第二十八話 調達
第二十八話 調達
2237年 夏 ヨーロッパ
「そろそろお前たちだけで、森へ食料を取りに行ってきてくれ。」
ルイスは私たちに言ってきた。それも突然に。
レイやケイトたちと一緒に行ったことはある。
けど私たちだけで行くことは無かった。
特に難しい仕事じゃない。森へ行って獲物を狩って持ち帰るだけ。ただそれだけなのだ。
今回は海側にレイが何人かと一緒に行くらしい。
「僕らだけでとって来てやろう。」
セイジはそんなことを隣で言っている。
ああ、そっか。二人きりになるんだ。
久しぶりだなぁ。この集団に入ってからは最近までそんなことは無かった。
敢えてそうしないようにしていたわけじゃない。だけど、やっぱり二人で居る時間も必要だよね。
この集団に入るまではずっとふたりっきりだったんだから。
身支度をすませると私とセイジは外へ出た。
二人だけで並んで歩く。私がセイジの左側を歩く。何も言わずに。なんか懐かしくも感じる。
私たちは誓った。ずっと二人一緒だって。
今も一緒だから誓いは果たされているのかもね。
突然右手に何かが触れた。私は直ぐに右手を見る。
セイジは私の手を握っていた。そして前を向いたまま何も言わない。
私も何も言わずにそのまま前を向いて歩いた。
手を握ることも最近は無い。
手を握るような状況なんて無かった。何時も他に誰かが居たり、誰かと剣を交えていた。
旅に出たときは何時も手を握っていた。
その頃は二人だけの時間が凄く楽しかったんだと思う。
今はどうだろう。
森に着く。前回はレイと一緒にここへ来た。もちろんセイジも一緒だった。
あの時は丸々太った豚を狩ったことを覚えている。今日も居るといいのだけど。
森の中は静かだった。凶暴な動物は森の奥のほうにいる。なぜ知っているかというと、実際に奥のほうに行ってみたからだ。
そこには白い熊がいて、その時は私たちに気が付かなかったので争うことはなかった。
食べるために殺すわけでもなく。殺されそうになったから殺そうとする訳でもない。
だから、今も森の奥には居ると思う。
しばらく森の中を進むと、突然草木の葉を揺らす音がする。
私とセイジは素早く剣を構えながら音のするほうへ向く。
そこからは豚が出てきた。しかも、丸々である。うん、おいしそう。
早速セイジが一撃を加える。豚は悲鳴を上げてよろめく。セイジが一度豚から離れた。
豚は血を流しながらふらふらと歩いている。
私は自分の剣で豚に止めを刺した。
「ごめんなさい。」
動かなくなった豚に私は謝った。
「謝るなよ。」
セイジがそう言って豚の傍へ行き、運ぶ支度をする。
「大切なことは、この豚の死を無駄にしないことさ。無駄死にがもっとも良くない。何もせずに死ぬのは嫌だろ。」
セイジは私に聞いてくる。
「うん。そうだね。」
私はそれだけ言うとセイジを手伝った。
私たちは縛った豚を引っ張ってアジトへと戻った。
アジトへ戻るとレイたちはまだ帰ってきていなかった。
「収穫はどうだった。」
ルイスが聞いてくる。二人なのだから量は知れているだろうと思う。
「これだけです。」
セイジがそう言って豚を差し出す。
「おお。ちゃんと獲ってきたんだな。」
ルイスは、しゃがんで捕らえた獲物を見ている。
ルイスは立ち上がると、
「じゃあさっそく料理してもらおう。」
そう言うと、アジトの奥のほうにいる人たちを見る。
彼らは、食事係の人たちだ。
少し前にグランたちが加わったことで、一気に人数が増えた。
そのため、沢山の食事を一気に作らないといけなくなってしまった。
だから食事係に選ばれた人間が、獲ってきた食材を使って料理をしていくことになっている。
私たちが獲った豚が調理場へ運ばれていく。
それを見ながら私は思った。
あんな量の肉じゃ、レイたちが獲ってくる魚の量が良くなければ足りないと思う。
なぜ私たち二人だけで行かせたのだろう。よく分からない。
「マヤ、休もう。」
セイジの言葉で私は現実に戻ってくる。
「そうね。そうしましょう。」
私はセイジにそう言うと、身に着けていた防具や武器を置いてから井戸のある外へ出た。
新しいアジトとして使っているこの建物の傍には井戸がある。初めて見たときは本当に使えるのか凄く不安だった。だけど、枯れているわけでもなく何度か井戸水を流していたら大丈夫そうな水が出てきたので使っている。
私とセイジはその水を布にしみこませて体を拭いた。
アジトへ戻るとそのまま私たちの部屋へ戻った。
このアジトである建物は三階建ての建物である。
一階は調理場と広間に使っていて、二階以上がそれぞれの部屋になっている。
それぞれと言えど何人かが合同で一つの部屋を使っている。
その中でも、ルイスとレイ、ウィリアムさんとミナの親子、私とセイジや何時アジトに戻ってくるか分からないケイトは小さな部屋が割り当てられた。
ちなみにグランは部下と一緒がいいと初めは言っていたけど最終的にはケイトと一緒の部屋に入ったとのこと。
私とセイジは食事時が来るまで眠ることにした。
食事時になったので一階へ行くと、私たちが獲ってきた以上の肉がそこにはあった。
レイと一緒に行った人の何人かが海ではなく陸のほうで獲物を狩ってきたらしい。
やはり私たちを二人にしようとしたのだと思った。




