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境界線  作者: 薙月 桜華
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第三十四話  離脱

   第三十四話  離脱


2237年 秋 ヨーロッパ


 私やセイジ、他のみんなはレイとルイスに呼ばれてアジトの一階へと集まっていた。

みんなが何時も座るテーブルは出入り口側と奥の調理場側の二列に並べられている。

出入り口側のテーブルにはにレイ、ルイスと昔から居る仲間が座っていた。

私やセイジ、ケイトを含む他のみんなは調理場側のテーブルに座る。もちろんグラン、ウィリアムさんやミナもこちら側のテーブルについている。

全員が着席した後、沈黙が空間を支配した。

「話とはなんだね。レイ君、ルイス君。」

異常な状況であるにも関わらず、その沈黙を破ったのはウィリアムさんだった。

私はウィリアムさんを見た。彼を見ると状況を把握していないようには見えない。

椅子を引く音が聞こえる。聞こえた方向を見ると、レイが立っていた。レイの顔からは何かをこらえているように見えた。

次の瞬間、レイは両手で勢い良くテーブルを叩く。そして、私たちを見て言った。

「もうこんなことはやってられない。」

レイの声が一階に響き渡る。

「あれからもう一年経っている。しかし、何も進展は無い。」

レイの隣に座っているルイスが私たちを見て言う。

実際のところ船の襲撃をするのみで施設の奪還は行動に移されていない。敵から得た資料はあるもののそれがあったからといって施設を取り戻せるわけでもない。私たちは縮こまって一歩を踏み出せないでいるのと同じである。

実際のところは、ケイトの情報から相手の人数が多すぎる理由で手を打てないでいる。数十人が敵う人数じゃないことは分かっている。では、何故ルイスやレイは今この状況を作り出したのだろうか。

「お前らは施設を取り戻す気が無いんだろ。」

レイは私たちに向かって言い放った。

気が無いわけじゃないのに。

「ふざけるな。もしそうなら、俺は今ここに居ない。」

横を見れば、いつの間にかグランが立ち上がり、テーブルに手をついて言い返していた。

私もそうだと思う。施設を取り戻したい気持ちはある。だけど、どうやって取り戻すというんだろう。もっと人間が居れば、もっと私たちに力があれば取り戻すことも出来ると思う。

グラン自身は、元は間違いで私たちと敵対してしまった仲。グランとウィリアムさんの間には私たちの知らない深い仲があると思う。私たちは、それが無かったら今頃グランに殺されていたのかと思うと恐い。そしてグランは、カールを知っている。カールを自分の手で殺すとウィリアムさんに告げたものの昔の気持ちが邪魔をして決心がつかないと言っていた。自分以外の奴がカールを殺すなら、俺はそのためなら何でもすると言っていた。だったら、グラン自身に手を下して欲しいところだけど。それはそれで難しいということなのかもしれない。

だから、彼は施設を奪還する日までは必ず居るだろう。

「ここまでやってきた行為が無駄だったって言うのか。」

隣に居るセイジが椅子に座ったまま口を開く。

セイジの目はテーブルを見ていて、その声は相手では無く自分自身に言っているように聞こえた。

セイジの目が正面のレイやルイスを捉えると、いきなり立ち上がって言った。

「死んだ奴らの行為も無駄だったって言うのかよ。」

普段は聞かないセイジの大きな声に、レイやルイスたちを見ていた私は反射的にセイジを見てしまった。

この一年以上の間に何人もの仲間が死んだ。船を襲撃したときに死んでいった仲間たち。その仲間たちの死は無駄だったのだろうか。いや、違う。私は無駄では無い思う。小さいにしろ。相手の邪魔は出来た。だから、全くの無駄じゃない。これは、無駄じゃないんだ。

「無駄とは言っていない。しかし、このまま続ければ無駄になりかねないんだ。」

ルイスが冷静に私たちに言う。ルイスの目は鋭い目つきになっていた。

「だから、俺たちが施設を奪還してくる。」

レイがそう私たちに言う。たった十数人であの島に乗り込んで、施設の奪還をしようというのだろうか。

不可能とは言わない。だけど、可能であるとも言わない。

「そんなの無茶だ。」

セイジがルイスたちに言う。言い終わると、セイジはケイトを見る。そして続けた。

「相手の数はケイトから聞いて知っているだろう。」

実際のところ相手の数が私たちをおびえさせていることは確かである。

「無茶は承知だ。だけど、もう我慢できないんだ。」

レイがセイジに言う。彼の顔から、もう我慢の限界だってことは分かった。

「お前たちは短いが、俺たちはこうしてきた期間が長いんだ。」

レイやルイス側に居る男の一人がそう言った。

私たちがこの集団に加わる前から居た人だった。だから、長くこの中に居るがゆえに早く事を成したいと思うんだと思う。

「俺たちは、これから施設を取り戻すために島へ渡る。」

レイが私たちに言う。その目は真剣だった。そして続ける。

「もし本気で施設を取り返したいと思っている奴が居るなら一緒に来い。」

レイは私たちに言い切ると出入り口側に居るルイスや仲間たちを見て言った。

「さぁ、行こうか。」

レイの言葉で出入り口側に居た人たちは立ち上がり、出入り口へと向かう。

「ちょっと、待て。考え直すんだ。」

彼らはセイジの声に全く反応せず。ただ黙って扉を開けて順に外へ出て行く。

「お前らは行くな。これは命令だ。」

グランが部下にそう言っている。頭を信頼しているのか、グランの部下はじっとしている。

「彼らを見に行ってきます。」

突然、ケイトが私たちを見て言った。

「あなたは彼らと一緒に施設の奪還をする気なの。」

私はケイトへ聞いてみた。レイの言葉を聞いたこちら側の人間の中で、誰一人彼らに付いていっていない。

「私は彼らの行動を見てくるだけです。」

ケイトはさらっと言った。ケイトは偵察をしている人間なので、見た情報を伝えるだけということか。

「危なくなったら助けるの。」

私はもう一つケイトに聞いてみた。その辺りが重要だと私は思う。私たち二人がこの集団に加わった時、ケイトはルイス、レイや他の仲間と居た。ようははじめから居た人間なのだ。仲間だと思うなら助けると思うのだけど。どうだろうか。

「しません。私は見ているだけです。」

ケイトはそういい切った。

「なら、行ってらっしゃい。」

私はそう言うとケイトとのやり取りをやめた。

「行って来ます。」

ケイトはそう言うと、こちら側の人間でただ一人施設のある島へと向かった。

なぜ、ケイトが昔から居る人間なのに、こちら側に居るのか。その理由は一緒の部屋になっているグランが教えてくれた。レイやルイスに呼ばれて一階に向かう前に、ケイト自身がグランに言ったのだという。

ケイトは、自分が戦力になったとしても偵察の仕事を他の人間に任せられるか不安であると言っていた。また、勝てる見込みが薄い戦いには参加したくないこと。レイとは仲が良いほうだったが、他の奴とはそんなに仲が良いわけじゃないことを言っていた。

この結末はどうなるのだろうか。私たちはただ待つしかなかった。



次の日の朝になり、私はベッドから起き上がる。隣ではセイジがぐっすり眠っているようなのでほっといた。背伸びをしながら部屋を出て一階へと続く階段を下りた。

まだ、朝早いためか物音が聞こえ無い。なんとも静かな時間だと思う。

一階のテーブルに座って目覚ましに水を飲みたいと思った。調理場に行って水が汲んであるか確認するものの容器は空のようで汲んでこないといけないようだった。

ああ、面倒だと思いながらテーブルに座って辺りを見ると、誰か先客が居た。

自分よりも先に一階に居たことにびっくりしてちょっと声を出してしまった。

相手はこちらに気がついたらしく。

「ああ、おはようございます。」

私にそう言ってきた。

よく見るとケイトだということが分かった。

「あれ。ケイト。」

私はそう言うと、椅子から立ち上がり直ぐに階段に向かった。

そして、階段前で二、三階へ聞こえるように大声で言った。

「みんな起きて、ケイトが戻ってきた。」

私の声が聞こえたのか二階の人間は降りてきた。みんな眠そう。起こさなかったほうが良かったかな。

三階からは誰も降りてきていないようなので、私は三階まで行って大声を出してみた。

「何、お姉ちゃん。」

ウィリアムさんと共に部屋から出てきたミナは眠そうだった。

セイジもグランも起きてきた。

「ケイトが戻ったのか。」

グランが私に聞いてきた。朝なのに目が据わっていた。

「うん。一階に居る。」

グランはそれだけ聞くと一階へと降りていった。

「朝早いよ。」

グランと違ってセイジは朝が駄目だ。目を擦りながら私に話しかけてきた。

「ケイトが戻ってきたの。さっさと一階に来なさい。」

私はそれだけ言うと一階へと降りた。一階ではみんな眠い目を擦りながらそれぞれ椅子に座った。昨日と同じテーブル配置なので、ケイトだけ出入り口側に座っている。遅れてセイジが来て椅子に座った。

みんなが座ると誰から言葉を切り出すか決まらず沈黙になる。

「君だけが戻ってきたということは。」

ウィリアムさんがそうケイトに言う。そして続けようとした時。

「ええ。彼らはみんな捕まって殺されました。私の目の前でです。」

ケイトはいつもより声が低いものの得られた情報をただ開示するように答えた。

「お前、見殺しにしたのかよ。」

一番眠そうだったセイジが言った。

言い終えると椅子を立ち上がり、ケイトの傍に行ってむなぐらを掴んで言った。

「なあ、そうなのかよ。」

セイジは大声で言っていた。もう彼らは居ないんだ。セイジはケイトを今にも殴るんじゃないかと思えた。

「止めてセイちゃん。」

私は叫んだ。彼の行動を止められるか分からなかったけど叫んだ。

私はそういう状態だったから、グランがケイトとセイジの間に移動していたことに気がつかなかった。

「止めろセイジ。」

グランが止めにかかる。セイジはグランの力でケイトから離された。

「私は言ったはずです。見ているだけだと。」

乱された服を元に戻しながらケイトはセイジに言った。そして続ける。

「彼らが捕まるとき、私も助けようか考えました。しかし、彼らの中に入れば私まで殺される。」

ケイトの声は低く。彼は下を向いたままになった。

「こいつも辛かったんだ。これ以上攻めるな。」

グランはケイトの肩を軽く二、三度叩きながら、セイジにそう言った。そして、再び椅子に座る。セイジとケイトもそれぞれ椅子に座った。

「一つ、手に入った情報があります。」

ケイトは私たちを見てそう言った。

レイやルイスたちを失うことによって得た情報。

その情報を元にまた再び始めることになりそうだ。

私は立ち上がり、みんなを見る。この人数でこれから戦っていくことが凄く不安だ。だけど、なんとかしなきゃいけない。私はみんなの顔を見ながらそう思った。


明日は見えない。けど、頑張ってみよう。

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