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SS バタフライ効果


関西弁です。

お気に召さない方は飛ばして頂いても構いません。

ですが御読み頂いた方が後々分かり良いかと。




――――ハイネ王都/公共区画/自然公園




「やっぱり仕事無いな~。」


「ウチ等に出来るような仕事無いんかな~。」


「腹減ったわ~。」

「もぉ~、言わんといて~な~。」


「「はぁ~。」」



大きなため息を吐き情けなく肩落とす二人、頼り無い雰囲気を醸し出すが非常に筋肉質である。


ピンと立った三角耳とフワフワ尻尾が可愛い痩せマッチョ犬人の男と、小柄でポッチャリ系ではあるが、引き締まった腹筋と頭には太く捻じれた立派な角を持つ羊人の女。


失業者丸出しの夫ユーコンと、妻ムーアである。



「俺らここでもう終わりなんかな~。」

「先に諦めんといて~なぁ~、まだ就活7日目やんか。」


「ほんでも傭兵しかやった事ないし。それ言うたら役所のオッサン半笑いやったやん。ごっつ恥ずかしいわぁ。」

「仕方ないやんか、怪我したんやし。どっちにしろ真面な傭兵としては雇うて貰えへんやん。」



辺境の田舎を飛び出して10年。

二人は傭兵として生きて来たが、ひと月前のキャラバン護衛任務中、川辺で突然襲ってきた大きなワニに対応が遅れ、勢いよく振り抜かれた尻尾で怪我を負ってしまった。


ユーコンは右手の親指と人差し指の欠損。

ムーアは左手の薬指と小指の欠損である。


それでも傭兵を続けようと思えば、個人の勝手なので出来ない事は無い。

しかし武器や道具をしっかりと握り込んだり掴んだりする事が出来ないのは、傭兵としてはいざという時不安である。


そこでムーアが『そろそろ子供欲しい。』と言った事で、ユーコンも堅気の仕事に就く事を決意したのだが。



「そやなぁ。まあ、ここに居ても寒いだけやし、商業区画の素泊り行こか。」

「ごはんどうすんの?」

「パンと牛乳買うて帰ろ。」



ユーコンのズボンのポケットから出て来たのは銀貨5枚。



「「はぁ。」」



ユーコンの手の上に乗る二人の全財産を確認して目を合わすと、再び大きなため息を同時に吐いた。




――――ハイネ王都/商業区画/とある総菜屋前




「おお、ムーア、これ半額になってるで。」

「とにかく量やで量!味は二の次にしいやユーコン!」



店の軒先に出されていたのは、冷えて売れ残りの半額品である総菜パンや肉串。

それらを目の色変えて物色する二人は、店主が近付くのにも気づかない。



「なんだお前ら、金に余裕がないのかい?」



その余りにあんまりな姿を見て、店主が声を掛けた。



「余裕はないけど、盗んだりせえへんで。」

「おっちゃん、もうちょっと安うでけへん?」


「まあ、売れ残りだからな。腹も減ってるみたいだし……良いだろう、どうせ売れ残りだ、持ってけ。」

「おっちゃんええ人やなぁ~。」

「これで三日は生きれる!」


「そうか?ガッハッハッ♪」



店主も二人が本気で言っていようがいまいが、世辞を言われて嫌な気分にはならない。

日も暮れた閉店前の売れ残りを、大きな紙袋二つにパンパンに放り込み、ユーコンとムーアに渡す。



「こんなにええのぉ?」

「おっちゃん、いくら安うてもこないに買う金あれへんで。」


「金は要らねえさ、困ったときはお互い様だ。次に困っている奴がいたら、今度はお前らが助けてやんな♪」



店主の言葉に呆気に取られるユーコンとムーアであったが、その恩人の良い笑顔を見て目頭が熱くなる二人。



「ありがとうな~、この恩は絶対忘れへんからっ!」

「ありがとうございます。ウチらも誰か助けれるように頑張ります!」


「ああ、がんばれよ!」



そうして二人は熱い思いを胸に、店主に礼を告げて総菜屋を後にした。





総菜屋から王都南入場門の近くにある、一泊銅貨5枚の激安素泊り旅館まで歩いていたユーコンとムーア。

それぞれ大きな紙袋を抱え、ホクホクの笑顔で歩いていたのだが、視線を感じたユーコンとムーアが左手の路地に振り向く。


そこには子供が一人、建物の壁に背を預け、こちらを見ていた。



「どうしたんやっ!ボウズ、だいじょうぶか!」

「しっかりしいや!すぐ騎士団呼んで来たるさかいなっ!」



夜の王都の路地に座り込む子供の異様に、慌ててその子の傍に駆け寄った二人。

ムーアは総菜の入った紙袋をその場に置き、近くの騎士団詰所へ助けを呼びに走った。


ユーコンがその子の状態を観察する。

酷くやせ細り、体中傷だらけで呼びかけても反応は目を動かすだけで、呼吸も浅く弱々しい。

酷い事に、種族を特定させない為か耳と尻尾が、根元から切断されていた。


腹立たしいが、同族別人種だという事はわかる。



「おい、しっかりせえよ!もうすぐ助けがくるさかいな!気ぃしっかり持てよっ!」



五分も掛からず駆けつけて来た騎士団員の担架にその子を乗せ、二人は事情聴取を受ける為に一緒に病院へと付き添う事になった。






商業区画にある診療所に着いたユーコンとムーア、それに騎士団員3名と担架に乗せられた傷だらけの獣人の子供。


直ぐに医師が診断を始め、傷口の洗浄と裂傷の縫合を始めた。

骨は折れていなかったが、ひどい栄養失調状態である為、少年はそのまま入院する事に。


騎士団員からの事情聴取でユーコンとムーアが聞いたのは、最近続いていたという誘拐事件の概要だった。


犯人グループは逮捕されたが、仲間の一人が誘拐した子供を数人連れて今だ逃走中。

既に各入場門では騎士団員が検問を行っており、逃げ切れないと踏んだ犯人が、子供の特定が出来ない様に殺さない程度怪我を負わせ、包囲網を撹乱する狙いがあるのだろという、卑劣極まる犯人の行動であった。


憤懣やる方ないユーコンとムーア。

しかし二人にはこれ以上どうする事も出来ないので、仕方なく後を騎士団に任せて病院を後にした。





今度こそ激安素泊り旅館に着いたユーコンとムーアは、ベッド一つ置かれた三畳程の小さな部屋で、使い古されてはいるが清潔な一枚の毛布を、肩寄せ合って仲良く羽織り、冷めた御惣菜を食べ始めた。



「なあ、ムーア。」

「なに?」


「王都ってもっと良い所やと思てたんやけど、なんか酷いのんもおるんやなぁ。」


「人も多いしな。中には頭おかしい奴もそらいるんとちゃう?」

「ほんでも、あないに小さい子にあこまで酷いこと、普通の人間にはでけへんで。」


「たしかに腹はたつなぁ。種族は違うけど、ウチらとおんなじ獣人やし。」



先程の子供の事を思い出し、食欲まで落ちてきた二人。

互いの顔を見て、最近癖になりつつある溜息を同時にしようと思った矢先、ドアをノックする音が聞こえた。


先程入った宿に訪ねてくるような友人、知人等は王都にいないので、腰の剣に手を掛け、警戒するユーコンとムーア。


ユーコンはゆっくりと扉に近づき、扉の向こうに声を掛ける。



「……誰や?」


「商業区画南部騎士団詰所の所長、アントニオという者だ。ユーコン氏とムーア嬢のお部屋と聞いたのだが、ここで相違無いかね?」



騎士団だと言うので警戒を少し緩める二人。

ムーアと頷き合い、ユーコンは扉をゆっくりと開けた。



「いやぁ、すまないね、こんな時間に。ユーコン氏とムーア嬢で間違いないかね?」



ドアを開けても声は聞こえるが顔がドア枠より上で見えない。

鎧越しでも分かる、2mを超える筋骨隆々の大男。

 


「驚かせてすまないね♪ちょっと失礼。」



体を屈めて部屋に入って来たが、結局天井が低いので膝立ちなる。

呆気に取られるユーコンとムーアであったが、アントニオは膝立ちのまま気さくな笑顔で話し出した。


狭い部屋なので圧迫感が酷い。



「いやぁ、誘拐されていた少年を助けてくれたというのに、礼を渡さず帰したと聞いたのだが。……やはり受け取って貰って無いようだね。」



質素で狭い部屋を見回し、苦笑いをユーコンとムーアに向けるアントニオ。

二人は笑顔の怖いアントニオに首をブンブン縦に振る。



「こちらの不手際ですまない事をしたねぇ。これは善意ある者に対する騎士団からの礼になる。少ないが受け取って貰えるかな。」



アントニオが突き出した大きな手に収まる小さな銭袋。

恐る恐る手を伸ばすユーコン。



「グガァッハッハッハッ♪そんなに恐れずとも取って食ったりせんよ。安心したまえ。」



突然笑い出した大男に驚いてビクつく二人。

しかし、気さくな雰囲気で話してくれるので少し落ち着き、ユーコンは恭しくアントニオから銭袋を受け取った。



「「ありがとうございます。」」


「なに、当たり前のことだ。気持ちよく受け取って貰えればこちらもありがたい。」



用件が終わっても、部屋を見渡しユーコンとムーアを観察している様で、なかなか帰ろうとしない笑顔のアントニオ。



「ほ、他に、何かありますやろか?」



早く帰って欲しいユーコンは、勇気を出してアントニオに声を掛けた。

するとアントニオは真面目な表情になり、二人を真剣な表情で見据える。



「うむ、すまないが二人の素性は調べさせて貰った。先月、傭兵の仕事中に負傷して、一般の仕事を探していると聞いたのだが、それは本当かい?」



その通りなので揃ってアントニオの言葉に頷くユーコンとムーア。



「そうかぁ。実は今日の夕刻に学園経由で人材の募集があってね。」



ハイネ王国学術学園といえば、世界的に有名なあらゆる学問の研究機関である。

そこの人材募集なら信用できるであろうが、何故に自分達にその話をするのかが分からない二人。



「そんなすごい所の人材募集がどないかしたんですか?」



聞き返したユーコンに苦笑いする。



「それが、西の辺境で宿屋の住み込み仕事の募集でねぇ。条件は3食個室付きだが、賃金は月にたったの金貨5枚というものなんだよ。だが将来的に仕事をしっかりと覚えてくれるなら、その宿屋を任せて良いと言っているんだが、善意ある君達になら良い話かと思ってね。」



その話を聞いて二人は考える。


確かに賃金は安い。

しかし今だに仕事も見付からない王都に居ても、賃金無しの住み込みで奉公人になるか物乞いする羽目になる。


ユーコンが再度ムーアに顔を向けると、ムーアは神妙な面持ちで深く頷く。



「アントニオのだんな、その話は嫁と二人で世話になるんでも構わんのやろか?」


「そうだねぇ~、一応は大人一人の募集なんだが、賃金がそれほど多くは無いけど、君達がそれでも良いなら私からもお願いしてみるよ。」



その言葉に笑みをこぼすユーコンとムーア。



「いやぁ、助かったよ。早速学園にも私から連絡しておこう。君たちの様に誠実で真面目そうな人材ならきっと上手く行くと思うよ。」



アントニオは急いで詰所へと帰って行った。

それを見送った二人は、圧迫感から解放された小さな部屋の小さなベッドに寝ころぶ。


ユーコンの左腕での腕枕に寄り添うムーア。

お互い指を失った手を、宙で優しく重た。

今だ包帯の巻かれた互いの手を二人は見つめる。


自然、その目線はお互いを見つめ合い、小さな燭台の小さな火に映された影は重なり、甘く夜は更けていった。




◇◆




翌日の昼。



昨夜確認していなかった騎士団からの御礼という銭袋には、金貨10枚が入っていたので大喜びのユーコンとムーア。

旅館の外にある小さな広場で昨日貰った総菜パンを食べながら、お金の使い道なんかを話していると、広場の外に騎士団の馬車と、馬に騎乗した騎士数名が現れた。

それぞれの馬から降りた4人の騎士団員がユーコンとムーアの元に駆け寄る。



「ど、どないしました?!」

「ウチらなんかしましたか?!」



怯えるユーコンとムーア。



「君達がアントニオ所長と話をしたユーコン君とムーアさんで間違いないかね?」


「そうですけど……なにか御用で?」


「昨日の件で、早速学園の依頼者が会いたいとの事でね、学園の迎えが来ているから、詰所まで一緒に来てくれるかい?」



それからはあっと言う間の出来事であった。


馬車に乗せられ学園に着いて早々、依頼人であり二人の雇い主となる子供と美女達の面接を受ける。

それが終わるととんぼ返りで雇い主一行に商業区画の古着屋に連れて行かれ、二人それぞれに上下10着ずつ、程度の良い衣類とまだまだ綺麗な靴を数足買い与えられた。


そうして最後はシャワーの付いた美味しい夕食を出す宿屋に案内されて、二人の主である少年から衝撃的な言葉を聞く。



「明日の朝、アリコット村に出発してもらいますので、ユーコンさんもムーアさんも、今日はゆっくりと休んでくださいね♪」



ここまでされては頷くしかないユーコンとムーア。

余りの展開の速さについて行けないが、ぎこちない笑顔で少年に頷く二人。


そして旅の小遣いにと金貨2枚ずつをユーコンとムーアに渡し、嵐の様に少年と美女達一行は帰って行った。


その後すぐに二人は宿の娘に夕食へ案内され、美味い料理を堪能し、温かい湯のシャワーを浴びて、部屋で明日からの旅支度を進める。


とはいえ、頑丈な革製の大きな鞄を主に貰ったので、それに綺麗に詰めて行くだけではあるが。



「なんか、すごい人等やったなぁ。」

「でも、こっちが言わんでも、二人で給金を金貨8枚にしてくれはったし、ウチはええ人等やと思うよ。」



荷造りの終わった二人は、綺麗なシーツが敷かれた柔らかいベッドにの転がる。



「せやけど総菜屋のオッチャンの言うてた通り、人助けはするもんやなぁ。ほんま人生分らんもんやで。」


「辺境言うても主さんの実家や言うてはったし、ちゃんと頑張らんとあかんね。」

「子供育てるのも田舎の方がええやろしな♪」



そういってムーアの腰に手をまわすユーコン。



「もうっ♪旅の間はせえへんからねっ♪」

「わかってるわかってる♪」



出発前夜も盛んなユーコンとムーア。


柔らかいベッドでのお楽しみも、旅行が始まればお預けになるのでいつもより激しい二人。


腰に満足感のある疲労を感じるまで、その夜はお楽しみであったとか。




翌、早朝に主が用意した護衛付き馬車で王都を出発し、二十日ほどで無事にアリコット村に到着した二人は、短い期間で宿屋の支店長を任される事になるのであるが、それはもう少し先のお話である。





12月中旬から下旬のとある数日の出来事です。

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