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境界線  作者: 薙月 桜華
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第四十七話  水の都

   第四十七話  水の都


2238年 春 ヨーロッパ


 僕らは海岸沿いを北へと向かい、遂にヨーロッパ連合王国内に入った。そこから西へ歩く。

すると、町を発見した。その町は海の上に存在するように見えた。その町から大陸へと伸びた橋が無ければ、孤島というべきかもしれない。

僕らはその町へと向かうことにした。

「うわ。長い橋だね。」

 サヤが遠くに見える町を見ながら言った。正直なんでこんなに橋が長いのか。元は、本当に孤島だったのかもしれない。

橋の両側を海に囲まれている。落ちたら面倒なことが起こるということは理解できた。後ろを見れば、大陸が少しずつ遠ざかっていく。そして、目の前の町が近づいてきた。

町に着くと、まるで前に訪れた港町のようにぎっしりと建物が建てられていて、屋根は赤い。まるで町全体が巨大な迷路のようになっていて、すぐに迷いそうだ。その中に大きな川や小さな川が流れていて、小さな橋を渡ることで移動できる。

川を見れば、船が行き来している。船には荷物が積まれている。道が狭いためか船を使って荷物を運ぶことが日常なのだろう。

大きな川を二度、小さな川を何度か渡ると、大きな広場に出た。

「急に広いところに出たな。」

 僕はそう言いながら周りを見渡す。広場には寺院らしき大きな建物があるのみである。

「ほんと、広いね。」

 サヤも広場を見渡す。

そして、海岸へと向かうと船着場らしき場所があるが、船は一隻も見当たらない。

僕らは町を海岸沿いに歩いた。すると長い橋を見つけた。陸と陸を繋ぐ橋らしい。

「島同士が橋で繋がっているのかな。」

 サヤの考え通りに島なのかどうかは分からないが、そこに陸があるのだから行ってみることにしよう。

僕らはその橋をわたって次の島へと向かった。

その島に着いた後、島の反対側へと向かうとそこには大量の船がつけられていた。先ほどの町の中には無かったのに何故だろうか。

僕は海に入って水を舐めてみた。サヤが止めようとしたが、却下した。

もし、海水ならしょっぱいはずである。結果はしょっぱかった。つまり、海水であり、ここは海なのだ。

僕は、一度戻って町が見える場所の水を舐めてみた。再度、サヤにお腹壊すとか脅された。本当に壊すかもしれないから恐い。しかし、聞く相手が居ない今はこれしか知る方法が無い。

町が海の上に浮かんでいるのなら、ここも海水のはずである。しかし、舐めてみるとあまりしょっぱくは無い。海水を水で薄めたような。海水のようで海水では無かった。

ここで分かったことは、町は海ではなく湖の上に存在するということだ。そして、海水ではないということは、海と繋がっていないことを表す。つまり、先ほど海水を飲んだ島は、本当は島では無くこの町を囲む陸の一部なのだろうと思われる。しかし、しよっぱさはあったため、元は同じ海だったのかもしれない。どちらも本当の海ならば同じしょっぱさのはずである。

船が海側に付けられていて、町の中には無かった理由が理解できた。サヤも理解してくれたようだ。

実際に陸が続いているのか、海岸沿いに少し歩いて見ることにした。所々に陸が細くなっている場所があったが、歩いても歩いても陸しか無かった。

僕らが町に戻ろうとしたとき、サヤが何かを発見した。

「船がこっちに来る。」

 サヤの声に、僕はサヤの見る方向を見た。

すると、海の向こうから何隻かの船がこちらに向かってきていた。

「魚でも獲ってきたのかな。」

僕らはその船が止まるだろう船着場に向かって歩き出した。漁師なら獲れた魚ぐらいは見せてくれるだろう。

しかし、それらの船はみな船着場にへ向かわず、それぞれが何も無い陸へと向かった。

「なんか変だぞ。」

 僕らはそれらの中の一隻に向かって走り出した。陸へと着いた船からは何人かの人間が降りてきて陸の上で何かしている。

次の瞬間、破裂音とともに陸の土が飛び散った。

「な、何を始めたんだ。」

 状況がよく分からない。しかし、すぐに分かった。

その直後から、水の流れる音がし始めたのだ。見れば、海から湖に海水が流れ込んでいる。湖に海水ってまずいだろ。

遠くから、微かに破裂音が聞こえてくる。他の船が同じことを始めたのか。

「あんたら、何やってるんだ。」

 僕は叫びながら船に近づいた。男たちは何か大きな木箱をひっくり返している。木箱の中から魚が出てきて湖を泳ぎ始めた。

「あ。」

僕はその場で固まった。放たれた魚は、僕らが日本から大陸へ渡るときに襲われた魚だった。何故ここに居るんだ。何故だ。

「あれって、まさか。」

サヤも同じく思い出したようだ。僕らを襲った魚。僕らの馬を食いつぶした魚。人を食った魚。

「止めろ。」

 僕は動いていた。大剣を抜いて突っ込む。

「へへへっ。」

男たちは木箱を湖に捨て、船に乗って陸を離れた。

最後に開けられた木箱は、流れ込む海水によってそのまま湖に沈んでいった。

「お前ら、自分がしたこと理解してんのか。」

僕は船に乗る男たちに叫んだ。どうしても叫ばないとやっていられなかった。

男たちは何も悪いことはしていないといった顔をしてこちらを見ている。無性に腹が立った。できる事ならば、彼らが運んできた魚の中に放り込んでやりたいくらいだ。

僕は怒りで船に近づく「何か」に気がつかなかった。気がついたのはサヤだった。

「な、何あれ。」

サヤが指差す方向を見れば、大きな「何か」が船へと近づいていた。船と接触する直前、「何か」は姿を現した。

正体は魚だった。しかし、ただの魚では無い。その姿は先ほど見た魚とは比べ物にならないほどの大きさだ。先ほど湖に放たれた魚が巨大というのならば、この魚は超巨大としか言い表せない。

この魚を巨大な怪魚として、先ほど湖に放たれた魚を怪魚としよう。今思えば怪魚はそれほど大きくなく。当初巨大と思っていたのは井の中の蛙と同等だ。

怪魚は僕の身長の半分ぐらい。巨大な怪魚は中くらいの船一隻分ぐらいの大きさを持つ。

その魚が船へと突っ込む。船は体勢を崩してひっくり返った。船に乗っていた男たちが海に投げ出される。巨大な怪魚は投げ出された男たちを、まるでお椀ですくいあげるように口に入れていく。ひとり、またひとりと巨大な怪魚に食われていく。

巨大な怪魚は海に投げ出された獲物を捕りきると、頭を海から上げて僕らのほうを見た。怪魚の目と僕の目が合う。怪魚は僕らに突進してきた。しかし、僕らは陸の上だ。怪魚からは届かない。

僕らは巨大な怪魚の恐怖に後ずさる。気がつくと湖と海が繋がった場所まで移動していた。

巨大な怪魚は、再び僕らに突進してきた。その体は、僕らに触れることなく。巨大な怪魚は海と湖が繋がった場所を通って、湖へと侵入した。

「あはははは。」

僕は笑うしかなかった。あいつが町の中を泳ぎ回るんだ。そして、見つけた人間を食らうだろう。今あの町は、これまで訪れたどの町よりも危険になった。

僕は、剣を収めた。今なら、見なかったことにして、次の町に行けるだろう。しかし、それで本当にいいのか。それじゃ、あの日と同じじゃないか。僕は、逃げたくない。

「サヤ。」

 僕はサヤを見て言った。そして、続ける。

「行こう。あの日の仕返しのために。ぼくらが生き残るために。」

 サヤは僕の言葉に頷いてくれた。僕らは、町に向かって走り出した。

僕は背中に背負った大剣に触れる。この武器は何のためにある。人を殺すためか。いや、違う。

これは、ぼくらが生き残るためにあるんだ。

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