?』
『この下にもたくさんいまちゅよ♪』
『じゃあ狩りの時間です~♪』
『『『お~~♪』』』
そうして本日の目的地に到着した。
籠バッグ型軽量輸送コンテナを地面に器用に降ろした漆黒のドラゴン。
イリナの祖父、イワン・ストリチヤナ、年齢不明である。
『では、皆の役割分担をイリナちゃんから発表してもらう。イリナちゃんどうぞ!』
『イリナです。先ずお爺ちゃんがデカ馬捕獲、搬送独立部隊として、一人でジル牧場指定の放牧柵の中へピストン輸送してください。対象は雄3頭、雌3頭でお願いします。』
『了解です!』
『パパは部分龍化で今日のメインディッシュである雌を一頭と、雌の仔馬一頭の確保お願いします。』
『хорошо 』
『ママは私と前線基地の安全確保と、本日の休息地の周辺準備をお願いします。』
『は~い♪』
『作戦終了は1630とします。では、現在を1030として作戦行動開始します。さん、にい、ひと、今! それでは作戦行動開始!』
という冗談を楽しみながら、ストリチヤナ家の狩りと言う名のピクニック兼ラッセルからのお使いが始まった。
『何かややこしいですねこのテント。』
『ほらイリナちゃん♪こっちに紐を通して引っ張って、そうそう♪上手よ~♪』
いつも優しく、怒る時すら柔らかい笑顔を絶やさない母のアナスタシア・ストリチヤナ、年齢は ひ・み・つ♪ である。
いつまでも甘えん坊なイリナを更に甘やかす良き母である。
『出来たのです!やっぱりママは優しくて可愛いのですよ~♪』
『そんなお世辞言ってもお菓子しかあげませんよ~♪』
『ママだいすき~♪』
『ママもだいすきよ~♪』
抱きしめ合って好き好きしあう母と娘。
微笑ましい光景である。
たぶん。
◇◆
樹海を颯爽と歩き、体高2mを超える馬の首を、部分的に鱗の生えた大きな右手で捕まえ、その後ろ脚の間を覗き込む男。
『う~ん?これって縮こまってるんだよね?尻から見た方が雄雌分かんのかね?』
乱暴にもう片方の手で後ろ脚を掴み、馬の陰部を丹念にチェックするのは、父のセルゲイ・ストリチヤナ、年齢170ぐらい。
若干140歳で部分龍化を習得した一族の天才である。
150歳で妻のアナスタシアと結婚。
しかし完全龍化したところで、龍化を目指していないアナスタシアとの、『龍化状態での夜の営み』に至れない事を悟ったセルゲイは、イリナが生まれて以降、修行を中断している。
対外的には娘の為としているが、友人達にはバレている様子。
『でも、ヘラ様から聞いたという気性の荒さは感じないな。取り合えずこいつで良いか。』
右手で巨大な雌馬の首を持ち、左手の手刀で簡単に首を切り落とした。
『これって首の肉も美味しいんだよね?まあ、取り合えずイリナちゃんに持って帰ろ♪』
子煩悩であるが、人間社会で十年程生活した事があるセルゲイ。
イリナを厳しく育てようとはしているのだが、完全に舐められており、逆に罵られて謝る事も多い。
何処の家でも娘に甘いのが父親である。
イリナの笑顔を想像して、一トンはある雌馬を片手で引き摺りながら、前線基地へとスキップで帰還した。
――――ハイネ王都郊外/牧場地域/ジルの牧場
「何度も御足労すみませんでした、イワン様。」
『なに、この程度の事、孫の喜ぶ笑顔の為なら何の苦労もないわい♪』
「しかし、どれも大人しいのを選んで下さったみたいで助かります。」
『あ?ああ、まあ、気にしなくても良い。では儂は孫の所に――――』
「イワン様~!おまちくださいまし~!」
前線基地に帰投する為、飛び立とうとしたイワンをジルの妻が呼び止める。
「ハァッ、ハァッ、間に合いました、これ、少ないですがお持ちください!」
大きく重そうな革の鞄を持ち、必死に掛けて来たジルの妻ハンナはダブルマグナムボトルを5本、イワンへと渡した。
『おお、これはすまないな奥方よ、してこれはワインですかな?』
「大きな声で、言えないんですが、家でつくった、どぶろくです。」
『おおお、それはそれはありがたい♪人族の、それもご家庭の味とは、これはこちらが感謝せねばならんようじゃ。ありがとう、味わって頂きますぞ♪』
「お気にいられましたら、この時期に少しですが作っていますので、またお越しの際に♪」
『これは気を使って頂いて、ではまたお邪魔させて頂きます。それでは!』
片手で優しく包み込む様にどぶろくの袋を持ち、イワンはホクホクの笑顔で前線基地へと帰投した。
――――ハイネ王国/北部山岳地帯麓/樹海内/前線基地風キャンプ
上空から帰って来たイワンを、家族みんなが見上げて手を振る。
『お帰りなさい、父上。』
『お帰りなさい、御父様。』
『お帰りなのですよ、お爺ちゃん♪』
着地して、鞄を優しく地面に置き人化するイワン。
『いや、すまんかった遅くなってしもうたのぉ♪』
『いいですよ~♪その鞄は何です?』
皆に少し遅くなったのを詫びながら、イリナの質問の返事を延ばし、鞄を大事そうにテーブルの下へと置いた。
『ああ、これはジル殿の奥方が持たせてくれたもんでの、酒じゃ♪』
『なんだお酒ですか。』
『御父様!』
『父上!それはもしやっ!』
『そうじゃ、濁りじゃ♪馬肉を食いながらセルゲイもアナスタシアも一緒にやろう♪』
満面の笑みで息子夫婦に宴会の提案をするイワン。
『さすがは御父様ですわ♪ ささ、寒かったでしょうから火の近くへ♪』
『あのジルと言う牛飼いは中々に見どころがあるのぉ♪その妻もドラゴンが酒に目が無い事を何かしら思い当たったのじゃろう。賢い者達じゃ♪』
『父上、今夜はゆっくりと人族の酒を味わいましょう♪』
『うむ♪イリナちゃんもちょっとだけ飲ましてやるからの♪』
『うん♪』
セルゲイが岩を叩き割って作った溶岩プレートの上に、アナスタシアが捌いた馬肉を手際よく並べ、家から持って来た岩塩とたっぷりの胡椒をかけて焼く。
新鮮で良質の油がプレートの上で弾け、小気味良い音を立てている。
その様を肴に、家から持って来た家族全員お揃いのマグカップで、ちびちびやりだすイワンとセルゲイ。
アナスタシアもイリナから酒の入ったマグカップを受け取り、一口つけてうっとりとした表情を見せる。
肉が焼け、早速飛びつくイリナ。
イワンとセルゲイ、アナスタシアもイリナに負けじと肉を味わいながら、酒を飲んでは惚けている。
その夜は、遅くまで美味い馬肉の焼肉とどぶろくで、一家団欒を心から楽しむ幸せなドラゴン一家でありましたとさ♪
ドラゴン一家の楽しい一日を書いてみました。
※ハンナは少量と言っていますが、製造量の規制が一応存在するハイネ王国で、非常に美味しいどぶろくをガンガンに年がら年中作ってます。
学園長とロブ・ロイ、国王陛下の年末休暇の楽しみだとかどうとか♪




