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境界線  作者: 薙月 桜華
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第二十九話  砂のはじまり

   第二十九話  砂のはじまり


2237年 夏 南アジア


アーグラを出てから、しばらく西へと歩いた。

目に見えて草木が少なくなっていく光景を見た。

西へ歩けば歩くほど緑は消えていく。

その代わりに橙色をした砂が緑を覆っていく。

砂と緑が混ざり合った地域を歩いた。

もう直ぐ砂だけの世界がやってくるのだろう。

そう思って進む以外は何も出来なかった。

だって、この先に目的地はあるのだから。

だから越えるしかないんだ。



遠くに緑の無い橙色をした砂の世界が見えた。

あそこから先は緑が無さそうだ。

砂の中から顔を出す木々を横目にそこまで歩いた。

目の前は砂だけ。緑なんて無い世界が目の前に広がっていた。

サヤは砂を掴むと、指の間から零れ落ちる砂を見つめた。

手から砂が全て落ちると、手を握りながら言った。

「とうとう緑の無いところまで来ちゃったね。」

その顔は、寂しそうだった。

サヤは前を向くと強く言った。

「頑張ってヨーロッパまで行こう。」

「そうだな。頑張ろう。」

僕はサヤの言葉に答えた。

そうなんだ。もう行こう。ここまで来たら引き返すことは出来ない。

僕らは砂の世界に足を踏み入れた。

踏みしめる砂は不安定で土とは違う感触が足から伝わってきた。

後ろを見れば懐かしい緑の世界。

前を見ればこんにちはの橙色一色の世界。

凄く暑く感じる。なぜだろう。

「なんか暑いな。」

自然とそんな言葉が口から出た。

その言葉を言ったからといって、現状が変わるわけじゃないんだけど。

「うん。そうだね。」

サヤもそれは感じていたらしい。暑そうだ。

緑が無いことがこんなにも暑くさせるのだろうか。

緑って本当に大切だと思った。

たまに吹く風が暑さを和らげようとする。

しかし、その風さえも生暖かいような気がする。

困った。凄く困ったよ。

それでも歩く。それだけだ。



辺りが暗くなり始めると途端に涼しくなった。

「涼しくなってきたね。」

サヤは西へ沈む太陽を見ながら言った。

太陽が地平線へと沈んでいく姿を僕らは見つめた。

太陽が沈み、辺りが完全に暗くなるとさらに気温が下がった。

それは、涼しいというよりは寒いというものだ。

「寒いな。」

僕はサヤを見て言った。

その声は決してうれしそうな声では無く。

力なく口から出た言葉だった。

「うん。」

サヤは目の前の砂を見ながら小さく呟いた。

寒さのためか体を小さく丸めていて、小さいからだがいっそう小さく見えた。

昼間の暑さとの差が広い。夜がこんなにも寒くなるとは知らなかった。

僕とサヤは寄り添って、寒さをしのいだ。

これも砂の世界だからなのだろうか。

寝ようと思っても砂の上に直に眠ることは出来ない。砂が髪の毛に付く。口に入るかも知れない。

そのため、布を敷いて眠ることにした。



ふと起きてみると、まだ月が僕を照らしていた。

起き上がってサヤを見ると、すやすやと眠っている。

寝起きのためなのか、まだ頭が動いていない状態である。辺りを見回しても特に何も無い。

また眠るのもどうかと思ったので、近くの地面をただ見つめていた。

その時、視界に何かが見えた。小さい動物だ。鼠か何かだろうか。鼠なら近づいてこない限り面倒は無いだろう。僕はそう思った。

次の瞬間、その鼠に大きな動物が飛び掛った。

その大きな動物は猫のような体型だが、猫よりももっと大きい姿をしている。

鼠と猫らしき動物が生きるか死ぬかの争いをしている間に、念のため僕はその光景を見ながら自分の剣を取った。

両者による争いは終わり、猫らしき動物が勝利を収めた。

鼠を咥えた姿は、勝者の姿として僕には見えた。

僕らのほうを猫らしき動物は見た。

その目と僕の目は確かに合った。

こちらに襲い掛かろうというのだろうか。

一匹なので、襲い掛かられてもどうということは無い。

しかし、面倒は避けたい。僕は手に持っていた剣をその場に置いて戦う意思が無いことを伝えようとする。

これで、襲い掛かってくるなら仕方が無い。

。もう一度剣を持ってあの猫らしき動物へと剣を振り下ろすことになるだろう。

しかし、それは無かった。

その動物は捕らえた獲物を口に咥えたままどこかへ行ってしまった。

こんな夜でもこの世界は生死を賭けた争いをしているのかと思った。

そろそろもう一度寝ようと思い横になろうとした。

しかし、先ほどの突然の争い勃発を考えると、また再び起こるのではないかと考えてしまう。それと共に、今度は自分たちに襲い掛かってくる動物が現れるのではないかと考えてしまった。

辺りを見回し、音を聴く。

何も居ない、聴こえない。

思い過ごしだと自分に言い聞かせ、そのまま眠ることにした。



次の日になり、暑さで目が覚める。

サヤはさきに起きていて出発する準備をしていた。

二度目に眠ってから、今まで何も無かったことが良かったと思えた。

夜は全く安全であるとは言いがたい。特にこの砂の世界に何が居るのかまだよくわかっていない。

今後、気をつける必要があると思った。

足元の砂を掴んで見る。

手から砂が零れ落ちる姿を見ながら僕は思った。

この砂は人間に対してはそう甘くは無いようだ。

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