第七話 海を越えて
第七話 海を越えて
2236年 日本 夏の終わり
眼前に広がる海
大陸から最も近い船着場にカイたちはたどり着いた。
「わぁ〜、着いたぁ。意外と早くついたね」
サヤが両腕を天に伸ばし背伸びをする。
「大陸に渡ってからが長いぞ。広大だからな。」
つくまでにどのくらいかかるのか。」
サヤはこちらを向いてそしていった
「それでも行くんでしょ。知るために、すべてを…」
そしてサヤは目の前の大きな海に視線を向ける。
「おお、おふたりさん。どうしたんだい?」
それを見ていた漁師らしき人が話しかけてきた。
「あの。向こうの大陸に渡りたいんです。
」
カイは漁師らしき人と海の向こうを見ながら言った。
「大陸のほうか。向こうにも揚げているから乗せて行ってやってもいいぞ
漁師らしき人は僕たちにそう言った。
「本当ですか。ありがとうございます」
カイは礼を言う。
カイもサヤも大陸への手段が出来たことで喜んだ。
「で、何時行って貰えるんですか?」
まさかすぐだったりして
「今すぐ向こうに行くんだ。今乗らなければ明日だぞ。」
今すぐらしい。話が早い。
しかし、明日までここで待つのも勿体無い。
「今すぐ行きます。乗せて行ってください」
カイは思った。こうなったら、すぐいったほうがいい。
カイたちは船に乗り大陸へと向かっていた。
船に乗る前に話していた漁師らしき人は、実際に漁師で自分の船を持つ船長だったようだ。
「これが日本海さ。」
船長は両腕を一杯に広げてカイたちに言った。
「まぁ、船酔いはするけど」
カイの言葉にサヤはカイの顔色を見て言った。
「大丈夫?実際に渡るっていうのも大変みたいね」
サヤは心配そうにしている。
「それもそうだが、この海には魔物が住んでいるらしい。よく船が難破するから」
船長はカイとサヤにそう言った。
サヤはきょろきょろと船を見回して言った。
「それは、この船が・・・」
とっさにカイはサヤの口を塞ぐ。
「ん〜〜!」
口を押さえられたサヤの口からは言葉にならない音が漏れる。
「ああ?」
船長は不思議そうにカイたちを見た。
「な、なんでも無いです」
サヤの口を押さえながらカイは言った。
分かりきったことだと思う。船がボロボロだ。
この船で本当に渡れるのだろうか。
これなら簡単に難破してしまうかもしれない。
「・・・・」
船長は無言で行ってしまった。
カイがサヤの口が手を離す。
「ぷはぁ。何すんのよ」
サヤは困ったといった顔だ。
実際に困っているのはこっちなのに。
「おいおい、本当のことを言ったら俺たち海に落とされるぞ」
「他にいい船無かったの?」
「無かったよ。他の船に行って聞いてみたけど、向こうの大陸に行く船はこの船だけらしい」
カイは本当に困ったといった顔をして言ってみる。
「陸に着いたら、その後は陸路を進んでいくんだね。」
サヤはカイに当たり前ともいえる言葉を言う。
「海路のみであそこまで行く方法なんてないよ。必ず陸路は必要になる」
カイは馬を見る。船長に無理を言って乗せてもらったのだ。馬無しだとこれからが大変になる。
「遠いからね。仕方ないけど」
サヤは背伸びをしながら言った。
そして続けた。
「だけど・・・」
「だけど?」
カイも言葉の部分を繰り返し、その後の言葉を待つ。
「それって、この船がボロいことと全く関係ないよね。」
また船がボロであることに話を戻そうとするのか。
サヤの言葉を聞きながらカイはそう思った。
そして、サヤに言った。
「仕方ないだろ。ただで乗せてもらえたんだから。」
「まぁね、だけどボロすぎよ!」
サヤは不満たっぷりに言った。
実際ボロいが仕方が無いんだ。俺たちにはどうすることも出来ない部分だ。
「あまり大きい声だすと、陸まで泳いで行くことになるぞ」
カイはサヤへ言葉の攻撃をしてみる。
「そ、それは勘弁してよ」
カイの言葉はサヤに命中したらしい。
「おとなしくしていよう」
カイはそう言って西に沈む夕日を見つめた。
夜
カイとサヤは毛布に包まり木箱の上に寝ていた。ここは大陸へ運ぶものを入れていく部屋。船長は二人一緒に寝るならここしかないと二人に言っていた。
「うう〜ん。」
カイは寝返りを打つ。
ね、眠れない。しかも、寝ている間も船は揺れている。酔って気持ち悪い。
カイは体を起こす。
一息ついてサヤを見た。すやすやと寝ている。
サヤのその神経。俺も欲しい。
カイはそう思って再び横になる。
深夜
カイは波の音に目が覚めた。
「ふぇ……はぁ?」
そして気が付いた。部屋の中が水浸しだ。
それに木の板を割る音が、外から入ってくる風の音とともにかすかに聞こえる。
「おい、起きろ、起きろよ。」
カイはサヤを起こしにかかる。何かがおかしい。
「ふぁ?おはよう」
サヤは寝ぼけているらしい。
「おはようじゃねぇ。なんかおかしいんだよ。」
カイはそういいながらサヤの体を揺する。
サヤはカイの言葉を理解した途端。カイを見て言った。
「え、ええ。」
そのままサヤは、
「ひとまず出てみようよ。」
そう言って木箱から降りる。
「きゃ!海水?」
降りた途端足が液体の中に入った。液体といってもこの場合海水以外に考えられないけど。
カイも木箱から降りる。海水の冷たい感触が足から脳に伝達される。
足首まで浸かっていた。おかしくないか。
「ひとまず外に出よう。」
カイはサヤの手を取って外への扉へ向かう。
多くは無い荷物を背負って。
そこで扉は誰かの手によって開かれた。
それは船長だった。
「お前たち大丈夫か。」
船長の声が部屋の中に聞こえてきた。
「はい。なんとか。」
答えながら二人は船長とともに外にでる。
海を見ても別に荒れているわけではなく、風が少し吹いている程度だった。
「何が起きたんだ。」
カイは現状がよく分かっていない。サヤも同様に。
「船の底に穴が開いたんだ。早く予備の船へ」
船長の声は焦っていた。沈没まで時間がないということか。
「待って、馬が。」
サヤは馬が居るほうに目を向けた。
馬は今は海水に浸った船尾に繋がれていた。
カイはサヤのほうを見て言う。
「今はそんなのかまって…」
その瞬間馬は巨大な魚の群れに押しつぶされた。
「なっ、なんだありゃあ!」
カイは叫んでいた。馬に食らい付く巨大な魚は今まで見たことの無い大きさっだった。
自分の身長の半分ぐらいはあるんじゃないだろうか。
馬の叫び声と何かが砕かれる音がする。惨劇だ。
「早くするんだ!」
カイは船長の声で現実に引き戻される。
呆然とするサヤの手を取って予備の船に乗り込む。船長は最後に乗り込んで言った。
「奴らが船に穴を開けたんだ。」
奴らのせいなのか。
既に乗組員の何人かは乗っていた。
しかし、昼間会った人数よりも少ない。
まさか。
カイは恐怖を感じた。
予備の船は本体から離れていく。
「死ぬ気で漕ぐんだ。漕ぎ続けろ!」
船長は叫んだ。
止まったら殺される。確実に。
俺たちを含め、みんなで必死に漕いだ。
遠くに明かりが見える。港の光だ。
「頑張れ。港に入るまでだ。」
船長は叫ぶ。本気で。
「うおぉー。」
乗組員の一人が叫んだ。
はじめは船長の呼びかけに乗組員が反応したと思っていた。
しかし、違った。
顔面に奴がかぶり付いたのだ。
「大丈夫か!」
船長が叫ぶ。
いや、大丈夫じゃないだろ。
その乗組員は絶叫したまま海に落ちていった。
「いっ、いやぁ〜〜〜。」
サヤは泣きながら叫んでいた。
「く、くそぉ!」
カイは何も出来ずにやつらのえさにされていくことが悔しかった。
漕ぐんだ。今は漕ぎ続けるしかない!
「はぁはぁ…」
「つ、ついたぁ。」
カイもサヤも疲れきっていた。
なんとか港に着いた。今は砂浜に寝転がっていた。
もう日の出が見えそうな明るさになっている。
船に乗っていた人間の三分の一は奴らのえさになってしまった。
「悪いな。こんなことに巻き込んじまって」
船長が来て、、寝転がって休んでいる二人に言った。
二人は起き上がる。
「いえ」
カイが言うが、力が無い。
「かわいそうです。海に落とされていった人たち」
サヤも力無い。
二人とも本当に疲れていた。
「まぁな」
船長はそう言って海を見る。
今日のことでどれだけ仲間を失ったか。
カイたちはなんとも言えなかった。
船長はその場に座って言った。
「あの魚は日本を挟んで反対側から来たらしい。どうやって来たかは分からないが、十年近く前からこういうことが起こるようになったんだ。」
そして、カイたちを見て船長は続けた。
「それと、これから先、あんな奴らが一杯出てくるって話だ。」
「…」
カイたちは何も言えない。
今日以上の生物がこれからどんどん出てくるというのか。
「気をつけろよ」
船長は二人に言った。
「わかりました。ありがとうございます」
カイは船長に礼を言う。
ここからは陸路だ。馬も無い。
それでもここまで来たんだ。
「行こう。サヤ」
カイはサヤのほうを見ていった。
「うん」
覚悟は出来たようだ。
もう簡単には戻れない。
二人は港を出て西に続く道を歩いていった。