第四十六話 発覚
第四十六話 発覚
2238年 春の始まり ヨーロッパ
今日は何か様子が違うことがすぐに分かった。自室を出てから、外に出るまでの間誰とも会わなかった。きおくのある部屋を見ても誰もいない。外へと続く階段がある部屋にも誰もいなかった。
外へ出ると、施設の中とは違って騒がしかった。とは言っても、侵入者や事故の類の騒ぎでは無いことはすぐにわかった。つまり、何時もの騒がしさだ。
私はそれを横目に会議場に向かうことにした。テリーが居ると思うからだ。
そして会議場に着く。布を上げて中を見ると、テリーが一人資料を読んでいた。一人で居るためか寂しそうに見えた。
「おはよう。」
「あ、大尉。おはようございます。」
私のあいさつにテリーはこたえる。
私はテリーのそばに座った。そして、一呼吸する。
「施設の中に誰も居なかったな。何かあったのか。」
私はテリーを見て言った。何時も騒がしい施設内が急に静かになると何か不安になる。
「ああ、そのことですか。」
テリーは私に言う。そして、続けた。
「すべてのきおくの書き留め、整理及び運搬が完了しました。なので、施設内の兵士全員を撤収させました。」
テリーの言葉に安心した。やはり、何時も見る光景が急に変化した時は心配になるものだ。
「そうか、完了したか。敵のアジトのほうはどうなってる。」
私はテリーに聞いた。もし見つかっていないなら、このまま帰国してもいいだろう。
「大尉。見つかりましたよ。発見できました。」
「そうか、やっと見つけたか。」
私は大きく深呼吸をした。そして、続ける。
「さてと、どうやって事を始めようかね。」
相手をこちらに誘い込もうか。しかし、それには誘い込めるものがないとな。
「テリー。敵さんをこちらにおびき寄せようと思うんだが。何か良い方法は無いか。」
私はテリーに聞いた。彼なら何か良い案を出してくれると思ったからだ。
テリーは私の言葉を聞くと、私に近づいて耳元で囁いた。
その案は、私たちにとって都合が良く。彼らにとっては、私たちと戦わなくてはならない理由を作り出すものだった。
「よし。その案にしよう。決まりだ。」
私はテリーにそう言った。そして、続ける。
「それと、一部の兵士たちを帰国させるんだ。敵をおびき寄せやすくなる。」
「分かりました。では、少しずつ帰国させます。」
私はテリーに頷いた。これで、向こうに帰る前に邪魔者が消せるんだ。気分のいいもんだ。
私は会議場を出ようとしたとき、言い忘れたことを思い出した。
「計画実行時まで。奴らには何もするな。それと、実行した夜にこの島から船を一隻出してくれ。以上だ。」
私はテリーを見て言った。そして、会議場の出口を向く。
「分かりました。」
背後から、テリーの声が聞こえた。
私は布を上げて、会議場を出る。空を見れば太陽が天高く昇っていた。
私は施設内のきおくのある部屋へ向かう。階段を下りて、部屋へ着く。誰も居ない部屋の中をぐるりと見回した。誰も居ないと、ちょっと寂しく感じる。来たばかりの頃のようだ。
私は手形のマークが付いた台に手を置いて、適当な情報を画面に映した。それとは別に違うことを考え始めた。
この施設は永久機関と呼ばれるもので出来ている。なら、何故世界はあの戦争を始めるに至ったのだろうか。
永久に動き続けることが出来るのなら。燃料を必要としないのなら。燃料が無いことによって起きる戦争なんて無いはずなのに。
「利益にならないからだよ。」
老人の声が聞こえてくる。素早く周りを見ても、誰も居ない。画面に目を戻すと、人が映っていた。
「な、なんだこれは。」
気が付かないうちに、画面が変わっていたようだ。画面には老人が映っている。画面の中に本当に人間が居るように思えた。
「あんた誰だ。」
私は声に出して、画面に向かって言っていた。
「私はこのシステムに搭載されている人工知能だよ。基本的には、君たちが情報を見るときに裏で操作をするのが私だ。」
画面の中の老人は私にそう答えた。
「じゃあ、何故出てくるんだ。」
私は画面の中の老人へと言った。裏方ならば、勝手に表に出てきてほしくないところである。
「私がこのように表に出てくるのは、操作する人間がこの施設に関する情報を得たいときだけだ。」
画面の中の老人はきっぱりと言い切った。
「話は戻るが、何故利益にならないんだ。」
私は画面の中の老人へと問う。
「この施設は、後世を生きる人間たちへ過去を伝える目的で出来たものだ。つまり、金銭的な利益など考えずに造られている。」
画面の中の老人は私に言った。そして、続ける。
「しかし、この世の人間は創った物に値する利益を得ることで生きている。つまり、基本的に利益にならないもの、利益を得られないものは創らなかったのだよ。だから、この施設が作られたんだ。悲しいことだよ。」
老人はそれだけ言うと画面から消えた。私が興味を持たなくなったからかもしれない。台から手を離すと画面は自動的に消えた。
私はきおくの部屋を出て自室へと向かった。
利益にならない事をする意味があるのか。