訪問
べ、別に旅路2日目のネタが思いつかなかったわけではありませんからね?
あれから丸一日経ってやっとのことで王都に着いたのだが、夜は学院への立ち入りは禁止されているらしく入れないので学校訪問は明日までお預けとなった。
さすが王都、煌びやかなレストラン街が立ち並び、周囲の家も全て超がつくほどの高級住宅である。日本なら兵庫の芦屋が高級住宅街として有名だが、ここはそれを優に越している。
そんなに金持ちが多いのかと思うが、それもそのはず、王都には基本的に貴族が住んでいるのだ。
貴族は社会的地位は平民よりも高いものの、その権限を悪用するのはタブーなのだというのが貴族間での暗黙の了解らしい。
だから平民との仲は想像していたほど悪くなく、むしろ友好的なようだ。もちろん貴族全員がそうというわけではないが。
貴族も学院に通っているようだが、平民と同じ一生徒として扱っているようだ。
これらは一緒に夜の王都を散布している時にクロムさんから聞いたものだ。やはり元先生に会えたのは大きかった。
さて、明日のために寝るとしますか。
◇
「ではそろそろ行ってきます」
「気をつけてくださいね」
俺はいつもより少し早めに起きて朝食を済ませてから出発した。実はクロムさんが学院の前まで送ると言ってくれたのだが流石に馬車で登校とか誰かいたら恥ずかしいし遠慮しておいた。しかも朝の王都は活気付いていて人が多いのでなかなか馬車が進みそうになかったからというのもある。
さて、チャチャっと用事を終わらせて王都見学をしよう。
「ここが学院かー、って昨日もきたけど」
生徒がいたら裏門を使う予定だったのだが、早く登校したのが吉と出てまだ学院の授業は始まっておらず生徒も見られないので正門を通っていく。なぜ裏門を使おうと思ったかって、大勢の制服の中に私服1人で校門をくぐる勇気がない、ただそれだけである。……だって恥ずかしいもん。
今回の学校訪問の目的はただ一つ、俺と一緒にミリアも入学させることだ。まあこれで無理と言われたら俺が辞めるだけだし特に入学したいという強い願望もないから特にやめても問題はない。……ミリアがぶーぶー言いそうだけど。
なんやかんやで学校長室前まで来た。昔から嫌だったんだよなぁ、職員室とかに入るの。なんというか変な緊張感があるからあまり好きではなかった。まあ好きな人はいないと思うけど。学校長室も職員室と同じ緊張感が感じられる。流石に今まで校長室には入ったことな……1回だけあったな。このまま学校長室前でウロウロあうるのも不審がられるし通報される前に入ろう。
2回ほどノックして定型文を言う。
「失礼します」
すると中から”どうぞー“という女性の声が返ってきた。学校長って女性だったのか。珍しいな……って言えば男女差別になりそうだな。
「おや、君はイマムラ リョータくんだな。私はここで学院長をしている、ノエル=アドマリアだ。皆は適当にノエル先生だったり、学校長と呼んでるから君も好きに呼ぶといい。それで、今日来た用事はなにかな?確か編入は1ヶ月後だったはずだが」
「はい。そのことに関して少しお話がございまして」
「そんなに固くなる必要はないよ。私もそういった対応をされるのは苦手でね。砕いて話すといい。とりあえずそこの椅子に座ってくれ。紅茶でいいかな?」
「はい。ありがとうございます」
なんというかあまり学校長って感じがしない。体育の先生と言われたら信じてしまうぐらいだ。しかも非常に若い。30代前半といったところか。身長は……170cmぐらいか。高っ。
髪型はポニーテールで、スレンダーでかっこいいお姉さんって感じだな。
「おまたせ。それで、話とはなにかな?」
「俺は今2人暮らしをしているのですが、ルームメイトも編入させてもらえないかと」
「……なるほど。その子の名前は?」
「ミリア=ハーヴェストです」
「っ!……ハーヴェストか」
「なにか彼女について知ってるんですか?」
「……少し長い話になる」
[newpage]
───ハーヴェスト家はもともと貴族だった。そう、5年前までは。
ハーヴェスト家はそこまで裕福な家ではなく、貴族の中でも中の下ぐらいの家だった。領民とは仲良くやっていたようで信頼も厚かった。領民と仲がいい貴族として有名だった。しかし、そんなある日、彼らの屋敷に黒の魔術師───黒の魔術師というのは今現在国が総力を挙げて撲滅させようとしているテロリスト集団のことであり、いつも黒いコートを羽織っていることから黒の魔術師と呼ばれている───が現れた。そしてハーヴェスト家の殆どが彼らによって殺された。宮廷魔導師が到着した頃には彼女、ミリアといったかな、以外は全員殺されていた。そして彼らが彼女に手を挙げる寸前で宮廷魔導師が黒の魔術師全員を無力化することができた。しかし、尋問しようと思った矢先、彼らは持っていた毒を自ら飲み、命を絶った。だから、なぜ彼らがハーヴェスト家を襲撃したのかは未だにわかっていない。そして一人残されたミリアは就く職もなく、仕方なく冒険者を続けているそうだ───
学院長が話し終えてから少しの間、沈黙が空間を支配した。
言葉が出なかったのだ。
俺はこの1ヶ月間ミリアと過ごして、彼女のことは割と知ってると自分で思い込んでいた。
でもそんなことは全くなかった。
話してくれればよかったのに……なんて、こんなこと普通言えるはずないよな。
「話してくれてありがとうございます。学院でするべきことが……見えたような気がします」
「……そうか。それは良かった」
「それはそうと、黒の魔術師って国民に公表してるんですか?俺、一度も耳にしたことがなかったのですが……」
「ああ、そうだな。国民には不安を生み出さぬようにと国王から口外禁止令がださ……れ……」
………嘘でしょっ!? ここまで喋っておいてっ!?
ああ、そうだなじゃないでしょっ!?
手で口元をおさえても遅いですよ……
「あ、あぁ〜まぁ〜その、なんだ、このことは内密に───」
「俺がするとでも?」
「いやホントお願いしますマジで私の首が危ないです」
いや、学校長が一生徒に深々と頭下げちゃダメでしょ。
ならもうちょっと俺の要求を飲んでもらうか。
「2つお願いがあります」
「……聞こう」
「1つはミリアの入学の決定、もう一つは”編入“ではなく1年生からの“入学”という形にしてほしいです」
「ふむ……1つ目はなんとかするとして、いいのか? 編入の方が早く卒業できるが」
「まだまだこの世界での知識が足りませんので入学の方がありがたいのです」
「この世界……? まあいい、わかった。そうしよう。そのかわり黒の魔術師のことは内密に……」
「わかりましたが情報が入れば教えて欲しいです。ミリアを少しでも支援できるといいので」
「……了解した。随時伝えよう。では、入学となれば3ヶ月後になるがいいな?」
「はい。……あぁ、そうそう、俺の名前はアルベルト=ローレンスという形にしてください。今の名前は何かと不都合なので」
珍しい名前だから2度聞きされることが多いのだ。面倒くさいことこの上ない。
「偽名か? 悪いがそいつはだm「国民に公開しますよ?」よしわかったこの私に任せろ」
「話がわかる先生で僕嬉しいですよー!」
「要件が終わったならさっさと帰りたまえ。君がいるとまた迂闊に口を滑らせてしまう」
「俺は別にいいんですけどね。では、また」
「一応入学試験も受けてもらうがいいな?」
「了解です。ちゃんと鍛えておきますね」
「そうしてくれ。ではまた3ヶ月後に」
こうして俺の学校訪問が終わった。
活動報告があります。