表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線  作者: 薙月 桜華
45/52

第四十五話  水の中の町

   第四十五話  水の中の町


2238年 春の始まり ヨーロッパ


 僕らは海峡を越えた後、西へと向かった。歩き続けると海に出ることが出来た。そこから、海沿いに北へ向かった。

北上すればするほど、これまで見た他の地域とは違う建物を多く目にするようになった。

もうすぐヨーロッパ連合王国に入る。そうすれば、あとは真っ直ぐロンドンを目指すだけだ。あと少しだ。

しばらく歩くと、港町に着いた。建物の屋根はみんな赤い色で統一されている。その中を少し歩くと、建物がぎっしり建てられ場所を発見した。そこは壁で囲まれていて、中に入るためには入り口を探さないといけないようだ。僕らは壁沿いに入り口を探した。

すると、門を見つける。僕らはそこから中に入った。中は外から見える以上に建物がぎっしり建てられていて、道が迷路を作り出していた。僕らは複雑に組み合わされた道や坂を歩いた。角を曲がったとき、足に冷たい感触を感じた。すぐに足を引っ込める。

「か、海水。」

 僕は水浸しになった地面を見ながら言った。そして、浸った道の先を見ながら続けた。

「ここから先は浸水していて進めなさそうだな。」

「それにしても。人が居ないね。」

 サヤはそう言った。門を抜けて、ここに入ってきてから誰にも会っていない。何故だろう。

「当たり前よ。」

 背後からの声に僕らは振り向いた。そこには一人の女性が居た。そして、彼女は続けた。

「ここが浸水してきたから、みんな高いところに移住したの。だから、ここには誰も居ないわ。」

 僕はしゃがみ込んで、両手で水をすくう。

「浸水は食い止められなかったんですか。」

僕は彼女に言った。こうなる前に何か対策が取れたはずだ。

「一度は、海とこの地域の間に壁を作ってみたわ。けど、水の力って恐ろしいわね。壊されて、失敗したわ。」

 彼女は僕らに言った。そして、続ける。

「私たちは諦めた。そして、高い土地へと移住したの。」

 僕は再度浸水した地面を見る。何故、ここまで水位が上がったんだろうか。しゃがみ込んで触れる海水は冷たい。その手に波が当たった。浸水した先を見ると、小さな波がこちらに近づいてくる。

「ここに居ても、これ以上良いことは何もないわ。」

彼女は僕らに言った。そして、高く仕切られた壁を見て続ける。

「この地域の大部分が浸水してる。いろんな建造物があるけど、今は城壁から見るだけよ。」

「僕らは近づけないんですか。」

「無理かも。最近、変な魚がこのあたりをうろうろしているの。」

 彼女は僕の即答する。そして、続けた。

「人に噛み付く魚らしくて、浸水しているところには行かないように言われているのよ。」

噛み付く魚。どこかで見たことがあるような。僕は浸水した道を見る。そして、僕は思い出した。

「僕らがこっちに渡るときに襲われた魚じゃないかな。」

 僕はサヤに言った。

「けど、同じとは限らないでしょ。あそこからここまで凄く離れているのよ。」

「あなたたちも、変な魚を見たことがあるの。」

彼女はサヤの言葉を聞いて、僕らに言った。

「僕らが見たのは人間や馬を食う魚だけどね。こっちに来るときに襲われたんだ。それで、何人か死んだよ。」

「そう。こっちの魚は噛み付くけど。今のところ死んだ人は居ないわ。」

彼女は僕の言葉にこたえた。

二年近く前に会った魚たちを今頃思い出すとは思っても見なかった。こちらに居る魚は、僕らにとってそれほど恐怖を覚える対象ではないのかもしれない。見たことがないので、これ以上考えるのはやめよう。あとは、自分の目で確かめようか。

「どんな奴なのか。自分たちで見てきます。」

僕は彼女に言った。そして、サヤを見て続ける。

「サヤ、行こう。」

「ちょっと待って。危ないわよ。行かないほうがいいわ。」

彼女が心配そうに僕らを見て言った。

「大丈夫ですよ。すぐに戻ってきます。」

僕は彼女にそう言うと、サヤを見た。サヤは頷いてくれた。僕らは浸水した道を歩き出す。

水の中は思ったよりも冷たくて動きづらい。体力を使いそうだと思った。

深いところへ向かって歩いていると、高い塔を見つけた。そこには鐘が付いている。浸水する前は、あの鐘の音がこの地域に響き渡っていたのだろう。

海水に逆らって足を動かすと聞こえる音。今はそれしか存在しないのが何か寂しかった。

そして、海に出た。つまり、浸水した元船着場に到着したようだ。ここまで、変な魚の攻撃には受けなかった。今日はお休みなのかな。

「変な魚なんて会わなかったな。」

僕はそう言って一度深呼吸をすると、サヤを見て続けた。

「戻るか。」

サヤは僕の言葉に頷く。僕らは来た道を戻ることにした。が、すぐに道が分からなくなった。あたりを歩き回ることによって、体力は奪われてきた。このままだと、まずい。僕は叫んでみた。彼女に聞こえたら返事をしてくれるはずだ。

「こっちよ。」

 女性の声がした。僕らはそちらへ向かって歩き出した。角を曲がると、彼女が見えた。

「よかった。助かった。」

 僕は安堵の気持ちでいっぱいだった。けど、彼女の顔は一瞬で変わる。

「早く陸へ来て。変な魚がいる。」

 彼女の言葉に後ろを見ると、奴らがいた。

「うお。」

僕はサヤの手を掴むと、陸へ向かって走った。走ったと言っても、水の中なので遅い。その間にも魚たちは近づいてくる。

僕らは間一髪、陸へと上がった。しかし、追ってきた一匹が飛び跳ねて陸まで追ってきた。

僕らがそれを避けると、魚は地面に落ちて跳ねた。人の手サイズの大きさの魚だった。口にはとがった牙が何本もある。こいつが変な魚らしい。

「こいつがそうか。小さいな。」

僕が魚を見ながら言うと、サヤは剣を抜いて魚に刺した。勢いよく跳ねていた魚の動きが鈍くなり、ついには動かなくなった。

相手にとって有利な場所。自分にとって有利な場所。相手の有利な場所に誘い込まれたらこんなふうになるのかもしれない。

サヤが魚に刺した剣を引き抜く。

「ここを離れましょ。城壁の上からの景色は良いわよ。」

 彼女は僕らに言った。僕らは城壁の上へと向かった。

城壁から見える景色は綺麗だ。先ほどまで歩き回った町を見下ろすと、歩き回ったことが懐かしく思える。

僕らは彼女に礼を言うと、その場を離れて北へ歩き出した。

そういえば、彼女の名前を聞いていなかった。その事をサヤに言ったら。

「聞かなくていいの。」

彼女はそれしか言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ