第二十三話 聖なる河と
第二十三話 聖なる河と
2237年 夏の始まり 南アジア
僕らが川を越えると、バラナシが見えた。
左手に見える川をガンジス川というらしい。
そういえば、さっき川を渡っている途中に牛がこの川を流れていった。
からすも一緒に居て、肉をついばんでいた。
僕らに気が付くと、どこかへ行ってしまった。
お食事中すいませんって気持ちだ。
船の漕ぎ手はよくあることだと言っていた。
よくあることなのか。
牛が川を流れる光景が日常なのか。そうなのか。
あとは実際に行って見たほうがいいと言われた。
この川はお世辞にも僕の考える綺麗な川には見えない。
それでもこの川には何かあるんだろう。
聖なる河と呼ばれる理由が必ずあるはずだ。
僕らはバラナシの中へ入っていった。
よくわからないけど、この町はかなり大きいことが分かった。
近くの人に聞くと、この町並みが西へずっと続いているらしい。
どこまで続いているのか凄く気になる。
大通りに出れば大量の人間が行きかっていた。
ある者は荷物を手で持ったり、肩に乗せてものを運んでいる。
またある者は車輪の付いた台を使って運んでいる。
人間が多いから騒がしいようだ。
その騒がしい中で、低く大きい音が聞こえ出した。
その方向を見ると、彼らが居た。
牛数頭が固まって道を通ってこちらに向かってくるのだ。
ひかれると困る。だから、サヤの手を引っ張って、建物側に寄った。
目の前を牛が通り過ぎていく。
どこかで飼っていた牛だろうか。
「あんたら。外から来た人間みたいだね。」
振り向けば僕らは店の前に居て、そこの店主が僕らに話しかけてきた。元気なおばさんみたいだ。
「あ、はい。」
サヤが答える。僕もそれに合わせて頷く。
「そうかい、だったら牛は傷つけないほうがいいよ。ここは宗教上牛を聖なる動物としているからね。」
「そ、そうなんですか。」
僕はそのおばさんに答えた。
「ここでは到る所で牛に会うよ。ほらあそこにも。」
彼女が見る方向にも、牛が居た。
その牛はゆっくりと道を進んでいる。
僕らの住んでいるところでは、ちょっと無い光景だと思う。
誰かしらが、牛を連れている所しか見たことが無い。
「そういうことだよ。そうだ、ちょっとまってな。」
そういうと、彼女は店の中に入り、店に置いてある何かを持って戻ってきた。
「これをあげるわ。おいしいから食べてみて。」
彼女は黄緑色をした果物らしいものを僕らにひとつずつ渡した。
僕らは礼を言うとその場を離れた。
果物をもらったものの何処で食べようか。
果物片手に町を歩く。
ふと左側を見ると、建物の間からガンジス川が見えた。
川のほうに出てみることにした。
出てみると、川までの部分が階段上になっていた。
僕らはそこに座って川を眺める。
座っても何もすることがないので、さっきおばさんからもらった果物を頂くことにした。
かじりながらふと周りを見た。
僕らの左側には老人が近くに座っていた。
しかし、生きているのか死んでいるのか分からない状態に見える。
だって、全く動かないんだもの。
それから、しばらくガンジス川を眺めていた。
正直眺め続けることに飽きた。
しかし、特にすることが見つからない。
あの村の店主に言われて来たものの。何があるんだろうか。
誰か少しでいいからこの川とこの町について教えてくれれば、本当の価値が分かるのに。
もらった果物を食べ終わると、僕はサヤの手を引いて町の中を歩いた。
どこへ行くとも分からない。
日が傾いていたので、今日はここで夜をすごさなければいけないようだ。
通りに戻れば牛がのろのろと歩いている。
僕は立ち止まる。
急に止まった僕をサヤは不思議そうに見ている。
サヤが何か言っているが頭に入ってこない。
牛は聖なる存在で傷つけてはいけない…。
ということは、殺して食べちゃいけないという事か。
だったら…。
「どうしたの。」
サヤの大きな声で、僕は現実に引き戻される。
「ん。どうした。」
僕はサヤの声に反応した。
「どうしたのこっちの台詞です。何考えてたの。」
むっとした顔でこちらを見てくる。
「いや、牛のことを考えていたんだ。」
僕はそう言ってサヤのほうを見て頷く。
「ここでは牛は宗教上聖なる動物。傷つけちゃいけない。なら、殺して食べることも無いってことだよな。牛は食卓に出ないということだな。」
「そんなこと考えてたの。傷つけちゃいけないところでそれは分かるでしょ。聖なるって言ってるんだから。」
格好つけて言ってみたものの。
サヤにそう言われてちょっとへこむ。
僕らはまた歩き出す。
外で散髪をしている店を発見する。
外なら切った毛を捨てることは楽だと思う。
しかも、道具を持っていけば何処でも出来そうな気がする。なかなか面白い。
大通りを当てもなく歩いてみる。
今日はどうしようか。どこに泊まろうか。
「ちょっとあんたたち。まだこの辺歩いてたの。」
声が聞こえたほうを見ると、昼間果物をくれたおばさんだった。
「今日はこの町で泊まろうと思ってるんですけど。泊まるところをどうしようかと考えていたところです。」
僕は素直に言った。本当なんだから仕方が無い。
「ああ。じゃあ、うちに泊まっていきな。」
「え。いいんですか。」
サヤが隣で喜んでいる。
かなりお邪魔した感たっぷりだけど、野宿よりはいい。
「ほら、二人ともこっちに。」
おばさんはお店の奥にある住居部分に案内してくれた。
今日はなんとかまともなところで眠ることが出来そうだ。
おばさんたちに感謝することにした。