第十六話 争いのあと
第十六話 争いのあと
2236年 冬 東南アジア
海岸に僕は居た。砂浜の上に座っている。
サヤは一人で海の中に入って、海水に触れている。
防具は脱いでいる。重いし、水に濡らすことは避けたほうがいいとシェイが言っていた。
「カイもこっち来なよ。気持ちいいよ。」
サヤは楽しそうに僕に言った。
サヤは本当に楽しそうだ。
僕も海水の冷たさを感じようか。
ここはひとつサヤへ海水をかけてみようか。
しかし、僕は砂浜に腰を下ろしたまま動かなかった。
何故か海に入りたいという気持ちが、今は起こらなかった。
相変わらずサヤは海に入って海水の冷たさを感じているらしい。
小さいころはよくサヤと海に入って海水をかけ合っていたことを僕は思い出す。
サヤとは幼馴染のようなものだ。住んでいた家が近いこともあってよく一緒に遊んでいた。
だから、海に一緒にいって二人で海水をかけ合ったりとよくしていた。
海は危ないという親の認識からどちらかの親が僕らをずっと見ていたけど。
また、近くに山もあって山の中で遊んだり頂上に登ったりした。
頂上からは僕らが住んでいる町が一望できた。
僕はそこでサヤと色々と話をしたことを覚えている。
日常のくだらない話から僕らが住んでいる町の話、僕らの両親の話、僕らの遊びの話や僕らの未来の話をしたと思う。
僕らの未来の話とはいっても、大人になるとはどういうことなのかということを話し合っていたと思う。
決して、恋愛とか結婚とかといった話では無かったと僕は思っている。
サヤが僕と同じように思っているかは本人に聞いてみないと分からない。
その前に教えてくれるかも分からない。
そういえば、サヤの両親とうちの両親は仲が良かった。あの家を飛び出したあとは、うちの両親とサヤの両親の仲がどうなったかは分からない。
僕は今十六歳だ。サヤはそのいっこ下で十五歳である。
ちなみに、僕は姉さんとは六歳ほど離れている。
もし、姉さんが生きているのなら、今は二十二歳だろう。
義兄も同じく二十二歳になっているはずだ。
二十二歳になった姉さんや義兄さんは今頃どこでどうしているのだろうか。
僕はそう思いながら、何時の間にか空を見ていたらしい。
ふと、サヤが居るほうを見ると砂で何か作っていた。
お砂遊びというものを始めたらしい。
いや、さすがにその歳で砂で何かを作り出そうとするのはどうかと思った。
だけど、それは自分の勝手な考えだとすぐにわかる。
これは大多数の人間が勝手に決めた決まりゴトのひとつなのだと思う。
みんながこうしているから自分もこうしなければいけない。
そのように思うことは大きな間違いである。
それを決めたのは大多数の意見であり、それがあたかもすべての人間の考えであるかのように彼らが決定付けているだけのことである。
大人が砂遊びをして何が悪い。
自分はまだ大人ではないが、その点は気にしないことにする。
だから、僕はあえて自分からサヤの元に行って一緒に砂遊びを始めた。
僕らは海から離れた近くの村へ向かっていた。
海水に触れた肌がひりひりする。
僕はサヤとの砂遊びのあと、そのままサヤと一緒に海に入ってしまった。
砂遊びまででやめておけばよかったものの、海に入ってしまったためにこんな状況である。
しかし、僕はこの結果に後悔はしていない。
自分も少し変われたような気がした。
僕らは村に着いた。
目に見える範囲には人影は見当たらない。
ひとまず村の中心のほうまで行ってみることにした。
歩きながら左右にある建物を見ていくも誰も居ない。
僕らが外から来た人間だから、警戒して外に出てこないのか。
僕はそう思った。
「なんか、誰も居なくて怖いね。」
サヤの言葉に納得する。
僕は立ち止まって周りを見渡す。
この村には誰も居ないのか、それとも僕らのことを警戒して誰も出てこないのか。
さすがに、村の人間が警戒しているのなら小さい子が勝手に飛び出してきたりして、あわてて親が奥に引き戻すといった状況を見ることになるかもしれない。
小さい子は何を考え出すかわからない。
本当に自由ということなんだろうと思う。
「どうしたの。大丈夫。」
その場で周りを見回す僕をサヤは心配して話しかけてくれた。
「大丈夫だよ。村の中心に向かおう。」
僕はそういって先を急いだ。
僕らだけしか居ないことはいいんだけど。
誰かが居るべき場所に誰も居ないのは本当に怖い。
僕らは村の中心に辿り着く。
そして、僕らはやっと理解した。
彼らはこの村に初めて来た僕らを警戒していたわけではないことを。
サヤは僕の手を握ってくる。
彼らは死体となって、村の中心に集められていたのだ。
よく見るとほとんどが男性で、子供も含まれている。
みんな何も着ていない。裸だ。
サヤはこの光景を見た後、一度も言葉を発していない。
僕も同様にこの状況に何も言えなかった。
なぜこのようなことが起こったのか、理由はわからない。今は語ることの出来る人間が居ないようだから。
ここに居る死体が男性のものばかりなら…。
僕は周りを見回す。
この村を襲ったやつらが今はどこに居るのか、どんな集団なのかはわからない。
だけど、少なくとも僕は彼らに憎しみを感じた。
「酷いよな。本当に。」
自然と口から出た。僕は本心からそう思っているらしい。
「うん。なんでこんなことをするんだろう。」
サヤが僕の言葉に続ける。
その声は低く。サヤ自身が今にも消えてしまいそうに思えた。
僕らは彼らに手を合わせると、その村をあとにした。
僕らは、何も出来ないことがこんなにも辛いことだとは思わなかった。