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境界線  作者: 薙月 桜華
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第二十二話  間違い

   第二十二話  間違い


2237年 春の終わり ヨーロッパ


みんなぐったりとその場に倒れていた。

私とセイジやルイスたちは、船の襲撃を試みたものの前回のようにはいかなかった。

失敗して、逆に痛手を負ってしまったのだ。

仲間が何人も死んだ。

アジトに戻っても特に何もする気が起きない。

無力感が建物内の空気を支配する。

ルイスだけは見張りで屋上に居る。

それ以外は、みんな何かに寄りかかって死んだような顔をしている。

相手が強大になっていることを考えず戦いを挑んでしまった。

自らライオンの檻に入っていく牛のようだ。

「これからどうしようか。」

セイジはテーブルから頭を上げて言った。

「今の俺たちじゃあ。もう無茶だ。」

それを聞いていたレイが答える。

何もすることが起きず。ただみんなその場に居るだけである。

「何か方法があればいいんだけど。」

私はふと自分に言ってみた。

セイジがそれを聞いて、私のほうを見て強く言った。

「方法なんてあるか。」

椅子にもたれると続ける。

「やっぱり無茶だったんだ。」

セイジの目は何を映しているのかまったく判らなかった。

「もっと仲間が多ければなぁ。」

レイがぼそっと独り言のように言う。

そうだ。もっと仲間がいれば現状も変わるかもしれない。

しかし、どこに仲間が居るの。あてなんて無いよ。

大きな集団が仲間に入ってくれればいいけど、そんな人たちが協力してくれるだろうか。

このままでは、施設奪還なんて夢のまた夢。

今は休もう。頭を休めれば何か思いつくかもしれない。



誰かが階段を勢い良く降りてくる。

その音で私は目が覚めた。

「おい、よくわからない奴らがこの建物に近づいているぞ。」

ルイスの声にみんなはゆっくりと体を起こすが現状を把握しきれていない。

再度ルイスはみんなに言った。

「だから、敵が来たんだよ。」

ルイスの言葉にみんなは状況を把握できたらしく、みんなそれぞれの武器を持って扉を見た。

建物の扉が開かれた。

扉を開いたのは大男で、片手には大きな棍棒を持っている。

「なんだお前たちは。」

扉の近くに居たレイがその大男に言った。

しかし、その大男はレイの言葉を聞き流して部屋の中を見回している。

何かを探している。まさか。

彼の目が一点で留まった。

彼の視線の先を追う。その先には親子が居た。

「当たりだな。」

大男は棍棒を肩に乗せて言った。

それと同時に大男の仲間らしい人間たちが扉から建物内に入ってきた。

「お前たちに恨みはねぇが、ここで死んでもらおうか。」

大男は建物に入りながらそう言った。

「お前たちと戦う理由が何処にある。」

レイが大男に言う。

「うるさーい。」

大男が大きな声で答えた。

大男は肩から棍棒をおろす。

そして私たちに近づいてきた。

「お前たちはカールを」

大男はそういうと自前の棍棒を振り上げる。

「殺したいんだろ。」

そう言いながら大男はレイめがけて棍棒を振り下ろした。

鈍い音がする。

レイは自前の棍棒で大男の棍棒を止めた。

「うんぐっ。」

大男の力は凄いらしく、レイは押されていた。

「違う。俺たちはカールを殺したいわけじゃない。」

セイジが大男に叫ぶ。

「うー。うりゃあ。」

大男はレイを棍棒で押し切った。

レイは地面に倒れた。

大男は、すぐに歩き出す。

「じゃあ、お前たちは何が目的なんだ。」

大男はそういいながら今度はセイジに棍棒を振り下ろした。

セイジは自前の剣で大男の棍棒を止めた。

しかし、剣では長くは持たない。

「私たちはカールが占領した施設を取り戻したいだけなのよ。」

私は叫んでいた。私たちの目的はそれなんだから。

「えっ。」

大男は私のほうを見る。その顔は「何故だ。」と今にも言いそうな顔になった。

「し、施設を。あいつが施設を奪ったのか。」

大男は顔だけこちらを向いたままそう私に聞いてきた。

「そうよ。」

私がそう言った後、後ろから声が聞こえた。

「セイジから離れろ。」

後ろを振り向けば、ルイスが弓を引いていた。

「離れなければ、お前の頭を撃ちぬく。」

ルイスは大男にそう言った。

大男はセイジから離れた。

すると、セイジは逆に大男に剣を振り下ろした。

大男は棍棒でセイジの剣を止める。

「セイちゃんやめて。」

大男の様子が変わってきている。

さっきとは何かが違う。

私はルイスを止めた。

セイジを止めれば彼の変化の理由がわかるはずだから。

「うっ。うりゃあ。」

大男はセイジを押し切って床に倒した。

「本当にカールが。カールがあの施設を占領したのか。」

大男が、信じられないとでも言いたいらしい。

セイジが立ち上がって再び大男に剣を振り下ろそうとする。

「セイジ。やめろ。」

ルイスの声で、セイジは動きを止めた。

「本当だよ。グランくん。」

私は声のするほうを見た。ミナの父親であるウィリアムが言ったのだ。

「あれ…。あんた。まさか。」

グランと呼ばれた男は何かを必死で思い出そうとしていた。

彼がミナを見たとき。何かを思い出したようだった。

「なんで、あなた方がここに居るんですか。施設は。」

グランと呼ばれた男はウィリアムに向かって叫んでいた。

「落ち着きなさい。グランくん。」

ウィリアムは冷静に言った。

彼は何かを理解したようだった。

彼は大きく深呼吸をするとこう言った。

「あなたがここに居る時点ですでにおかしい。なら、やっぱりカールが。」

彼の言葉に、ウィリアムは頷いた。

「ああ、彼が軍人になったとき。いつかはこうなるんだと思っていたよ。」

ウィリアムが彼に答えた。

彼とはカールのことだろう。

なら、ウィリアムとカールとこの男は知り合いなのか。

「彼は嘘をついていたんですね。それにまんまと騙されていた。」

グランは天井を見ながらいった。

「あなただと気が付かなかったら、今頃取り返しの出来ないことをしていました。」

「仕方が無いさ。昔の話だからな。」

ウィリアムがグランに言う。

やっぱり二人には何かあるらしい。

ウィリアムはグランの小さいころを知っているということか。

グランがウィリアムを見て言った。

「ウィリアムさん。俺も手伝います。奴から施設を取り戻しましょう。」

グランは自分の手の平を見て続けた。

「奴は。カールは俺の手で殺します。」

グランは強く拳を握る。

力が強いのか拳が震えていた。

「破ってはいけない約束を破ったんですから。」

グランはウィリアムを見て言った。

「そうだな。約束したんだったな。」

ウィリアムが遠くを見ながら言った。

「俺は一度アジトへ戻って、残りの部下全員を集めてまたここに来る。」

そう言うと、グランは扉へ向かって歩き出した。

建物内に入っていたグランの部下は一緒に外へ出た。

外では、グランが部下になにやら説明をしているところが見えた。

部下たちはそれぞれが頷いている。

グランは部下を連れて戻ってきた。

そして、私たちにこう言った。

「うちの部下を二十人ほどここに置いていく。何か手伝わせてやってくれ。」

グランはそう言うと、残りの部下とともに自分のアジトへ戻っていった。


無力感はどこかへ消えてしまった。

代わりに、私たちには希望が見えた。

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