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6 試験①

 分校の入試試験は一次試験と二次試験があって、一次試験で筆記試験を行い、二次試験では実技試験と組み分け面接を行うことになっていた。


 二月某日。宗人は本校にて、筆記試験を受けた。筆記試験を受けた受験生の数は627人で、ここから200人程度まで絞るらしい。


 筆記試験は午前と午後の部に別れ、午前の部は受験生の性格や思考能力を問う試験だった。この試験は毎年内容が異なる上に、評価基準が不明なので、ほとんど対策できないと言われている。そのため宗人は、準備をせずに、試験に臨んだ。


 今回の試験は、「上の絵(畑で土を耕す男の絵)を見て思ったこと」、「『魔法』とは何か?」、

「『上』と言われて連想するもの。また、その理由」、「砂漠の中で愛を見つける方法」の四つの問題と性格診断テストだった。宗人は小難しいことを考えず、思いついたことをそのまま書いた。


 午後の部は、中学校で習う必修科目の知識・能力を問うマーク式の試験だった。マーク式であるため、宗人はわからない問題があったら、適当に塗りつぶした。感覚的には、5割解けたかどうかだ。5割が良い数字であるかはよくわからないが。


「どうだった? テストの方は?」


 重文に聞かれ、宗人は悩ましい顔つきで答える。


「できることはやりました」

「そうか。受かっているといいな」

「はい」


 一週間後、試験結果が封筒で届いた。


 3人で封筒を囲み、宗人が緊張した面持ちで封筒を開けた。さすがの宗人もこのときはドキドキが止まらなかった。


「出すよ」


 戸松夫婦が固唾をのむ中、宗人は中から紙を取り出す。『合格』の文字を見て、3人は大いに喜んだ。


 そしてさらに一週間後、宗人は実技試験と組み分け面接を受けるため、再び本校を訪れた。分校では寮生活となるのだが、寮は四つの組に分けられていて、どの寮が適しているか、面接で判断するらしい。

試験会場は、本校の中でも真新しい建物にあった。受付を済ませ、案内された場所は、テニスコート二面分はある広い部屋だった。全体的に白く、光沢のある床に、魔法陣が規則正しく並べられていた。


 開始時間まで魔法陣には触れないで待てという指示だったので、受験生たちは壁のそばに立って、待っていた。宗人も壁に寄りかかって、時間まで待つ。他の受験生を眺めると、皆、自分の学校のジャージを着ていた。宗人も自分の学校のジャージを着ている。試験当日の服装として、自分の学校のジャージを着てくることが指定されていた。


「もしかして、お前、北町二中?」


 声を掛けられ、宗人は目を向ける。髪をツンツンに立てた爽やかな顔立ちの少年が立っていた。


「ああ、そうだよ」

「やっぱり! 俺、佐野翔太っていうんだ。お隣さん同士、仲良くやろうぜ!」

「柳瀬宗人だ。よろしく」


 翔太のジャージを確認する。他校のジャージはよく知らないが、翔太のジャージだけは見覚えがある。北町一中のジャージだ。


「宗人は今、緊張している?」

「別に」

「マジか。すげぇな。俺は今、めっちゃ緊張しているよ。わざわざジャージで試験するなんて、何をするんだろうな? 去年受験した人の話を聞くと、制服だったらしいが」

「らしいな。俺も先生から聞いた。先生は、激しい動きが要求されるような実技試験になるんじゃないか、と言ってた」

「俺の担任も同じようなことを言っていたな。制服は持ってきた? 持ってこなくともいいと書いてあったけど」

「一応」

「だよな。まさか、ジャージで面接を受けるわけにもいかねぇし」


 宗人は部屋に描かれた魔法陣に目を向け、魔力に対する感度を上げる。魔法陣は床の下で魔力供給線と繋がっていた。


「多分、あの魔法陣が何か関係すると思うんだが、心当たりはあるか?」

「ないね」


 箱を持った試験官が5人部屋に入ってきた。部屋は静かになって、受験生は試験官に注目した。女の試験官が声を上げる。


「それじゃあ、杖のような魔導具はカバンにしまって、カバンは壁のそばにおいたまま、魔法陣の上に番号が書いてあるから、渡されたカードの番号と同じ魔法陣のところまで移動してください。魔導具は絶対に身につけないでね! 魔法陣にはまだ乗らないでください。前の方から番号が小さくなっているわ」


 受験生が指示通りに動き出す。


「宗人は何番?」

「39。佐野は?」

「15。んじゃ、また後でな」

「ああ」


 魔法陣は全部で45個あったが、受験生の数は40人だった。宗人は一番後ろの列で、魔法陣の左隣に立った。40番の受験生と目が合う。黒髪のおさげで、涼しげな目つきのクールな印象を受ける少女だった。


 宗人は軽く会釈したが、彼女は何事もなかったかのように、試験官へ視線を移す。宗人は肩をすくめた。


「それじゃあ、まず、今回の試験について説明します。今回の二次試験は、皆さんにVRで魔物退治を行ってもらいます」


 受験生がざわつく。VRで試験? 進みすぎだろ。宗人は感心する。


「魔物退治の詳細なやり方は後で説明しますが、その前に準備の仕方について説明します。まずは皆さんにVR専用のゴーグルを渡すので、装着し、違和感や問題がないことを確認してください。試験官の皆さん、お願いします」


 宗人は試験官からメカニックなゴーグルを渡され、装着する。サングラスみたいに視界が薄暗い。とくに違和感はなかった。


「問題がある人はいませんね。それじゃあ、準備ができた人から魔法陣に乗ってください。あ、その前に魔導具がないことをちゃんと確認してね。誤作動を起こすといけないので」


 杖はちゃんとカバンに置いてきたので、宗人は魔法陣に乗った。


「今から皆さんに【浮遊魔法】を掛けます。気を付けてください」


 じわりと足元が温かくなって、浮遊感が生じた。珍しい体験だからか、短い悲鳴や驚く声が聞こえる。体は地面から20cmほど浮いたところで止まった。


「それでは今からVRを起動します」


 視界の中央に赤文字で「Log in」と表示され、視界が一転し、青空が広がった。宗人は驚きながらも注意深く辺りを観察する。瓦礫だらけの廃墟と化した街に、受験生たちが立っていた。他の受験生も驚きを隠せない様子で、装着しているはずのゴーグルは消えていた。宗人は目元を触ってみる。ゴーグルの硬い感触はある。


「皆さん、聞こえますか? 聞こえる方は手を挙げてください」


 天から試験官の声が聞こえた。宗人は指示通り、右手を挙げる。


「大丈夫そうですね。では、今度はその場で足踏みしてください」


 言われた通り、足踏みする。浮遊しているはずなのに、足元には硬い感触がある。


「ちゃんとできますね。できない方は手を挙げてください」


 手を挙げる者は誰もいなかった。


 それから5分ほど、VRが正常に作動するかを確かめた後、試験官は言った。


「それでは今から、試験内容の説明を始めます」

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