第三話 おわりは、はじまり
第三話 おわりは、はじまり
2236年 ロンドン
二人の男女は船で、ヨーロッパ連合王国の旧都ロンドンへ向かっていた。
正直な話今にも沈んでしまうのではないかと思うほどの船に、二人とこぎ手が乗っていた。
こぎ手は二人を見て、
そして、遠く向こうの島を見て言った。
「まったく、変わった方々ですね。あんな島に行きたいだなんて。」
同じく男も島を見て、
「ま、まぁな。」
はるか遠くに見える島を見つめ、ため息混じりに言った。
「あの島にゃ、誰もいませんよ。」
「…………」
二人ともそれ以上は言わなかった。
数時間後船は島に着いた。
「さあ、着いたよ。」
漕ぎ手は船を降りられる位置まで移動させていった。
「降りるよ。セイジ。」
マヤはセイジを見て言う。
「んあ?マヤ?」
セイジは横になったまま言った。
セイジは少々船の上で寝ていたのだ。
セイジは眠い目を擦りながら体を起こす。
が、すぐにまた横になった。
「ほら起きなさいって」
セイジの体を揺らす。
「やだぁ〜。」
駄々をこねるセイジ。
「が、餓鬼じゃないんだから…」
マヤの顔は引きつっていた。
「ん〜。」
なおも眠ろうとするセイジに。
「起きなさいって…」
マヤの中で何かがきれた
「あ〜?」
セイジの反応にまたきれた。
「言ってるでしょう〜!!!」
マヤはセイジに叫んでいた。
「ぶっ!!」
セイジの頬に何かが当たった。
マヤが我にかえった時セイジの頬には十数発の平手が打ち込まれていた。
マヤの平手はセイジの頬を何度も歪ませた。
セイジを起こして、二人は船から降りた。
が、セイジはまだ完全には起きていないようだ。船から降りたもののその場に座り込む。
こぎ手は不思議そうに言った。
「こんなところに何の用なんですか?地元の人間でさえこんなところ来ませんよ。」
「この島に、ちょっと用事があるの。」
マヤは思った。いちいち五月蝿いな、と。
「いいでしょ、もう。早くいっちゃいなさいよ。」
マヤはそう言うと、船を足で押して島から遠ざけた。
「もう、知りませんからねぇ!」
こぎ手が船の上から叫ぶ。
「知らなくていいわ!」
マヤはこぎ手へ叫ぶ
そして、島を見るマヤ
「なんなのよ、もう。」
一人怒るマヤ
振り返ると、セイジは島を見ていた。
何が見えているのだろうか。
「ここだったのか。」
「結構時間かかったね……。」
マヤはセイジのほうを見る。
「それは馬がいなくなったからだよ!」
セイジはマヤから視線を戻して言った。
「怒っても仕方ないじゃん。」
さすがに環境の変化に耐えられなかったのだろう。
大陸に渡って数ヶ月で消えた。
「いろんなとこ行ったし。」
「結局ここってことか……。」
セイジは言ったあとため息をついた。西って言ってもやっぱりかなりの西だったらしい。
「あ………。」
マヤの口から声が漏れる。
じっと一点を見つめるマヤ。
「早くさがそう……?」
マヤが見る方向を見たセイジも気が付いた。
「女の子?」
セイジがマヤに聞く。
「みたい……。」
少女は約五十メートル先の瓦礫の傍から私たちをじっと見ていた。
彼女はこちらが気が付いたことを確認して走っていった。
「追いかけてみよ。」
マヤはセイジの返答も待たず走り出した。
「え、え〜?」
セイジは戸惑う。
「荷物あるって〜の!」
背後でセイジの声がした。
「眠気でも覚ましときなさい。」
マヤは一度こちらを振り返り言った。
「はぁ?」
待っていろってことなのか。
少女は待っていた。マヤが少女に近づこうとすると少女もまた走る。
「はぁ…はぁ…。」
何なの?おびき寄せてるのかも。
どのくらい走ったか、小さな扉の前で少女は立ち止まる。一度追いかけてくるマヤを確認し、扉の向こうに消えていった。
「まさかここが。」
驚くのもつかの間
「……。」
誰かに見られてる…ような。
あたりを見回してみる。誰もいない。
「…気のせいね。早くセイジに知らせなきゃ。」
「はぁ、はぁ。」扉を閉めた少女は勢いよく階段を駆け下りた。
「おとうさ〜ん。」
「ああ?」
少女の父親はいすに座りのんきにコーヒーを飲んでいた。
「また来たよ!人が。」
息を切らせながら続けた。
「はぁ、はぁ今度は…二人組…。」
「おお!でかしたぞミナ。」
父親はミナと呼ばれた少女を褒めた。
ミナは呼吸を整えて言った。
「はぁ…、うわさは予想以上に広まってるみたい。」
「ほう。そうか…ところで…」
ミナの父親はミナに言おうとした。
重要な部分をまだ聞いていない。
「ああ、たぶん東洋人、この国の人とはちがうし。」
「東洋…。」
ミナの父親の目が変わった。
「これで、また一歩前進だね。」
ミナはうれしくなった。
「ああ。そうだな。」
ミナの父親もミナを見て言った。
「ここか。」
荷物を一度降ろして、セイジ言った。
地面から突き出た建物。
それは、何も無いはずのこの場所に存在するもの。
建物にはひとつの小さな扉が付いていた。
「うん、この向こうに消えていったから。」
扉とセイジを交互に見ながらマヤ言った。
「可能性大だな。行ってみよう。」
二人は扉の向こうに消えていった。
それから数時間が経った。
「来てくれて有難う。」
ミナの父親は深くお辞儀をした。
「いえ、お役に立てなくて。」
「じゃあ。」
「またきてねお姉ちゃん。」
遠ざかるマヤたちにミナは手を振った。
「じゃあね〜。」
マヤは応える。
二人は帰路へとついた。
セイジはマヤの隣を歩きながら言った。
「う〜ん。無理だよなぁ。」
セイジは悩んでいるようだ。
「まさか信じてるの?」
マヤはセイジのほうを見て言う。
「ま、まぁな。」
セイジは信じているらしい。
「もし、本当でも私達には無理よ。」
マヤは地面へ視線を落とす。
「だよなぁ。」
ため息をつくセイジ。
「けど…。」
マヤは歩みを止め、セイジを見て言った。
「けど?」
セイジは次の言葉を待った。
彼女は微笑んだ。
「それは、二人…ならね」
セイジは苦笑した。
「さぁ、帰るか。」
「帰れないわよ。」
先ほどとは打って変わって、冷めた口調でマヤは言った。
「なぬ!」
セイジは驚く。単純に。
「帰りの船無いよ。」
「それってお前が悪いんじゃん。」
マヤの言葉にセイジは正論をぶつけてきた。
うっ…。
「だって、あの人いちいち質問して来るから。その……。」
マヤは言葉に詰まる。
「子供じゃないんだよ。」
セイジはマヤの話を最後まで聞かずに歩き出した。
「悪かったわね、子供で!」
マヤはセイジの背中に言葉をぶつけた。
セイジは立ち止まって、
「お前がとは…」
セイジは振り返り、冷めた目でマヤを睨んだ。
「言ってない。」
「言ってるわよ!」
二人はにらみ合ってしまった。
「おい、そこのたぶん東洋人。」
後ろから声がきこえた。
「ああ?」
セイジは振り向く。
そこには一人の男が立っていた。




