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境界線  作者: 薙月 桜華
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第四十一話  終わりの無い戦

   第四十一話  終わりの無い戦


2237年 冬 西アジア


 僕らは坂を上る。死海を越えて海を見るために。

上る途中は町など無かった。けれど、上れば上るほど住居が増える。坂にそって建てられた住居。それを見ながら僕らは上り続けた。

上ってきた道を見ればこの場所が凄く高い所にあることは理解出来た。死海からどのくらいの高さに居るのだろうか。もうよくわからない。それでもまだ上る必要がある。

歩きながら、死海で会った男の言った言葉を思い出した。死海と海の間にある高原はごちゃごちゃしていると。その意味を知るためにも、高原を越えて海を見るためにも上り続けなきゃいけない。



気が付くと見渡す限り建物だらけになっていた。さらに坂を上っていく。

すると、高い壁を見つける。その壁に沿って道を歩くと壁の反対側へと続く入り口を見つけた。反対側に建物があることからこの壁は城壁のようだ。

中に入ると、建物が気持ち悪いほど密集している。壁の外側にある建物とは大違いだ。

良くわからないので中をうろうろと歩き回る。

しばらく歩くと開けた場所に出た。そこには大きな白い壁がある。外から見えた壁かと思えたが形が違う。その壁の下を見ると、何人もの人たちが壁の傍で何かしている。

「何をしているんだろう。」

僕は誰に言うでもなく言った。

「祈りを捧げているのさ。」

僕らの背後から声が聞こえる。振り向くと、頭に白髪が混じったおじいさんが居た。

「祈りって。」

サヤがおじいさんに聞く。

「あの壁がユダヤ教にとっての聖地だよ。」

おじいさんは白く大きな壁を見ながら言った。そして、続ける。

「何故壁なのかということは、私にも分からないがね。」

おじいさんはそう言う。そして、僕たちを見て続けた。

「この地には他にキリスト教とイスラム教の聖地があるんだ。」

「三つの聖地が一箇所にあるってこと。」

僕はおじいさんに聞き返した。そして、僕はバラナシを思い出す。聖地とは一箇所に一宗教ではないのか。

「そうさ。ここにはそれぞれの聖地があるんだ。」

おじいさんは再び壁を見て続けた。

「なぜ一箇所に集まったのか。私も知りたいところだよ。」

一箇所に複数の宗教の聖地があることもあるものなのだと理解した。

あの男が言ったとおりだ。本当にごちゃごちゃしている。しかし、気をつけるとはどういうことなんだろうか。三つの宗教に目移りすることに気をつけろと言ったわけではないだろう。何か他に気をつけるべきものがあるはずだ。

「お話ありがとうございました。」

僕らはおじいさんに礼を言うとその場を離れた。他の聖地に行くことも出来たが、行ったところで何も無いので行かなかった。僕らは三つのどれでも無いのだから。

僕らは城壁をくぐって歩き出す。このまま気をつけることも無く海まで到達できれば良いのだけど。

そんなことを思うことしか僕らには出来なかった。



西へしばらく町の中を歩く。相変わらず建物が沢山ある。

「ぎゃあ。」

悲鳴が聞こえる。

聞こえた方向を見れば、男が近くに居た女性を刺していた。

「な、何やってるんだよ。」

刺した男は僕の言葉に反応してこちらに近づこうとする。しかし、その男は背後から来た数人の男たちに捕らえられる。

刺した男は言葉にならない叫び声を上げている。

僕らは刺された女性に近づく。

何箇所も刺されたようで、それぞれの場所を赤く染めていた。

「大丈夫ですか。」

僕は刺された女性を見ながら言った。そして、周りを見て続ける。

「医者は、医者は居ないんですか。」

僕は精一杯叫ぶ。

刺した男を捕まえた一人が僕らに近づく。

刺された女性の状態を見ると何処かへ走って行ってしまった。

「ごふっ。」

せきとともに女性の口から血が出てくる。

「大丈夫ですか。」

サヤは女性の顔を覗き込む。

「あ、あなたたち外の人間だね。」

女性は僕らを交互に見て言った。

「喋らないで。」

サヤは女性に言う。

「こ、これがここの日常。二つが一つを求めて争っているの。」

女性は空を見ながらそう言う。そして一度深呼吸をすると、僕らを見て続けた。

「早く、早くここから逃げて。」

直後、女性は一度せきをした後、動かなくなった。

「大丈夫ですか、ちょっと。」

僕は女性へ叫ぶ。足音に気が付いて周りを見れば、先ほど消えた男が医者らしき男を連れてきた。

「おい、大丈夫か。」

医者は女性へと叫ぶも反応は無い。腕を持ったとき、気が付いたようだった。

「脈が無い。死んでるよ。」

医者は女性の腕を下ろすと僕らにそう言った。

「そ、そんな。」

僕はそう言った。さっきまで生きていた人が目の前で死んだ。目の前で。

なんで人間同士で争うんだよ。なんでなんだよ。なんで。

僕は立ち上がって歩き出す。刺した男へ向かって。

「カイ。何処へ行くの。」

背後からサヤの声が聞こえる。けれど、気にしなかった。

僕は大剣に手をかける。刺した男は僕を見て後退しようとする。しかし、両側で捕まえる男たちがそれを拒む。そして捕まえている男たちが何か言っているようだが、何言っているか聞こえない。

「人殺しの。」

僕はそう言いながら剣を抜く。

「人殺しのために持ってるんじゃないんだよ。」

僕はそう言いながら、刺した男に大剣を振り下ろそうとする。

「止めて。」

サヤの叫び声に僕の手は止まり、大剣は刺した男の真上で止まった。

サヤが近づいてくる。

「カイが今この人を殺したら、この人と同じになるんだよ。」

サヤは僕へ言った。それでも、僕は止められなかった。再び振り下ろそうとする。

「カイ。止めなさい。」

サヤの声に再び手が止まる。サヤは僕に近づいて、びんたをした。

「馬鹿なことは止めるの。いいわね。」

サヤのびんたと言葉に、僕は落ち着きを取り戻す。大剣を収めると、僕は刺した男へと言った。

「事の重さ。分かってるよね。」

僕はそれだけ言うと、サヤとともにその場を離れた。

気をつけろ。それはこいうことなのだろう。

何故争っているのかは分からない。だけど、過去に何かを間違ったということは確かだった。

過去に何があったのだろう。それはきおくを見れば分かるのだろうか。

僕らはそのまま海へ出ると、北へと向かった。

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