実戦
4月なのに寒いですね。
あの日から1ヶ月が過ぎた。
はじめの頃はミリアと一緒に行っていたが2人の都合が合わない時ももちろんあり、そういう時は一人で行っていた。
彼女から大抵の基礎魔法を教えてもらった後は1人で行くことが多くなった。
だがしかし技術もまだまだ素人に毛が生えたぐらいの完成度で自慢できるほどではない。
ミリアによれば少し魔法の扱い方が雑なようだ。雑とか知るか。何が正解なんかわからん───ゲフンゲフン。
……ここで愚痴を漏らすのは良くないな、うん。
また、この1ヶ月間に少し忘れかけていた勉強をしようと思っていたのだが、なんとこの世界、科学および数学が非常に遅れていている。
でも、魔法学だけは発展しているというなんとも不思議な世界なのだ。
なぜ不思議なのかって、魔法というのは6つの属性からなるものであって闇属性以外は科学と関係があると言えなくもないだろう。
だからその応用を使った魔法はあるのはあるのだが、そのバリエーションが非常に少ないのだ。
複数の属性を使う魔法というのは、最低でも[[rb:Double Magician > 二属性保持者]](以降DM)でいる必要があるので、使える人は限られてくる。
しかしDMやUMからもそういった話はあまり聞くことがない。
もちろん単属性魔法の応用は何度も聞いたことがあるし、実際ミリアに見せてもらったこともあり、こちらはよく研究されているようだ。
しかし相性のいい2つの属性を同時に発動すると非常に効果が期待できるものだってある。
例えばの話だが、火山の噴火を応用して火魔法と水魔法を組み合わせて「水蒸気爆発」なんてことができるのではないだろうか。
そんなこんなで勉強というよりは「魔法化学」……なんてものはないけどそんな名前がつきそうなものを研究している。
毎日バイトもしてるよ。
うん、なんかね、普通の生活してるよね、俺。ラノベみたいな出来事は起きないんですかね。
俺だって某アニメみたく王都とか行って宮廷魔導師になりたいです。
そして王様なんかと仲良くなってお金も死ぬほどもらってワッショイしたいッス。
もうそろそろこの生活を変えたい───ゴホンゴホン。
愚痴を漏らすのはダメなんだったな。
「どうしたのよ、風邪でもこじらせた?」
「いや俺は夢を見ていたんだ。大きな夢だったぜ」
「ごめんちょっと何言ってるかわかんない」
サンドウィッチマンみたいなツッコミありがとうございます。俺、めっちゃ好きです。
「今日は冴えてるな。それはそうと今日暇か?」
「うん、今日は何もないよ。どうかした?」
「久しぶりに街を回ろうかなと思ってな。最近お互い忙しかったから一緒にいる時間も少なかっただろ」
「……なんだか付き合ってるみたい」
「ん?なんか言ったか?」
「なにもいってませーん。いいよ、デートだね?」
「んなっ、はぁー」
「支度してくるよ」
そう言って彼女は自分の部屋に入っていった。
……まさかここで一本取られるとは思ってもいなかった。よくあんなこと平気で言えるよな。
女子はどの世界でも男泣かせってか。
××××××××××××××××××××
その頃ミリアの部屋にて
「な、なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
「というか何アレ、無意識で言ってんの!?」
顔を赤く染めながら小さくしゃがむミリアだった。
××××××××××××××××××××
「結構歩いたな」
朝食を食べてからすぐ家を出たのに今はもうお昼時である。
この街にはショッピングセンターこそないものの中にあるものはほとんど揃っている。ゲーセンはないけどね。
呉服屋、喫茶店、本屋etc結構なんでも揃っているから生活に不便は全くない。しかも驚きなのがファストフード店があることだ。まあ正直言ってマ●ドナルド の方が美味しいが。
「じゃあそろそろお昼ご飯にしよっか」
今日は朝食をとるのが早かったせいかいつもよりお腹が空いている。
ファストフード店かどこかで食事をとるのかと思ったが、ミリアが背負っているリュックを開けたところで彼女が手作り弁当を作ってくれていたことを悟った。いつのまに作ったのやら……
「じゃーん! サンドウィッチを作ってきました!」
サンドウィッチなんて何年振りだろうか。前の世界でもあまり食べなかったから単語を聞いただけで心が踊ってしまう。
「サンドウィッチをチョイスするとは、ミリアさんさすがです」
「もっと褒めてくれてもいいよー。ささ、食べよ」
返事が適当になっているのは気のせいだろうか。まあいいや。
「では、いただきます」
久々のサンドウィッチになぜか少し緊張しつつ口に運んだ。
「んふふ」
「ど、どうしたの……?」
「いや、なんでもない。とても美味しいよ」
いやはや美味いものを食べると笑いがこみ上げるってのは嘘じゃないんだな。
あとこの味すごい懐かしい。
「うまかったよ、サンキューな」
「いえいえ、どういたしまして。お粗末様でした」
今度お返しに俺が日本の料理を振舞ってあげようか。………食材あるかな。
「よし、そろそろいこ『ドゴォォォォォン!!!』
「な、なに!?」
「……わからない。とりあえず行ってみよう」
お、なんだかラノベっぽい展開になってんじゃない?
「……な、何ニヤニヤしてるの……?」
「…………………」
バレてました。
×××××××××××××××××××
「いいから金を出せッ!!」
そこには黒のズボンに黒のジャケットを着た30代ぐらいの男強盗が刃渡り30cmほどの包丁を店員に向けながら金を要求していた。
強盗とか会いたくない輩ナンバーワンだよな。
「で、ですから、先程渡したもので全てです……ですから包丁を下げて……」
「うるせぇ!まだ持ってんだろ!全部出せよ!」
あぁ、しかもこいつすんげえめんどくせえ性格じゃねえか。
しかし、なぜみんな止めようとしないのか。野次馬がこんなにもいるのなら取り押さえれるのではないのか?
「なあミリア、なんでみんな止めないんだ?」
「何故って、見てわからないの?」
「……さっぱりわからん」
「あいつ、体から出る魔力量が異常なのよ。もしあいつが冒険者ならランクはAよりのBだと思うよ」
「なるほど、強すぎて手を出せないってか。それじゃあ俺が行ってもいいか?」
「なっ……ダメに決まってるでしょ!!」
めちゃくちゃ怒られました。まあ相手強いもんね。
「そこを何とか。対人実験とかしてみたいんだよ」
「……絶対に死なないって約束してくれるなら、許可します」
「やれるだけやってみるよ」
「それじゃあダメ。許可しない」
あれ、これで許しを請う事ができたと思ったんだが。
「そんな中途半端な言葉じゃないでしょ、あなたの命は」
「……………」
「わかった。絶対に死なない。必ず帰って来る」
「……絶対だよ」
「……だからミリアは先に家に帰っていてくれ」
「え……なんで……」
「家に帰ればお前が被害を被る可能性も低いし、なんというか……」
「なんというか?」
「その……おかえりって言って欲しいから……」
「……わかったよ。じゃあ先に帰っとくね」
「ああ」
そうして店を出た彼女が見えなくなるまで男に手は出さなかった。
……というか俺よくあんな恥ずかしい事言えたな……俺ってミリアのことそう思ってるのか……?
それはまた今度じっくり考えよう。今は目の前にいる男だ。
俺は野次馬を押しのけて一番前まで来た。さあ、ショータイムだ。
「そこにいる兄さん、そろそろやめたほうがいいんでないの?」
「誰だ、お前」
「あ、自己紹介からですか。はじめまして、亮太です。花屋でアルバイトをしています」
あ、男のこめかみに青いスジが入るのを見えてしまった。
流石にふざけすぎたか。反省反省。
「ま、まあいい。それで、俺を止めに来るとはいい度胸を持ってるじゃねえか」
「そりゃどうも。いやなんかね、こういうの見てらんないんすよ」
「ならばその目を今ここで永遠に閉ざしてやるよ」
「それは今後の生活に支障が出るのでご遠慮願いたいところでありますな」
「はっ、生き残る事前提なのか。ならその度胸に免じてお前から攻撃を仕掛けることを許してやろう」
「ふむ、随分と上から目線なのですね。まあいいか。ではでは」
なーんかこいつの性格気に入らないんだよな。
すんごい上から目線なのが気になるっていうか。
はっきり言ってうざい。
強盗だし手加減はいらないよな。
それじゃあこの1ヶ月間俺が研究してきた成果を発揮させようじゃないか。
とりあえず基礎炎魔法を唱えてっと。
“炎よ出でよ”
すると男が笑いを含んだ声で話しかけてきた。
「そんな初歩的な魔法で俺を倒せると思ったのか。随分と舐められたもんだな」
よし、とりあえずうざいから無視します。
これで終わるわけねえだろバーカ。
あかん、イライラしてきた。一旦落ち着こう。深呼吸深呼吸。
1ヶ月前のあの日ミリアは魔法のことを自己暗示だと言っていた。
その考えがあっているならば今から出す魔法は成功するはず。
……というか何回か成功させてるんだけどね。でもここで失敗したら超恥ずかしいじゃん。
だからね、失敗できないんすわ。
俺は一酸化炭素を酸化させるイメージを思い浮かべて炎の色をオレンジ色から淡青色に変えていく。
「……は?」
男が目を丸くさせながらそう呟いた。
いやまだ序の口ですからね。
俺は淡青色の炎を燃焼させながら並立してある物質を思い浮かべて燃焼を続けていった。
すると炎の色がみるみる淡青色から緑色に変色していく。
お分りいただけただろうか。そう、俺はカリウムを思い浮かべながら燃焼を続けていた。
俗に言う炎色反応ってやつだな。
全くどこからカリウムが湧いてくるのかは全く以ってわからんが2週間ほど前ふと思いついたので試してみたら成功しちゃったって感じですね。
これには男も口をあんぐりと開けて今目の前で何が起こっているのかとでも言いたげな様子だ。
うん、俺も言いたいです。
炎色反応って原子が加熱されることによって電子が熱エネルギーを吸収して外殻に移動するが、その状態が不安定なせいで元のコースに戻ろうとする。
そのときに放出される熱エネルギーが光としてあらわれるんだっけか。
アルカリ金属とアルカリ土類金属と銅に現れるんだよな。
「な、なんだよ、それ……」
あれ、見えにくかったかな。……って絶対この解釈間違えてるよな。
まあいいか。いい機会だしみんなにも見せてあげよう。
今出している炎はライターほどの小さな炎なのでもっと大いきくしてみよう。
俺は炎に酸素の供給をイメージして1mほどの緑色の炎を作った。
(ドスッ…………)
あ、あれ、男さん(俺命名)が白目向いて倒れてしまった。泡も吹いてるし。
………ってか俺まだ攻撃してないよね。炎出しただけだよね。
まあいいか。さっさと捕まえましょう。
俺が男の手首足首を近くにあった縄で縛り終わったところで耳に大きな音が聞こえた。
『ウォオオオオオオオオ!!!』
な、なんだ、びっくりした。
『ありがとうございます、魔術師様!』
『流石です、魔術師様!!』
え、あ、俺、魔術師ですか?
……まあ悪い印象は持たれてないっぽいしいいか。
すると後ろから今にも泣きそうな声で話しかけられた。
「お助けいただいてありがとうございます、魔術師様!」
「あー、いえ、それよりお怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です。本当にありがとうございます」
こんなに深々と頭を下げられても少し困ってしまう。
でも怪我がなくて本当に良かった。
「それはよかった。これからは気をつけてくださいね」
「はい!!」
威勢のいい返事が返ってきてホッと安心する。
しかし鳴り止まない歓声はどう止めたら良いだろうか。
これだけうるさくしていれば何事かと野次馬が集まるばかりである。
とりあえず手を上にあげて勝利を勝ち取ったとでも言っておこう。
『ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
うぉ、さっきより大きくなってしまった。やっちまったな。
ここはいっそこの場所から脱出しよう。
えーと、姑息な手だけど、ごめんね?
「あッ!!!!」
俺は空を指差す。
すると歓声がシンと止んで全員が俺が指差した方に頭を向ける。
よし、この間に!
俺は誰にも気づかれないようサッとこの場所から脱出した。
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「あの子、魔法の才能がありますねぇ。フフフ、いい人材をやっと見つけました。あの子を優待生として私の学校に入学させましょうか」
ただ一人、リョータの必殺技に騙されなかった何者かがそう呟いた。
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「ただいま」
「おかえり」
エプロン姿のミリアが玄関まで来てくれた。
「お疲れ様。今日はリョータの好きなご飯だよ」
「ありがとう」
「うん」
この日はぐっすりと眠れた。
しかし、次の日の朝……
「リョータ!起きて!これ、この通知がきてるよ!」
ポストには、トーライアス王国立魔法学院Sクラス編入招待状と書かれた封筒が届いていた。