第十八話 大きな川
第十八話 大きな川
2237年 春 南アジア
動く人間が居なかったあの村から僕らは西へと進んでいる。
今は左側は海岸、右側は山に挟まれた道を進んでいる。
隣を見ると、サヤが背伸びをしている。
長いこと歩き続けているからだろう。
この辺りで休もうか。
「この辺りで一度休憩しよう。」
僕はサヤにそういうと近くに荷物を置いて自分も背伸びをする。
僕らは座った。海からの風が頬をかすめる。
空を見上げれば太陽が雲の間から顔を出している。
雲が多い。雨が降るかもしれない。
休憩したあと。僕らは西へ再び歩き出す。
「あ、村だ。」
先に気が付いたのはサヤだった。
遠くに村を発見したのだ。
前のように誰も居ませんでしたという事になっていないように、今は祈りつつその村へ僕らは向かった。
僕は歩きながら、ふとその村のもっと奥を見た。
それを見た僕は立ち止まる。
サヤがどうしたのかと聞いてくる。
そこには大きな川があった。
大きいのはかまわない、かまわないのだが。
「あれを渡るのか。」
僕は無意識のうちに口に出していた。
僕が見ているものを確認すると。
「そうみたいね。」
サヤは僕に言った。
大きな川はこれまでの旅で何度か見てきたと思う。
しかし、最近ずっと森の中に居た僕には。
少なくとも僕には驚きがあった。
久しぶりの川だからだろうか。
そういえば、シェイが言っていた大きな川とはこの川のことなのだろうか。
ならばこの川を渡ったら、西へそのまま進めばいいんだろう。
僕はサヤのほうを見る。
「村へ向かおう。あの川を渡る方法を調べないと。」
僕はサヤにそう言うと川の近くにある村へ歩き出した。
村へ入ると人々が騒がしく村の中を行き交っていた。
それほど住んでいる人間は多くはなさそうだが、それでも人が居るだけ良かったと思うことにした。
村に入ると、やっぱり村人はよそ者を見る目で見てくる。
まぁ、仕方ないさ。よそ者なんだもの。
僕らは村の中を歩いていると、魚を扱っている店を発見する。
近づいて見てみると色々と見たことの無い魚が多い。
「おう、兄ちゃん姉ちゃん。この辺じゃあ見かけないね。どっから来たんだい。」
店主らしい男が僕らに話しかけてくる。
何時もこういう感じで客に対応するのだろうか。
「はい。東のほうから。」
僕は店主に答える。
「へぇ、そうなんだ。どこかへ行く途中かい。」
「西のヨーロッパ連合王国のほうへ。」
サヤが僕の代わりに答えた。
「ほぉ、そうかそうか。そこへ行く旅の途中ってわけだな。」
僕は頷く。
「なら、あの川を渡るんだな。」
店主はそう言って、何やら何度も頷いている。
「そうそう、この店にある魚ってのはな。あの川で獲れたやつなんだ。うまいぞ。」
最後は店の宣伝らしい。適当に聞いてその場を離れた。
なんかじめじめする。湿気が多いのか。
この地域はこれまでもじめっとしていたため、特に気にはしなかった。
何気なく空を見上げれば怪しい雲が空を覆って来ている。
「雨が降り出すかもしれないな。」
僕はふと言ってみた。
そして、気が付いた。雨が降ったら川を渡ることが出来ないんじゃないかと。
「急いで川へ向かおう。」
僕はサヤに言うと。サヤの手を取って川のほうへ走り出す。
川を渡るための船があるだろうと思った。
実際あったが、その船に近づいたとき雨が降り出してしまった。
船を動かす人たちに、僕らを乗せて向こう岸まで連れて行って欲しいと言ってみた。
「連れて行ってやってもいいが、この雨がやんでからだな。村へ戻ったほうがいいぞ。」
僕らはその船の持ち主らしい人からそう言われた。
その人は僕らがさっきまで居た村の人らしく、名前を教えてもらった。雨が止んだらもう一度ここに来るように言われた。
雨が降っているこの状況でこれ以上進むことが出来ないと分かったので、僕らは村に戻ることにした。
村に戻っても行くあては特に無い。
途方にくれていると、魚を扱っていた店の店主が、僕らの前にやってくる。
「おいおい、こんな雨の中であの川渡ろうとしたんじゃないよな。無茶だぜそれは。」
店主が言った。
魚を扱っている人間だ。しかも川の魚を扱っている以上川のことは良く分かっているんだろう。
「二人とも今日の泊まるとこ決まってないだろ。うちに来な。」
店主はそう言うと僕らを自分の店の奥の住居に招き入れた。
奥では女性が忙しそうに何か作っている。
「あいつはうちの女房だ。」
店主は頭を掻きながら言った。
店主の奥さんはこちらに気が付くと笑顔で応えてくれた。
「この辺りの雨は二、三日降るってこともある。雨が止むまでここに居るといい。」
食事を終えた僕らに店主は言った。
「そんな、ありがとうございます。」
サヤが店主の言葉に応える。
店主の奥さんが作ってくれた料理はすごく美味しかった。
知らない魚も美味しく料理すれば、元がどんな魚でもいいと思えた。
さすがに、毒があったり食べると良くない魚は除くけど。
「そういえば、お二人はどちらへ。」
店主の奥さんが僕らに聞いてきた。
「西のヨーロッパのほうへ。」
サヤが応える。まぁ女同士のほうが会話はいいんだろうな。
そこで店主が口を開く。
「そうか、西に行くのか。だったらあの川を渡ったらそのまま西を通って行ったほうがいいな。」
「ええ、そうですね。」
僕は店主の言葉に礼を言いつつ考えた。
やっぱり、シェイはこの辺りのことを知ってるということか。
だったら彼はその先の何処へ…。
考えはその辺りで終わりにした。
今更知ってどうなるかというと、どうにもならないからだ。
「そうそう、川を渡って西のほうにしばらく行くと町がある。川の傍にある町さ。」
店主が僕らに言った。そして続ける。
「お前たちは東のほうから来たんだろ。だったら、その町を通っていくのも悪くないぞ。」
「なんという名前の町なんですか。」
僕は店主の話に質問をする。
「えーっとなんだったっけかな。」
店主は頭を掻いて仕切りにうんうん言っている。
何か言わないとこのまま続くと思った。
「わからないならいいですよ。」
だから、僕はそう言った。
「済まない。名前は忘れちまった。だけどその町の傍を流れている川は聖なる河って呼ばれているんだ。」
店主はそれだけを言った。
「聖なる河か。」
僕はその名前を口にして、サヤを見る。
「面白そう。その河を見に行きましょうよ。」
サヤは行く気があるらしい。
西へ向かう途中にある町なのだから、行ってみてもいいだろう。
そのあとは僕らと店主と店主の奥さんの四人で色々と話していた。
三日後に雨は止んだ。
約束通り川へ向かうと三日前に話をした人が待っていてくれた。
僕らはその人たちが動かす船でこの大きな川を渡った。