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可愛い孫には贅沢させろ~申し込み前手続き


毎度駄文に御付き合い頂き誠に有難うございます。





イリナが入学して二週間が経った。


それまでの経緯はというと、これが中々に苛烈なもので……。




イリナが仮入学後五日目に事件は起こる。


烈火の如く怒り狂ったイリナの祖父襲来により、すったもんだの大騒ぎ。

学園中を巻き込んで揉めに揉めたのだけど……思い出すのも面倒くさいので割愛する。


結局、最後はイリナが、ヘラに泣きながら縋り付き『みんなとずっと一緒に居たい!離れたくない!そんな事を言うお爺ちゃんなんて大嫌い!』という言葉を聞いて、真っ白になったイリナの爺さんは、今にも死にそうにプルプル震えながらも、学園への入学を認め、肩を落として東の山へと帰って行った。


彼の目から零れる光るモノがあった事は、俺の胸の内にだけに留めておこう。


イリナが山を出た理由は『100年も山に籠ってられない!お外に出ればたくさんの(お友達)が待っているのです!』という、何に感化された分からない、とんでもなく勝手気ままな理由であった。


ドラゴンの掟である本来の外出手続きも踏んでいない為、完全なる無断出奔状態。


イリナの祖父も最初の数ヶ月は怒っていたものの、いつまでも帰ってこない孫娘が心配で、息子夫婦と三人、アワアワと心労の絶えない日々を過ごしていたらしい。


おまけに漸く見つかったかと思えば、発情期で他国の国立機関に迷惑を掛けてるという始末。


『家族がどんな気持ちか分からんのか!』と祖父は怒り狂い………。


まあ、結果的に一人で帰る事になったイリナ祖父……そのうち家族で遊びに来るから孫娘をよろしくと聞いてはいたのだけど……。



『イリナちゃんはやっぱり白が似合うんじゃないでちゅか?』


『おじいちゃんはいつも白の服ばっかりで飽きたのです。たまには違う色がいいのです!』

『じゃあ、こっちのピンクはどうでちゅかな?』


『こっちのおとなな黒が良いのです!ピンクなんて、イリナは発情期を迎えた立派なおとなの女性なのです!失敬なのですよ!』

『流石は儂の孫娘じゃ!もう大人の黒を着こなすとはさすがでちゅねぇ~♪』


『そうなのです!おじいちゃんも話が分かるようになったですね~イイ子イイ子してあげる~♪』

『うっひゃっひゃっひゃ♪』


「これは何と言いますか……仲の良いご家族で、羨ましいかぎりです。」


『いえいえ~♪家なんて放任主義ですから、あの子も我儘に育ってしまって、ウフフッ♪アイラさんも遠慮なくお好きなお洋服選んでくださいね♪』


―――本当に良いご家族で。御手本にさせて頂きたいですわ。


『そんな滅相も御座いません。我々の家庭などより、雷の妖精ヘラ様の御家族の方を見習わせて頂きたいぐらいです。父も妻も、只々娘に甘いだけでして、まったく♪』


『ラッセル!これ似合うですか~♪』

「うん。凄く可愛いと思うよ。」



と、早速家族で大金持ってやって来たのだ。


イリナの生活用品と、家具や普段着から何から何まで最新の品で揃えるらしい。


過保護どころの話ではない。


究極の甘やかしである。


それはイリナを可愛がってくれるヘラやアイラにまで向けられ、朝から商業区画を行ったり来たり。

馬車三台での移動で、既に一台は買い物袋でパンパン。


部屋に入るのだろうかあの量。


何とも気苦労の絶えない日々だけど、みんな楽しそうなので良しとしますかね……。




◇◆◇◆




すっかり日も暮れ、我が家の風呂場で湯船に浸かる。


イリナの家族は学園長と共に、夜の街に繰り出してしまった。

ウチの女性陣は戦利品を片付けるのと、イリナの部屋のセッティングに忙しい。


まだ届いていない家具もあるからね……。


明日はイリナと家族で王都観光へと行くらしい。

王都には一週間の滞在予定だそうだ。


イリナ一家の案内はアイラがしてくれる。


買い物の途中、何処からそんなにお金が出てくるのかとも思ったのだが、俺の前世でも神話や童話にあった通り、光物が好きという例に漏れないドラゴンさん達。


彼等が住んでる東の山々が金銀鉱脈なんだとか。


王国になる前のハイネ村。

交易や貿易で現在の大国へとのし上がったと云われているけど、それを支えた資金源がドラゴンという、歴史書に記されて無い史実はロマンを感じる所ではあるかな。


まあ、ドラゴン達からすれば、孫にかける金なら幾らでもあるって所なんでしょうね。

羨ましいかぎりですなぁ。


「俺もお金に余裕が欲しい。」


前世で里奈に結婚資金の相談をした時の事を思い出しながら、俺はそう呟いて、暫く湯船を眺めていた。




◇◆◇◆




朝食の後、商業区画の商人さん達を連れて、スポーツ施設の案内と説明を今まさに行っているんだけど……殆どの競技が、今だ多くの課題を残していた。


しかし、バスケだけは違う。


ところ狭しと選手達がコートを行き交い、スピード感がある点の取り合いが行われている。


白熱したい試合と呼べるものがそこにはあった。


コートに立てるのは、どの種族でも一名まで。

内、人族を必ず一名入れる事がチーム構成の決まりである。

後は好きなようにポジションを決め、バスケのルール内で試合するだけ。

人族を入れる理由は簡単で、力の強い種族のパスは、他の種族でも取れない場合が多い。


するとスローインでゲームが頻繁に切れて面白く無いのだ。


そこに人族が居れば常にパスを手加減するので、どの種族も技巧的なパスを回すようになり、時間をゆっくり使ったり、将又タイミングが良ければ、凄まじい速攻も見れてとても面白い。

前世でケーブルテレビで見ていた本場の物より凄いと思う。


人族のシュート性のボールに兎人が走り込み、3Pラインから飛んでのアリウープなんて、兎人族以外のどの種族にも出来ない。


熊人族が放つ、教えてもいないスカイフック。


天才的ドリブルで相手を抜き去る、小さな体のドワーフは止めるのが大変。


精密な3Pシュートが得意なエルフ。


司令塔であり、戦況把握して指示を飛ばす人族等々。


背丈に関係ないダンクシュートと華麗なノールックパス。


想定外のマジでヤバイ事になっていた。


その面白さを顧問や選手が学生達に伝えた事もあり、最初20人にも満たなかった部員が今では60人を超えている。


この状況を鑑み、商人、貴族、王家に対し『仕掛けよ!』と学園長から指示が降りて来たのである。

先ずはそれぞれにお披露目し、商人には広告収入を含む、スター選手のユニフォームや物販類の販売。

貴族や富豪にはチームオーナーとしての出資と国内リーグ戦の主催、開催権。

王家には文化と娯楽の提供と、国内カップ戦や各国クラブチーム世界一決定戦的な主催、開催権利等々。


利益的にも美味しい所が多いので、飛びついてくれると期待している。


実際、連れて来た商人達は大興奮。

何だ何だの大騒ぎで、バスケ部顧問は質問責めに遭っている。


箱が小さくても出来るスポーツだから、撒き餌としては十分かウッシッシ♪


学園長としては、学園へのスポーツ留学と、各国要人との新たなパイプの構築、既存の関係強化を図れる訳だから、商人達のこの反応を見れば彼女もホクホクであろう。


それに後日行われる、貴族と王家の視察は学園長に任せている。


俺的には王家とか貴族と余り付き合いたくないからね。


そもそも五歳でその手の方々と付き合っても、所詮便利に使われるのがオチだろうし、無理難題を押し付けられても立場上断れないからね。


成人の定義なんて有って無いようなこの世界で、大人扱いされるのは学園長だけでお腹いっぱいです。


俺にどれだけの利益が来るかは知らないけど、それほどの物は期待してはいないし、余り多く貰っても困る。


この手の事に必死になっても、それだけで人生の若々しい時間を大量に浪費する事になり兼ねないから、阿保らしいし馬鹿馬鹿しい。


それに、里奈がこの世界に転生してるなら無事に探しだす事が重要だから、子供が大金持ってる何て知られたら、どんな状況に置かれているか分からない彼女に危険が降りかかる可能性もある。


お金だけで安全に解決できれば楽だけど、帰ってきても廃人にされてたり、まして命を奪われてはどうしようもない。


慎重に行きたいのですよ。


でもまあ、それなりのものが数年後には入って来るだろうから、全く期待してない訳でもないんだけどね♪



もし仮に、俺自身が転生した事で大きな力や異能を持っていたなら、それこそスポーツで無双して英雄的存在に……何て考えたかもしれない。


でも世界の全てを思うが儘にしてしまっては、この世界に元々いる人々の努力や発見で変わって行く様を見て楽しむ事も出来なくなる。


今回のスポーツ改革は、学園内にスポーツが楽しくないという人々の悲しい状況があった。


それは幾ら何でもと思うので手は貸すけど、本気で主催や開催側に回っては、学園内で行われるであろう、熱く激しく、時に甘く切ない青春ストーリーを、仕事に忙殺されて見逃してしまう。


少なくとも、俺はそっちの方が見たい♪


今まさに学生として見れる立場にいるのだから、電信柱の後ろから覗き見してハァハァしたいのだ。


今の俺が身体的に成人する頃には、精神的に人々の青春を今ほど楽しめなくなるだろう。

それは転生者であるが故に心が成熟しすぎて、体は若くても気持ちがついていかなくなるだろうから。


これから生涯の友人になるかもしれない人や、知り合いが経験するだろう景色を同じ目線で見て行きたいし、見逃すのは勿体ないと思う。


それに魔王だ何だがいない世界でなら、そんな無双は準備さえして置けば、大人になってからどうとでも出来るのだ。


何て偉そうな持論を頭の中だけで垂れ流しながら、仕方なく午後に回した妖精学の授業に向かった。




◇◆




それはもう大変な時間でしたよ、本当に。

張りきったクラスメイトのファンタスティック・〇◦〇スとか言う、変わった名前の女子の朗読と、先生の長文での説明に、激しい睡魔に襲われながら、もう何を聞いてるのかも分からない状態であったとだけ記しておく。



夕食の時間、みんなで一旦部屋に集まってから食堂に向かう。


これは俺の考えた住人ルールである。


イリナも意外と言ったら失礼かもしれないが、実技、授業とも真面目に受けている様で、最初の三日以降は好きにさせている。


イリナ母から聞いた話だと、発情期は毎年秋に数日間あるらしくて、その期間は授業を休ませる許可を学園長には取っておいた。


先日それも治まったらしいので、楽しそうに学園生活を謳歌してるみたいだけど、食いしん坊属性まで付与されていた様で、協調性を学んでもらう為にも、イリナには仲間や家族を待ってもらう事にしている。


今も量の規制が無いバイキングだからか、めちゃめちゃ食うのだけは確かで、そんなイリナの姿を見てるだけで腹が膨れるというのはご愛嬌なのだろうか……うっぷ。


アイラはイリナのお姉さん役として良くやってくれている。

学園長からは、もうヘラとアイラとは結婚した方が良いのでは?なんて言われたけど、アイラの御家族への挨拶もまだだし、俺もまだ5歳だし……って言うのは逃げなんだろうな……。


ただねぇ~、今の俺見てすぐ結婚の許可が下りるのかが不安な所なんだよね……。


それでも一緒に住みだしたのだから、世間の風聞もあるし……。


否!


そんな長期同棲カップルみたいのは嫌だ。

ちゃんと段取りを踏んでヘラとアイラを御迎えしたい。


ふむ、いざ明確に緊張するシチュエーションを前世で一度味わっているだけに、ヘラとアイラを交互に見て、何ともソワッソワする。


しかし、男を見せる時だ。



「ヘラ、アイラ。」


「何でしょう、ラッセル君?」

―――はい、ラスティ様♪



「僕と結婚してほしい。それでアイラのご両親にも挨拶に行きたいんだけど。」



「ふぇっ。」


「ダメかな?」



そう聞いたらアイラに泣かれてしまった。


ヘラに慰められながら、その胸で声を殺さず号泣している。


イリナに白い目で見られているのは……Why?


とまあ、冗談はさて置き。



「ダメ?かな?」


「大丈夫です、不束者、ですが、よろしく、お願いしますっ、うぇ~ええん!おねえさま~っ!」



―――幾久しく、宜しくお願い致します。ラスティ様♪



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