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ラッセルと愉快な仲間~男気ってやつだな





――――学術学園/スポーツ施設/旧フットサル部施設




「ラッセル、この図面はボンベイ家に持ってったのとは意識的に変えてるよな?」

「そうだねぇ、あっちは驚きと感動の要素を強く持たせたいんだよね。その方が興奮度っていうか、応援したくなるっていうか?」


「まあ確かに言いたい事は分かる。普通に平面で試合見てたお偉方の反応が凄かったしなぁ。」

「でしょっ!」


「とはいえ、これが俺の初監督作品としては、ちっとエロさとバイオレンスが足りない気もするんだがぁ。」

「まあ、確かに建築家としてのオリジナリティは重要ではあるけどね。でも学園でそれやっても、一般入場無いから。やっぱり、公共区画でボンベイの仕事を御披露目にした方が良いと思うよ?」


「そう思うか?」


「うん。少なくともバーネットの本気はここじゃないと思うしね♪」

「はいはい、まあ今回はお前さんの策略に乗せられといてやるよ。次はどのみちボンベイの施設だしな。」

「そうそう!やっぱり世界的な建築家になる男の晴れ舞台は、一世一代のお祭りじゃないとね!」


「人たらしってなぁ、お前みたいなのいうんだろうよっ。」

「そうかな?」


「まあ、悪い気はしねえがな、グハハハハッ。」



バーネットは学園の先輩で40歳のドワーフ。

北の隣国の更に北部の雪深い炭鉱の町から来た平民だ。

35歳の時、細工職人で非常に優秀だった彼だが、その人生に物足りなさを感じ学術学園の門を叩いた。

紆余曲折を経て、現在は建築士を目指している。

優秀な建築士を探していた俺がバーネットに出会うのは時間の問題だった。

今じゃ友人としてお互い認め合ってると、俺は認識している。



「オラァ!そこぼっとしてんじゃねぇ!怪我するんじゃねぇぞ、ったく。」



バリバリの職人気質でもある。

精神年齢が同じだから、気も合うんだろうか?



「んじゃ、ここはバーネットに任せっから。」

「ああ、分かった分かった。あっちにも興味はあるが良いもん期待してるぜ♪」





――――学術学園/実験施設




「あっらぁ、御久しぶりねぇん♪ラッセルちゃん♪」

「また可愛くなったんじゃな~い♪おっぱいの~む~♪」


「飲まないし!そんなバッキバキの胸どう吸うんだよ。」

「いやん♪それはセクハラよん♪」

「セ~ク~ハ~ラ~♪」

「尻を触んな!どっちがセクハラだよ!まったく。」



公然とセクハラをしてくる二人のオネエ。

スキンヘッドにバッキバキとムッキムキの双子姉妹?否、双子兄弟のローズとマーガレット。

前世の名前は記憶と共に捨てたらしい。

俺には今だに全く判別できないのだが、唯一の方法はローズが服、マーガレットが靴。


どちらのデザインをしているか、である。



「まあ冗談はその辺にして、出来てるわよ。ラッセルちゃんの言ってた靴。」

「こっちの服もかなりの自信作よん。言ってた通り、メッシュって言うの?それっぽい生地が近くの研究所から手に入ったから、気に入って貰えると思うわ~ん♪」


「おお、凄いじゃん!さすが天才姉妹ってやつだねぇ。」


「褒めても母乳しか出ないわよ♪」

「でねぇだろ。」


「こっちの靴はラッセルちゃんの希望通り、踵に空間のあるクッション素材を入れて足首の負担軽減が出来てるわ。ラッセルちゃん履いてみる?」


「完璧だよ~♪すんごいふわふわする♪」


「「は、鼻血が!」」

「なんでだよ。」

「ショタが跳ねながらすんごいふわふわする~♪はヤバス。」


「もう良いから。それで耐久性はどう?」

「それは試作品だから少し頼りないけど、来週に上がって来る最終型は耐久性と軽さ、クッション性が言われていた通りには出来ている筈よ。また来週にも見に来て頂戴♪」


「でも来週ってもう年末じゃないの?」


「舐めてもらっては困るわねぇマーガレットっ!」

「そうですわねローズっ!」



二人は向かい合ってサイド・チェストのポージングを決めてこちらを見る。



「「欲しがりません勝つまでは!!」」



意味が分からない。


何はともあれ。

これで何とか年明けに、地球のバスケを再現できるだろう。

嬉しそうな顔で手を振る二人に見送られながら、昼食の為に食堂へ向かった。


ああ、ヘラはローズとマーガレットのとこに行くと言ったら、向かいの部屋の掃除をアイラとやると言ってついてこなかった。

口にはしないが、マッスルなシスターズが苦手なようだ。








年末の為、既に実験施設以外は殆どの授業が終了し帰省した者も多く、随分と静かになった食堂には、清掃業者さんと、設備保全の業者さんが目立つ。


学園長も郊外にある別荘で休暇を過ごす為、既にお休みに入っていた。

事務局は交代で休みを取る様で、元局員さん達がパートタイムで来ているらしく知らない顔も多い。

何かドキドキするんだよな、いつもと違う雰囲気。



「ラッセル君は初めての年末ですから、この雰囲気も新鮮かも知れませんね。」

「いつも賑やかだから違和感あるけど、なんか自分も業者さんになったみたいで嫌いじゃないよ。」

『ラッセルのやってる事は業者と変わらない気がするですけど。』

「まあ、そう見えるだろうね。」


―――ところでイリナは年末どうするのですか?


『おじいちゃんと両親が来るですから、辺境で狩りするです。皆さんはどうするです?』


「俺はアイラの家にヘラと年末の挨拶をしたら、姉さん達がいつ来るか分かんないし学園に居るよ。胡蝶之夢はハンターさん達がまだ帰って来ないみたいだし。」


「私はそのまま実家に残って、親戚へ結婚の挨拶に回りますけど、三日程ですね。その後は寮に戻って過ごしますよ。」


「てかイリナは何を狩りに行くの?」


『でっかい馬ですよ。ここら辺走ってる馬の二倍はあるですね。』


「そいつは見た事ないな。ヘラは知ってる?」

―――もちろん知ってはいますが、そうですね、性格は激しいですが人に懐かなくはない種でしたね。



てことは懐くのもいるって事か………。



「ちょっと今から郊外の牧場行かない?」

「ラッセル君が悪い顔をしていますね。」

『今から郊外って、帰り遅くなるですよ。』


―――夕食はアイラが好きなあの店にしましょう。

「いいですね御姉様♪」


「まあそういう事だから、イリナも一緒に来てよ。」


『ようやく私のターンなのです。この後はずっと私のターンなのですよ!』




てな訳で、郊外の牧場へ向け馬車に乗り込んだ。





――――ハイネ王都郊外/牧場地域





『もう日が傾いてきたですね。今日中に帰れるんです?寒いしひもじいです。』


「思ったより時間掛かったな。ここらに牧場主の民家があるって聞いてたんだけど……。」



広い土地に木製の柵が設けられ、放牧されている牛や羊などを横目に民家を探すのだが……中々見つからない。

建物は道具小屋や厩舎ばかりで、人も見当たらないまま日が暮れようとしていた。



「あれって、何軒か明かりのついた家が建ってますね。」



アイラの指差す方向に、4つ明ほどの明かりが見える



「よかった、夜にならないで。」

『お腹減ったのですよ。』

―――今夜はここで宿のお願いをしましょう。



そうして五軒の大きな民家が建つ小さな集落に辿り着いた。

既に数人の男が何かをやっているので、馬車を下り、声を掛けに行く事にする。



「すみませ~ん。あの、ちょっと良いですか?」


「おお、何だい?ありゃ、学園の生徒さんかい?こんな時間にどうしてこんなとこに?」


「実は牧場の方にお願いがあって学園から来たのですが、ちょっと時間を誤ってしまって、今日の宿と食事をお願いしたいのですが。」


「なんだい、そんな事か。そりゃこんなとこに来ることもめったにねえわな。ちょっとカミさんに言ってやるから待ってな。」



そういって気の良いオヤジは一軒の民家に入って行った。



「これは解体ですね。凄く綺麗に捌かれてます。さすがは牧場の方々ですね。」


「良く解ってるな姉ちゃんは。これは豚だがこの冬を越すのに、この時期に潰して燻製にすんだよ。今晩泊まって行くんなら、丁度出来立てのが山ほどあるから食っていきな。」


「それは楽しみですね。ありがたく頂きます。」



アイラが楽しそうにオジサン達と話をしている。

料理の事だから興味があるのだろう。



「待たせたな、今晩は家に泊めてやっから。馭者の兄ちゃんは馬をそっちの放牧柵に入れてやんな。干し草と水は置いてあっから勝手にやるだろうよ。」


「急なお願いですみません。」


「子供が気使わんで良いさ。それにここらの人間は客を歓迎する。まあ、されるがままに歓迎されとけや、なあ♪」



そうして俺達は豪快なオジさんの家にお世話になる事となった。




◇◆




『めちゃくちゃ美味しいのです!毎日食べたくなるですねこれは!』


「さあ、たくさん食べてくださいな♪ま~だまだありますからね♪」



次から次へと運ばれてくるウィンナーやソーセージの山に、イリナは大喜び。

両手にフォークを持ちウィンナーを突き刺して頬張っている。


オヤジこと、ジル曰く、普通の腸詰だけでは無く、腎臓に詰めたものや膀胱に詰めた物まであるんだとか。

細かな表現は避けておくが、冬支度として豚を数頭潰し、骨以外は全部使って詰め物を作り、残した肉の半分と一緒に燻製にする。

近くにある自給自足用の畑も冬は使えない。

乾燥すると火事が怖いので、暖炉以外は夜に極力火を使いたくない。

なので冬の夕食は、パンと燻製類を暖炉の火で温めて食べる質素なものである。


辺境に転生した俺も前世の記憶を取り戻した時に思ったけど、昔の人々の生活というのはそういうものだったのだろう。

確かに非常に理に適っているし、ここでは燻製に香辛料を沢山使う事で、体を温める工夫もされている。

まあ、今日は俺達がいるので火を使い、皆で持て成してくれているのではあるのだけれど。

本当のスローライフってのはこういうものだよね。


そうして食事を頂き、女性陣と近所の子供達は温めた湯で体を拭く為、別のお宅に御邪魔しに行った。


俺も正直行きたかったけど、ここに来た目的をジルに相談する為に残りましたよ。



「あんなバケモノが懐くのかねぇ?」

「長い期間かけて慣らして行って欲しいんです。繁殖もさせて、仔馬の頃から人に懐かせて。」


「まあ、猛獣の類って訳じゃねぇし、でっかい馬って思えば、それほど普通の馬とかわりゃしねぇんだろうがよ。」


「ダメでしょうか?」


「う~ん、この放牧地に居た馬達は王都の公共区画の厩舎で冬を越す。こっちは寒いからな。だからラッセル、試験的にデカ馬を連れて来てきても調教に使える時間は3、4か月ってとこだ。学園の人間が言うんだから、もし有用な生き物だとしたら俺も興味がある。」


「それじゃ、お願いしても良いんですか!」


「仕方ねぇだろ、こんなとこまで来ちまう馬鹿な坊主がいるんだ。大人はそれに答えてやる義務っつうもんがあんだよ。とにかく、そいつを連れて来て見ての話だがな。」


「ありがとうございます!お金は学園から出る様に――――」

「待て待て、さっきも言ったが、この話は俺自身が興味ある話だ。どっかから援助受けるってのは勘弁してもらいたい。」


「それは何故ですか?食費なんかも馬鹿にならないかもしれませんよ。」


「良いか、よく覚えておいて欲しいんだがよ。俺は牧場主だ、云わば飼育と調教の専門家だぜ。その俺が興味があるってことはだな、今までの経験から来る知恵と直感でやってみたいってこった。俺も学園の放牧施設を見に行った事が有るが、あそこは俺のやり方じゃねえし、あのやり方を押し付けられるのも困る。だから俺の勝手に仕事させてもらうし援助何て受けねぇ。てことはだ、自然とその責任も俺が全部背負う。大儲けのネタになるかもしれねぇが、失敗して損するかもしれねえ。だがな、そん時はその馬バラして仲間と食っちまうだけだ。それでも良いならこの仕事、受けさせて貰うが、どうだ?」



ここにも職人気質の人間がと思うが、ここまでの信念をもって学園ではやってもらえないかもしれない。

それは学生のやる気がないという訳では無く、彼等は研究の道半ばにあり、目の前の生活を掛けてのチャレンジャーでは無いという事である。

長い時間とお金を自由に使える研究者と、短い期間で生活を掛けて勝負する専門家。

どちらも一長一短ではあるが、俺は後者に賭けて見ようと思う。



勝負師の熱い目をするんだよね、ジルのおっさん。




23、24、30日にSS投稿します。

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