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余命1ヶ月
残念ながら、奥さんの余命は長くても1ヶ月です。
お医者様にそう言われた時、僕たち夫婦は泣き崩れた。
1晩中お互いに想いを吐露し、その度にお互い涙を流した。
泣き疲れていつの間にか眠ってしまい、気が付けば翌朝になっていた。
すると、妻は一眠りして落ち着いたのかこう言った。
悲しんでいる間に1日が終わってしまったわ。けれど、それはもう終わりにしましょう。残りの時間は楽しく過ごさなくちゃ。
死が刻一刻と近付いている身でありながら、僕よりも気丈な心を持って病と向き合っている。
あなたには私の分も生きてもらわないといけないのだから、泣いている場合ではありませんよ。
妻の言葉全てが、僕の心に深く響いた。
それからは徐々に笑顔が増えていき、たとえツラくとも決して顔には出さなかった。
そして、運命の日がやってくる。
妻は起き上がることも出来なくなり、お医者様が駆けつけるまで保つかどうかといった状態だった。
僕は妻の手を握り、妻も僕の手を弱々しくも握り返していた。
ねぇあなた、私はちゃんと、笑えているかしら。
声を出す力さえもほとんど残っておらず、言葉を聞き取るだけで精一杯だった。ましてや、笑顔を作れるだけの筋力なんて残っているはずもない。
けれど……。
あぁ、笑っているよ。
僕は妻にそう言った。
嘘ではない。少なくとも、僕には妻が笑っているように見えた。
あなたも、笑っていてね。
妻はその言葉を最後に、静かに息を引き取った。
最後の最後まで握ってくれていたその手にも、もう力は込められていない。
僕は妻の手を額に当て、言い訳をするようにブツブツと呟く。
今だけ……、ごめん……、今だけだから…………。
亡き妻の約束を破って嗚咽を漏らし、人生最後の涙を誓った。