異世界二つ目の村~とある登山家の手記
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駄文では御座いますが、お楽しみ頂ければ幸いです。
―――アリコット村を出た翌日
早朝にも関わらず、朝露の残る中、王都行の馬車に乗り込む。
王都へと続く長い街道の傍。
昨夜はそこにテントを張って野宿だった。
この世界にはどうやら魔獣や魔物と言った類のモノは居ないらしい。
勿論、肉食獣である狼や熊、野犬何かは普通に居るので夜中でも見張りは必要である。
他の国にはネコ科の大型肉食獣や大型の哺乳類ぽいモノも居るそうだ。
そういった動物達も見境なく襲ってくる訳でもないらしく、それこそ背に腹は代えられず人を襲うんだとか。
もっとも、それは厭くまで人だけに対してであり、妖精や亜人種何かが近くに居る時は近寄っても来ないらしい。
そんな中、ドラゴンは例外で、非常に頭が良く住処である山から下りてくる事もまず無いそうだ。いつか見てみたいな、危険じゃなければだけど。
てな訳で、うちの妖精ヘラ様の御蔭により、王都までの二週間の旅は安全に過ごせそうである。
しかしながら乗り物は馬車。
現代日本の技術力がある訳でもなく、定期便である所のこの乗り物が快適な旅をエスコートしてくれる訳がない。
昨日の半日移動だけでも腰に背中に重い疲れが残っている。
ロブ・ロイには数日もすれば慣れると言われたが、そういうものなのだろうか……。
まあ、そんな厳しい移動ではあるが出来る事はやっておきたいし、景色なんかも楽しめたらと思う。
なので馬車の中ではヘラとの言葉のやり取りで公用語を覚えていく事にする。
―――愛していますわ、ラスティ様。それはもう世界を焼き焦し破壊し尽くした六千年前の雷雨嵐のご・と・く♪
頭の中に直接話しかけられる感じなので、馬車の揺れには影響されないのだけども……。愛が辛い!
そんなこんなでガタゴトガタゴト車輪は廻り、夕暮れて漸く二日目のキャンプ場所に到着。
朝と昼は馬の休憩がてら軽い物を摘まんだだけでお腹はペコペコである。
成長期真っ盛りの身故、しっかりと食事を取りたい処ではあるのだが、お判りの通り馬車移動なのでそんな事をしても撒き餌にしかならない。
なので夜はしっかりと栄養補給させてもらう事にする。
大人達が調理している間、ヘラの提案ですぐ近くに居るらしい鹿を狩りに行く事にした。
歩いて10分程、辺りは真っ暗で俺には何も見えない。
ヘラには問題なく見えている様で、手を引かれるままに林の中を進んで行く。
すると辺りが暗いので距離感は掴めないが、何やら蛍の様に淡くひかり動くモノが見えた。
―――ラスティ様、あの小さな光が鹿の目です。仕留めますのでこちらに。
ヘラに言われるまま、その豊かな双丘に背後から包まれつつ淡い緑の光へと目を向ける。
ていうか何で前に抱かれているのか、はて?
次の瞬間、地を這う蛇の様に、否、まさしく雷の如く一本の激しい光が地を走り、周囲の景色を顕わにした。
瞬きの合間に消えた光と共に、周囲は元の夜を取り戻す。
―――さぁ、ラスティ様、皆の所へ獲物をもって参りましょう。
呆気に取られていた俺はヘラの言葉に慌てて返事をする。
仕留められた鹿の下に向かうと、頭だけ弾け飛んだ獲物がそこに転がっていた。
中々に衝撃的な鹿の成れの果てではあったが、俺をその場に降ろすとヘラは鹿の後ろ脚を束ねて右手で持ち、左手をこちらに差し出す。
―――さぁ、参りましょう。
ヘラに手を引かれながら、不思議と恐怖や嫌悪感は感じなかった。
それは何故かと聞かれたとしても答えようが無いが、おそらくヘラはその力を俺には絶対に向けないと何となく分かるからだろうか。
常に傍に居て、隙あらば優しく抱きしめてくれるヘラに、俺は安らぎと平穏を得ているのかもしれない。
そしていつでも甘やかに愛を囁いてくれる彼女に、多分に俺は憧れと好意を持っているのだ。
今回、彼女が持つ力の片鱗を見た事で俺自身の身勝手の為に使わせてはいけないとも思った。
でもまあ、ヘラさんパナイっすわ~男前っすわ~。
あれ?電撃使って好意を寄せてくれる女の子って……まさかねっ!
ヘラちゃんに限ってそんな事は無いはず。角もないし。
キャンプ地に戻ると大人達は獲物を見て大喜びだった。
夜番をする人が鹿の処理をしてくれている。皮を剥いだりするのは夜中にやっといてくれるそうだ。
一晩掛けて燻製を作ってみせると息巻いていた。
今夜のディナーは根菜の煮込みと街を出てまだ二日目なので白パン。更には鹿の背ロースの串焼きも一本付けてくれた。(大変美味しゅう御座いました)
ロブ・ロイにヘラの活躍を伝えると、孫の話を聞く好々爺な顔をして頭を撫でてくれた。
そんなこんなで腹も膨れて、その日もヘラの胸に包まれる様にして眠った。
ヘラが眠ったと思って少し胸を揉んでみたら、ヘラの服の中に取り込まれてしまった。
流石に慌てた俺は急いでヘラに背を向けたが、そのまま抱きしめられてしまった。
―――好きにして良いのですよ
そんな甘い甘~い御誘いが頭の中に聞こえた気がするが、これは幻聴だ淫夢だと自分に言い聞かせ、般若心経を頭の中で唱えてるうちに何とか眠りについた。
まぁ四歳児ですからね、睡魔には勝てないのです。そうしておきましょう。いや、本当ですよ。
―――村を出て一週間。
大きなトラブルも無く(五日目に盗賊的な人達が現れたが、ヘラの姉御を見て慌てて逃げだすが回り込まれてしまった。逃げ出した→回り込まれてしまった的な茶番はあったが、縄で縛り上げて偶然通りかかったパトロール中の王国騎士隊に引き渡しておいた。)今世では初の故郷以外の村に到着した。
時間的には丁度お昼である。
今日はこの村で一泊の予定だ。
使ってはいないが、この先雨や何かで鉄製の剣何かが錆びてしまうのはいざという時に困る。
その為、武器の手入れや馬車のメンテナンス、馬の交換何かをこの村でするのだ。
勿論、食料品なんかも必要だもんね。
そんなこんなは旅のプロの方々にお任せして、今は村の食堂に来ております。
食べてばかりだなと自分でも思うけど、旅の醍醐味なんてメインは食でしょう。
昼食を終えた後、ヘラと二人で村を散策する。
ロブ・ロイがお小遣いをくれたので、それを軍資金に気分はヘラといちゃラブデート♪
如何せん絶世の美女と言い切って良いヘラの胸に抱かれながらなのが何とも締まらない所ではあるのだが、目的も忘れてはいない。
「――いらっしゃい。ここは酒場なんだが、そんな小さな子供を連れてくる様なところじゃないよ。営業は夜だ、また日が暮れたらおいで。」
酒場に入ると恰幅の良いおばさんが声を掛けてくれた。
どうやら悪い人ではない。寧ろ良い人っぽい。
「あの、この村に少し変わった子とか居ませんか?何か可笑しな事を言ったり、知らない言語で喋ったりするような。」
「いや、そんな話は聞いた事が無いねぇ。人探しかい坊や。そういうのは本当はお金が居るんだが、子供って事で今回は勘弁してやろう。」
「すみません。」
「ちゃんと謝れたからご褒美だ、この店の前の通りを左に真っすぐ、三筋目を左に曲がって突き当りがこの村の村長の家さね。気の良いだけの男だから、知ってたら何か教えてくれるだろうさ。」
気前の良いおばさんと笑顔で別れ店を後にする。
言われたとおりの道順で何の苦も無く大きな屋敷の前まで来れた。
とはいえ大豪邸という事でもない。
アリコット村の村長宅と然程変わらない程度(日本の標準的な一軒二軒分ぐらいだろうか)である。
貝殻を模したドアノッカーを叩く。ヘラが。(届きません!)
少し待つと「はいはいはい~」っと気さくな感じの男性の声が聞こえて来た。
「やあやぁお待たせしてすまないですな~、え~、この村の方ではない様で、何か御用ですか?」
如何にも気の良さそうな恰幅の良いオジサン。
ここ、カシーシャ村の村長レナードというらしい。
早速、転生者とバレない感じで人探しをしている事を伝えてみた。
「う~ん、その様な方の報告は受けてはいませんねぇ。まぁそう言った症例の人が居た場合、身分の高い方々の御家では秘密にされる事もありますから。何にしてももしその様な方を発見した場合、どちらかに報告させてもらった方が良いですかね?」
「ぜひお願いします。ぼくたちは王都の学園に居ますので、何か手掛かりでもあれば手紙か何かで知らせて頂けると助かります。」
「ほぉ、その御歳でハイネ王国の学園に入学されるのですか?それは凄いですな。ではそちらの女性はもしや妖精様で?」
―――雷の妖精ヘラと申します。
ヘラの電波挨拶に感動したのか、村長はヘラへ握手を求めるとブンブンとその手を振りながら会えた喜びを表していた。
それもあってかは分らないが、何かあれば必ず連絡してくれるそうだ。
人良さそうだし、まぁ大丈夫だろう。
その後、村長からの質問攻めにヘラが困っている気がしたので、挨拶もそこそこに村長邸を後にした。
帰りに市場を通って帰る事にしたのだが、そこにロブ・ロイがいた。
どうやらナッツ類を試食しながら吟味している様だ。
こちらが声を掛ける前に気付いた様で、嬉しそうな顔で手招きしてきた。
どうやら晩酌のツマミを探していたんだと。
まぁそれ程危険は無いとはいえ、移動中は酒を飲んでる姿を見ていないから、ロブ・ロイは分別を付けられる素晴らしい大人だと思う。
何か菓子を買ってやると言われて、俺もナッツが良いと言ったのだが
「大人になったら嫌でも嗜好品を嗜むのだから、子供のうちは菓子や果物を食べておけ」
との事。
買い物も終わり、今日の寝床である宿屋へ着くと、ロブ・ロイは夕食もそこそこに晩酌を始めた。
「――それでラスティよ、何やら人探しでもしておるのか?」
ロブ・ロイからの質問に即答で首を縦に振る。
「そうかそうか、ならば王都での仕事も丁度当てがある。入学手続きが済んだらすぐにでも紹介してやろう。」
ヘラと二人で首を傾げていると
「そこはのう、失せモノ探しを専門にやっとる妖精使いの店じゃ。今のラスティとヘラにはちょうど良かろうて。」
何ともおあつらえ向きの仕事もあるもんだと、その日は俺も嬉しくなって、ご機嫌なロブ・ロイに付き合って夜更かしをした。
まあ、いつもの如くテッペン過ぎる頃にはいつの間にか寝てしまっていたのだが。
それでもロブ・ロイは、何年経ってもこの日の事を思い出しては飲みに誘ってくれて、俺自身も良い思い出が沢山出来るのだが、それはまだまだ先のお話。
夜中に息苦しくて目を覚ますと、極上の双丘に顔を埋めていた。
息継ぎを済ませ、もう一度、美しき双丘に顔を埋めようとしたのだが、ヘラが半目で笑っているのに気づいて、恥ずかしくなってお腹のあたりに抱き着いた所までは覚えているのだが、どうやらそのまま眠ってしまっていたようだ。
朝起きると俺はまた最高の双丘に顔を埋めていた。
自分で登頂したのか、それとも女神の御手で掬い上げられたのかは謎ではあるが、これだけは言っておこう。
いつの日か、最高峰の頂きに私は到達し、数々の漢が手中に収める事、叶わなかった桃色の対を為す果実を味わい尽くすだろう。
故に私は危険な山に登り続ける。
為すべき事を為すために。
冒険家 ラッセル・―――――今すぐ味わいなさいまし、ラスティ様♪
フッ、まったく山の神は強欲な、―――あっ!ちょっまってヘラっ、あぁん♪
御読み頂き有難う御座います。
引き続き頑張ります。




