賭け
「トーライアス王国立魔法学院Sクラス編入招待状? なんだそれ」
今朝この封筒がポストに入っていたのだ。
俺は驚くよりも先にこの封筒が本当に国から出されたものなのかということを疑った。
だって、俺、昨日町でやらかしてるもん。
そのやらかしの原因のあの男の取り巻きが俺の帰宅を尾行していれば住所バレるし。
そいつらが俺をとっちめようと考えているならこの封筒の中に話があると集合場所と時間を指定すればまんまと俺は騙されて誘拐される───我ながらいい作戦だ。
ならばこの封筒の行き先はゴミ箱……だったのだがミリアの一言で俺の妄想は打ち砕かれた。
「これ……この紋章……本物だね」
「どうしてわかるんだ?」
「これはね、ある特別な魔法が付与された印鑑で押されているから偽造が不可能なんだ。わかるかな、このハンコに微々たるものだけど魔力が込められているでしょう?これがこのハンコの特徴なんだ。この印鑑を作ったのはあの伝説のAMっていう噂もあるんだ。……というか君もAMだったね」
「あ、あぁ。しかしどういう風にこのハンコを押しているんだ?」
自分が特殊な存在であること忘れてた……
そんなことは置いといて、大量の手紙や封筒にどうやって押しているのだろう。
おそらく王国からの手紙なんぞ数えることができないほどあるだろう。
まさか一つ一つ魔力を込めながら押しているわけでもなかろう。
……ホントにそうだったらその現場かなりシュールだよな。
まだまだ知らないことだらけだから、いろんな情報が入ってくることが非常に面白い。
「それがね、国家に関わっている人以外には知らされていないんだ。その中でも知ってる人は少ないようだよ。噂によれば数人だとか」
なんだそれ、なにか隠す事情でもあるのだろうか。しかしわからないことに悩んでいても仕方がないか。
「まあいいか。本物だとわかったことだし、とりあえず開封してみるか」
封筒を開けると中に1枚だけ手紙が入っていて、内容は封筒に書かれていることと全く同じものだった。
ーしかし、封筒には許可証と書いてあるのに、手紙には強制を促すようなことが書かれている。
……また学校に通うのやだなぁ。
しかしなぜ学院に国が絡んでいるのだろうか。
「なあミリア、この学院について詳しく教えてくれないか?」
「うん、そうだね」
───彼女曰く、この国は10年ほど前に他国との大きな戦争をしたらしく、あいなく惨敗したそうだ。
その結果、魔法使いが戦争によって激減し、次に攻められた時には負ける未来しか見えないぐらいまで追い詰められたらしい。
運良くその期間には敵国に攻められることはなかったようだが。
しかしまだまだ魔法使いの数が追いついていない状況に焦った国がある機関を作った。
それがこの魔法学院である。
これを設立してまだ間もない頃は入学希望者はほとんどいなかったのだが、”成績優秀者には宮廷魔導師になる資格が与えられる“との声明を出した瞬間入学希望者が一気に増えて今では超難関学院となっている。
この状況は国としても万々歳のようだ。
その宮廷魔導師というのは言葉通り国に仕える魔導師で、主に敵国が攻めてきた時や国内で問題が発生した時に真っ先に駆けつけて対処する、というのが仕事内容のようだ。
だから人々からすればヒーロー的な存在に近いものなのかもしれない。
そんなヒーローになれるチャンスがここで掴めるのだ。
そりゃあ入学希望者が殺到するわけだ。
「それで、Sクラスというのは?」
「うーんとね、この学院では4つのクラスに分かれているんだ。上から順にSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスという感じで構成されてるんだよ」
「そのSクラスに俺が招待されたってわけか」
「そ、そうだね」
流石に彼女も苦笑いを隠せないようだ。
「でも、その編入招待状っていうのは聞いたことないね」
……そう、確かにおかしい。入学希望者が殺到しているこの学院が編入者枠を作るだろうか。
普通に考えれば答えはノーだ。
そんなことをしたら主に落選した者およびその家族から反感を喰らうに決まっている。
学院の入学希望者も減ってしまうかもしれない。それなのになぜ……
「……だから国からってわけか」
”国を通じて“なら誰も口が出せないだろう。なんせこの国は王国だからな。
学院も悪知恵を使うもんだな。そこまでして俺を手に入れたいのか。
「強制みたいだし入学するしかなさそうだね」
少し悲しげな声で彼女はそう言った。
俺は彼女の顔を見て、どう返事すればいいのかわからなくなってしまった。
今まで一緒に暮らしてきたのに自分だけ都合があるからと言って立ち去るなど今までの音を仇で返すようなものじゃないか。
誰のおかげでこの家に住ませてもらっているのか。
そんなことも考えることのできないほど俺は馬鹿じゃない。
何かせめてもの恩返しできることはないのか……
「あのさ、ミリアは魔法学院に入りたいと思ったことはあるのか?」
「そりゃあもちろんあったよ。でも王都まで遠いし、そもそもそんなお金ないし……」
これは好都合だな。招待状を送るということはそこまでして学院は俺を手に入れたいんだろう。
ならば、俺が入学する代わりに俺の要求を飲んでもらうことにしよう。
もちろん彼女を入学させることだ。あと、同じクラスにしてもらおう。
彼女が学院に入ることには何も問題はないはずだ。
ミリアにはかなりの実力がある。
だから別に落ちこぼれるなんてことはないだろう。
なんせ3属性持ちだぞ? UMだぞ? 超レアだぞ?………俺が言っても説得力ないってか。そうですかわかりました。
しかしまずは今彼女がまだ学院に入りたいと思う気持ちがあるかどうかを確認しなければならない。いい返事を待ってるんだが。
「じゃあさ、今入学できるって言われたら、入る?」
「絶対入るね」
その返事を待ってたぜ。
「……まあそんなことできっこないんだけどね」
「それがそうでもないかもしれないんだぜ?」
彼女は意味がわからないというように眉毛をハの字にさせて首を傾げた。
「こうまでして学院は俺を手に入れたいわけだ。なら、俺の要望の一つや二つは聞いてくれるはずだと思うんだ」
「でも、そんなことができるの?」
「できるできないじゃない、やるんだ」
こんなにカッコつけておいてなんだが、今のところ勝率は5分5分だ。絶対に無理、なんてこと言われたら武力脅迫でもしてみるか。捕まるな。
「……ホントに私も入学できたら、また一緒に過ごせるね」
「!!」
おいおい、今のは不意打ちだろ……満面の笑みで言われたから心臓飛び出るかと思ったぞ。
「……あっ!!」
何かに気付いた彼女の顔がみるみる赤くなって今にも湯気が出てきそうになっている。なるほど、無自覚だったんだな。それはそれである意味悲しいが。
「ち、ちがっ!そ、そういう意味じゃなくてっ!!」
「なんだ、違うのか……」
「いや、違くないけどっ……もうっ!!」
面白いからついついからかってみたら顔をさらに真っ赤に染めて俺をポカポカと叩いてきた。かわいい。
こんな日常を途切らせないためにもこの駆け引きは勝たなければならないと俺は心の中で堅く決心した。
これぐらいの文字数で投稿していこうと思います。