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境界線  作者: 薙月 桜華
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第二話  追記

   第二話  追記


   2236年 日本 夏


 少年は黙々とペンを走らせていた。

 見るからに多くを語らない紙をため息交じりに見ながら、年代順に内容を別の紙に清書していった。

 

 

          ???

           ↓

 2100〜2110年 全世界大戦(米英勝利)

           ↓

           ↓ 戦争と温暖化により地形が変形。

 この間、各国は報復をする国々と、自然への回帰を試みる国々に分裂した。(我が国は後者に属する。)

↓                 

           ↓ 

           ↓ 

 2130年 資源(木以外)のほとんどがそこをつく。

       米英を含むすべての国々が自然への回帰を試みるようになる

       電気、化石燃料を使うものすべてを廃止

           ↓

           ↓

           ↓

 2190年 ヨーロッパ連合(EU)のすべての加盟国が合併し、ヨーロッパ連合王国となる。

           ↓

 



「…………」

 カイはペンを走らせることをやめた。

「ふぅ〜……」

 畳に寝転がる。畳のにおいが鼻をつく。

「あち〜。」

 寝たまま背伸びをする。

「あ〜あ、なんでこれだけしかないんだろう。」

 昨日、中央(京都)までいってこれだけしか発見できなかった。

 カイはこの国の歴史について知らないし、それほど多くはないと思っていた。

 案の定、出てきた事柄は極わずか。

「だけど2100年……って、それ以前は一体何があったんだ?」

 それに気になるのは「電気」「化石燃料」という言葉。

 わからない、正直何もわからない。なので、ひとまず寝よう。頭を使うと眠くなる。

そう心の中で言って、目を閉じた。

「…………」

「やっほ〜い!」

 突然少女がカイの寝ているところに進入する。少女はカイの額を軽くはたく。

「いったぁ!」

「なぁ〜にかたいことやってんの〜?」

「………」

 カイは少女を見つつも、なお無言である。

「へい、へい、へい、へい、へい!」

 掛け声にあわせ、再度額をはたく。

「いって〜なぁ!」

 たまらず起き上がってしまった。

「なにやってんの?」

 そばに寄る。

「………」

カイは何も言わない。

しばしの沈黙のあとカイは口を開いた。

「サヤ」

「ん〜?」

 サヤと呼ばれた少女を少しみつめたあと、紙に視線を戻した。

「俺たちの知らない時代の人々は、今よりももっといい暮らし…してたのかもしれない。」

 先ほど書き写した紙をサヤにわたす。

「これ見てみろ、知らない見たこともない単語がある。」

「何これ………」

サヤは手渡された紙を言葉を失っている。

「これは中央から手に入れた情報だ。」

やはり驚いているのかな。カイはそう思った。

「読めないじゃない」

「ふへ?」

サヤの唐突な答えにカイは素直に反応することが出来なかった。

「何かいてあるか、解読できないんですけど。」

暗号文を渡されても私には解読できませんってことですか。そうですか。

「ふん!」

 サヤの手から自分が書いた紙を取り上げ、元の紙を渡した。

「どうだ」

「あんまりかわらない……」

「…………」

言葉にならなかった。カイは心がくじけそうになる。

「う〜ん」

見て分かるものじゃない。しかし、サヤは目の前で精神的に攻撃を加えられたカイを少しかわいそうに思った。

「なんとか読んでくれ。」

懇願する状態。情けないと思う。

「はぁ〜」

 ため息とともにサヤは紙を投げる。先ほどから何とか解読しようとはしているが、無理らしい。

「そんなに俺の字は読めないか!」

「ええ、読めないですとも」

「じゃあ、俺が耳から脳に伝達してやろう。」

そういうとカイはサヤの耳元で囁いた。囁く必要は無かったけど。

「電気ってしってるか?」

「しらない。どう書くの?」

 すぐにカイのほうを見て言った。

「書いても読めないだろ。」

先ほどのやり取りは何だったんだ。

「あ、そうか。」

サヤは理解したみたいだった。

「まぁいい。おれたちは、大人にこの国のこと何か教えてもらったか。」

「風土はおそわったじゃん。」

「ちがう!過去だ」

カイの声が少し大きくなってしまった。

「これには2100年よりも前がない。」

カイは自分が書いた紙に目を落として言った。

「え〜っと、ということは。」

 サヤは上に視線を向けながら計算しだした。

「2099年分はどこいった?」

サヤの計算時間が勿体無いのでカイが言ってしまう。

「そ、そう。どこいったのかな。」

 …おそい!

「それもあるが、戦争が過去にあったらしい。2100年だ。」

カイは紙を見ながら言った。サヤに読めないのだから仕方が無い。

「それ以前の記録なし…。」

なにやらサヤは考え込む

「はぁ、やっぱりこの情報あってはならないものかもしれない。」

 カイは畳に再度ねころがる。

「う〜ん。なぞだね。」

サヤは寝転がるカイを見た。

「ああ、謎だ。」

天井を見上げてカイは考えた。

どうすればいいか。

「ふぅ、ここはひとつ爺さんにでもきいてみるか。」

一息つくと勢い良く起き上がりサヤに言った。

「あ、物知り爺さんかぁ。」

サヤも理解したらしい。

彼に聞いてみることがこの問題の解決策になるだろう。

 


「あついね。」

 外に出ると太陽光が僕たちを狙撃する。

 サヤはちゃっかり団扇持参のようだ。

「あ、あつい。」

「はいはい」

 そういうとサヤはカイに団扇を仰いでくれた。

 

 僕たちの住む日本は四季がある。他の国、特に海を渡った向こうの国は四季がなく。一年中暑いとか、寒いとからしい。ずっと暑いのはこまる。

 そして僕たちの住んでいるところは海と山に挟まれたところである。

 両方とはうれしいものだが、津波が悩みだ。

 町は丁度山と海の中間にある。

 昼間は大人はいない。大人はみんな山や海、川に今夜の食をさがしにいく。

 老人と子供だけだ。十八歳になると大人になってしまう。

 ちなみに十八までに結婚しても大人になることはない。

 子供のままでいたいのは本音だ。

 いや、自由になりたいのかもしれない……。

 


 二人は爺さん宅へと着いた。

「お〜い、じっちゃん。」

 カイは、家の戸を開ける。

「ああ〜?」

 中から一人の老人が出てきた。

「なんだぁ?なんか用か」

 老人は頭を掻くが、髪の毛は少ない。

「これみてほしいんだ。」

 清書し直した紙を渡す。

「ん〜?」

 ちらっと見たとたん。

「おお!珍しいの、まだのこっとったのか。」

「え?じっちゃん、知ってるの?」

カイは読めたこととともに知っていることに喜んだ。

「ああ、最近はいろいろあってめっきり情報がなくなってもうて。」

「いろいろ?」

 そばで聞いていたサヤが話に入る。

「おうよ、歴史的なもの。つまり過去の出来事に関するすべてのものを消そうとする輩がいるらしい。」

「いったいなんのために」

そして、カイは老人からの答えを待つ。

「カイよ、そこがわからんのだよ。だが…」

 少し伸びたひげを手でさすりながら続けた。

「だがな、まだ残っているところはある。しかもすべての情報がな。」

「ほ、本当?どこ?どこ?」

 老人に詰め寄るカイ。

「ヨーロッパ連合王国の旧都ロンドンじゃ。」

「ヨ、ヨーロッパ…。」

言葉がそこで止まる。

「と、遠いね…。」

 たまらずサヤは本音を漏らす。

 誰もその点に関して、それ以上は絡まなかった。

「そこにはすべてのきおくがねむっているらしい。」

老人は二人を見ずに言った。

「ヨーロッパか。」

カイは距離の遠さに目がくらみそうになる。

「数年前、同じようなことを聞きにきた奴がおった。」

 チラッとカイをみる。

「そいつはな、親の反対を押し切って西の方に行った。」

「西の方?」

「ああ、そのころはまだきおくがロンドンにあるとは知られていなかった。それに知らなかった。」

 爺さんはため息ひとつして。そばにあったキセルに干からびた草をいれ火をつけた。

「それが三年前にその場所に行ってきた人間と会えてな、話をしてくれた。」

 爺さんはキセルを吸い、白い煙を吐く。

「といっても、口ではなく紙にかいてだがな。」

「え?なぜ口じゃないの?」

 カイが質問する。

 カイもサヤも頭の上に?がついていた。

「首がとぶんじゃよ。」

「首が?なぜ?」

 い、意味がわからない……。

「…………」

 隣ではサヤが蒼い顔をしている。

 想像してみるとあまり良い光景ではない。

老人は話を続ける。

「過去をを消そうとするやからが、その過去を話そうとする人間を片っ端から殺しているらしい。」

「話した途端に首が飛ぶ、か。」

カイはそうなることまでは理解できた。

 サヤはきょろきょろと周りを見ている。

「どうした?」

その姿にカイは声をかける。

「そうなら、どこかから見てるって事よね……。」

カイと老人を交互に見て言った。

「見に行ったやつらだけじゃがな。」

老人はそこでキセルを吸い。ゆっくり吐いて言った。

「で、話は戻るが。親の反対を押し切り西のほうへ行ったのだ相方とともにな。」

「ふ〜ん」

カイはその点にはそれほど興味を持たなかった。

先に誰かが行ったということだけだ。

「そいつがだれかわかるか?」

 カイは首を振る。

 わかるかい!そんなもの。

「おまえの義兄と姉だ。」

「え?え〜〜。」

カイは老人の言葉に驚く。なぜだ。

「…………。」

 予想外のことにびっくりしたのはサヤもだった。何も言わない。

「いや、そんなはずはないよ。母さんには二人は事故で死んだって。」

「遺体は見たのか?」

老人の問いにカイは首を横に振る。

「見てない、見させてもらえなかった。」

あの時、母さんに見ちゃ駄目だって言われたことを思い出した。年齢的に見てはいけないものだったのだろうと思っていた。

「さっきも言っただろう。親の反対を押し切ったと。お前の母さんは、おまえの義兄と姉を許せなかったのだろう。」

「そうか…姉さんはロンドンに。」

カイはそう言って、老人の言葉を待つ。

「たぶんそうじゃろう。」

 爺さんは天を見上げる。

「だが、いまだ帰ってこないのはおかしいの。」

老人は腕を組んで考える。

キセルは口の端に咥えている。

「ロンドンとは知らないからまよってるんじゃ……。」

「片道二年もかからん。」

カイの言葉に老人は即答する。

「だけどこんなに遅いんじゃ。」

カイは言ったあと色々と考える。

それを見た老人は言った。

「いろいろなところにいっているのじゃろう。それにあいつらには馬をあたえてある。だから……」

「僕も行きたい。」

老人の言葉を遮ってカイは言った。

「え?え〜〜〜?」

 サヤはとなりで素っとん狂のような声をあげていた。

「姉さんたちが心配だから。それに自分でもそのきおくが見たいんだ。」

「え?どうしちゃったのよ〜。」

サヤは混乱し続けている。

「………。」

 静かに爺さんはカイを見ていた。

「サヤ、一緒にいってくれないかな。」

カイはサヤの目を見ながら言った。

さすがにそっぽを向いてこんなことは言えない。

「う、う〜ん。」

サヤは悩む。

「私たちはまだ若いし、何より場所が遠いじゃない。」

それだけ言うとサヤは黙ってしまった。

「告げたか……。」

そういって老人は少しの間遠くを見る。

突然老人の目はカイたちに移動した。

そして言った。

「本当に行くのか?危険も多々あるぞ。」

「僕は行きます。」

カイはもう決心したようだ。

「……、お嬢ちゃんは?」

老人はサヤのほうを見て言った。

「カ、カイが守ってくれるなら……。」

 目的地までは簡単には行けないだろう。

それをサヤも知っている。

「お守りましょう。」

カイは決心した。もう戻れない。

「じゃ、じゃあ私も行く。」

「………」

 さっきから爺さん。無言が多い。

 大きくため息をついて爺さんは言った。

「わかった、うらの小屋からよさそうな馬を二頭えらぶがよい。」

「はい」

カイとサヤは同時に老人に返事をした。

「この先、危険がいっぱいある。十分注意して向かいなさい。」

 厳しい顔で喋っていた爺さんは、突然にやにやしだした。

「まずはじめは自分の親からだな。」

 

 

それから数日後の夜になる。

カイはサヤ宅へと来ていた。

 第一の関門だ……

「おねがいします。サヤさんをください。」

「いっしょになればいい………訳ではない!」

 サヤの父親は今にも暴れだしそうだ。

「ふん」

 しかし、すぐに奥にひっこんでしまった。

「ちょっと、おとうさん!」

サヤの声にも耳を貸さない

「…………」

カイは何も言わずじっとしていた。

 今度は母親が無言で出てきた。なんとなくわかった。あれは前座か。

「ねぇ、ひとつ聞くけど。」

 サヤの母親はカイを睨みながら言った。

「あなたに、サヤは守れるの?」

「守ります、全力で。」

「…………」

 サヤの母親は無言になってしまった。

「サヤはこれで本当にいいの?」

 サヤにたずねる。その目は現実を否定したいかのようだった。

「うん、。決めたことだから。」

 はぁ〜とため息ひとつしてサヤの母親は言った。

「結婚もなにもしていないのに、二人がいっしょに外にでるのは、こちらとしても色々あるけど。いっしょになるって言うなら、自分たちで好きにしなさい。」

「やったあ!」

 サヤは喜んでいた。



翌朝になり、二人は町の外れでサヤの両親と向かい合う。

「それじゃあお母さん、行ってくるね。」

「気をつけてね。サヤ。」

 サヤの母親はサヤにそう言うと、カイのそばに来て、カイの耳元でこう言った。

「サヤにもしものことがあったら、ただで済むとは思わないことね。」

 彼女の笑みはやけに怖かった。

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