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異世界転生物語  作者: せろり
2/6

実験

魔法って便利ですよね。







あの日から1週間が過ぎた。


とりあえず寝泊まりする場所は確保したので八百屋のおっちゃんに礼を告げて住み込みのアルバイトを辞めた。

八百屋では給料=宿泊だから賃金は一切もらっていなかったのだが、朝昼晩ご飯を出してくれたのはとてもありがたかった。


しかし今度はお金がもらえる仕事につかないといけない。

ミリアと相談した結果、今はミリア家の近くの花屋で働かせてもらっている。

賃金はあまり多いとは言えないが、そのことに関して今のところ全く文句はない。


花屋というのは意外にも人との出会いが多い場所で老若男女様々な人が訪れる。

地球では花屋に行ったこともなかったのでなかなか新鮮味のある仕事だ。


沢山のお客様と話しているうちにある程度顔は覚えてもらえたらしく街中を歩いていても花屋の子だといって声をかけてくれる人もいるのでその都度うちの花屋の番宣をしている。

そのおかげなのかわからないが、俺が働いてから収益が前より3割ほど上がったようだ。


たまに果物や野菜のお裾分けをもらえるときもあり、スマイル0円どころかスマイルぼろ儲け状態だ。


それで花屋で稼いだ給料の半分はミリアに渡している。

最初はいらないと拒否されたのだが俺としても住ませてもらっているので引き下がることができない。

結局半分を渡すということで落ち着いた。

もう半分は何か大事なことのために貯めている。



そして今日は花屋も休業日で特にすることがなく暇を持て余している。

前世界では家で何もせずにダラダラと過ごしていることについて何も思わなかったというかそっちの方が楽で好きだったのだが、ここ最近なにかといろいろなことがあり過ぎて暇だと思うことがなかった。

そのせいか何か行動を起こしたいという衝動に駆られている。


何かすることはないかなと頭の中を模索しているとある案が頭をよぎった。



「なあミリア、これから何か予定あるか?」


「今日は特に何もないかなぁ」


「じゃあさ、俺に魔法を教えてくれないか?」


「あ、いい機会だね。いいよ、じゃあ出る準備を整えましょー」


「おー」


「ちなみに今から行くのは魔術実験場ってところだけど、知ってるかな?」


「聞いたこともないな。あまりこの街回ってないし」


「ならそんなに遠くないから今から行こっか」


「おう」


俺のやる気スイッチが入った……気がした。



××××××××××××××××××××



「へぇ、ここが魔術実験場か……そんなに大きくないな」


「そうだね。初めてここにきた人はみんな口を揃えてそう言うよ。まあ気持ちは分からなくはないけど」


魔術実験場なんて言うのだからもっと大層なものなのかと思いきや全くの逆だった。

大きさで言えばコンビニぐらいが妥当ではないだろうか。

こんなところで魔法なんぞ起動したら建物ごとふっ飛んでしまうのではないかと思ってしまうぐらいだ。


そんなことをぶつぶつと呟いているとミリアが俺の右腕を引っ張ってきた。


「何事も外見で判断しないことをお勧めするよ。ほら、行く中へ入るよ」


そう意味深なことを言いながら俺はため息をひとつついてから引っ張られる腕のなすままに部屋へと入っていった。



中に入るとそこには何もなく中心の地面に一つだけ魔法陣が描かれているだけであった。


なんだ、中も何もないじゃないかと思っているとミリアはおもむろに前方へと動き出し魔法陣の中心で立ち止まった。


そして右手を前に突き出し、



「開け、知悉せし神よ、その力を与えんとせん」



そう唱えるとガシャンッという大きな音とともに前方の床が凹み───もとい階段が形成されたようだった。……ということは魔術実験場というのはまさか───



「多分リョータの考えていることで合ってると思うよ。そう、魔術実験場っていうのは地下にあるんだ。だから言ったでしょ、外見で判断しないほうがいいって」


そう言うと彼女はウィンクを俺に投げつけて階段へと向かって行った。



……い、いやまあこれも予想の範囲内だし。うん。



××××××××××××××××



「うわ、でかいなここ」


「さっきもっと大きいと思ってた、なんて言ってた人は誰だったかな?」


「誰だよ、そんなこと言ったやつ馬鹿じゃねえの」



……横からものすごい視線を感じるが俺が知らんとばかりに肩をすくめると彼女は大きなため息をひとつついて視線をそらした。



それにしても地下にこんな施設があるとは思ってもいなかった。

よくこんなに立派なものを地下に建てられるよな。

いずれ学びたいものだ。



「さあ、それじゃあ始めましょうか」


「よっしゃ、どんとこい」


「おぉ、威勢がいいね。それじゃあまず基本の炎属性からやっていこうか」



そういうと彼女はおもむろに右手を前に出した。


「火属性、もとい炎属性のすべての魔法の詠唱には”火“または”炎“という言葉が入るの。例えば……一番基本的なものでいくと───」



“火の力よ”



途端に彼女の右手からオレンジ色の……ライターのような火が生成された。


初めての魔法に驚きを通り越して呆れてしまう。


だって手から火が出ているんだぞ。



「な、なにその顔……本当に魔法見たことないって顔してるね」


「今回初めて見たよ」


「よくそれでこの街にいれたと思うよ。この街の周辺って結構魔物多いので有名なのに……まあとりあえずやってみましょう」


「では……いざ!」


俺は少し興奮気味に詠唱してみた。



“火の力よ”



不思議なチカラによってかき消されてしまった!……なんてことではなく、魔法の発動が失敗したのだ。

一体どういうことなのか。

困惑の目で彼女を見ているとその回答が返ってきた。


「みんな最初はうまく行かないんだから気にする必要はないと思うけど、ひとつだけコツを言っておくね。そもそも魔法っていうのは自分の頭でイメージしたものがそれに近い形で現れるものなんだよ。だからまあいわば究極の自己暗示ってやつだね。慣れれば詠唱なしでできるけどその場合は魔力量の減る量が多くなるんだよ。だから詠唱は一番効率よく魔法を放てる言葉なんだよね。っといっても無詠唱でできる人なんて宮廷魔導士にも数人しかいないんだけど」


「なるほど、イメージか。たしかに想像力は働かせていなかったかもな。じゃあ改めてもう一度」



“火の力よ!”



すると俺の右手から現れたのは見慣れた青色の炎だった。

そう、俺が想像したのは理科の実験でほぼ毎回使うもの、そうブンゼンバーナーである。

みんなが一度は経験したことある空気調節ネジとガス調節ネジがどっちだったかごっちゃになるアレだ。

それにしても魔法を発動している本人はまったくもって熱くないしガスとか空気の量とか気にしないで整った炎を出せるし、全く魔法様様だな。

ミリアに褒めてと言わんばかりの顔を向けてみるが彼女の様子がおかしい。

2回目で成功するのって割と珍しいのか。

しかし彼女が口にした言葉はそんなことではなく、なぜか驚愕する言葉だった。



「…な、何それ……?」


「な、何って、ただのものすごい安定した炎だろ?」


「こ、こんなの普通じゃないよ!だって……だって私、青い炎なんて見たことない……」


おっとここに来て衝撃の事実、この世界に青い炎の概念ってないのか?

いやしかしミリアは一般人だから知らなくてもおかしくはないのか……ま、世の中広いってことか……ってここは異世界か。



「ね、ねえ、この炎ってどういう原理なの?」



ここで俺は説明のために左手に先ほどミリアが生成したオレンジの炎を出現させる。

それでは授業を始めます。


「いいか、これがミリアがさっき作った炎で、こっちが俺が作った炎な。なぜ色が違うかというと空気の量に違いがあるからなんだ。そう、オレンジの方が空気……まあ厳密にいうと酸素だけど……が少ないんだ。だからゆらゆらしているだろ?でも青色の炎は安定しているよな。実は火っていうのは青色の方が温度が高いんだ。ほら、星とかでも青色の星の方が温度が高いっていうだろ」


「空気が少ない……わかんないなぁ。あ、そうそう、さっき言ってた”サンソ“って何?」


「う"……まあ気にするな。どうせ知らないと思った!」



化学が遅れているこの世界で酸素と言ってもわからないだろうと思った。いや、わかる人もいるだろうけど一般市民が知ってるとは思わない。大丈夫だ、酸素知らなくても全然生きていける!



「次、次の魔法を教えてくれよ」


「そ、そうだね。この調子だと夕方までかかっちゃいそうだけど……じゃあ次は───」



××××××××××××××××××××××××



「いやー、疲れた疲れた」


「こっちの方が疲れたよぉ。毎回毎回驚かされたんだもん。ほんとリョータっていろんなこと知ってるんだね」


「まあこっちの一般人よりかは知ってるかもな。今日は助かったよ、ありがとな」


感謝の意を込めて頭を撫でると彼女の顔がほんのり赤くなった。


「今日はリョータの好きな料理作っちゃおっかな」


「ミリアは料理も家事もできるし、なんの心配もなく嫁に出せるよ」


「ってお父さんか!」


そう冗談を交わし、笑いながら帰路を歩いていった。





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