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プロローグ

 唇にほのかな熱が残って、キスされたのだと悟った。

「ごめんね、ケイ。ごめんね、ごめん……」

 涙声が聞こえる。視界は不鮮明で、磨りガラス越しに見ているようだ。

「ほんとうに、ごめんね」

 誰かが背を向けて、走って遠ざかっていく。

 ふざけんなよ、と僕はその薄い背中に声をぶつけたはずだったのに、乾燥してひび割れた唇が傷んだだけだった。

 雪が降り始めた。


 ――大人になった今だからわかることがある。

 だけどきっと、その時、その瞬間に感じていたものをもう一度再現することは、きっとできないんだ。

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