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境界線  作者: 薙月 桜華
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第四十八話  ひとつになること

   第四十八話  ひとつになること


2238年 春 ヨーロッパ


 僕らは町へ続く橋を渡る。湖の水位が上げっていることはすぐにわかった。僕らは橋を渡りきり、湖岸沿いに走った。すでに地面が浸水していて足を地面に付ける毎に水が跳ねる。途中、すれ違う人たちを何人も見た。その都度、この町から避難するように言った。

広場に着くと、沢山の人たちが居た。中には武装した人たちも居る。僕がその中でも偉そうな人に話しかけると。

「一般人は早く避難しなさい。」

さらっと言われた。僕たち一般人だけど、一般人じゃない。

「僕らも戦います。」

僕は彼に言った。彼は僕らを良く見た。そして一度大きく頷いた。

「そうか。私はアルベルトだ。よろしく頼む。」

アルベルトは僕らにそれぞれ握手をして挨拶した。

「市民の避難はどうなんですか。」

 サヤはアルベルトに聞く。

市民の避難を早急にしなければ、湖が血に染まりかねない。

「市民の避難は順調だ。もうすぐ完了する。」

「なら、大丈夫ですね。放たれた魚のことを知ってますか。」

僕はアルベルトらに聞いた。みな首を横に振る。僕は一度頷くと口を開いた。

「あの魚は人を食い殺す恐ろしい魚です。僕は怪魚と呼んでいます。僕たちも昔襲われました。数はわかりませんが、巨大な怪魚が一匹混ざってます。戦う場合は死を覚悟しといたほうがいいと思います。」

僕はアルベルトらに説明する。みんなの目がさらに真剣になった。そして、僕は続ける。

「それと、水位上昇は止められないんでしょうか。」

僕の言葉にアルベルトは首を横に振る。浸水しきってからじゃないと無理みたいだ。

「僕からは以上です。サヤは。」

僕はそう言いながらサヤを見た。

「みなさん。気をつけてください。」

サヤはみんなにそれだけ言った。

「よし、みんなそれぞれ散らばってやつらを迎え撃て。行くぞ。」

アルベルトの声にみんなそれぞれに散らばった。僕は湖を見る。そして、剣に触れた。

さて、怪魚狩りといきますか。



僕らは広場で怪魚を迎え撃つことにした。

水位はどんどん上昇して、少しずつ行動しづらくなっていく。

僕らはお互いの背中をつけて、別々の方向を見た。怪魚はどこから現れるか分からない。

凄く静かだ。静か過ぎて恐い。

「ぎゃあ。」

近くから悲鳴が聞こえた。怪魚が食らい付いたか。

「来た。」

サヤの言葉に、彼女の見る方向を見た。

怪魚が二匹が僕らに向かってきた。僕はサヤから離れて一匹を引き寄せる。

飛び出すかそのままか。飛び出さずに足に食らい付いてくるなら、上から突き刺すのみだ。

怪魚は水中から飛び跳ねて僕に襲い掛かってきた。

「うりゃあ。」

僕は大剣を怪魚めがけて横に振る。僕らはあの時とは違うんだ。

怪魚は大きな口の真ん中から綺麗に真っ二つに切れた。剣を振り切ると、二つになった怪魚は水中に落ちた。すぐに赤い血が湖の水を染めていく。サヤを見れば、もう一匹のほうも倒したようだ。よかった。

「大丈夫か。」

僕の声にサヤは頷いた。僕らは再び怪魚を探し始めた。

すると、怪魚一匹が近づいてくる。僕は構えた。怪魚は飛び跳ねて来ることは無い。

怪魚が足元に近づいたところを大剣を振り下ろした。しかし、寸前で逃げられる。そして、足に噛み付いた。

「ぐあ。」

足に痛みが走る。サヤの声が聞こえたがそんなのかまってられない。痛みをこらえて足に付いた怪魚へ大剣を振り下ろす。今度は怪魚に突き刺さる。大剣が刺さった怪魚を引き離した。

噛み付いた力が強かったために、怪魚を引き剥がすときにいくらか肉を裂いた。水にしみて痛い。しかも、海水になってきているために、なお痛い。

僕はひざに手を置いた。この状況でまた来られたら今度は殺されるだろうな。

「大丈夫。」

サヤが周りを見ながら近づいてくる。僕の足の状況を見て続けた。

「まあ、大丈夫そうね。」

サヤはそう言って行ってしまった。いや、そんな大丈夫なんて軽く言われても困るんですけど。足持ってかれたわけじゃないんだから大丈夫といえば大丈夫なのかな。

サヤは新しく見つけた怪魚へ攻撃を始めていた。

痛がっていたって、今はどうしようもない。僕は我慢して怪魚を探し始めた。

 すると、向こうからアルベルトが現れた。

「大丈夫か。」

彼は叫びながらこっちにくる。

「大丈夫です。」

サヤは怪魚を始末した後、アルベルトを見て言った。

「二人とも凄いな。」

アルベルトは僕らが始末した怪魚たちを見て言った。そして、続けた。

「こちらも見つけた怪魚は全て始末した。あとは大きい奴だけだろう。」

あとは、あの巨大な怪魚だけか。しかし、この水位ではどうだろうか。既に、水位は身長の半分を越えていた。

「これじゃ。うまく動くことは出来ないな。」

僕は水の中を移動しながら言った。

「このまま水中に居るのは危険だ。建物の上に移動しよう。」

 アルベルトの提案で僕らは建物の上へと上る。危険は回避できているが。根本的な解決には至っていない。この状態でどうやって巨大な怪魚を叩くんだ。

「ここからどうする気なんですか。」

僕はアルベルトに聞いた。

「おい。大丈夫か。」

少し遠くから声が聞こえる。赤い屋根を伝ってこちらに来るのはアルベルトの仲間たちのようだ。最初に居た四分の一ぐらいの人間が今ここに集まった。残りはそれぞれだ。

「巨大なやつがこっちに来るぞ。」

仲間の一人が言うには、町を流れる大きな川を巨大な怪魚が移動しているとのこと。

「行ってみよう。」

僕はサヤを見て言った。サヤは頷く。そして、僕はアルベルトらを見て続けた。

「待っててください。怪魚を連れてきます。」

僕らは川へ向かって赤い屋根を伝って移動した。屋根から落ちて川に落ちなきゃ大丈夫だ。

 川に着くと、向こうから巨大な怪魚が泳いできた。

「あいつだ。」

僕は巨大な怪魚を見ながら言った。相手も止まって、水面から頭を上げてこちらを見た。

相手は先ほど獲り損ねた獲物を再び見つけたようだ。僕らが移動すると、相手も移動する。

僕らは広場まで巨大な怪魚を誘導することにした。巨大な怪魚を連れて再び広場へ戻った。

アルベルトたちが居るところに戻る。巨大な怪魚はずっと僕らを狙っている。

「大きい奴を連れてきましたよ。」

僕はアルベルトたちに言いながら巨大な怪魚を見た。そして、続ける。

「相手は僕ら二人を狙ってます。僕らがおとりになりますから、他の皆さんは奴の背後をとって下さい。」

アルベルトたちは、屋根から巨大な怪魚を見る。

「ここから飛び降りろってことかよ。」

仲間の一人が言い出す。そりゃ、他に方法あるのかよ。

「他に方法は無いだろ。この二人が先に行ったらそのまま奴の胃の中に納まるかもしれない。」

アルベルトは仲間にそう言った。そして、巨大な怪魚と浸水した広場を見て続ける。

「飛び降りる場所が屋根である必要は無い。二階からなら大丈夫だ。」

飛び降りる場所は限られるが、失敗したときでも生きていられるだろう。

「よし、みんなやるぞ。」

仲間たちはそれぞれ二階へと移動した。

アルベルトらが二階へ行ったのを確認すると、僕はサヤを見た。

「サヤ。ここに居るんだ。」

僕はサヤに言った。そして、二階へと向かう。

「ちょっと。」

 サヤの声が背後から聞こえる。

サヤも狙われているのなら、ここに居る限り相手は狙ってくるだろう。

ならば、僕もアルベルトたちといっしょに飛ぶだけさ。

サヤはおとりで我慢だ。危険すぎる。

僕は、屋根から屋内に入って、二階に着いた。

壁に背をつけて外を見た。巨大な怪魚は僕が消えたことで、広場内を移動し始めた。やはり僕はサヤと居たほうが良かったのか。

掛け声とともに一人が巨大な怪魚の上に飛び乗り剣を突き立てる。すぐに振り落とされるが、仲間たちは次々に巨大な怪魚に飛び乗っていった。しかし、このままだと全員が振り落とされた後に食われる。

「どけ。」

僕は叫びながら、二階から広場に向かって跳んだ。

巨大な怪魚は体に付いた仲間全員を振り落とす。そして、僕に向かって大きな口を開けた。

巨大な怪魚の口に入る直前。僕は手に持った大剣を縦に振り下ろした。巨大な怪魚は僕を飲み込む。

僕は怪魚の中に入ると同時に、人間でいう上唇部分から真っ二つに裂いていった。怪魚が暴れだす。剣の勢いが止まると、裂いた部分から外へ出た。すぐに怪魚の体に剣を突き立てる。海水と化した湖の水が巨大な怪魚の血で赤く染まりだす。

怪魚は僕を振り落とそうと必死に暴れる。既に刺さっていた剣に体がぶつかりそうになった。まともに刃にぶつかったら、自分が真っ二つも考えられる。僕は危なそうな剣を引き抜いて水に浮かぶ仲間たちに投げた。

僕は、怪魚が力を加える方向とは逆の方向へ向かって大剣を振り切ろうとした。

怪魚が暴れるとこによってすこしずつ剣が肉を裂く。

アルベルトたちは水中から怪魚に剣を突き刺していく。

「うおおお。」

僕は大剣に精一杯の力を込めて振り切ろうとした。その時、巨大な怪魚が反対方向に力を加えたために大剣は怪魚の肉を裂ききった。

僕は水中に突っ込む。水中から顔を出すと。巨大な怪魚の体は、もう少しで魚の開きになりそうだ。巨大な怪魚の動きが鈍くなり、やがて動かなくなった。

「やったぞ。」

アルベルトはみんなに言う。しかし、すぐに彼は悲鳴を上げる。見れば怪魚が噛み付いていた。まだ居たのか。そばに居た仲間が怪魚に剣を突き刺して引き剥がした。

「カイ。大丈夫なの。」

サヤも屋根から下りてきたようだ。こちらに近づいてくる。

やっと、終わった。これで終わりだ。

「ひとまず、建物の上に戻ろう。まだ怪魚が居たら大変だ。」

アルベルトが言う。本人が言うと説得力がある。

僕らは建物の上に戻った。さてと、これからどうしようか。橋は浸水していて通れるかどうか怪しい。

そういえば、先ほどから水位が変わっていない。多分、今の水位が最高なのだろう。

僕らは、その後助けに来てくれた船に乗って陸へと移動した。

陸に到着すると、当初の仲間の人数の半分ほどしか居なかった。他の仲間を探すために船は再び町へと向かう。

何人かは怪魚に襲われたらしく無残な姿になって発見された。それでも当初の人数には足りなかった。

あとは、巨大な怪魚に食われたとか。だとしたら、奴を切り裂くときに中に居た人間まで切り裂いていたのかもしれない。今この状況では分からないのでいいだろう。

僕は噛まれた足を手当てしてもらった。終わった途端に痛くなったのは、痛みを忘れていただけらしい。

「お疲れ。お前ら良い腕持ってるな。」

休んでいる僕らにアルベルトが話しかけてきた。彼も体に包帯を巻いている。

「ありがとうございます。」

僕らはそれぞれ言った。その後、アルベルトや戦った仲間たちと話した。

その日はその場に泊めて貰い。次の日、出発した。

アルベルトらが僕らを見送ってくれた。一日だけだったけど、戦友になれたと思う。

僕らは手を振って、その場をあとにした。



僕らはそれから西へ向かい。北へと進路を変えた。この地域には畑が沢山あった。所々にある町を通って北へ向かって歩く。

あるとき、林に囲まれた空間に到達した。中を進んでいくと、これまで見た建物ととは何か違う建物に囲まれた場所に着いた。

「ねえ、これって何かな。」

サヤが僕に聞いてきた。サヤが見るものを僕も見た。

それは、地面に書かれた地図だった。線だけで書かれている。

「それは、この国の周辺を含んだ地図だよ。色分けされているだろ。それぞれが元は一つの国だったんだ。」

老人の声がする。振り向けば、元気そうな老人が僕らに向かって歩いてきた。

「元の国。」

僕はそう言いながら地図を見る。そして、僕は思い出した。

「そうか、これは連合時代の地図なんだ。」

僕は地図を見ながら言った。そして、続ける。

「一つの国になる前ってこうなってたのか。知らなかった。」

「そうは言ってもだな。一つの国になるとき、拒否した国もあるんだよ。ほれここ。」

老人が指差す国は何かで大きくバツがついていた。今の国には含まれて居ないということを表すのだろう。

連合はしていたいけど、同じ一つの国になりたくない。もしくは何かあったのな。僕は地図を見ながらしばらく考えた。考えても、ここでは結論は出ないだろう。ならば、早くロンドンへ着くことだ。

老人に聞けば、ロンドンはもうすぐらしい。

僕らは老人に礼を言うと、その場を後にした。

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