第十五話 深き森を抜けて
第十五話 深き森を抜けて
2236年 冬 東南アジア
金属の擦れる音が響く。
僕らは出来上がった武器と防具を鍛冶屋で受け取るとシェイの家で早速身に着けていた。
防具は昨日使った時の傷は無く綺麗になっていた。
武器のほうも綺麗になっているが、どちらもどう変わったのか僕は分からない。
サヤも同様だった。
「なんか、見た目あまり変わってないね。」
「うん。そうだね。」
サヤの意見に反応しつつ僕らは支度を済ませる。
もうここには戻ってこないのだから。
シェイは家の外で僕らの支度が終わるのを待っている。
荷物を持って外に出るとシェイが腕を組んで待っている。
「森の入り口まで送っていくよ。」
シェイはそういうと森へ向かって歩き出した。
僕らもシェイのあとを歩いてついていく。
立ち止まって村のほうを見ると、僕らを見ている人たちが居る。
あの日僕らを笑った人たちだった。
みんな手を振っている。
立ち止まった僕に気がついたサヤやシェイも村のほうを見る。
僕らは手を振った。最後は良い終わり方になったんじゃないかな。
そう思っていると、いよいよ森の入り口に着く。
シェイは僕らを見て言った。
「あの日の君たちが懐かしく思うよ。」
そして森のほうを見る。
「今度は戻ってくるなよ。」
「今日まで本当にありがとうございました。」
僕はシェイに礼を言った。
「シェイさん。本当にありがとう。」
サヤも続けて礼を言った。
シェイは僕らを見て最後に言った。
「さぁ、行くんだ。」
僕らはシェイに一礼すると、深き森の中へ入っていった。
森に入っても特に普段と違うことは無い。
鳥の鳴き声が聞こえてくる。
猿も居た。僕らを見てどこかへ消える。
森の中は湿った空気に満たされていた。
だけど、それも森の終わりまで。
僕らは森と森の間に出る。
僕らはそのまま奥の森に入る。
初めて入ったときはここであの大猿に阻まれたことを思い出す。
しかし、今はもう怖くない。逃げることもない。
奥の森では一角猪、大蜂やその他の動物が僕らを迎えてくれた。全然うれしくないけど。
大猿を倒した僕らにはなんてこともなかった。
これから先にあの大猿以上のやつが出なければいいんだけど。
そう思っていると。昨日僕らがやつと戦った場所にたどり着く。
そこには昨日のままあの大猿は動かず転がっている。
近づいて何かすることも無いので、横目で見つつその場を離れた。
今日は凄く静かだ。
僕は木々の間から漏れる光を見る。
村から大分離れたためなのか、この辺りは木々が密集していない。
そういえば、森を抜けた所に村はあるのだろうか。
そんなことを考えながら僕は歩き続けた。
その隣をきょろきょろと辺りを見ながらサヤは付いてくる。
また動物が出てきるのを警戒しているのだろう。
僕は地面を見ながら歩く。
シェイが言ったとおり昼間はあの大猿以上は居ないと思うけど。
まぁ、シェイ自身がすべてを知っているとも限らないけど。
そう思ったあとに顔を上げると目の前に何かがある。
「え。」
先に反応していたのはサヤだった。
目の前には真っ黒な塊がある。
しかし、岩といったものではないことは理解できる。
それは、触れてみると明らかに岩とは違うざらざらした感触がするからだ。
ところどころに赤黒い部分があって、黒い部分が多い中でそこだけが目立って見える。
元がどういう形だったのかはこの状況からは分からないが、生きていたころは動き回っていた動物であることは分かった。
「ねぇ、これって大猿よりも危ない動物じゃない。」
サヤは一応分かったようだ。僕に意見を求めてくる。その声は少し震えていた。
大きさは目の前にある塊だけでも、大猿よりも大きい。
しかし、サヤはシェイから大猿がこの森の一番と言われたままだ。
この現状を完全に理解することは出来ていないと思う。
「そうだと思うよ。」
僕はサヤを昨日のことを話した。。
「昨日の夜にシェイさんが狩りに行くとこを見て森の前まで付いていったんだ。そしたら、昼の一番はあの大猿だけど夜にはもっと危ないやつがいるってシェイさんが言ったんだ。」
そして、僕は黒い塊を見て触りながら思った。
彼が狩ったのだろうか。
「これを狩ったのって。まさか。」
サヤも同じことを考えたらしい。
可能性があるとしたら一人。
シェイが昨日の夜に狩ったやつか。
「シェイさんが狩ったのかもな。」
僕は一応口に出して言った。
サヤは何も言わない。
ただ目の前の塊を見てる。
あの大猿を倒したことによって僕は一瞬でもシェイと同じところまで来たと思った。
サヤも少なからずそう思ったんだと思う。
僕は昨日真実を聞かされていたからこの状況を理解できたけど。サヤはここに来て突然突きつけられた真実だ。仕方ないのかもしれない。
「行こう。早く森を抜けないと。」
僕はサヤの手を取って歩き出す。
サヤは素直に付いて来てくれた。今のところ振り払われることもない。うん。これは進歩ですよ。
僕は空を見上げて思った。
まだまだ上が居るんだ。思いあがっても良いことはない。もっと色々なことを僕らは知るべきなんだ。知らないことが多すぎる。
そして、僕はふと思った。
シェイはこれから僕らが行く場所からこっちに移動してきたんじゃないかと。
大きな川があると言っていたし。そこから西に行けと言ってた。
彼は一度行ったことがあるのかもしれない。
なぜあの時、聞かなかったんだろう。
聞けば何か話が聞けたかも知れないのに。
ひとまず、行き方を教えてくれたのはありがたい。無駄に時間は使いたくないから。
そう思っていると遠くに光が見える。
本当の森の終わりだと思う。
さすがにここでもうひとつ森が目の前にありますとかだったら凄く困る。森が多いことはいいけど。
そう思っている間に僕らは森を抜けた。
森を抜ける瞬間、サヤは僕の手をしっかりと握り返した。
森を抜けると海が見えた。
「わぁ海だ。やっと森を抜けたね。」
サヤは僕の手を離して海に向かって走って行ってしまった。
そりゃあ久しぶりの海だから気持ちはわかるけど。
僕はサヤの手を握っていたほうの手を見て思った。
森から抜けたときに切り替えたのかな。
周りを見てみるとちょっと遠いが村らしきものが見える。
しばらく海水に触れたあと、僕らはそこへ向かうことにした。