第十七話 時をこえて
第十七話 時をこえて
2237年 春 ロンドン
私は外への階段を上っていた。
扉を開けると、私の元で働く沢山の兵士たちが忙しそうに行き交っていた。
ある者は敬礼をする余裕を持ち、またある者は敬礼する暇すら無いほど忙しそうに動いている。
施設の周りには今や複数の建物が建てられていた。
それは自分たちが住む場所、施設から取り出したきおくを整理してまとめる場所や会議をする場所である。
ほかにも色々と建物はあるが、あえて言う必要の無いものばかりである。
私が今出てきた施設から何人か兵士が紙を持って出てくる。
彼らは施設のきおくを運搬する役目を持つ兵士たちだ。
施設内にきおくを書き留める係、書き留めたきおくを整理する係やきおくが書かれた紙を運ぶ係が居る。
紙を運ぶ係がこの島に来る我が国の船にきおくの書かれた紙を載せる。
あとはその船がきおくをわが国に運んでいってくれる。
私は腕を組んで、扉の傍で兵士たちが行き交う姿を私は見ていた。
「カール大尉。ここに居たのですか。」
声がする方向へ振り向けばテリーが居た。
そういえば前もこういう事をテリー言われなかったか。
私がどこにいるかわからないということか。
「それで何か用か。」
私はテリーを見ずに言った。
そのあとすぐにテリーを見た。
「大尉、教えてほしいことが沢山あります。特にこの施設について。」
テリーはそういうと施設の扉を見た。
テリーの気持ちはわかる。ここに居る大多数。いや、私以外の人間はこの施設のことについて殆ど知らないだろう。
きおくさえ運んでいればお前たちは良いんだ。
だが、テリーに教えてもいいだろう。
「付いて来いテリー。この施設について教えてやる。」
「はい。」
私はそう言うと施設の中へ入っていった。
テリーも返事をして、その後を付いて来る。
階段を降りきると、私はきおくがある部屋へ何も言わずに歩いていった。テリーも何も言わずに付いて来る。
中ではきおくを書き留める係が慌しく作業をしている。
ここは実際にきおくがある部屋だ。
部屋の一面に巨大な画面が付いており、その下に人の手形のマークが付いた台がある。
きおくを書き留める係が今はその台に自分の手を置いてきおくを画面に出している。
台に手を置いた人間の見たいものが画面に表示される。
それは、ひとつではなく複数の画面に分割して同時に表示することが可能である。
私が試した限りでは、画面を九分割まで出来ることがわかっている。
また、このきおくの中にはこの施設自体のことも書かれていた。
このきおくを取り出す装置を含む施設自体は永久機関と呼ばれるものらしい。
ようは、永久に動き続けるということだ。
昔の人の技術は凄いものだと思う。
故に過去のすべてのきおくは永久に残り続けることとなる。
とは言っても、あの戦争以前のきおくしか無いようだ。
今のことを記録する方法はきおくにはかかれて居なかった。無理なのかもしれない。
ここまでテリーに話すと私は部屋の隅にある小さな扉を自分の持っている鍵で開けた。
テリーは私の言葉を聞き逃さないように黙っている。
小さな扉を開けた私とテリーは螺旋階段を下りていく。
しばらく階段を下りるとそこには大きな扉があった。
この扉も私が持っている鍵で開ける。
この鍵はあの親子が持っていたものだ。
これが施設を守る人間が持つ鍵。今では私の手の中にある。
部屋に入ると中心には球体の玉とそれを囲む輪があった。それらは回っている。
「これがこの施設の心臓だ。」
私はテリーに言うと、施設についての説明を続けた。
きおくにはこの玉を割ると施設が停止することが書かれている。
しかし、その方法は書かれていない。
また、玉と輪の外側には透明で弾力のある膜が覆っている。私が試しに剣で突いてみたが、その程度では破れなかった。
この施設は過去に複数あったらしい。
それは記録ではあの戦争に参加しなかった国とイギリスだ。
しかし、今ではこの島にある施設のみとなってしまった。
誰かがほかの施設を壊したのか、壊したとするのならこの膜を突破したということなのだろう。
きおくにその方法が無い以上この施設は我々では壊せない。
我々に壊せたとしても、壊すときはいつかだ。今じゃない。
なぜ、この場所にきおくがあるのか。
そして、なぜこの島は何も無い島だと思われているのか。
答えはこうだ。
あの戦争が始まる前にそれまでのすべての記録をこの島の施設を含むそれぞれの施設にきおくとして収めた。
中立国のみに作る予定だったが、ひそかにイギリスに施設を作らせた。
自分たちの国に作ったら、外の国が何か言い出しかねない。
それぞれが力を持とうとするんだから仕方ない。
我が国は戦争が終結後の混乱に乗じてイギリスに爆弾を落としたらしい。
ようは最後は仲間を裏切ったということだ。
施設自体が地下にあったことと、あっさりこの島を瓦礫だけにすることができたため。
施設への影響は無かった。
これでこの施設を知るものは居なくなった。
もし居たとしても、島に爆弾を落としたのだから、その中で施設が残っているとは考えていないだろう。
すべてが終わったあとに、施設を見張る人間を配置した。
何時か再び争いが起きたときに、どの国よりも強くあるために。
そして、きおくを私たちだけのものにするために。
そして今まできたんだ。
しかし、色々とあった。
あの親子の不審な動き。その回数が増えるにつれて我々も不安になった。
我々の行動に対して彼らなりに抵抗したらしい。
だから、私たちが直接この施設を占拠してきおくを引き出すことにした。
我々に歯向かう人間が居るのなら、消すまでだ。
テリーにはこの国を裏切ったことは言わなかった。
戦争時に敵国からの侵攻でこのようになったと言った。
我々が一緒に戦った国の人間たちを殺したことは事実だ。
しかし、それはテリーたちには言えない。
絶対に。
私たちはもう戻れないんだ。