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境界線  作者: 薙月 桜華
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第四十話  死の海

   第四十話  死の海


2237年 冬 西アジア


 僕らは今も砂の世界を歩いている。西へ歩くほど坂を上るよりも下りる感覚があった。周りを見れば陸が高く見える。

「ねえ。あれって湖じゃない。」

サヤが僕に聞いてくる。僕はサヤが指差す方向を見た。海とも思えたが、対岸が見えるので湖だと思った。湖岸に着くと、周りは砂では無く泥のようだ。

近くに男の人が居たので、この湖のことを聞いてみることにした。

「こんにちは。」

僕が挨拶をすると男はこちらを見た。僕はそのまま湖を見て続ける。

「大きな湖ですね。なんて名前の湖なんですか。」

「この湖の名前か。死海って言うんだ。名前の理由は自分で理解したほうがいいだろ。」

男は僕の質問に答えた。

彼は湖に向かって歩いて、水に触れる寸前のところまで近づいた。

「この湖の水をなめてみな。」

男は僕らを見て言った。

僕らは言われるがままに、湖に近づいて水をなめてみることにした。海水とは塩分を含むからしょっぱい。しょっぱければ海水ということは確定する。しかし、名前の理由を理解するとはどういうことなんだろうか。

僕はそう思いながら、サヤとともに海水に触れてなめてみる。

口に含むと、今まで味わったことの無いしょっぱさが口の中を満たす。

「うわ。なんだこれ。」

僕は思わず声を出す。

「すごく、しょっぱい。」

サヤもそう言いながら海水をすくいあげた手を見ている。その顔はあまりよろしくない。

「そうだろ。ここの湖の水は他の海水よりも塩分濃度が高いんだ。つまりしょっぱいんだよ。」

男は僕らを見て言った。

「けど、このしょっぱさと死海って名前は繋がらないんだけど。」

僕は男に言う。しょっぱいから死海ってどういうことだ。考えても出てこないので返答を待つことにした。

「さっきも言ったように、この湖の水は通常の海水よりも塩分を多く含むんだ。」

男はそう言うと死海を見て続ける。

「だから、生物なんてこの湖の中には居ない。生きていられないから死の海って言うんだ。」

「生物が居ないから死の海か。」

僕はそう言いながら眼前に見える死海を見る。

この死海から流れ出る川があるのなら、その川は死の川と呼ばれるんだろうな。

男に聞けば、この死海に入る川はあっても出る川は無いらしい。終着点だからこそ他の海よりも塩分が多いのかもしれない。それにしても近くに塩分を出す素でもあるのだろうか。気になるところだ。

「それとだな。塩分が多いってことで。」

男は僕らに言う。直後、彼は海に飛び込んだ。

「な、何やってるんですか。」

僕は声を出す。

「ちょ、ちょっと。」

サヤも声を上げる。

男はすぐに浮かんできた。そして仰向けになったままこちらを向いた。

「ごめん。説明するの面倒だったから見てもらおうと思ってさ。」

男は死海に浮かびながら言った。そして続ける。

「塩分を多く含むから浮力もある。人が浮くのさ。こんな感じにね。」

見たとおり男は海に浮かんでいる。塩を多く含むと人間までも浮かばせることが出来るらしい。塩って凄い。

男は陸へと戻ってくる。全身塩水まみれだ。

「大丈夫なんですか。こんなに濡れちゃって。」

サヤは男へと言う。

「まあ大丈夫さ。慣れているからね。」

男はそう言う。

「そ、そうなんですか。」

僕は男へと言った。

「まあ、そんなところだな。対岸にある町に行きたいのなら、ここから時計回りに湖岸を進めば行けるさ。」

男は僕らを見て言う。そして、死海を見て続けた。

「本当の海はこの先にある。見たいなら見とくといい。しかし、その間にごちゃごちゃした高原があるから気をつけな。」

「ごちゃごちゃしたって一体どういう意味ですか。」

僕は男に尋ねる。

「行ってみればわかるさ。俺の言った意味が。」

男は僕らを見て言った。そして続ける。

「行くなら早く行きな。日が暮れちまうぜ。」

空を見上げれば太陽が天高く昇っていた。

「ありがとうございました。」

僕らは男に礼を言うと、次の町へと歩き出した。

しかし、ゆっくりと坂を下りていく感覚はまだある。

前を見れば陸を挟んで左側に小さな湖があった。

「あれ、もう一つ湖があるね。」

サヤが僕に言う。これも死海なのだろうか。僕らはその湖へと向かう。そして、こちらでも湖の水をなめてみた。すると先ほどの死海と同じだった。元は繋がっていたのだろうか。

その湖にそって進むと、湖の終わりとともに再び湖があった。こちらも死海なのだろうか。近くに居た人に聞くと、北の死海から南に水を引いているとの事だ。しばらく歩くと、死海の水を使用して塩を作っている人たちを見つけた。濃度が高いのなら塩として取り出したほうが有効なのかもしれない。死海から塩を取り出さないと、どんどん死海の塩分濃度が高くなっていくような気がした。

それにしても、途中にあった小さな湖は何故出来たのだろうか。そして、なぜわざわざ南に死海の水を引いてから塩を生成しているのだろう。何故水を引かずに直接死海で塩を作らないのだろうか。分からないことだらけだと思う。

現状では考えても分からないので北にある死海へと戻る。しばらく歩くと湖岸沿いに町が見えた。西の空を見ると日が落ちようとしていた。今日はこの町で休むことになりそうだ。

今後は左に見える高原を越えて海沿いに北へ進もうか。僕はそう考えながら町へと向かった。

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