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境界線  作者: 薙月 桜華
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第一話  旅立ち

   第一話  旅立ち


   2230年 日本

 

 青々と茂る森、鳥たちの鳴き声。風の音とともに、薄暗い森の中に2人の声が響く。

「セイちゃん待ってよ〜。」

 少女は前を走る少年に頼みを乞う。もう無理かも、いやまだいけるかな。少女はそう思いながら追いかけた。熱を帯びた体に触れる空気が冷たい。

 少年は振り返り、どんどん離れていく少女に少年は言った。

「マヤ!早くついて来い。」

 「マヤ」と呼ばれた少女は懸命に少年の後を追いかける。

 ただでさえ足場の悪い山道を、走って登るなんて間違ってる。マヤは走りながらそう思った。私は女よ。無理させないでよね。そうは思ったものの言葉にすることは止めて、代わりにこう言った。

「お願いだから、待ってよ〜。」

 しかし、少年はお構いなしに登っていく。

 頂上はもうすぐだ。

 

 

「ハァ…ハァ…セイちゃん、早いってばぁ〜。」

 少々遅れて頂上に着いたマヤは息を弾ませながらいった。

「もう少し体力を付けることだな。」

 そういって、少年は町が見渡せる方角に座った。そして、マヤに隣に座るよう促した。

「…………」

 マヤはむっとしつつも少年の隣に座った。

「……あ、それと俺はセイジだ。セイちゃんじゃない。」

 セイジは小さくつぶやくように言った。

「知ってるよ〜。」

 マヤの笑顔は可愛かった。



 それからどれくらいたったのか。

「……………。」

 セイジは何も言わず前を向いたままである。

「ちょっと〜!何か言いなさいよ。」

 マヤは軽くセイジの肩を押す。

「マヤ……。」

「ん〜?」

 セイジの顔を覗き込む。

「このほしの過去を知ってるか?」

 セイジの言葉は唐突だった。

「ふえ?」

 何を言い出したのか、すぐには理解できず。マヤもまとまった言葉が出ない。

「知ってるか?」

 少し悩んで、マヤは言った。

「う〜ん、知ってるも何も、あの戦争以前の記録はないし……。」

「そう、そうなんだよ。」

セイジは何かさっきよりも元気良くなっている。

何を納得したのか。

「俺たちの知りえる記録はたった百年分。」

「正確にはもう少しあるけどね。」

マヤがそこに軽く突っ込みを入れる。

「まぁ、それしかないわけだ。だがな。」

「だがな?」

 最後の部分を繰り返し、マヤは彼の次の言葉を待った。

「それ以前の記録がまだこの世に存在するらしい。」

「え〜?どこどこ?どこにあるの?」

 マヤは立って、あたりを見回す。

「お前、こっから見えるところにあると思っているのか?」

 セイジはあきれた様子だ。

「じゃあどこよ?」

 マヤは早く答えを言ってと言わんばかりの顔をしてやった。

「ここにはない、西の方らしい。」

 セイジはそう言って、(多分)西の方角を見た。

「西?」

 マヤも同じ方角を見る。

「ああ、海を渡ったずっと向こう。」

「それって、かなり……。」

 マヤの返答を無視して、セイジは続けた。

「百三十年前のあの時、過去の命は生きながらえたみたいだ。」

「命?」

「過去の記憶の塊らしい。」

「らしい?」

「そう、らしい。」

「…………。」

 しばしの沈黙。その場が凍りつく。

 マヤはセイジの後頭部に豪快な突込みを。

「へい!」

 いれた。

「イッタ〜。」

 頭をさするセイジ。それを見てマヤはなぜかうれしそうだ。

「御洒落たこといってるばあい?」

「うう……いてぇ、おれは亡くなったじいさんから聞いたけど、じいさんの代じゃあよく知られた話らしい。見たって人も居るくらいだから。」

「きおくを?」

「ああ、だが過去のきおくは誰にも話してはならないらしい。」

「どうして?」

「知らん。全くわからん。だけど…。」

 眉を細めながら続けた。

「過去を見たって人にあるとき酒を大量に飲ませて洗いざらいしゃべらせようとしたやつもいんだけど。無駄だったみたい。」

「どうして?」

「見た人が過去の話をしようとした瞬間。とんだよ、そいつの首が。」

「…………」

「外に漏れちゃ困るやつもいるらしい。一体何のためなんだろうかね。」

「…ってことは。」

マヤはあごに手を当てて考える。

「行って、自分の目で確かめるほかはないってこと。」

さらっとセイジは言った。いとも簡単に。

「………行く気なの?」

「ああ、今年で十六だ……。」

「十六でもできるものとできないものがあるけどねぇ。」

 マヤは笑っていた。冷たい笑いだ。自分も同じだと思いつつも。

 マヤは一人で生きていけるかに関心があった。正直、彼は自炊できない。

「はぁ〜。」

 セイジは気づいたらしい。

「しょうがないね、私がついてってあげるわよ。」

 少々セイジは動揺した。

「足手まといはいらん。」

 その言葉を聞いたマヤは勝ち誇った顔で言った。

「自炊できないほうがよっぽど足手まといよ。」

「ふぐっ!」

 セイジの顔色がみるみる悪くなっていく。相当痛いところを突いたらしい。

「こういうときのために私がいるんでしょうが。」

 マヤはセイジの顔をじっと見ている。にやにやしながら。

「無理だ。」

 首を振るセイジ。

「無理はあなた。」

 すかさず言った。

「女を連れて行けってのか」

危険な旅になるかも知れない。そんなことをセイジは思っていた。

「守って頂戴、私は自分を守るから。」

 マヤは何か楽しいことを思いついたような顔だ。

「本気かよ!」

 もう話は行くところまで行ってしまった。

「私はあなたのパートナー、これまでもこれからも。」

 その言葉を聞いてセイジはついに観念した。

「…わかったよ二人で、探しに行こう。」

「探しにいこー!」

 


 そんなこんなで、無理やり私がくっついていくこととなった。自炊できないやつが悪い。

 正直この先どうなるのか今は何もわからない。だけど、ひとつだけいえること。それは、旅は始まったということ。

 そういえばどのくらいかかるのだろう。

 西の方といわれても、西のどこなのだろうか。

 長い旅になるかもしれない。

 

 私たちは当然のように親の反対を押し切って旅立った。

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