ドラゴンの躾~一喜一憂の魔法使い
お約束ヒロイン?登場の巻。
――――ハイネ王国立学術学園/学園長執務室
「というわけで、不審なドラゴンを名乗る変態を見付けました。」
「困りましたねぇ。」
―――ドラゴンの肉は若返りの効果があるそうですわ。
ヘラ言葉に、檻へと入れられた薄布一枚の少女へ鋭い視線を向ける学園長。
俺とヘラも学園長と同じ様に、視線を少女へと向けた。
何故なら。
『ちょっ、ちょっと待って欲しいのです!イリナは美味しくないドラゴンなのです!だめなのれすっ!許してほしいのですっ!ただの発情期なのですっ!ちょっとしたリフレッシュなのですよ~!』
大慌てで助命嘆願をしているその少女の姿が嗜虐心を誘って面白いのだ。
俺達は顔を背けて、声を殺して笑う。
少々サディスティックな行為に受け取られてしまうかもしれないが、そうでは無い。
学園内への不法侵入と備品の無断使用、(行為に使用されたと思われる刷毛)更には学園敷地内で卑猥な行為に浸るという暴挙。
悪意ある人物の場合は勿論、普通に騎士団に突き出されて罰を受ける。
しかしこの少女はそういった輩では無く、ここが国立の施設である事も知らなかった。
旅の途中、生れて始めての経験となる発情期。
不安な気持ちを抱きながらも、人目に付かない場所を探して飛んでいた時、偶然みつけたあの小屋で事無きを得ようとした。
そういった少女を同じ罪で扱う事などしない。
しかしながら少々世間知らずが過ぎる上、自己管理も儘ならない少女に冗談を絡めてお説教しようという趣旨である。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!』
半泣きで鼻水を垂らしながら謝罪する少女を見て、俺達は顔を見合せ説教を終える事にした。
檻と言っても、芝居で使う紙製の小さな檻なので、それを俺が持ち上げる。
底がない被せるだけの物だ。
「ハァ~、冗談です。食べたりなんかしませんから、そこのソファにお座りなさい。」
顔に反省の色を深く滲ませ、しょんぼりした様子の少女がソファに座ると、濡れ手拭いで綺麗に顔を拭いてやる学園長。
今までの事は芝居だったのだと知り、皆に子ども扱いされていた事に気付いてか、目線を横にずらして恥ずかしそうだ。
「それで、ストリチヤナさんはどうして王都に?」
『イリナでいいのです。修行の旅なのです。さっきも言ったのですよ?』
イリナ・ストリチヤナ。
ドラゴンが住む東の山岳地帯から来たという彼女は、修行の旅だと言って朝から譲らない。
若干十三歳で修行というのは、博識な学園長も聞いた事が無いそうだ。
学園長曰く、一般的にドラゴンと言う種族は、非常に長い期間の修行の末に、所謂ドラゴンの姿へと転身する事が出来る様になる。
それは500年とも1000年とも言われる修行の果てにである。
以後は人との関係を絶ち、大地の恵みと酒を愛し生きて行くのだそうだ。
中には転身して増長した者が、修行と称して実力者に喧嘩を売り、後に討伐される者もいるらしいが、それも相当稀な事だとか。
ドラゴンは子に対して非常に過保護だと言われており、山から近くの村への買い出しですら、齢100は超えないと行かせてもらえない。
自分達が力を持つ意味を正しく理解出来ない者が、山を下りた所で要らぬ争いを呼ぶ事が分かっているので、過保護は必然なのだという事らしい。
ドラゴンも風評被害にうんざりという……。
それが僅か十三歳で、しかも一人で修行の旅になど、曲がり間違ってもあり得ないと学園長は言う。
確かにイリナの人間性は悪くないと思う。
どちらかと言うと天然おバカでは無く、幼くて純粋といった方が合う。
自分は純粋に、本気で修行の旅をしていると信じてもらいたいのだろう。
「ですからそのような齢で修行の旅など聞いた事もありません。ご家族に連絡しても宜しいですね?」
『それは困るのです!一人前のドラゴンが親に連絡なんてはずかしすぎるのです!拒否権を発動したいのです!』
だけど現実はこんな調子で……。
既に連絡の手紙は東の山に向かっており、数日で届くそうだ。
何でも王都郊外の山に、ひっそりと一匹のドラゴンが連絡役として住んでいるらしい。
そこからは高速で飛んでいくので、直ぐに何者かがこちらに来るだろうとの事。
まあ、このハイネ王国の国王がドラゴンの遠い血縁者だからね。
そりゃ太いパイプもあるか。
そんなやり取りを見ていたら学園長と目が合った、ので右に受け流ーす。
ヘラさんも右に受け流してるぅう!
「ラッセル君。」
「は、はい。」
「現在、この学園はスポーツ改革に取り組んでおります。その為、改革が成功した暁には全権委任者にそれ相応の謝礼をさせて頂くのは勿論なのですが……その全権委任者たる御仁に、ワタクシは相当、心を砕いたつもりです。さて、その御仁はワタクシの小さなお願いぐらい快く快諾して下さると思うのですが……ラッセル君もそう御思いになりませんか?」
「それは、その……。」
「さて、雷の妖精ヘラ。貴女は仮にも人々から尊敬と信奉を集める存在ではありますが、私生活では夫を持つ身。その夫を重要な役職に据えた上司からの小さな願いを、貴女は夫に快く返事ををさせて、夫の体裁がより良くなるよう蔭に日向に支える。そんな努力も出来ない愚かな妻なのですか?」
―――うぅ。
ぐうの音もでねぇ。
「沈黙は是と取りますが、何か最後に言いたい事は?―――では、イリナ・ストリチヤナさんの面倒はラッセル君とヘラにお任せします。くれぐれも学園内で問題を起こさない様に指導、教育、管理を徹底して頂く様に。以上。」
言い切って学園長はイリナに話し掛ける。
「イリナさん。暫くこの学園で生活してみませんか?」
『何でです?』
「山からここまでの旅は中々に大変だったでしょう。ですが世界はイリナさんが思っているより遥かに広く、その中で生きて行くには学ばなければいない事が沢山あるのです。もし次にどこかで自分でも理解出来ない事が起こった時、今度こそ謝っても許してもらえないかもしれません。それでもイリナさんは多くの事が学べる場所から逃げて、要らぬ恥をかきながら生きて行くのですか?」
『う~ん。難しい事はわからないのです。でも恥は恥ずかしいのです。もう嫌なのです。ここにいればもう恥はかかないのです?』
「それはあなた次第です。ですが良く学び、良く励み、良く努めれば、イリナさんを愛し支えてくれる人達が自然と現れ、もっと大切なものを受けとる事が出来るかもしれません。そしてそれはイリナさんを更に成長させてくれるでしょう。」
『凄いのです!学べば愛されて成長できるのです!』
「そうですね、ウフフッ♪」
『もっと、もっと、もっと、凄いのです♪ここで学ぶですよー!』
こうしてイリナ・ストリチヤナは学園に入学(仮)したのだった。
俺とヘラの管理の元に……ね。
◇◆◇◆
次の日
十畳一間だった俺とヘラの愛の巣は、イリナの出現によって手狭になってしまったので、寮内で引っ越す事になった。
場所は地下。
事務局の中に地下への階段があり、そこから出入りするそうだ。
学園長が言うには。
「食堂は近いしスポーツ改革で交渉の多い事務局もすぐそこ。それに部屋は4LDK、各部屋には暖炉もあるし、浴室にはバスタブ付き。ここならアイラさんの花嫁修業も捗るでしょうし、イリナさんの管理もしやすいでしょう。」
との事。
トイレは食堂脇の共用を利用するのは前と同じ。
この地下室は寮建設時に作られたそうで、当時の学園長の私室だったらしい。
その学園長が退任して以降、使われていなかったそうで、今回特例として使用許可が下りた。
まあ騒がしくても女の子ばかりだから、むさ苦しいよりはよっぽど良いかな。
それにバスタブとはいえ湯船に浸かれるのは嬉しいよね♪
長期間、使われて無かったと聞いて、大掃除リターンズかと思ったのだが、賊の侵入時などの緊急避難用に、一年に一度は掃除がされていた様で、すぐに使えるのはありがたかった。
ベッドはあるんだけど木枠だけなので、只今布団類を絶賛搬入中である。
引っ越しに際し多くの事務局員がお世話下さったので、食堂の有料デザートを50名全員に御馳走しておいた。
アイラの私物は最上階から地下なので、すごく大変そうだったし、これくらい安いもんですよ。
支払いの金貨5枚はヘラとアイラも出してくれたので助かりました。
頑張ってもっと稼がないとな。
甲斐性なしでは情けないからね。
って、5歳なんですけど……。
朝日で目覚めを迎える事が出来ないので、若干、寂しくもあるのだが、こんな広い部屋に住めるだけでも感謝しないといけないかな。
地下は煤の換気が出来る様に、壁掛け燭台それぞれのすぐ上に、二階から外へと排気する細い煙突が沢山設置されていて不思議な光景だが、煤に悩まされる事はほとんどないようだ。
その為か天井は少し低め。
それでも俺は燭台に全く届かないけどね。
まあ地下室だからそんなものか。
贅沢言ってはいけないね。
こんな時、犬は呑気なものである。
さっきから皆が行き来している動線から外れた場所に陣取り横になっている。
人が通るのを見て数を数える様に、一人通れば尻尾をパタリと動かす以外何もしない。
まあ、そこが犬の愛嬌ある部分なのかもしれないけどね。
早く飼い主が見つかってくれると良いのだが……。
『フッカフカなのですよ~♪夢みたい♪』
「イリナさん、部屋で暴れない様にしてくださいね。それと明日からは研修を―――」
『だって凄いのですよ!アイラもこっちに来るのです♪』
「え、ちょっと?!きゃあっ!」
と、いった感じのキャッキャウフフ状態である。
嬉しくないとは言わない。
寧ろ最高の環境である。
美少女達が戯れる姿を、毎日無料で拝めるだ。
しかも絶世の美女の膝の上で、至高の触り心地と美しさを兼ね備えた、オパーイを枕にしてである。
この戦況に何故、我が戦艦の砲門は今だに沈黙を保っているのだ!
転生したのは良いが既に、精神年齢40歳である。
目の前でカラフルで可愛らしい布地が舞い踊る中で思うのだ。
仮に15歳で実践済みの二等兵になったとしても、心は既に50のベテラン傭兵ではないか!と。
魔法使い乙、どころの話ではないのだ。
50のおっさんが、お初を食い散らかすなんて鬼畜が許されるのだろうか。
クソうっ!
こうなったら何としても40代で戦地を踏まねばならん。
充填率10パーでも、ぶっ放してやる。
ぐへへっ、見てろよオパーイメダ性人達め。
今のうちに精々無邪気な姿を見せていばいい。
ショタの本気を見せてやる。
狙いブチ抜くぜっ!
―――早く早くぅー♪
自分マジ調子乗ってましたスンマセン!
可愛いは正義(笑)




