第十九話 成果
第十九話 成果
2237年 春 南アジア
あの大きな川を渡ってから僕らは西へ向かっていた。
川を渡ってしばらく歩くと村を発見した。
とは言っても、遠くに見える程度だけど。
ひとまずその村へ行ってみることにした。
相変わらず左を見れば海、右を見れば森である。
このまま西へ行ったとして、聖なる河へ辿り着けるのだろうか。
辿り着かなければいけないわけではないが、行ってみたいと思った。
これから行く村の人に聞いてみよう。
僕らは目の前に見える村へ向かった。
僕らはしばらくして村に辿り着く。
村には沢山の人間が居た。
みんな歩いて村の中を行き来している。
しかし、みんなぐったりしているように見える。
一人の老人が僕らに話しかけてくる。
「た、たべものを。たべものをくれぇ。」
両手を僕らに向けた老人は、そう言って僕らにしがみついて来る。
それを見た若い女性が近づいてきて僕らから老人を引き剥がした。
「やめなさいって。ここに来た人がみんな食べ物を持っているわけじゃないでしょう。」
その女性は、なおも僕らにしがみ付こうとする老人を無理やり引き剥がして僕らから遠ざけていく。
老人は僕らに何か叫んでいたが、何といっているのか聞き取れなかった。
遠ざかる老人を横目に村全体の状況を再度確認する。
みんなぐったりとしてはいるものの立って歩いている人ばかりだ。
座って建物に寄りかかっている人も何人か居る。
「食べ物…。」
僕は口に出してみて考えた。
食べ物が無いということは何故だろう。
海と森に囲まれた場所だ。
同じような環境である僕らの住んでいる場所ならどちらからも食料が手に入る。
僕らの住む場所とは何が違うのだろうか。
「みんなおなかが空いているのかな。」
サヤの言葉を聞いて、自分で考えることをやめる。
「そうかもな、だけどなんでだろう。周りには海も森あるのに。」
僕は口に出して言った。
「どちらも食料が取れないのよ。」
声がしたほうを見ると、先ほど僕らから老人を引き剥がした女性が立っていた。
「さっきはごめんなさいね。食べ物があれば彼もあんな風にはならないのに。」
そう言って、先ほど老人を連れて行ったほうを見る。
そして、僕らのほうを向いて言った。
「私はサティ。この村に住んでいる一人よ。」
彼女の自己紹介を聞く。
「僕はカイです。」
「私はサヤ。」
僕らもそれぞれ名前を言っていく。
サティはぐるりと僕らの周りを回り始めた。
「へぇ、あなた大きな剣を持っているのね。こんな大きな剣を何に使うの。」
サティは僕にそう言った。
「今のところは動物を狩る時に使います。サヤの持っている武器もそうです。」
「へぇ。」
僕の答えにサティはサヤのほうの武器を見て、ぐるりと僕らを一周して元の位置に戻った。
「そういえば、何故食料が取れないのですか。」
僕はすぐに質問を返す。何故なのか知りたかった。
海なら魚が釣れるだろうし、森なら食べられる動物が居ると思う。実際に居るかどうかは分からないけど。
「それはね。海には人を食う魚が居るからよ。船の底に穴を開けて沈没させるの。」
あれ、前にそういう魚を見なかったっけ。
「こっちの大陸に渡るときに私たちも襲われました。」
サヤが言っていた。顔色は良くない。
あれはこの旅で初めて生死に関わったときだ。
あの魚と同じ種類の魚が居るというのなら海に船を使って出るのは危ないな。
「そう。だから、陸から一本釣りをするしかないの。」
「なら、森のほうはどうなんです。森なら食べられる動物が少しぐらいは居るのでは。」
サティの言葉に僕は返した。海がだめなら森だ。さすがに、森の入り口の辺りにはそれほど厄介な動物は居ないだろう。
いや、僕はそう思いたい。
「前も今も食料にしている動物は森の入り口近くに居るの。だけど、最近凶暴なやつが森の入り口に現れるようになってね。海のほうと合わさってお手上げ状態なのよ。」
「そうですか。しかし、魚と森に居る動物の肉だけでこの村は大丈夫なんですか。」
僕はサティの言葉への疑問を投げかける。
「こっちへ来て。」
サティはそう言うと僕らをある場所に連れて行った。
そこは田んぼらしい。お米を育てているのだ。
ほかにも野菜を育てているらしい。
「お米や野菜は育てているの。だけど、それだけじゃ足りないのよ。」
サティは僕らを見て言った。
確かにお米や野菜はある程度の安定した食料を供給してくれる。
しかし、それは長期的な計画によってもたらされるものだ。
「だから、あなたたちに森の入り口に居る凶暴な動物を狩って欲しいの。」
サティは僕らを交互に見ながら続ける。
「見たところ、それなりに狩りをしてきたように見えるから。」
「それなりか。」
僕はサティの言葉にふとシェイのことを思い出す。
あの森で僕らはシェイと一緒に狩っていた。
その先に待っているもののために。
これもその一つなのかもしれない。
僕はそう思うことにした。
「仕方ないな。」
僕はサヤのほうを見ながら続ける。
「サヤ。手伝おう。手伝わないとここでは飯が食えないかもしれない。」
サヤが僕のほうを見る。
黙って前を向く。考えているようだ。
サヤは再び僕を見ると。
「そうね。手伝いましょう。」
そう僕に言った。
サヤも同意してくれたようだ。
「手伝います。」
僕はサティに言った。
人が困っているんだ。助けたほうがいいだろう。
森の入り口に居る動物がなんなのか分からない。
あの大猿よりも強いやつかも知れない。
それでも、これでいいんだ。
助けられないで、辛い思いをするよりは良いんだ。