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境界線  作者: 薙月 桜華
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第十話  ぼくらと

   第十話  ぼくらと


2236年 秋 東南アジア


そこで待っていたのは人々の嘲笑だった。

あの森を抜けられなかったということ。

そのことで笑っているのだろう。

気がつけばサヤが僕の腕を掴んでいる。

しかし、彼らを村の奥では見ていない。

よって、彼らに笑われる筋合いは無いのだ。

前を歩く男は同じように笑っているのだろうか。僕はそう思った。

しかし、違った。

彼は振り向くと、

「奴らはあの森の奥に入ったことのない奴らだ。だから、気にするな。」

彼はそう言った。その顔は笑いのひとつも無い。

森を出たときの微かな笑いはなんだったのだろうか。

そう思っているうちにその場所に着いた。

ここは森に入る前に、僕たちに彼らの議論を聞かせた場所。

「抜けられる」とか「抜けられない」とか。

その言葉を言い合っていた人間がやはりそこにいた。

「ははは、やっぱり逃げてきたか。」

一人の男は言う。やっぱりだという顔はもういい。十分だ。

「まぁ、待て。それだけ本気であの森を越えようとしたってことだろ。」

僕たちをここにつれてきた男はそう言った。

「まぁそうだけどさ。いけるかもって思ったんだけどなぁ。」

また別の男が言う。

僕たちを連れてきた男が僕たちを見て言った。

「そうだ。俺の名前を言ってなかった。」

そうだ。僕を含め誰が誰なのか全く分からない。

彼はそのまま続けた。

「俺の名前はシェイ。森で狩りをしている。お前たちを笑わない奴らはみんなあの森の奥へ行ったことのある奴だ。」

彼は周りを見渡すことで行ったことのないであろう人々はみな下を向く。

「僕はカイって言います。」

「私はサヤ。」

相手の自己紹介は行われたので、それぞれが名前を言っていく。

そういえば、森で狩りとはどういうことだろう。

「狩りなんてそんなに狩るような動物は…。」

僕は言おうとしたがすぐにシェイに遮られる。

「奥のほうに行くと森と森の間があるだろう。その先の森に色々な動物が居る。」

実際、あの大猿はその森から現れた。奴らのほかにも色々と居るということか。

「戻ってきたっていうことは奴らに見つかったってことか。」

誰かが言う。誰だかよく分からないのでその他大勢の人たちのうちの一人となる。

「奴らって、あの青白いばけもののこと。」

先ほどまで黙っていたサヤが口を開く。

その人はうなずく。

「青白い大猿。あの森では一番のやつらだ。」

シェイは目だけこちらに向けて言った。

「あいつらがあの森の一番。」

僕はその言葉を口にしてしまい。恐怖が僕の体に侵入する。しかし、すぐさま侵入は止まる。シェイが言った言葉からだ。

「奴らを倒すことは難しいことではない。問題はその他大勢が一緒に襲ってきたときが本当の恐怖だ。」

まるでその状況に陥ったかのような発言。

いや、実際に味わったことがあるのだろう。

一体ならまだなんとかなるということか。

しかし、僕が見た限りでは危ない生物に変わりはない。

再び恐怖が僕を満たそうとする。

そんな僕の状態を感じたのか否か。シェイは僕たちに言った。

「だったら、あの森を越えられるようにすればいいんだ。森に入る前には言わなかったが…。」

そこで一息を入れて続けた。

「お前たちの装備じゃあ。森を抜けることは難しいさ。」

「だったら、なぜ言わないのよ。」

サヤがすかさず言い返す。

「あの森を越えようという覚悟はあったからな。言いづらくて。」

シェイは難しい顔をする。

そして、空を見上げたまましばらくそのままになった。

そして彼は一言言った。

「お前たちがあの森を越えられるようにしてやろう。」

「え。」

僕はそれ以上何もいえない。どうやってするんだろう。

まさか、森を抜けるところまで連れて行ってくれるとか。

しかし、そんな思いも直後のシェイの言葉で消滅する。

「二人とも森で俺と一緒に動物を狩るんだ。」

「ええ。」

僕よりもサヤが驚いていた。

「あの森を通り抜けさせることは簡単だ。

俺の仲間と一緒に行けばいい。」

さらっとシェイは言う。

「しかしだ。今後も同じことが出来るということは稀だ。この先も色々と居るらしいからな。」

シェイはなお続ける。

「いい機会だ。俺がお前たちをこの森を越えられる程度にはしてやる。」

「それってつまり。」

僕は何となく予想できた。

そしてそのとおり彼は言った。

「自分たちだけであの青白い大猿を倒せるようにしろってことだ。」

なんということだろう。正直海でのこととついさっきの大猿のことでもういやいや状態だ。

サヤもあまりいい顔はしていない。

「今後のためだ。なんと言おうと俺たちは今のお前たちを森の向こうへ連れて行くことは出来ない。」

ようは彼の元で修行しろってことか。

今後も色々居る。そんなことを海で出会ったあの船長からも言われたな。

だったら、あの大猿を倒せるくらいにはなってやる。

僕は決心してサヤに言う。

「どうやっても越えられないんだ。今は自分たちで越えられるようにしよう。」

僕の言い方が真剣だったのかどうなのか。

サヤは静かにうなずいてくれた。



シェイは僕たちを自分の住む家に招きいれてくれた。

そこで彼にこれから扱う武器を選ばされる。

さてどうしよう。

今ここにはそれらしいものはない。

ということは、何でもいいのか。

ふと部屋の中を見渡すと大きな剣が立てかけられていた。

僕は近寄ってよく見る。

「これは。」

「俺の使っている剣だ。大きいだろ。一撃の威力はあるぞ。」

僕の質問にシェイは答えてくれた。彼は大きな剣を使っているらしい。

「これいいなぁ。」

ちょっと一撃大打撃っていうのはいい。やっぱり男だったらそうだろう。

そんな気持ちを察したのかシェイは言う。

「君はその大剣がいいのかな。」

「そうですね。いいと思います。」

僕はシェイへの返答を返した。

「じゃあカイくんはその大剣ね。それでサヤさんのほうは。」

シェイはサヤへと尋ねる。

「あんなに大きいのはちょっと。」

シェイはサヤに聞いてみるものの。

サヤにはあの大きさは面倒だろう。

さて、どうする。

「う〜ん。じゃあ片手剣あたりかな。片手だけあって軽いから女の子にも大丈夫だと思うけど。」

シェイは部屋の片隅に置かれていた小さな剣を見せる。

「片手で扱える剣なら軽そうね。」

シェイの言葉にサヤはそう言うと実際に持ってみる。

「うん。これなら大丈夫そう。これにする。」

サヤも決定したようだ。

さてと、決まったところで今度はやはり…。

「扱う武器が決まったんだ。早速明日狩りに行くか。」

決まったからって、早過ぎないか。

まだ全然扱い方なんて知らないし。

まさか、習うより慣れろですか。そうですか。

シェイは立ち上がり、

「ちょっとここに居てくれ。」

それだけ言うと家を出て行こうとする。

いや、ちょっとまった。

「僕たちはこの格好で行けって事ですか。それと僕が扱う大剣っていうのは…。」

僕はそこまで言うとシェイは言った。

「心配するな。俺がいつも身に着けているほどのものじゃないが、お前らに着せる奴は用意する。武器もな。」

「そうですか。」

「心配するな。それとこれからしばらくここに居なければいけないからな。俺の家の空いている所に陣取ってかまわない。」

シェイはそれだけ言うと家を出て行った。

何処に行くのだろう。僕たちの物を調達しに行くのだろうか。

何処へいくことも出来ないので僕たちはその場で待った。



次の日からシェイとともに森へ行く。

奥側の森へ入ると様々な動物が居た。

何時またあの大猿が現れるか分からない。

しかし、今この三人でなら大丈夫だろう。

あとは二人でも大丈夫な状態にするところまで行かないと。

ここで立ち止まることは予想外だった。

しかし、これが後になって良かったと思えるように今は頑張るしかない。


明日も、明後日も森は僕らを待っている。

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